限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
上 下
10 / 376
第一章 卯月(四月)

7.四月二十日 朝 逃亡者

しおりを挟む
 ようやく金曜日、つまり今週最後の通学である。と言っても往復共に車に乗っているだけなので疲労も苦労もあるわけではない。だが毎日五時起きの八早月やよいにとっては貴重な時間、つまり約一時間程度はひと眠りできるはずなのだ、が。

「お嬢、まもなく学校前です。
 そろそろ起きないとご学友に寝起きを見られてしまいますよ」

「う、うーん、板倉さん、今日は飛ばして来たのですか?
 やけに早くついてしまった気がします……」

「そんなことありませんよ?
 きっちりといつもどおりの時間で間違いございません」

 時間に正確な板倉の言うことだから間違いないと、八早月はしぶしぶ体を起こして鏡を取り出した。髪が跳ねていないか、制服のスカーフが曲がっていないかなどをしっかりと確認するためだ。

 学校では変に自分を飾って見せたりはしていないが、性格的にはきちっとした格好でないと恥ずかしいと思うほうではある。八早月はそれなりに整った顔立ちだが、今まで比較対象が無かったせいでかわいいとかきれいとかに対する基準を知らない。そのため他人からの印象に不安を持っていた。

 中学に入ってみるとおしゃれな子はいくらでもいて、髪を器用に編みこんでいたり、手間をかけて巻いていたり、ショートカットで毛先を遊ばせたりと様々だ。そう言う子たちはきっと美容院へ行ってカットしてもらっているのだろう。

 八早月はまだ美容院を見たことの無く憧れているのだが、器用な母が切ってくれることにも満足していた。なんと言っても八早月のお手本的な女性像は結婚式の写真で見た母と、その雰囲気が投影されたと思われる真宵であった。

 母に髪を切ってもらう時はいつも真宵を呼んで比べながら注文を付けるのだが、残念ながら真宵は普通の人には見えない。そのため母への指示がうまく行かずもどかしい時もあった。それでも今まで数十回はカットしてもらったおかげで、今では思ったような髪型にしてもらえるようになっている。

 ハッキリと目が覚めてきて気分が良くなってきた。今朝の見回りは何事もなく済んだし、ソックスだってたった一回で左右の折り目が揃った。そんな上機嫌で鏡を覗いていると、気分を台無しにする光景が目に入ってきた。

「ごめんなさい、板倉さん、ここで止めて下さいますか。
 どうにも不快な光景が目に入ってしまいました」

「おっと、これはこれは。
 街中なので頻繁に起こると思って眺めてしまいました」

 板倉は小さなあるじの命を受けて車を止め、後部座席のドアを開けてからゆっくりとお辞儀をしながら手を差し出した。車内からはもちろん八早月が現れたのだが行き先は目と鼻の先にある校門ではない。

「お気をつけていってらっしゃいませ。
 もちろんお相手が、ですがね」

「ありがとう、カバンは持っていきますから今日はここまでで構いません。
 帰りにまたお願いしますね」

「かしこまりました。
 本日は金曜日ですから少し遅れるかもしれません。
 社長の気分次第ですが、帰りまでにはご連絡いたします」

 カバンを受け取りうなずいた八早月は、きびすを返し学園の正門とは反対へ向かって歩き出した。なぜ学園から遠のくのかと言えば、車の中で鏡を見ていたのだから来た道を戻るに決まっている。そして先ほど見えた建物と自動販売機で出来た隙間を覗き込んだ。

「あら、またあなた達ですか?
 はっきりは覚えていませんが、確か同じ方たちですよね?」

「あ! テメェはあの時の!
 あんときはふざけやがって、引っ込んでろ、女でも容赦しねえぞ!」

「どうも痛い目にあってもまだわからないようですね。
 それと、『てめえ』と言うのはご自分のことですよ?
 相手に言う場合は『おまえ』とおっしゃってくださいね。
 それでは――」

 今回は学生服の加害者は二人とも突然その場で尻もちをついただけで意識ははっきりしている。そのせいで余計に状況がわからずポカンと口を開けており、助けられた小柄な生徒はその隙にと、先日同様やはり走って逃げていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

これもなにかの縁ですし 〜あやかし縁結びカフェとほっこり焼き物めぐり

枢 呂紅
キャラ文芸
★第5回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました!応援いただきありがとうございます★ 大学一年生の春。夢の一人暮らしを始めた鈴だが、毎日謎の不幸が続いていた。 悪運を祓うべく通称:縁結び神社にお参りした鈴は、そこで不思議なイケメンに衝撃の一言を放たれてしまう。 「だって君。悪い縁(えにし)に取り憑かれているもの」 彼に連れて行かれたのは、妖怪だけが集うノスタルジックなカフェ、縁結びカフェ。 そこで鈴は、妖狐と陰陽師を先祖に持つという不思議なイケメン店長・狐月により、自分と縁を結んだ『貧乏神』と対峙するけども……? 人とあやかしの世が別れた時代に、ひとと妖怪、そして店主の趣味のほっこり焼き物が交錯する。 これは、偶然に出会い結ばれたひととあやかしを繋ぐ、優しくあたたかな『縁結び』の物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

満月の夜に烏 ~うちひさす京にて、神の妻問いを受くる事

六花
キャラ文芸
第八回キャラ文芸大賞 奨励賞いただきました! 京貴族の茜子(あかねこ)は、幼い頃に罹患した熱病の後遺症で左目が化け物と化し、離れの陋屋に幽閉されていた。一方姉の梓子(あづさこ)は、同じ病にかかり痣が残りながらも森羅万象を操る通力を身につけ、ついには京の鎮護を担う社の若君から求婚される。 己の境遇を嘆くしかない茜子の夢に、ある夜、社の祭神が訪れ、茜子こそが吾が妻、番いとなる者だと告げた。茜子は現実から目を背けるように隻眼の神・千颯(ちはや)との逢瀬を重ねるが、熱心な求愛に、いつしか本気で夢に溺れていく。しかし茜子にも縁談が持ち込まれて……。 「わたしを攫ってよ、この現実(うつつ)から」

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...