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力の源

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 一時間ほどすると体が普通に動くようになってきた。それでも疲労感、脱力感は残ったままだ。日曜日には練習試合があるけど大丈夫かが心配だ。

 ちゃんと! 着替えてから、少し冷めて飲みごろになったカフェ・オレに口をつける。ベッドに並んで座っている咲が同じようにマグに口をつけたのだが、その際、咲の唇を凝視してしまい思わず目をそらしてしまった。

 キスぐらい今まで何度もしてきたはずなのに、今日はなぜかとてつもなく恥ずかしいのはなぜだろう。やっぱりキス以上のことがあったと感じているからだろうか。

「あのさ、咲……
 さっきもやっぱり、あの…… 例の…… 吸取ったってやつだったの?
 身体がめちゃくちゃ疲れてるんだけど……」

「うふふ、よくわかったわね。
 だいぶ慣れてきたのかしら?
 でも今日はちょっと張り切り過ぎてしまったようね。
 一日では回復しないかもしれないわ」

「それは困る! 明後日練習試合があるのに!
 格下相手だから無様なところ見せられないよ。
 なんとかならない?」

「なんとかなるかもしれないし、ならないかもしれない。
 それは結局のところキミ次第ね。
 とりあえず応援には行くけど、きっと他の子も助けてくれるはずよ」

「他の子って……
 マネジャーとかってことだろ?
 どちらかというとうるさいだけなんだけどなあ」

 他にも最近の傾向だと神部園子や若菜亜美は見に来るかもしれない。山尻康子は別の高校だから偵察の必要が無ければ来ないだろう。でもそれが僕の体の状態となんの関係があるのだろうか。いや、でも咲が言うように僕が畑のようなものだとしたら、そこに何か植えたり水や陽の光があれば力が戻ってくると言うことになる。ということは、応援してくれる人が多いと力の回復が早いってことなんだろうか。

「一応小町も誘ってみるわね。
 普段悪態ついていても、彼女って野球が好きみたいだから」

「そこがわからないんだよなあ。
 僕は小町とは親しくないからあんまり知らないんだけどさ。
 木戸の幼馴染だけど小学生の頃急に仲が悪くなって、それからは野球やってるやつを敵視してるって聞いてるんだよね」

「そこはまあ女心は複雑ってことで、ね。
 でもあなた達のことを嫌っているというわけじゃなさそうよ」

「そうなのかなあ。
 まあ邪魔されてるわけじゃないからどっちでもいいけど。
 大体、木戸の態度が悪すぎるのも嫌われてる原因だと思うよ」

「そうかもね、彼って元気すぎてたまにびっくりしちゃう。
 キミに話しかけてるのか、クラス中に演説してるのかわからなくなるくらいよ」

 確かにあいつは声がデカすぎる。別のクラスなのに昼には必ず僕を誘いに来るけど、入ってくるなり大声で呼びだすんだから、呼ばれるほうは気まずくて仕方ない。僕が小町に嫌われているのもきっとそのせいだろう。

「黄色い声援が沢山あればきっと元気になるでしょう。
 当日を楽しみにしているわね」

 別に咲以外の声援なんていらないんだけど、そんなわかりきったことを今わざわざ言うこともない。それに、誰かの声援が僕の力になると言うならむしろ歓迎だし、それに見合うだけのものを僕が持っていなければいけないだろう。つまりどんな時でもカッコ悪いところは見せられないってことだ。

「まあ、咲がそう言うなら今の状態はあまり気にしないで、しっかりと当日に備えるよ。
 試合は十三時からだけど、僕らはその前に練習するから朝から学校にいるからね」

「じゃあお弁当でも作って行って、みんなの前であーんってしてあげようかしら?」

「ちょ、ちょっとそれは勘弁してよ!
 さすがにそれはやりすぎだ」

「ふふ、冗談よ。
 そんなの人前でキスするより恥ずかしいわ」

 冗談と言われてホッとしつつも残念でもあり、なんだか複雑な気持ちだ。しかし咲でも恥ずかしいなんて思うことがあるんだなと、少し面白くなり思わずにやけてしまった。

 その顔を見られたからなのか、隙だらけだったのかわからないが、もしかしたら僕が魅力的過ぎたのか、はないとしても、咲は急に肩を寄せ抱きしめてきて、案の定お互いの唇は強く重なり合っていた。

 少しの間一つになっていた唇がようやく離れ、二人は揃ってカフェ・オレを飲んで一息ついた。

「しかし体がだるくて仕方ないよ。
 明後日はともかく、明日だってランニングくらいはしておきたいんだけどなあ」

「まあ少しはお休みも必要だし、明日はおとなしくしていなさい。
 そうねえ、ランニングではなくて、公園まで散歩へ行くくらいがいいんじゃないかしら。
 午前中に行ってくるならお昼ご飯用意しておくわよ」

「散歩か、それもいいね。
 昼一緒ってのも嬉しいし。
 でも父さんたちの分まで作ってくれるってこと?」

「そんなの大した問題じゃないわ。
 あとでカオリに言っておけばきっと賛成してくれるわよ。
 よって覚えてないなんてことが無ければね」

 きっと今日は二人とも飲んだくれて帰ってくるだろうから、明日の朝はのんびりかもしれない。それなら食事の支度をしてもらえることに異を唱えるはずがない。僕は咲へ向かってうんうんと、笑いながら頷いた。
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