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早起きの得は三文どころじゃない
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昨晩の大宴会の興奮冷めやらぬ朝、といった感じで目を覚ました僕は、完全に睡眠不足で眠り足りない感覚を覚えていた。時計を見ると起きる時間にはまだ早い。多分興奮して寝つけなかったわりに、落ち着かなくて起きてしまったのだろう。
とりあえず咲とのことは上手いこと説明がついて、少数ではあるけど公認の仲として祝福してもらえたのはとても嬉しい。しかし学校ではどうしよう。特に、思い込みの激しい由布に知られたら大変なことになりそうだ。
もしかしたら若菜亜美の方が厄介かもしれない。どこかで覗かれているような雰囲気と、他人を悪く考えてしまう困った性格……
それに神戸園子にも知られたくない。二人と違って園子の場合は、特におかしなことは怒らないだろうが、きっと心を痛めるだろう。
だけどしかたの無いことなのだ。なんといっても僕にとって咲という女の子は特別どころじゃなく、一生共に生きると決めている存在なのだから。
まだ高校生とはいえ、この気持ちが変わってしまうことは無いと断言できる。だって周囲にはそんな大人が多いし、まして女癖の悪さで有名だった父さんに出来ていることが僕にできないはずがない。
寝起きからそんなことを考えていたら、大分目が覚めてきた。ちょっと早いけどランニングの支度を始めることにする。
昨日は帰ってくるのが、いや、両親を連れ帰ってきてベッドへ運ぶのが大変だった。騒ぎの最中、何の助け舟も出してくれず、大笑いしながら囃し立てていた父さんを丁寧に扱う気が起こらなくて、面倒だから居間へ転がしてしまった。
母さんはベッドまで運んだあと、咲が着替えさせてくれて助かった。もうとにかくご機嫌のべろんべろんで、相手しているとこっちがおかしくなりそうだった。父さんみたいに寝てしまってくれた方が扱いやすかったかもしれない。
二人がいつ起きてくるのかはわからないけど、父さんはランニングの時間になったら起きるだろう。でも僕は、時間がまだかなり早いのをわかっていながら表へ出た。
辺りはまだ薄暗い。たまに新聞配達のバイクが走る音が聞こえるくらいの時間だから当然だ。ゆっくりとストレッチをしていると、道の少し先から声が聞こえた。
「あらま、吉田さんのところのお兄ちゃんかい?
ずいぶん大きくなったんだねえ。
ついこないだはこんなちいちゃかったのに」
「おはようございます、ご無沙汰してしまって。
えっと、今はもう高校生ですから!」
やっぱり年寄りは早起きなのだろうか。こんな時間から隣のおじいさんが起きているとは思わなかった。隣の家とは言っても、あったのがいつぶりかわからないくらい会う機会がない。
「それじゃ失礼します!」
「ほうほう、かけっこかい、がんばんなさい」
意外な応援者に見送られて僕は走り出した。防災公園はやめておいて神社まで行くことにしよう。別にやましいことがあるわけじゃないけど、若菜亜美にでも会ったら面倒だ。
足の調子を確かめながら、小さいストライドを保ってリズムよく走っていく。信号に捕まった時はストレッチをしながら体を温めたままにする。ランニングを始めたころは小学生だったので、防災公園まで行くのも大変だった。
でも今は息も上がらず走っていかれる距離となっていて、通学前の準備運動には悪くない距離だ。しかし神社はもう少し距離があって階段もあるので少し息が上がる。石段を上がり、鳥居をくぐった辺りでもも上げをしたりストレッチをすると落ち着いてきた。
下りの階段をゆっくりと降り、道路へ出たらまた走り出した。最後は家の前の道を全力ダッシュ! でも集中しきれずに咲の家を横目で見てしまった。
すると、二階の窓が開いていて、咲が窓枠に突っ伏しているのが見えた。まさかあんなところで寝てしまっているのかと心配になり、僕は玄関まで入っていってチャイムを押した。
チャイムを押してから少し下がりまた窓を見てみるが、咲が動いた様子はない。完全に熟睡してしまっているなんて、まるで授業中の僕のようだ。まさか涎を垂らしてるとこまで似ている、なんてことはないだろうけど。
もう一度チャイムを押してもピクリともしない。具合が悪いんわけじゃないといいのだけど、昨日は母さんの面倒を見てもらい、そのせいで大分遅くなってしまったし、もしもと言うことも考えられる。僕は思い切って電話をかけてみた。
『おかけになった電話は、電波の届かないところにおられるか、電源が入っていないためかかりません』
どうやら充電が切れているみたいだ。仕方ないのでもう一度チャイムを鳴らして窓を見上げた。
するとそこにはすでに咲の姿は無く、バカみたいに口を半開きして上を見上げている僕の目の前に現れたのだった。
「おはよう、愛しいキミ。
今日はいつもより早かったのね」
「おはよう、咲。
窓辺で寝てたみたいだったからびっくりしちゃったよ」
「ちょっと早起きしすぎてしまったみたいね。
キミが通るかと思って通りを見ていたら、そのまま寝てしまったわ」
なんだか咲も抜けたところがあって安心する。
「あんな風に寝ていたらよだれ垂らしちゃうよ?
