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閑話:木戸修平の回想

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 ごっさん亭で夢のような出来事があった翌日、高校生の僕たちは当然学校にいた。いつものように時間が過ぎていつものように昼休みが来る。

「おーい、カズ、飯にしようぜ!」

 木戸のデカい声で目覚めた僕は、垂れていた涎を拭きながら顔を上げる。今日はまた一段とうるさい。これはまた小町にどやされると心配になり席を見ると、傍らに咲がいて何か話をしていた。

 そしてなぜかわざわざ刺激しなくてもいいのに、木戸が小町の席へ近づいていく。

「おお、蓮根さん、こんちは!
 昨日はご利用ありがとさんでした!

 それと小町よー、ずっと前のことだけど悪かったな、ごめん!」

 ポカンとしている僕とチビベン、それに丸山もだが、全く訳が分からない。

「今更だけどよ、きっとお前に恥をかかせちゃったんだろうって思ったわけ。
 だから覚えてるうちに謝っておきたくってさ」

 どうやら木戸は、以前何かをして小町に嫌われる原因となったことについて謝っているようだ。でもそれははるか昔、小学生の頃と聞いている。それを今更謝るのか?

 ところがその謝罪は受け入れられなかったらしく、返って小町の怒りを買った。まあ当然だろうと思って木戸には同情することはできない。

「うるさい! バカ木戸!
 いったい何年前の話だと思ってるの!
 この野球バカ! バカ野球部!! はやく出ていきなさい!」

 まったくおかげでこっちまでとばっちりだ。僕たちはそそくさと教室を出て部室へ向かった。


 放課後、たまたま木戸と二人きりなったので、思い切って聞いてみることにした。

「一体全体、小町と何があったんだよ。
 心当たりないって言ってたけど、あの感じだと思い出したってことか?」

 僕は被害者でもあるので聞く権利があるはず、なんて軽い気持ちだ。すると木戸が昔のことだけどな、と言いながら話しはじめた。


◇◇◇


「修平君って野球上手なんだね」

「そうさ、俺は大人になったらプロ野球選手になるんだぜ?
 すごいだろー」

「プロ野球選手!? すごいね!
 私もなりたい!」

「小町は運動苦手で野球できないんだから無理だよ。
 俺みたいに真のスターだけがプロになれるんだからな」

「そうなの……?
 じゃあ私はプロ野球選手のお嫁さんになる」

「それならなれるんじゃないか?」

「やったー!
 小町は大人になってプロ野球選手になった修平君と結婚するね」

「え? 嫌だけど?
 俺はお前みたいなガキに興味ねえよ。
 おまえんちの姉ちゃんならいいけどなー」

「修平君…… ひどいよ……
 今お嫁さんになれるって言ったのに!」

「俺のとは言ってないだろー
 勝手に決めるんじゃねえよ」

「じゃあさ、木戸君のお嫁さんには私がなりたい!」

「おう、パン子ならいいぞ。
 お前んちのパン、すげえうまいからな!」

『ボカッ!!』


◇◇◇


「ってことがあったわけよ。
 まったくひどい話だよな。
 ガキだった俺も悪いけどさ、だからってグーで殴るか?」

「いや…… 僕はどちらかというと小町の味方だな……
 お前が全面的に悪いよ。
 しかも神戸さんはともかく、小町の姉ちゃんならいいってどういうこと?」

「たしかあの時にはもう中学生でさ。
 すげえ色っぽく見えてたんだよ、俺マセガキだったから」

「やっぱりお前が悪いよ……」

「でも確かあの時、目の下殴られてすげえ腫れてよ。
 病院まで通ったんだぜ?
 今まで病院通ったのはその一回限りなんだから、どれだけひどい事されたかわかるだろ?」

「その頑丈さが話と関係なくすごいよ。
 まったくお前には驚かされてばっかりだな」

「そんなことよりカズはどうなのよ?
 蓮根さんとはどこまで進んでんの?
 クールな感じでかなりイケてるよなー」

「そんなこと言ってると真弓先生に言いつけるぞ?」

「高校卒業までは自由だから問題ねえわ。
 なんったって教師と生徒だからな!」

 僕は木戸の背後で出席簿を振り上げる真弓先生から視線を外した。
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