転校してきた美少女に僕はヒトメボレ、でも彼女って実はサキュバスらしい!?

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
上 下
139 / 158

じらされた褒美

しおりを挟む
 なんとなくソワソワして落ち着かない僕と違って、咲も母さんもやけに落ち着いている。そこへ突然木戸から電話がかかってきたので、僕は大慌てで着信ボタンを押した。

『カズ! なんかやべえぞ!
 親父が頭おかしくなったかもしれねえ。
 今までうちで出したこと無いような食材仕入れて来て、やたら豪華な料理仕込んでやがる!』

「ちょっと落ち着けよ。
 状況がまったく分からないけど、祝勝会だって名目だから豪華でいいんじゃないのか?」

 木戸がこんなに慌てているのはかなり珍しい。確か、一年の時に期末テストで平均点を超えた時以来の慌てっぷりじゃないだろうか。

『だってうちは街の居酒屋だぞ?
 なんかローストビーフ? とか、オードブル? っていうのか?
 修学旅行の朝飯みたいな感じに並べてるんだよ!
 絶対なにかおかしいぞ!?』

「そんなこと言われても、僕は飲みになんて言ったことないんだからわかんないよ。
 きっとパーティーならそういうものなんじゃないの?
 親父さんはなんて言ってるんだよ」

『俺だってこのくらい作れるんだとか言っててわけわからねえ。
 なんかこじゃれちゃってうちのメニューじゃないみたいだわ。
 お前の親ならなにか知ってるんじゃないか?』

「まあ一応聞いておくけど、知ったところでなにも変わらないだろ?
 それともなにか困るような心当たりでもあるのか?」

『何言ってんだよ!
 俺にそんな心当たりはねえ!!
 それじゃ忙しいからまたあとでな!』

 そう言い残し、木戸は電話を切った。あんなに慌ててなにを心配しているのだろうか。料理が豪華なのを歓迎することがあっても、困ることなんてないと思うんだが。

 それにいい食材が使えるくらいの売り上げが見込めるくらいの予算があるってことで、店のことをいつも心配している木戸にとっては喜ばしいことのはずなのに、と僕はいつもと違う木戸の態度に戸惑っていた。

「木戸君? 随分叫んでいたわね。
 なにかあったのかしら?」

「僕にもさっぱりわからないよ。
 出そうとしている料理が豪華だから、親父さんがおかしくなったって心配してた。
 あいつは良く意味不明なこと言うから気にしないのが一番さ」

 僕は咲へ電話の内容を伝えてから、念のため母さんへ確認することにした。

「料理が豪華すぎるのはなにか理由があるの?
 父さんと江夏さんが開いてくれるって聞いてるけど、あんまり豪華にされても悪いよ。
 結構お金かかっちゃうでしょ?」

「あんたはそんな心配しなくていいのよ?
 江夏さんのお知り合いもいらっしゃるからね。
 それもあって口に合いそうなものを用意してるんじゃないかしら?
 私も詳しくは聞いてないから、あくまで想像で言ってるだけだけどね」

「まあそれならいいんだけどさ。
 知り合いってどんな人?
 その人を接待するついでに祝勝会やってくれるのかな?」

「さあ? あの人たちの考えは、いつもさっぱりわからないわね。
 そんなことよりそろそろ早苗さんが迎えに来るわよ?
 いつまでも制服のままでいないで、出かける用意しなさいよ?」

「さすがにジャージとかじゃまずいよね?
 母さんも珍しくスカートなんて履いてるくらいだし……
 なにかそれなりに見える服あるかなあ」

「キレイ目なら問題ないでしょ。
 一応恥ずかしくないと思える程度にはしておきなさい」

「カオリ、私が見繕って来るわ。
 部屋へ行きましょ、カズ君」

 これ幸いと頷いた僕は、咲と一緒に二階へ上っていった。だがよくよく考えると着替えを手伝ってもらうと言うことは、一回制服を脱いでパンツ一丁になるというわけで…… 嬉し恥ずかしだけど、やっぱり色々とやばくない? なんで母さん何も言わないんだよ、なんて考えが頭をよぎっていた。

 そうは言っても僕は咲の言いなりであることは事実なわけで、なすすべなく部屋へ押し込まれてしまった。そして…… まずはいつになく激しく抱きしめられ、そして唇を奪われた。

「はあ…… キミすごいわ。
 メールの内容はよくわからなかったけど、きっと大活躍だったのね。
 ん…… んん…… はあ……」

 咲が話をするたびに、お互いの口から唾液が延びる。口の中へ入ってくる咲の舌は熱く、そして柔らかくてヌメッとした感触を僕へ残していく。それは決して違和感なんて感じさせず、それどころか気を失いそうになるくらい、非日常的で気持ちのいいものだった。

