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薔薇と涙
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結局あの後コンビニに行ってコピーを取り、ファミレスでお茶してたら結構遅くなってしまった。早くご飯を作らないといけないし、明日の買い物リストもまとめないといけない。慌ただしくもいつも通りに事を済ませると、ようやく自分の時間だ。
リビングのテーブルに筆記用具を広げてしばし考えてみる。ハルは簡単でいいと言ったけど、どうせならかわいくて気に入ってもらえるようなデザインにしたい。
今日百均で買ってきた透明のスマホケース、そしてコンビニでコピーしてきたスマホが写った紙、そして手漉き風の厚紙を目の前にしばし考え込んだ。
しかしハルはいいことを考え付いたと思う。台紙に描いたカリグラフィーを透明なケースにはさむなんて。自分次第ではあるものの確かにかわいいし、なにより経済的である。まあその相談をするのにお茶代がかかってしまったけど……
何はともあれまずは試しに描いてみよう。手元に用意したカリグラフィーのデザイン案がたくさん載っている古い洋書と、ハルが貸してくれたファッション誌をぱらぱらとめくりながら下書きをいくつか描いてみる。
ハルは小動物系が好きだ。特にうさぎ柄のアイテムには目がない。なのでエムの文字を描く要領でうさぎの耳を表現してみた。周囲にはカントリー風に草木の模様で縁取ったがなかなかいい感じである。
「まあこんなもんかな、明日ハルへ見せてみようっと。
私の分は…… そうだ!」
さっき洗濯物を回収したばかりのお父さんの部屋へもう一度入り、あの古い写真を持ち出してきた。
「やっぱこれ、私の原点だもんね」
いつの間にか出てしまう独り言も、好きなことをしているときには気にならなくなるものだ。何となくつまらなくて寂しい一人の夜の独り言とは違う。
写真立てに写っているウェルカムボードのデザインとにらめっこしながら何度も繰り返し練習描きをし、納得というか妥協できるところで、あらかじめ切っておいたスマホと同じ形の台紙へ描いていく。
さすがに繊細で細い線はまだまだ難しいが、雰囲気はなんとか写し取れたと思う。右上と左下にバラの花、そしてそれを繋げていくように蔓とトゲを描き加えていく。
真ん中にはウェルカムと両親の名前とがデザインされているが、さすがにこれをそのまま描くわけにはいかない。腕を組んでしばらく考え込んでみたが、特になにも浮かんでこないのでとりあえずは空白にしておいた。
ハルの分は明日渡すためにクリアファイルに入れ、自分の分は早速スマホにつけるために、あのおっさん臭いと評判のおまけケースを外した。
描き終わったカードをスマホにあわせて天井に向けてかざしてみた。するとそこには大好きなあのウェルカムボードによく似た姿が見える。
その直後、両の目じりに冷たい感触を覚えた私は驚き、スマホをテーブルの上に置いてから座りなおした。思ってもみない出来事に自分が混乱しているのがわかる。
別に悲しいわけでもないし、特別な感情なんてなかった。ただいい出来だなと思ったくらいなのに……
「どうして……」
思わずつぶやいたその独り言は、先ほどとは違う寂しさゆえのものだったかもしれない。
「やだ、私ったらなんで涙なんて出ちゃったんだろう。
そろそろ片付けて寝ないといけない」
大仕事を終えて満足したはずだったのに、最後の最後でわけのわからない感情に襲われたのはなぜか。それを忘れようと私は大急ぎで片づけを済ませ布団へもぐりこんだ。
◇◇◇
「それどうしたの?
うっそ! あーちゃんが作ったの? マジで!?」
「カワイイー すごーい。
あたしも作ってもらいたいなー」
私は突然クラスの人気者になってしまった。といってもほとんどは打算込み、あわよくば自分も同じものが欲しいと思っているのがその表情にありありと出ている。
別に親しくもないクラスメートにいくら褒められてもそれほど嬉しくはない。だけどけなされるよりは褒められる方がいいに決まっている。
私はなんだかいい気分になってハルに感想を聞いた。
「どうかな? 一応ハルをイメージして描いてみたんだけどさ」
「凄いよ、やっぱいい感じになったね。
ウチの見立ては正しかった!。
あーちゃんの才能にはいち早く気づいていたんだからねー」
「ありがと、あんまり褒められると照れくさいね。
でも喜んでもらえてすごくうれしいよ」
「昼休みにさ、まっつんに見せに行こうよ。
きっと悔しがって欲しがるはずだよ」
「ああ、そうだよね。
まっつんの分も一緒に作ってくれば良かったなあ」
「それはムリムリカタツムリ。
まっつんのスマホが何かわからないもん。
なんかあんまり聞いたことの無い機種だった気がする」
そっか、スマホってみんな同じように見えるけどそれぞれ形が違うんだった。私はすべてお父さん任せだったから機種がどうとかよくわからなかった。色だけは自分の好きなホワイトにしてもらったけど、これが別の機種でも不満はなかっただろう。
まっつんこと松平真理子は別のクラスだけど、合同授業で何度か会っているうちにいつの間にか仲良くなった。ただし、学校でよく話をしたりお弁当を一緒に食べたりするだけで一緒に遊んだことはない。
彼女はバスケ部の準レギュラーなので、私たちのように放課後遊んでいる暇がないのだ。
「あー、早く昼休みにならないかなー
まっつんに見せびらかしたくてお昼が待ちきれないよ」
「あはは、そんなに嬉しいなんて本当に良かった。
