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第五章 舞い戻る令嬢

18.予想していた思わぬ出来事

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 クラウディアがアーゲンハイム男爵の別宅を出てから二日後、王命を受けた騎士団が泉の監視小屋へと洗われた。要件はもちろんクラウディアの拘束と連行だったのだが、その扱いは男爵の予想通り丁重な者であり、断る余地はないものの乱暴に扱われることはなかった。すでに奴隷に堕ちた身、なにをされても文句はいけない立場になっているはずなのに、と彼女は訝しんだ。

「クラウディア様、お一人であらせられますか?
 準備が出来ているようなら城へ向かいたく存じますが。
 本当に一人でよろしいでしょうか?」

「ええ、私一人で間違いありません。
 何が言いたいのかも存じております。
 もし、国王陛下へのお目通りが叶うのならそこで明らかに致しましょう」

「畏まりました。
 それでは参りましょう」

 クラウディアは久しぶりに乗る馬車の振動を心地よく感じ、これまでの疲労もあっていつの間にか眠りについてしまった。次に目覚めたのは、すでに城門をくぐり抜け中庭に停車した時である。王子との婚約を破棄されたあげく追放された元貴族令嬢としてこの王城とはいわば敵地も同然。それなのにここまで安心しきって眠ってしまったことに本人が一番驚いていた。おそらくは久しぶりに貴族として扱われたせいだろう。

 国王直属の執事に導かれ城内を進み、先ずは衣裳部屋で正装への着替えを促された。これまた久しぶりに纏う上等なドレスの肌触りが心地いい。まるで来賓のように歓迎されてしまい、不信感を持つどころか夢心地なクラウディアだった。しかし謁見の間へ入るとその安堵した顔つきが厳しいものへと変わる。

 目の前には国王陛下、そして王妃の席は空白となっているが、王の傍らにはタクローシュ王子が激しい憎しみの表情を抱き仁王立ちしていたのだ。婚約者であった時には感じなかった恐怖がクラウディアの心臓を握りつぶしてくる。胸が苦しく傅(かしず)いたまま動けなくなってしまった。

「クラウディア・アリア・ダルチエンよ、そう固くなるな。
 まずは表を上げよ。
 呼びつけてすまんが、そなたにはいくつか聞きたいことがあるのだ」

「は、はい、国王陛下、ご無沙汰しております。
 クラウディア・アリア…… ただいま御前に参りました。
 なんなりとお申し付けくださいませ」

「そう震えるでない。
 随分と顔色も悪い、目の下の隈が随分と醜いのう。
 大分苦労をしていたようだな」

 自らの保身のため両親を冤罪で殺し、家を潰しておいて平然といたわりの言葉を口にする、クラウディアはそんな国王を見て肌寒さを感じながらも再び傅いて「めっそうもございません」とだけ答えた。その返事を聞いて何を満足しているのか手を二度ほど上げ下げしてから国王は言葉を続ける。

「まずは過去にあったことはすべて水に流そうと思う。
 そなたの父が謀反を企てたことは明らかであり処分が適正であったことは間違いない。
 しかし処分が厳しすぎたのも事実、そこでそなたに家督を継ぐことを認めようと思う」

「えっ!? まさかそんな!
 今の私はすでに奴隷へ堕ちた身です。
 そんな私が家督を継ぐなど許されるのでしょうか」

「うむ、そこは我の胸三寸よ。
 どうだ? 悪いようにはせんぞ?
 もちろん無条件とはいかないがな」

 元より城へ呼ばれた段階で自身の身に何事も起こらないなどとは考えていない。だがそれがダルチエン家の復権までちらつかされるとは想定外もいいところだった。もちろん条件がかなり厳しいものであることは想像に容易いが、再び爵位を賜れるのであればクラウディアにとってとてつもない利となることは間違いない。父の嫌疑は晴らせないものの、家督を継いで数代もすれば子孫はまた普通に貴族として暮らせるはず。

「恐れながら申し上げます。
 奴隷に堕ちたこの私に一体なにが出来るのでしょうか。
 ですが、もしなにかお役に立てるのであれば、最善を尽くす所存でございます」

「良く申した、それでは別室で続きを話すことにしよう。
 急ぎ食事を用意してあるからな。
 遠慮なく食し体調を整えることだ」

 この後に提示されるであろう『条件』について、クラウディアは頭の中で様々な想定をし、最善の答えを用意しようと策を張り巡らせるのだった。
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