「やっぱりわかんなかったかあ。
 完全試合って言うのはね、相手にまったく打たれなかったってことだよ……
 んみゅ…… くはっ……
 だから真っ先に知らせたくてメールしたんだけど……」

「すごくうれしかったわよ、愛しいキミ。
 たとえ内容がわからなくても、キミが力を尽くして素晴らしい結果を残せたのはわかるもの。
 はああ…… このまま食べてしまいたいくらい愛しいわ……」

 咲は物騒なことをいいながら、歯を立てずに僕の下唇を噛んだ。それが何の儀式なのかわからないが、今の僕にとっては咲がしてくれる全てが気持ちよく、幸せなことである。もう誰になんと言われようとかまうことは無い。いつも一緒に、ずっと一緒にいたいのだ。

「でも今はここまで、ご褒美はまた今度ね
 早く着替えてしまいましょ」

 ほぼほぼ坊主なので後ろ髪はないけど、それを引かれる思いで咲との距離を取る。まあじらされるのにはもう大分慣れた。咲はそんな僕を横目に、勝手にタンスを開けてあれこれとベッドの上へ並べ始めた。

「そこまで真剣に考えなくてもいいんじゃない?
 汚いカッコじゃなければ十分って言ってたし」

「でも私の愛しいカズ君が恥をかいたら嫌だもの。
 それにしても見事にスポーツウェアばかりね。
 こんどお買い物でも行きましょう。
 遠出でデートするなら少しはオシャレしてほしいもの」

「えっ!? どこか遠出してデートなの!?」

 僕は思わず驚いてしまったが、それがすぐになんのことかわかり、慌てて訂正した。

「いや、ゴメン、僕が言いだしたことだった。
 あと一つ、必ず勝つ!
 そして咲を甲子園に連れて行くんだ!」

「期待している、いいえ、信じているわね。
 でも野球場だけでおしまいは嫌よ?
 神戸の港の方には、オシャレなデートスポットが沢山あるらしいから楽しみにしてるわね」

「うん、任せて!
 でも今は手持ちの洋服で何とかしないと……」

「この辺りがいいんじゃないかしら?
 まったく履いてなさそうなジーンズは返って清潔感あるわよ?
 上は白いポロシャツがあったからこれにしましょう」

「これ…… 父さんのゴルフのシャツだ……
 しまうときに間違えちゃってたんだなあ。
 あ、確か兄さんから貰ったシャツもあった気がする」

 僕は制服と並べてカーテンレールへかけっぱなしになっていて、クリーニング屋のビニールがついたままのハンガーを手に取った。

「これいいわね、クラシックなデザインで素敵だわ。
 アメリカの大学の名前が書いてあるみたい」

「良く知らないけど、兄さんがそういうの集めてて、家を出るときに一着貰ってたんだ。
 今まで着る機会がなかったけど、こんな日が来るとなんてね、助かったよ」

 ようやく着替えが終わって僕たちは下へ降りた。そう言えば咲の格好のことなにも言ってなかった。きっとこういうときは素直に褒めておくべきだと本能的に感じた僕は精いっぱいの褒め言葉を並べた。

「今日の咲、いつもより一段とかわいいね。
 なんか大人っぽいのに子供っぽいって言うか、とにかくすごくステキだよ」

「あら、ありがとう、帰ってきた時にじろじろ見てたからおかしかったのか気になっていたのよ。
 でも気に入ってもらえたなら嬉しいわね。
 髪型も変じゃないかしら?」

「変だなんてトンデモない!
 僕はポニーテール好きだしとても似合ってるよ!」

 あれ? 僕は何を言ってるんだ? これじゃ誰がポニーテールしていても好きだってことにならないか? このタイミングで起こられちゃったら嫌だなと思い、恐る恐る咲の顔を覗き込んだ。

 すると思いのほか咲は表情を変えておらず、どちらかというと照れて?…… いるのか? 珍しく、顔が紅潮しているようにも見える。今までこんなことは無かったのでびっくりした僕は、慌てて自分の発言へフォローを入れた。

「いや、その、あれだよ?
 咲がしているポニーテールがかわいくて好きだってことだからね?
 勘違いのされると困るから説明しておくけど……」

「そんなのわかってるわよ。
 もう、キミったらバカね」

 結局怒られてしまった…… 相変わらず気分の転換点がわからない。でも褒められてまんざらでもなさそうにも見えるので、ちゃんと褒めておいて良かった。考え込まなくてもそれなりのセリフが思い浮かんだことには少々驚いたけど、まあこれも父さんの血だとでも考えておくことにしよう。

 台所へ戻った僕たちは、随分のんびりとした着替えだったと母さんに冷やかされ、お茶を飲みながら江夏さんの奥さんを待つのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?

みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。 普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。 「そうだ、弱味を聞き出そう」 弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。 「あたしの好きな人は、マーくん……」 幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。 よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編7-球技大会と夏休みの始まり編-が完結しました!(2024.5.30)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

処理中です...