なんだか私まで嬉しくなってくるね」
そう言う私も午前の授業はどこか上の空で身が入らなかった。でもそれは、スマホケースを早く見せたいからではなく、昨晩突然流れた涙のせいだった。
リビングのテーブルに筆記用具を広げてしばし考えてみる。ハルは簡単でいいと言ったけど、どうせならかわいくて気に入ってもらえるようなデザインにしたい。
今日百均で買ってきた透明のスマホケース、そしてコンビニでコピーしてきたスマホが写った紙、そして手漉き風の厚紙を目の前にしばし考え込んだ。
しかしハルはいいことを考え付いたと思う。台紙に描いたカリグラフィーを透明なケースにはさむなんて。自分次第ではあるものの確かにかわいいし、なにより経済的である。まあその相談をするのにお茶代がかかってしまったけど……
何はともあれまずは試しに描いてみよう。手元に用意したカリグラフィーのデザイン案がたくさん載っている古い洋書と、ハルが貸してくれたファッション誌をぱらぱらとめくりながら下書きをいくつか描いてみる。
ハルは小動物系が好きだ。特にうさぎ柄のアイテムには目がない。なのでエムの文字を描く要領でうさぎの耳を表現してみた。周囲にはカントリー風に草木の模様で縁取ったがなかなかいい感じである。
「まあこんなもんかな、明日ハルへ見せてみようっと。
私の分は…… そうだ!」
さっき洗濯物を回収したばかりのお父さんの部屋へもう一度入り、あの古い写真を持ち出してきた。
「やっぱこれ、私の原点だもんね」
いつの間にか出てしまう独り言も、好きなことをしているときには気にならなくなるものだ。何となくつまらなくて寂しい一人の夜の独り言とは違う。
写真立てに写っているウェルカムボードのデザインとにらめっこしながら何度も繰り返し練習描きをし、納得というか妥協できるところで、あらかじめ切っておいたスマホと同じ形の台紙へ描いていく。
さすがに繊細で細い線はまだまだ難しいが、雰囲気はなんとか写し取れたと思う。右上と左下にバラの花、そしてそれを繋げていくように蔓とトゲを描き加えていく。
真ん中にはウェルカムと両親の名前とがデザインされているが、さすがにこれをそのまま描くわけにはいかない。腕を組んでしばらく考え込んでみたが、特になにも浮かんでこないのでとりあえずは空白にしておいた。
ハルの分は明日渡すためにクリアファイルに入れ、自分の分は早速スマホにつけるために、あのおっさん臭いと評判のおまけケースを外した。
描き終わったカードをスマホにあわせて天井に向けてかざしてみた。するとそこには大好きなあのウェルカムボードによく似た姿が見える。
その直後、両の目じりに冷たい感触を覚えた私は驚き、スマホをテーブルの上に置いてから座りなおした。思ってもみない出来事に自分が混乱しているのがわかる。
別に悲しいわけでもないし、特別な感情なんてなかった。ただいい出来だなと思ったくらいなのに……
「どうして……」
思わずつぶやいたその独り言は、先ほどとは違う寂しさゆえのものだったかもしれない。
「やだ、私ったらなんで涙なんて出ちゃったんだろう。
そろそろ片付けて寝ないといけない」
大仕事を終えて満足したはずだったのに、最後の最後でわけのわからない感情に襲われたのはなぜか。それを忘れようと私は大急ぎで片づけを済ませ布団へもぐりこんだ。
◇◇◇
「それどうしたの?
うっそ! あーちゃんが作ったの? マジで!?」
「カワイイー すごーい。
あたしも作ってもらいたいなー」
私は突然クラスの人気者になってしまった。といってもほとんどは打算込み、あわよくば自分も同じものが欲しいと思っているのがその表情にありありと出ている。
別に親しくもないクラスメートにいくら褒められてもそれほど嬉しくはない。だけどけなされるよりは褒められる方がいいに決まっている。
私はなんだかいい気分になってハルに感想を聞いた。
「どうかな? 一応ハルをイメージして描いてみたんだけどさ」
「凄いよ、やっぱいい感じになったね。
ウチの見立ては正しかった!。
あーちゃんの才能にはいち早く気づいていたんだからねー」
「ありがと、あんまり褒められると照れくさいね。
でも喜んでもらえてすごくうれしいよ」
「昼休みにさ、まっつんに見せに行こうよ。
きっと悔しがって欲しがるはずだよ」
「ああ、そうだよね。
まっつんの分も一緒に作ってくれば良かったなあ」
「それはムリムリカタツムリ。
まっつんのスマホが何かわからないもん。
なんかあんまり聞いたことの無い機種だった気がする」
そっか、スマホってみんな同じように見えるけどそれぞれ形が違うんだった。私はすべてお父さん任せだったから機種がどうとかよくわからなかった。色だけは自分の好きなホワイトにしてもらったけど、これが別の機種でも不満はなかっただろう。
まっつんこと松平真理子は別のクラスだけど、合同授業で何度か会っているうちにいつの間にか仲良くなった。ただし、学校でよく話をしたりお弁当を一緒に食べたりするだけで一緒に遊んだことはない。
彼女はバスケ部の準レギュラーなので、私たちのように放課後遊んでいる暇がないのだ。
「あー、早く昼休みにならないかなー
まっつんに見せびらかしたくてお昼が待ちきれないよ」
「あはは、そんなに嬉しいなんて本当に良かった。
なんだか私まで嬉しくなってくるね」
そう言う私も午前の授業はどこか上の空で身が入らなかった。でもそれは、スマホケースを早く見せたいからではなく、昨晩突然流れた涙のせいだった。
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