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第六章 画策する令嬢
22.火種
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タクローシュは国王に呼び出され不機嫌だった。その理由はいくらでも思いつくのでいちいち気にはしていないが、先ほど医務室からあの女が連れて行かれた直後なことが気にかかる。
「父上、お呼びでしょうか」
「うむ、お前に聞いておきたいことがあってな。
あの娘、クラウディアなのだが、どうしてそこまで痛めつけるのだ?
奥御殿(ハーレム)に子を孕んだ経験がある者を入れたのだから気に入らないのはわかる。
しかし現在の状況を鑑みればなぜあれを加えたかくらいは承知しておるであろう」
「それは当然わかっております。
だがそれと心情的に許し難い存在であるのは全くの別物。
元はと言えば父上がダルチエン伯爵の忠誠を疑ったのではないですか。
ですから私が策を練ってあの女を引き込み恥をかかせたと言うのに……」
「それをまた戻したことが納得いかないと?
まあそうであろうな、お前の自尊心を考えていなかった我の手落ちだ。
奴隷にまで落とした女を連れ戻し、経産婦と子を作れと言ったのだからな」
「一体どういったお考えなのですか?
女ならまだまだいくらでもいるでしょう?
何なら前国王のように貴族以外からも集めればいいではありませんか」
「バカ者、それで国が傾いたのだとなぜ理解できんのか。
現在お前の奥御殿にいる女は十三、四人と言ったところだったな。
今後その人数を増やすことはない、その中で子を作るのだ」
「くっ、それでは以前に逆戻りではないですが。
屈辱に耐えながらあの女を使い続けたのは無駄だったと?」
「だがこのままでは殺してしまうではないか。
例え生きているにしても子を宿せない身体にしては何の意味もない。
医師の見立てでは今の体調では孕んでも育たないだろうとのことだぞ?」
「それがどうしたと言うのです。
あんな女がどうなろうと私の知ったことではない!
跡継ぎなら他の女と作りますからご心配なく」
「それではクラウディアの体が癒えたら我の奥御殿で引き取ろう。
あの状態、見るに堪えんわ……
お前も自らの立場をよく考え行動するのだな、そろそろ尻に火がついているぞ」
父親である国王から、考えもしていなかった言葉を聞かされタクローシュは狼狽しつい強気に言い返してしまった。しかし長年子が出来ていないことは事実であるし、王族の子を宿した実績のある女は貴重な存在であることは間違いなかった。それを自ら手放してしまったことと、かといって一度奴隷へ落とした女を引き取ると言いだした国王の考えがわからない。世継ぎを産ませるために連れてきたのだから不要となったのなら奴隷へ戻せば良いはず。
タクローシュはとても冷静ではいられず、王城の廊下をものすごい形相で歩いていった。
◇◇◇
クラウディアの取った必死な行動が今後どのように働くのかはまだわからない。そんなことを考えながら医務室へと戻り食事を取っていると、ものすごい剣幕でタクローシュが飛び込んできた。それは誰がどう見ても怒りを隠しておらず、これからクラウディアの身に起こることを考えると誰もが背筋の凍る思いがしただろう。
「この淫売が! 父上へ、王へ何をした!
なぜ貴様ごときが王の奥御殿へと入ることになるのだ!」
「ええっ!? 何のことでございますか!?
私は王の奥御殿に? なにかの間違いではないでしょうか」
「とぼけるのか! 貴様が色仕掛けでもしたのだろうが!
そこまでして俺から逃げようと言うその考えを改めさせてやる。
さあ来い、いいものを味あわせてやろう」
「王子殿下、困ります。
この娘はまだ体調が芳しくありません。
国王の命により無理はさせないようにと言われておりますゆえ」
「うるさい、医者ごときが俺に指図するな!
まだこいつは俺のものだ、殴らなければいいのだろう?