僕は詳しいんだからね」
「うふふ、そうね、毎日のように見ているからよくわかるわ。
おかげで前が良く見えて助かってるのよ」
からかったつもりがあっさりと言い返されて、いい返す言葉が出てこない。しかも変によだれとか言ってしまったものだから、口元が気になって仕方ない。
「立ち話もなんだから、入ってお茶でもどうかしら?
キミも私に用があるみたいだしね」
「う、うん、それじゃごちそうになろうかな」
僕は心を見透かされすぎてもはや慣れっこになり、咲の言葉を深く考えず、そのまま受け取るようになっていることに気付いた。これってもはや奴隷や従者レベルなんじゃないかなんて思ってしまう。
かといって僕が主導権を握るつもりもないし、握らなければならないとも思わない。二人でいることが心地よく、それがずっと続いていくのなら、その過程はどうでもいいことだろう。
玄関を閉めると、咲が振り向いて僕の胸に両手をついて囁いた。
「ねえ? 本当にお茶が飲みたいの?
それとも他のことがしたいの?」
「なんでコーヒーを飲むときでもお茶するって言うんだろうね。
お茶文化が休憩することと同じ意味だった時にはまだコーヒーって飲まれていなかったのかなあ」
頭の中は大混乱で、思わず考えてもいないことを口走ってしまった。
「あら、偉いわね昨日の授業で習った、コーヒー輸出の箇所でも考えていたのかしら?
それじゃご褒美を上げるわね」
僕はコクリと頷いて、そのまま頭を下げた。僕と咲の身長差は二十センチほどだから、ちょっと腰を落とすくらいにならないと目線があわない。なんで目線を合わせることが気になるのかというと……
「んっ、んふ…… ちゅぱ…… 走ってきたばかりだから身体が熱いわね。
素敵よ…… ん、んん……」
「汗臭かったらごめんよ・・・・
はあ…… ん……」
咲がそのまま座るように促してくる。僕は我慢するなんてことは全く頭に浮かばず、言う通りにしゃがみ込んだ。そのまま咲は玄関ホールへ倒れ込み、僕はその上に覆いかぶさるようにして咲を抱きしめた。
「ごめん、重かったよね」
「そうね、でもこうすれば問題ないわ」
咲はそう言って、僕のことを抱きしめかえしたまま床を転がり、二人の身体を入れ替える。こんな早朝からやることではないなと思わなくはないけど、目の前の誘惑と幸せにはとてもあらがえない。
朝練までにはまだ時間があるから大丈夫、僕はそう高をくくってしまったが、もしもの時は清く諦めようと腹をくくった。
とりあえず咲とのことは上手いこと説明がついて、少数ではあるけど公認の仲として祝福してもらえたのはとても嬉しい。しかし学校ではどうしよう。特に、思い込みの激しい由布に知られたら大変なことになりそうだ。
もしかしたら若菜亜美の方が厄介かもしれない。どこかで覗かれているような雰囲気と、他人を悪く考えてしまう困った性格……
それに神戸園子にも知られたくない。二人と違って園子の場合は、特におかしなことは怒らないだろうが、きっと心を痛めるだろう。
だけどしかたの無いことなのだ。なんといっても僕にとって咲という女の子は特別どころじゃなく、一生共に生きると決めている存在なのだから。
まだ高校生とはいえ、この気持ちが変わってしまうことは無いと断言できる。だって周囲にはそんな大人が多いし、まして女癖の悪さで有名だった父さんに出来ていることが僕にできないはずがない。
寝起きからそんなことを考えていたら、大分目が覚めてきた。ちょっと早いけどランニングの支度を始めることにする。
昨日は帰ってくるのが、いや、両親を連れ帰ってきてベッドへ運ぶのが大変だった。騒ぎの最中、何の助け舟も出してくれず、大笑いしながら囃し立てていた父さんを丁寧に扱う気が起こらなくて、面倒だから居間へ転がしてしまった。
母さんはベッドまで運んだあと、咲が着替えさせてくれて助かった。もうとにかくご機嫌のべろんべろんで、相手しているとこっちがおかしくなりそうだった。父さんみたいに寝てしまってくれた方が扱いやすかったかもしれない。
二人がいつ起きてくるのかはわからないけど、父さんはランニングの時間になったら起きるだろう。でも僕は、時間がまだかなり早いのをわかっていながら表へ出た。
辺りはまだ薄暗い。たまに新聞配達のバイクが走る音が聞こえるくらいの時間だから当然だ。ゆっくりとストレッチをしていると、道の少し先から声が聞こえた。
「あらま、吉田さんのところのお兄ちゃんかい?
