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第二章 慰みの令嬢
6.変化の兆し
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ある日、全ての感覚、全ての感情を失ったはずの女は自分の中に何かの変化を感じた。わずかに戻った思考力で自分の身に起こっていることを認識すると突然に混み上がてくるものが有り、胃の中の内容物を全て吐きだした。
吐き気は初めてというわけでも無く、その度に窒息しそうになっていたため、今のクラウディアはテーブルにうつぶせで固定されている。だがこの一か月の間は特にひどく日に何度も吐瀉(としゃ)することさえあり衰弱がひどかった。このままだと近いうちに命を落としそうだ。だがそれで解放されるのなら、と意識を取り戻したクラウディアは考える。
だがそんな彼女の様子には全く気付かずに醜男(しこお)の行為は続いている。今日はもう何度目なのか、誰も数えることなく終わりと始まりの境もわからない日々が続いていた。しばらくすると果ての切れ目に男は女から自らを引き抜いた。どうやら空腹を感じ食事を取ることにしたらしい。
今でも続いている施しは、この醜男が元王子だったことを証明している。二歳ごろまで面倒を見ていた城付き乳母だった女が、今でもアルベルトのことを気にかけ日に一度は食料を運んでいたのだ。そしてもちろん監視小屋で行われていることも承知していた。しかしこの国では奴隷は王族の所有物であるため、元王子が元貴族の奴隷に何をしようと咎められるものではない。
そしてそんなことは団員を失った騎士団長も重々承知していた。戻ってこなかった団員三名は、おそらくクラウディアを犯したのだろう。だが誰かに知られれば死罪、よくて一生強制労働行きだ。そのためことを終えた後に後悔し、他国へでも逃げたに違いない。
その王族の所有物となったクラウディア・アリア・ダルチエンは、現国王であるラギルレイト・ロハ・グイン・ダマエライトの策略によって第一王子の婚約者となった。前国王派のダルチエン伯爵を失脚させるため娘のクラウディアを取り込み、そして婚約破棄と閑職送りと言う屈辱を味あわせたのだ。
ダルチエン伯爵は一人娘の王族入りを期に現国王への忠誠を宣言しようと考えていたが、それはすべて無に返し、伯爵は怒りのあまりダルチエン家を中心に前国王派を集めた会合を開いてしまった。それがこの独裁国にとってどういう意味を持つのか十分理解していたはずなのに……
こうして伯爵は死罪となり夫人は当然のこと、臣下および使用人とその家族、赤子までもが首を落とされた。処刑は見せしめのように公開で行われたため、元国王派はすべてその牙をもがれ大人しい子猫のようになってしまった。
唯一生き残っているのはクラウディアだけだが、それも生きているとは到底言い難い状況に置かれている。それは元婚約者で第一王子のタクローシュが手配した悪い趣味である。元婚約者であり裏切り者の娘が父違いの兄で異形の男に辱めを受けている。それを考えるだけでタクローシュの心はより高揚し、溢れんばかりの興奮によって生み出される己の副産物を新たな婚約者であるアンミラ・ソワレ・ワイクスブルクへと注ぎ込むことができるのだ。
だが誰にとっても盲点だったのは、アルベルトは男女の目合(まぐわ)いについての知識がなく、しばらくの間は二人がそれぞれ他人のごとく暮らしていたことだ。とは言え、森にいる二人の様子を知っているのは乳母だけだったため、事実はどこにも伝えられず誰も気にしていなかったが。
それがある日突然、醜男は豹変し野獣のような日々を送り始めた。その光景を初めて確認した乳母は何が起こったのかと驚きつつも、自らが仕えているつもりの第一王子アルベルト殿下がようやく男になったと涙を流して喜んでいた。そして月日が流れ乳母も異変に気が付いた。
繰り返される凌辱と止まらぬ吐き気に悩まされつつも、奇跡的に意識を取り戻したクラウディアはなんとか醜男の行為を止めさせようと頭を働かせた。だが取れる手段は少なく、まずはとにかく会話を試みるしかない。だが度重なる吐瀉により喉は焼けただれ満足に声が出せない。彼女はそれでも力を振り絞る。
「あ…… る…… アル……」
「アル、わたし、おとこ、ある。
アリア、あなた、おんな」
「あ、ああ…… わがっでくでたのね……
おえがいだがらもうやめで……」
だがそんな難しい言葉はこの愚男には通じない。それでも女は懸命に語りかける。繰り返し打ちつけられる波動の狭間に言葉を挟みながら何度も、何度も…… どれくらいの時間が過ぎただろうか。ひとしきり快感を覚え満足した男はようやく女と向き合った。
「アリア、わたし、よう、なに」
「そ、そう、ようがあるの……
ごんなごどもうやめでほじいの……
いまわだじのながにはあがぢゃんがいるがもじれない……」
「あーがーぢゃー、なに
おんな? おとこ?」
「そうじゃないの…… あがぢゃんは、あなだとわだじのこども……」
「こーどーもー、なに?」
何度も説明するが全く伝わらずクラウディアが諦めかけたその時、ドアをノックする音が聞こえた。こんな誰も来るはずの無い場所に人がやってきた。助かるかもしれない。クラウディアは地獄に一筋の光が差したように感じうめき声を上げた。
「アルベルト殿下!