少しの間連れていくだけだ! いいから黙っていろ!」
こうしてクラウディアはタクローシュに力づくで連れて行かれてしまった。その行き先がどこなのか、何が待っているのかもわからず目的もわからない。ただ、この傲慢な王子のすることと考えれば、それが良くない事であることは明白だった。
「父上、お呼びでしょうか」
「うむ、お前に聞いておきたいことがあってな。
あの娘、クラウディアなのだが、どうしてそこまで痛めつけるのだ?
奥御殿(ハーレム)に子を孕んだ経験がある者を入れたのだから気に入らないのはわかる。
しかし現在の状況を鑑みればなぜあれを加えたかくらいは承知しておるであろう」
「それは当然わかっております。
だがそれと心情的に許し難い存在であるのは全くの別物。
元はと言えば父上がダルチエン伯爵の忠誠を疑ったのではないですか。
ですから私が策を練ってあの女を引き込み恥をかかせたと言うのに……」
「それをまた戻したことが納得いかないと?
まあそうであろうな、お前の自尊心を考えていなかった我の手落ちだ。
奴隷にまで落とした女を連れ戻し、経産婦と子を作れと言ったのだからな」
「一体どういったお考えなのですか?
女ならまだまだいくらでもいるでしょう?
何なら前国王のように貴族以外からも集めればいいではありませんか」
「バカ者、それで国が傾いたのだとなぜ理解できんのか。
現在お前の奥御殿にいる女は十三、四人と言ったところだったな。
今後その人数を増やすことはない、その中で子を作るのだ」
「くっ、それでは以前に逆戻りではないですが。
屈辱に耐えながらあの女を使い続けたのは無駄だったと?」
「だがこのままでは殺してしまうではないか。
例え生きているにしても子を宿せない身体にしては何の意味もない。
医師の見立てでは今の体調では孕んでも育たないだろうとのことだぞ?」
「それがどうしたと言うのです。
あんな女がどうなろうと私の知ったことではない!
跡継ぎなら他の女と作りますからご心配なく」
「それではクラウディアの体が癒えたら我の奥御殿で引き取ろう。
あの状態、見るに堪えんわ……
お前も自らの立場をよく考え行動するのだな、そろそろ尻に火がついているぞ」
父親である国王から、考えもしていなかった言葉を聞かされタクローシュは狼狽しつい強気に言い返してしまった。しかし長年子が出来ていないことは事実であるし、王族の子を宿した実績のある女は貴重な存在であることは間違いなかった。それを自ら手放してしまったことと、かといって一度奴隷へ落とした女を引き取ると言いだした国王の考えがわからない。世継ぎを産ませるために連れてきたのだから不要となったのなら奴隷へ戻せば良いはず。
タクローシュはとても冷静ではいられず、王城の廊下をものすごい形相で歩いていった。
◇◇◇
クラウディアの取った必死な行動が今後どのように働くのかはまだわからない。そんなことを考えながら医務室へと戻り食事を取っていると、ものすごい剣幕でタクローシュが飛び込んできた。それは誰がどう見ても怒りを隠しておらず、これからクラウディアの身に起こることを考えると誰もが背筋の凍る思いがしただろう。
「この淫売が! 父上へ、王へ何をした!
なぜ貴様ごときが王の奥御殿へと入ることになるのだ!」
「ええっ!? 何のことでございますか!?
私は王の奥御殿に? なにかの間違いではないでしょうか」
「とぼけるのか! 貴様が色仕掛けでもしたのだろうが!
そこまでして俺から逃げようと言うその考えを改めさせてやる。
さあ来い、いいものを味あわせてやろう」
「王子殿下、困ります。
この娘はまだ体調が芳しくありません。
国王の命により無理はさせないようにと言われておりますゆえ」
「うるさい、医者ごときが俺に指図するな!
まだこいつは俺のものだ、殴らなければいいのだろう?
少しの間連れていくだけだ! いいから黙っていろ!」
こうしてクラウディアはタクローシュに力づくで連れて行かれてしまった。その行き先がどこなのか、何が待っているのかもわからず目的もわからない。ただ、この傲慢な王子のすることと考えれば、それが良くない事であることは明白だった。
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