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第五章 舞い戻る令嬢

19.王族の血

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 別室に用意された料理は食事時ではないから簡易なものと言っていたにもかかわらず、十分に豪華なものだった。上質な肉料理に手間暇かけたスープ、そして高級なワインを楽しむひと時であるはず。だが今のクラウディアには味わう余裕があるはずもない。食卓を囲んでいるのは国王とタクローシュ王子、そしてクラウディアだけなのだから。

「よし、大体食べ終わったであろうか?
 それでは本題に入るとしよう。
 まあそう身構えんで良い、聞いてしまえば簡単な話だ」

 クラウディアは我が子のことについて聞かれるとわかってはいたが、それでも胸が苦しくなり国王の言葉を聞くことが怖かった。

「そなたがあの監視小屋で暮らしておったのは間違いないな。
 そこにおったアルベルトとの間に子を設けたであろう?
 いつ生まれたのかは知らないが、今はどこにおるのだ。
 はぐらかすのは無駄じゃ、調べはついている」

「はい…… 確かに私とアルベルト様の間には子が産まれました。
 ですが満足に栄養も取れない状況だったため、数週間ほどで亡くなってしまいました。
 遺体は森へと埋葬したのですが獣に掘り返されまして……
 気が違ってしまった私は数日の間森を彷徨い続けました。
 その間、その…… 私の身体を…… 使えなくなったあの人が……」

「つまり監視小屋を飛び出してここへやってきたようだ、と言うわけか。
 そなたが知っているのかどうかはわからないが、我々王族には穢れた血が流れている。
 穢れた血と言うのは類稀(たぐいまれ)なる精力、つまり子孫を残すための力だな。
 そのため周囲に女を幾人(いくにん)も置いておかなければ発散が間に合わんのだよ」

 なんと答えれば良いかわからず困惑しているクラウディアを気にも留めない様子で国王は話を続けた。

「だがその代わりに強靭な肉体と武の才を持つ、これが王族なのだ。
 それはもちろん我の兄である前国王も同じことだった。
 彼は精力が歴代随一と言われるほど強く、奥御殿(ハーレム)に抱える女の数は五十を超えていた。
 通常は貴族の娘を輿入れさせる習わしだったのだがそれだけでは足りなかった。
 やがて街の商人や街村の重鎮からも娘を差し出させることになってな。
 王国中には国家運営が成り立たんくらいに不満が募っておった」

「それがあの十数年前の出来事に……?」

「そうだ、まあ今となっては我の悪い噂のみが囁かれているようだがな。
 事実も半分と言うことで悪評も仕方ないとは思っている。
 だがあの時はああするしかなかったと今でも考えているよ」

 思っていたよりもずっと理性的で正常な神経を持つように感じる国王の言葉にクラウディアは少なからず動揺した。なぜならこの王を討つために我が子をアーゲンハイム男爵へと預けてしまっているのだ。もしかしたら今この場に連れてこなかったことを後悔することになるのではないだろうか。そんなことまで考え始めていた。だが実際、行動には正解は無く、取った行動のみが正解であり、たとえ間違っていたと感じようとも戻って選択し直すことはできないのだ。

「話が逸れたな、では本題に入るとしよう。
 そなたには王子の子を産んでもらいたい。
 なに、元々は婚約者だったのだ、気兼ねすることは無かろう。
 どちらにせよ拒否権はない、奴隷棟へ向かうか奥御殿へ入るかのどちらか選ぶが良い」

 子は亡くなっていると言ったクラウディアの言葉に特段の追及は無い。つまりこの先の話が見えてきたと彼女は考えた。

「奥御殿へ迎えていただけることは光栄でございます。
 しかしそうなると家督を継ぐことはできないのではないでしょうか」

「そこだがな、子が出来たなら奥御殿から抜けることを許そう。
 その時には領地と屋敷を世話してやるから貴族として再興すればよい。
 女子(おなご)が産まれたなら連れ帰ればよいし、有力な貴族の婿を世話してやろう。
 どうだ? 悪い話では無かろう?」

 子を産むことで貴族として復権でき領地と屋敷まで手に入る。確かに魅力的な提案だし断れば奴隷棟へ送られ結局は奴隷のまま奴隷の子を産むことになる。あたかも選択を迫られているようで、実のところ断る余地などは無いのだ。一見物腰柔らかく語りかけているようで、さすが独裁国の王と言える迫力がある。

「もとより私は選択出来る立場ではございません。
 この身体が王国の役に立つのであれば喜んで差し出しましょう。
 一つお尋ねしたいのですが、王子の子を産んだあと城へ残る選択肢はないのでしょうか。
 いえ、決して次期王妃の身分を欲しているわけではございません。
 ただ我が子と共に居たいとの想いを持つことになろうかと……」

「それもそうだな、最初の子を亡くしているのだからそう考えるのも当然だ。
 ついそなたは自由を欲していると思い込んでおったわ。
 だが家督を継ぐことは叶わなくなるぞ?」

「はい、そこは子に恵まれるかどうかと考えております。
 先に女子が産まれたなら家督を継がせることは叶いませんでしょうか。
 もし男子しか産むことが出来なければ家は諦めるつもりです」

「良かろう、その条件で構わぬ。
 それではこのまま奥御殿へ入ってもらうぞ、良いな?」

 国王に同意を求められること、それはすなわち決定事項でありクラウディアはただ頷くのみ、しかしその眼には光が灯っていた。
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