あなた様にお子様が!?」
入って来たのは以前何度か見かけたことのある中年女だった。ここへ食事を運んで来てくれる生命線とも言える存在。しかし今確かにアルベルト殿下と呼んでいた。つまりこの醜男が元王子だと言うことを知っていて、なお危険を顧みず今でもそう考えていると言うことだ。
クラウディアにとっては味方でも救世主でもなんでもなく、どちらかと言うとアルベルトの仲間とも言える存在に落胆し、そのまま気を失ってしまった。
吐き気は初めてというわけでも無く、その度に窒息しそうになっていたため、今のクラウディアはテーブルにうつぶせで固定されている。だがこの一か月の間は特にひどく日に何度も吐瀉(としゃ)することさえあり衰弱がひどかった。このままだと近いうちに命を落としそうだ。だがそれで解放されるのなら、と意識を取り戻したクラウディアは考える。
だがそんな彼女の様子には全く気付かずに醜男(しこお)の行為は続いている。今日はもう何度目なのか、誰も数えることなく終わりと始まりの境もわからない日々が続いていた。しばらくすると果ての切れ目に男は女から自らを引き抜いた。どうやら空腹を感じ食事を取ることにしたらしい。
今でも続いている施しは、この醜男が元王子だったことを証明している。二歳ごろまで面倒を見ていた城付き乳母だった女が、今でもアルベルトのことを気にかけ日に一度は食料を運んでいたのだ。そしてもちろん監視小屋で行われていることも承知していた。しかしこの国では奴隷は王族の所有物であるため、元王子が元貴族の奴隷に何をしようと咎められるものではない。
そしてそんなことは団員を失った騎士団長も重々承知していた。戻ってこなかった団員三名は、おそらくクラウディアを犯したのだろう。だが誰かに知られれば死罪、よくて一生強制労働行きだ。そのためことを終えた後に後悔し、他国へでも逃げたに違いない。
その王族の所有物となったクラウディア・アリア・ダルチエンは、現国王であるラギルレイト・ロハ・グイン・ダマエライトの策略によって第一王子の婚約者となった。前国王派のダルチエン伯爵を失脚させるため娘のクラウディアを取り込み、そして婚約破棄と閑職送りと言う屈辱を味あわせたのだ。
ダルチエン伯爵は一人娘の王族入りを期に現国王への忠誠を宣言しようと考えていたが、それはすべて無に返し、伯爵は怒りのあまりダルチエン家を中心に前国王派を集めた会合を開いてしまった。それがこの独裁国にとってどういう意味を持つのか十分理解していたはずなのに……
こうして伯爵は死罪となり夫人は当然のこと、臣下および使用人とその家族、赤子までもが首を落とされた。処刑は見せしめのように公開で行われたため、元国王派はすべてその牙をもがれ大人しい子猫のようになってしまった。
唯一生き残っているのはクラウディアだけだが、それも生きているとは到底言い難い状況に置かれている。それは元婚約者で第一王子のタクローシュが手配した悪い趣味である。元婚約者であり裏切り者の娘が父違いの兄で異形の男に辱めを受けている。それを考えるだけでタクローシュの心はより高揚し、溢れんばかりの興奮によって生み出される己の副産物を新たな婚約者であるアンミラ・ソワレ・ワイクスブルクへと注ぎ込むことができるのだ。
だが誰にとっても盲点だったのは、アルベルトは男女の目合(まぐわ)いについての知識がなく、しばらくの間は二人がそれぞれ他人のごとく暮らしていたことだ。とは言え、森にいる二人の様子を知っているのは乳母だけだったため、事実はどこにも伝えられず誰も気にしていなかったが。
それがある日突然、醜男は豹変し野獣のような日々を送り始めた。その光景を初めて確認した乳母は何が起こったのかと驚きつつも、自らが仕えているつもりの第一王子アルベルト殿下がようやく男になったと涙を流して喜んでいた。そして月日が流れ乳母も異変に気が付いた。
繰り返される凌辱と止まらぬ吐き気に悩まされつつも、奇跡的に意識を取り戻したクラウディアはなんとか醜男の行為を止めさせようと頭を働かせた。だが取れる手段は少なく、まずはとにかく会話を試みるしかない。だが度重なる吐瀉により喉は焼けただれ満足に声が出せない。彼女はそれでも力を振り絞る。
「あ…… る…… アル……」
「アル、わたし、おとこ、ある。
アリア、あなた、おんな」
「あ、ああ…… わがっでくでたのね……
おえがいだがらもうやめで……」
だがそんな難しい言葉はこの愚男には通じない。それでも女は懸命に語りかける。繰り返し打ちつけられる波動の狭間に言葉を挟みながら何度も、何度も…… どれくらいの時間が過ぎただろうか。ひとしきり快感を覚え満足した男はようやく女と向き合った。
「アリア、わたし、よう、なに」
「そ、そう、ようがあるの……
ごんなごどもうやめでほじいの……
いまわだじのながにはあがぢゃんがいるがもじれない……」
「あーがーぢゃー、なに
おんな? おとこ?」
「そうじゃないの…… あがぢゃんは、あなだとわだじのこども……」
「こーどーもー、なに?」
何度も説明するが全く伝わらずクラウディアが諦めかけたその時、ドアをノックする音が聞こえた。こんな誰も来るはずの無い場所に人がやってきた。助かるかもしれない。クラウディアは地獄に一筋の光が差したように感じうめき声を上げた。
「アルベルト殿下!
あなた様にお子様が!?」
入って来たのは以前何度か見かけたことのある中年女だった。ここへ食事を運んで来てくれる生命線とも言える存在。しかし今確かにアルベルト殿下と呼んでいた。つまりこの醜男が元王子だと言うことを知っていて、なお危険を顧みず今でもそう考えていると言うことだ。
クラウディアにとっては味方でも救世主でもなんでもなく、どちらかと言うとアルベルトの仲間とも言える存在に落胆し、そのまま気を失ってしまった。
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