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もしかして僕が悪いのか?
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それは週なかばの事だった。
「カズ先輩…… 私……」
僕を部室へ押し込んでから後ろ手で鍵を閉めた由布は、ゆっくりと僕に迫ってきた。思わずじりじりと後ずさりをするものの、由布は同じ速度でにじり寄ってくる。
まるでゾンビ映画のように壁とロッカーの角、つまり行き止まりへ追い詰められた僕へ由布は体を寄せてくる。これはまずい。なにかダメ事になりそうな雰囲気だ。
「せんぱい……」
由布はいつになくしおらしい声を出していて、鼓膜が破れてしまうようないつものトーンとはまるっきり違っていた。
「マネージャー? 掛川さん?
ちょっとまって、どうしたの?」
その目元はうるんでいて今にも泣きだしそうだ。すごく嫌な予感がする。
「私…… カズ先輩しかいないんです……」
「いや、その、そう言う風に思ってくれるのは嫌じゃないというか、嬉しくないわけじゃないけどさ。
でもまずいよ、そんな、部室だし……」
じゃあ部室以外ならいいってことなのか? 僕はなんてバカなことを言ってしまったんだ。なんとかこの状況から抜け出さないといけない。
由布は僕のそんな気持ちを完全に無視するように言葉を続けた。
「こんな事誰にも言えなくて…… 頼れるのはカズ先輩だけなんです。
ちゃんと聞いてくれますか?」
「うんうん、聞く聞く。
だからもう少し離れてくれるかな?」
由布が懇願するような目をして上目づかいで見上げている。いったいどうしてしまったのだろうか。
その時部室の扉を叩く音と大きな声が聞こえた。
「おい、誰かいるんだろ?
なんで鍵締めてんだよ!」
それは木戸の声だった。これで助かった、かもしれない。そう思ってホッとしかけた僕は、考えが甘かったことを改めて知ることとなった。
「うわあああああああああああああんん!!!
せんぱああああああい、たすけてえええええええ!!!!!」
なんと、この世のどんな騒音よりも大きいだろうと思えるくらいに大きな声で、由布が突然泣き出したのだ。
「おいどうした!!
何かあったのか!!」
部室の外では木戸が叫んでいる。そりゃこんな声が聞こえてきたらただ事じゃないと思うに違いない。現に、僕も腰を抜かしたみたいにへたり込んで動けなくなっているのだから。
「助けて…… 耳が……」
それでも由布は泣き続けている。扉を叩く音がますます激しくなり、それに応じるかのように由布の泣き声も大きくなっている。
耳を押さえながらなんとか扉までたどり着いた僕は、座り込んで泣き叫ぶ由布を尻目にようやく鍵を開けることに成功した。
「あんたたち! いったいなにしてるのよ!?
掛川さん! いつまでも泣いてるんじゃわからないじゃないの!」
大慌てで飛び込んできた真弓先生が由布のもとへ駆け寄った。しかし一向に泣き止まない。
「パニック状態にになっているようだわ。
なにがあったか知らないけど、吉田君、どうにかしなさい!」
「そんなこと言われても……
僕にも何が何だかわからないんです」
その時木戸が、由布の手に握られている物に気が付いた。
「マネちゃん、その手に持ってるのDVDだな!
それどこで見つけたのよ!?
探してたんだわ」
「主将おおおおお!?
