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第三章 水無月(六月)

47.六月十一日 午後 気まずいお茶会

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 なんだかんだ言って未だに気にはなっているのか、美晴はややもじもじしながらベッドで布団を被っていた。そんな美晴の代わりに、この家の勝手を知っている夢路が麦茶を四人分用意してきてくれる。

「随分珍しい人が来たもんね、卒業式以来だよね?
 サッカーはまだ続けているの?」

「う、うん、レギュラーではないけど惜しいところまでは来てるよ。
 まあ機会があったら応援に来てくれると嬉しい、かな」

 何となくここにいてはいけないような雰囲気になり、八早月やよいと夢路は顔を見合わせてお互いに目配せをしていた。しかし美晴はそんなことに気付かず話を続けた。

「そうね、機会が万一あったなら考えてあげてもいいかな。
 正直アタシはサッカーに興味ないし、そもそもルールもわかんないもん。
 陸上の練習だってそれなりに忙しいから多分時間はないと思うよ」

「ちょっとハル、いくらなんでもその返答はつれな過ぎでしょ。
 今一瞬いい雰囲気だと思ったのになぁ」

「いやいや、そりゃ小学校の頃はちょっとね、アレだったけどさ。
 なんか今見てみると普通の人って言うの? 特に魅力ある感じじゃなくない?」

 まったく二人とも酷い言いぐさである。それとも小学生の頃はそんなにも輝いていたのだろうか。確かに初対面の八早月から見ても、この橋乃鷹涼はしのたか りょうに特別な魅力があるようには感じられない。

「なんか色々と自信を失って来るね。
 これでも入学してすぐ同じクラスの女子に連絡先聞かれたりしたのにさ。
 いや、別に自慢とかそういうんじゃないよ?」

「そんで? そこから一人でも発展した子はいたわけ?
 せめてデートくらいはしたの?
 なにもないなら残念だけど、クラスの子たちもそう見てるってことよ。
 魅力的って言うのはね、この八早月ちゃんみたいな子のことを言うんだからね?」

 思わぬ飛び火があって八早月は驚いてしまったが、夢路もうなずいていて変に否定するのもおかしいかと黙っていることにした。だがこれが失敗だったのか、涼がおかしなことを言ってくる。

「でもこの女子って暴力振るう野蛮なやつなんだろ?
 人は見かけによらないっていうのは本当だよな。
 確かに見た目はすごく可愛らしいと思うよ、やけに小さいし」

「ちょっとアンタ、アタシの親友に失礼なこと言わないでよね?
 八早月ちゃんは暴力なんて振るわないわよ、いつも大人しいもん。
 勝手に決めつけないでちゃんと人見て言いなさいよね?」

「そうだよ、こんなかわいらしい八早月ちゃんが人を殴ったりできるわけ――
 ―― ない、よね? うん、そんなはずない」

 夢路が何かに気付いたように言葉に詰まり、語尾を濁しながら涼から目を反らしている。その様子を見て美晴も何かを察知しこの話の流れを変えようと別の話題を出した。

「そういえば二人ともお見舞い来てくれてありがとうね。
 おかあちゃんは風邪って言ったと思うけど、本当は喘息なんだよね。
 昨日の夜に発作がおきちゃってさ、今日は大事を取ったってわけ」

「あら、喘息持ちなのは大変でしょうね。
 私も家族も健康体ばかりだからわかってあげられなくてごめんなさい」

「そんな、八早月ちゃんが謝ることじゃないよ。
 自分の分のゼリーまで持ってきてくれてすごくうれしかったしね。
 そんで涼は手ぶらなわけ?」

「無茶言うなよ、学校休んでたなんて知らなかったんだ。
 俺はそろそろ帰るよ、これからまだ部活があるんだからな」

「じゃあ来なきゃよかったでしょうに。
 一体何しに来たのよ、まったくもう」

「それは山本に話したから後で聞いてくれよ。
 んで、ウチの中学の先輩がなんか探してるみたいだから気を付けろって。
 そっちの小さいのもちゃんと理解しとけよな」

 小さいのというひとことを聞いた八早月は、危なく橋乃鷹涼を一刀の元に滅してしまいそうになったがなんとか抑えることが出来た。その心中を誰よりも察した真宵まよいはホッとして抜きかけた小太刀を鞘へと納める。

 それにしても面倒なことになりそうだ。先日も校門で待ち伏せされてしまい成敗したと言うのに、懲りずにまだ挑んでくるとはなんとしつこい。八早月にとって再び遣り込めるのは容易いことだが、騒ぎが大きくなるのは面倒極まりない。対策を考える必要はある、なんてことを考えていた。

 しかしそれでは収まらなかったのが部屋に残っている二人だ。どうにも興味を引いてしまったようで、美晴も夢路も明らかに瞳が輝いている。

 それからは質問攻めとなってしまい、帰りは随分と遅くなってしまった。
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