上 下
18 / 66
第五章 舞い戻る令嬢

18.予想していた思わぬ出来事

しおりを挟む
 クラウディアがアーゲンハイム男爵の別宅を出てから二日後、王命を受けた騎士団が泉の監視小屋へと洗われた。要件はもちろんクラウディアの拘束と連行だったのだが、その扱いは男爵の予想通り丁重な者であり、断る余地はないものの乱暴に扱われることはなかった。すでに奴隷に堕ちた身、なにをされても文句はいけない立場になっているはずなのに、と彼女は訝しんだ。

「クラウディア様、お一人であらせられますか?
 準備が出来ているようなら城へ向かいたく存じますが。
 本当に一人でよろしいでしょうか?」

「ええ、私一人で間違いありません。
 何が言いたいのかも存じております。
 もし、国王陛下へのお目通りが叶うのならそこで明らかに致しましょう」

「畏まりました。
 それでは参りましょう」

 クラウディアは久しぶりに乗る馬車の振動を心地よく感じ、これまでの疲労もあっていつの間にか眠りについてしまった。次に目覚めたのは、すでに城門をくぐり抜け中庭に停車した時である。王子との婚約を破棄されたあげく追放された元貴族令嬢としてこの王城とはいわば敵地も同然。それなのにここまで安心しきって眠ってしまったことに本人が一番驚いていた。おそらくは久しぶりに貴族として扱われたせいだろう。

 国王直属の執事に導かれ城内を進み、先ずは衣裳部屋で正装への着替えを促された。これまた久しぶりに纏う上等なドレスの肌触りが心地いい。まるで来賓のように歓迎されてしまい、不信感を持つどころか夢心地なクラウディアだった。しかし謁見の間へ入るとその安堵した顔つきが厳しいものへと変わる。

 目の前には国王陛下、そして王妃の席は空白となっているが、王の傍らにはタクローシュ王子が激しい憎しみの表情を抱き仁王立ちしていたのだ。婚約者であった時には感じなかった恐怖がクラウディアの心臓を握りつぶしてくる。胸が苦しく傅(かしず)いたまま動けなくなってしまった。

「クラウディア・アリア・ダルチエンよ、そう固くなるな。
 まずは表を上げよ。
 呼びつけてすまんが、そなたにはいくつか聞きたいことがあるのだ」

「は、はい、国王陛下、ご無沙汰しております。
 クラウディア・アリア…… ただいま御前に参りました。
 なんなりとお申し付けくださいませ」

「そう震えるでない。
 随分と顔色も悪い、目の下の隈が随分と醜いのう。
 大分苦労をしていたようだな」

 自らの保身のため両親を冤罪で殺し、家を潰しておいて平然といたわりの言葉を口にする、クラウディアはそんな国王を見て肌寒さを感じながらも再び傅いて「めっそうもございません」とだけ答えた。その返事を聞いて何を満足しているのか手を二度ほど上げ下げしてから国王は言葉を続ける。

「まずは過去にあったことはすべて水に流そうと思う。
 そなたの父が謀反を企てたことは明らかであり処分が適正であったことは間違いない。
 しかし処分が厳しすぎたのも事実、そこでそなたに家督を継ぐことを認めようと思う」

「えっ!? まさかそんな!
 今の私はすでに奴隷へ堕ちた身です。
 そんな私が家督を継ぐなど許されるのでしょうか」

「うむ、そこは我の胸三寸よ。
 どうだ? 悪いようにはせんぞ?
 もちろん無条件とはいかないがな」

 元より城へ呼ばれた段階で自身の身に何事も起こらないなどとは考えていない。だがそれがダルチエン家の復権までちらつかされるとは想定外もいいところだった。もちろん条件がかなり厳しいものであることは想像に容易いが、再び爵位を賜れるのであればクラウディアにとってとてつもない利となることは間違いない。父の嫌疑は晴らせないものの、家督を継いで数代もすれば子孫はまた普通に貴族として暮らせるはず。

「恐れながら申し上げます。
 奴隷に堕ちたこの私に一体なにが出来るのでしょうか。
 ですが、もしなにかお役に立てるのであれば、最善を尽くす所存でございます」

「良く申した、それでは別室で続きを話すことにしよう。
 急ぎ食事を用意してあるからな。
 遠慮なく食し体調を整えることだ」

 この後に提示されるであろう『条件』について、クラウディアは頭の中で様々な想定をし、最善の答えを用意しようと策を張り巡らせるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...