わああああん、カズ先輩いい……」
由布の泣き声がようやく小さくなってきた。しかしまだ油断はできない。
「これ、ロッカーの上にあったんです……
私怖くなっちゃって……」
手に持っているのは、半透明なピンクのDVDケースだった。男ばかりだった部室で見つけたピンク色のDVDケース、そんなものを見つけた由布がどんな想像をし泣き出してしまったのかは想像にたやすい。
まあ僕の想像がどうであろうと、ようやく絶叫から解放されたとホッとする間もなく事情聴取と言う名目で部室を後にすることになるのだった。
「ちょっとあんたたち……
吉田君と木戸君、それと身に覚えのある部員に掛川さんは職員室までいらっしゃい」
「はい……」
◇◇◇
「ええ…… 申し訳ない……
手ごろなケースがそれしかなくてですね……
いや、教師と生徒と言えど趣味を同じくする者たちですので…… つい……」
僕たちが真弓先生にこっぴどく叱られた後、少し離れたところで三谷先生が副校長に叱られていた。
「だいたいあんな紛らわしいもの、なんで部室へ置いたままにしたのよ。
木戸君が借りたんでしょ?」
「ああ、そうなんだけどマルマンへ回す予定をついうっかり忘れちゃってさ。
そのうち見当たらなくなっちまったんだよね。
見つかってよかったわ、なあマルマン」
「おうよ、アレ楽しみにしてたのにこいつがなくしたとか言いやがって。
結果を知っててもやっぱり見ておきたいからな」
ピンク色のDVDケースに入っていたものは別にイヤらしいものではなく、格闘技の試合が録画されたDVDだったのだ。
木戸や丸山と同じように格闘技が好きな三谷先生が録画しておいたものを、今までもちょくちょく渡していたらしい。
「まったく、とんだお騒がせだわ。
だからと言って掛川さん、あんな大きな声で泣き叫ぶことはないでしょ。
てっきり吉田君に何かしたのかと思ってびっくりしたわよ」
「え!? 私がカズ先輩になにかする方ですか!?
まさかそんな! 私はカズ先輩のところへお嫁に行くまで清い体でいますから!」
「ほう、ということはマネちゃんはまだバ」
木戸がそこまで言ったか言わないかの辺りで僕の目の前を何かがかすめていった。
「真弓ちゃん、ナイススロー……
おーあぶねえ」
「あなたねえ…… 時と場合を考えて言葉を発しなさい!」
真弓先生はそう言うと木戸のキャッチした、分厚い英語の辞書を回収した。
こう言ってはなんだけど、この二人は仲がいいと言えばいいのか、まるで夫婦漫才を見ているような気分になってくる。三谷先生もだけど、木戸との関係性がまるで同年代の友達のようだ。
理由はわからないけど木戸にはそういう素質のようなものがあるのかもしれない。そんな事を考えていた僕の耳に信じられない言葉が飛び込んできた。
「真弓先生と木戸せんぱいは付き合ってるんですか?
どうしたらそんなに仲良くなれるんでしょうか。
私もカズ先輩と仲良くなりたいんです! 教えてください!」
「ちょ! いきなりそんなデカい声で……
というかそんなこと言われると、まるで僕がマネージャーのこと邪険にしてるみたいじゃないか」
「だって何かにつけて避けたり逃げたりするじゃないですか!
お昼だってご一緒したいのに、二年生のフリースペースでちょろちょろするなとか言うし……」
「だって、あそこは僕たちだけがいるわけじゃないんだからさ。
周りの目だってあるだろ?」
なんだか話の方向性がとんでもないところへ進み始めている気がする。そろそろ練習をはじめないとまずいし…… 木戸なんとかしろ、と目配せをするが、こいつはニヤニヤするだけで知らん顔だ。
「あなたね…… 私は三谷先生と違って生徒との距離感はしっかり保ってますよ?
それを付き合ってるとかそう言うこと言わないの。
まったくウブなんだかおませなんだかわからない子ね」
「私は別によこしまな考えで言っているんじゃありません!
本気で将来カズ先輩を支えていきたいと思っているんです!」
「だからそんなことしてくれなくても大丈夫だって。
僕には……」
あ、まずい。思わず変なこと言いそうになった、と慌てて口をつぐんだが、由布はその瞬間を逃さなかった。
「僕には? 誰かがついているって言うことですか?