ずいぶん大きくなったんだねえ。
ついこないだはこんなちいちゃかったのに」
「おはようございます、ご無沙汰してしまって。
えっと、今はもう高校生ですから!」
やっぱり年寄りは早起きなのだろうか。こんな時間から隣のおじいさんが起きているとは思わなかった。隣の家とは言っても、あったのがいつぶりかわからないくらい会う機会がない。
「それじゃ失礼します!」
「ほうほう、かけっこかい、がんばんなさい」
意外な応援者に見送られて僕は走り出した。防災公園はやめておいて神社まで行くことにしよう。別にやましいことがあるわけじゃないけど、若菜亜美にでも会ったら面倒だ。
足の調子を確かめながら、小さいストライドを保ってリズムよく走っていく。信号に捕まった時はストレッチをしながら体を温めたままにする。ランニングを始めたころは小学生だったので、防災公園まで行くのも大変だった。
でも今は息も上がらず走っていかれる距離となっていて、通学前の準備運動には悪くない距離だ。しかし神社はもう少し距離があって階段もあるので少し息が上がる。石段を上がり、鳥居をくぐった辺りでもも上げをしたりストレッチをすると落ち着いてきた。
下りの階段をゆっくりと降り、道路へ出たらまた走り出した。最後は家の前の道を全力ダッシュ! でも集中しきれずに咲の家を横目で見てしまった。
すると、二階の窓が開いていて、咲が窓枠に突っ伏しているのが見えた。まさかあんなところで寝てしまっているのかと心配になり、僕は玄関まで入っていってチャイムを押した。
チャイムを押してから少し下がりまた窓を見てみるが、咲が動いた様子はない。完全に熟睡してしまっているなんて、まるで授業中の僕のようだ。まさか涎を垂らしてるとこまで似ている、なんてことはないだろうけど。
もう一度チャイムを押してもピクリともしない。具合が悪いんわけじゃないといいのだけど、昨日は母さんの面倒を見てもらい、そのせいで大分遅くなってしまったし、もしもと言うことも考えられる。僕は思い切って電話をかけてみた。
『おかけになった電話は、電波の届かないところにおられるか、電源が入っていないためかかりません』
どうやら充電が切れているみたいだ。仕方ないのでもう一度チャイムを鳴らして窓を見上げた。
するとそこにはすでに咲の姿は無く、バカみたいに口を半開きして上を見上げている僕の目の前に現れたのだった。
「おはよう、愛しいキミ。
今日はいつもより早かったのね」
「おはよう、咲。
窓辺で寝てたみたいだったからびっくりしちゃったよ」
「ちょっと早起きしすぎてしまったみたいね。
キミが通るかと思って通りを見ていたら、そのまま寝てしまったわ」
なんだか咲も抜けたところがあって安心する。
「あんな風に寝ていたらよだれ垂らしちゃうよ?
僕は詳しいんだからね」
「うふふ、そうね、毎日のように見ているからよくわかるわ。
おかげで前が良く見えて助かってるのよ」
からかったつもりがあっさりと言い返されて、いい返す言葉が出てこない。しかも変によだれとか言ってしまったものだから、口元が気になって仕方ない。
「立ち話もなんだから、入ってお茶でもどうかしら?
キミも私に用があるみたいだしね」
「う、うん、それじゃごちそうになろうかな」
僕は心を見透かされすぎてもはや慣れっこになり、咲の言葉を深く考えず、そのまま受け取るようになっていることに気付いた。これってもはや奴隷や従者レベルなんじゃないかなんて思ってしまう。
かといって僕が主導権を握るつもりもないし、握らなければならないとも思わない。二人でいることが心地よく、それがずっと続いていくのなら、その過程はどうでもいいことだろう。
玄関を閉めると、咲が振り向いて僕の胸に両手をついて囁いた。
「ねえ? 本当にお茶が飲みたいの?
それとも他のことがしたいの?」
「なんでコーヒーを飲むときでもお茶するって言うんだろうね。
お茶文化が休憩することと同じ意味だった時にはまだコーヒーって飲まれていなかったのかなあ」
頭の中は大混乱で、思わず考えてもいないことを口走ってしまった。
「あら、偉いわね昨日の授業で習った、コーヒー輸出の箇所でも考えていたのかしら?
それじゃご褒美を上げるわね」
僕はコクリと頷いて、そのまま頭を下げた。僕と咲の身長差は二十センチほどだから、ちょっと腰を落とすくらいにならないと目線があわない。なんで目線を合わせることが気になるのかというと……
「んっ、んふ…… ちゅぱ…… 走ってきたばかりだから身体が熱いわね。
素敵よ…… ん、んん……」
「汗臭かったらごめんよ・・・・
はあ…… ん……」
咲がそのまま座るように促してくる。僕は我慢するなんてことは全く頭に浮かばず、言う通りにしゃがみ込んだ。そのまま咲は玄関ホールへ倒れ込み、僕はその上に覆いかぶさるようにして咲を抱きしめた。
「ごめん、重かったよね」
「そうね、でもこうすれば問題ないわ」
咲はそう言って、僕のことを抱きしめかえしたまま床を転がり、二人の身体を入れ替える。こんな早朝からやることではないなと思わなくはないけど、目の前の誘惑と幸せにはとてもあらがえない。
朝練までにはまだ時間があるから大丈夫、僕はそう高をくくってしまったが、もしもの時は清く諦めようと腹をくくった。
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