私の出る幕はすでにないってことなんですか!?」
嫌な予感がしたのは僕だけじゃないらしく、木戸と丸山も後ずさりを始めている。真弓先生は両手を耳元へ運び、この後起きる出来事に備えているようだ。
「そんな…… ひどいです……
私…… こんなにカズ先輩の事……
うわああああああああああああああん!!!!!!!!」
職員室中の目がこちらへ向いているが僕たちはどうすることもできない。真弓先生は諦め顔で耳を押さえている。
僕は離れて笑っている木戸と丸山の二人を睨めつけながら、由布をなだめるのだった。
「カズ先輩…… 私……」
僕を部室へ押し込んでから後ろ手で鍵を閉めた由布は、ゆっくりと僕に迫ってきた。思わずじりじりと後ずさりをするものの、由布は同じ速度でにじり寄ってくる。
まるでゾンビ映画のように壁とロッカーの角、つまり行き止まりへ追い詰められた僕へ由布は体を寄せてくる。これはまずい。なにかダメ事になりそうな雰囲気だ。
「せんぱい……」
由布はいつになくしおらしい声を出していて、鼓膜が破れてしまうようないつものトーンとはまるっきり違っていた。
「マネージャー? 掛川さん?
ちょっとまって、どうしたの?」
その目元はうるんでいて今にも泣きだしそうだ。すごく嫌な予感がする。
「私…… カズ先輩しかいないんです……」
「いや、その、そう言う風に思ってくれるのは嫌じゃないというか、嬉しくないわけじゃないけどさ。
でもまずいよ、そんな、部室だし……」
じゃあ部室以外ならいいってことなのか? 僕はなんてバカなことを言ってしまったんだ。なんとかこの状況から抜け出さないといけない。
由布は僕のそんな気持ちを完全に無視するように言葉を続けた。
「こんな事誰にも言えなくて…… 頼れるのはカズ先輩だけなんです。
ちゃんと聞いてくれますか?」
「うんうん、聞く聞く。
だからもう少し離れてくれるかな?」
由布が懇願するような目をして上目づかいで見上げている。いったいどうしてしまったのだろうか。
その時部室の扉を叩く音と大きな声が聞こえた。
「おい、誰かいるんだろ?
なんで鍵締めてんだよ!」
それは木戸の声だった。これで助かった、かもしれない。そう思ってホッとしかけた僕は、考えが甘かったことを改めて知ることとなった。
「うわあああああああああああああんん!!!
せんぱああああああい、たすけてえええええええ!!!!!」
なんと、この世のどんな騒音よりも大きいだろうと思えるくらいに大きな声で、由布が突然泣き出したのだ。
「おいどうした!!
何かあったのか!!」
部室の外では木戸が叫んでいる。そりゃこんな声が聞こえてきたらただ事じゃないと思うに違いない。現に、僕も腰を抜かしたみたいにへたり込んで動けなくなっているのだから。
「助けて…… 耳が……」
それでも由布は泣き続けている。扉を叩く音がますます激しくなり、それに応じるかのように由布の泣き声も大きくなっている。
耳を押さえながらなんとか扉までたどり着いた僕は、座り込んで泣き叫ぶ由布を尻目にようやく鍵を開けることに成功した。
「あんたたち! いったいなにしてるのよ!?
掛川さん! いつまでも泣いてるんじゃわからないじゃないの!」
大慌てで飛び込んできた真弓先生が由布のもとへ駆け寄った。しかし一向に泣き止まない。
「パニック状態にになっているようだわ。
なにがあったか知らないけど、吉田君、どうにかしなさい!」
「そんなこと言われても……
僕にも何が何だかわからないんです」
その時木戸が、由布の手に握られている物に気が付いた。
「マネちゃん、その手に持ってるのDVDだな!
それどこで見つけたのよ!?
探してたんだわ」
「主将おおおおお!?
わああああん、カズ先輩いい……」
由布の泣き声がようやく小さくなってきた。しかしまだ油断はできない。
「これ、ロッカーの上にあったんです……
私怖くなっちゃって……」
手に持っているのは、半透明なピンクのDVDケースだった。男ばかりだった部室で見つけたピンク色のDVDケース、そんなものを見つけた由布がどんな想像をし泣き出してしまったのかは想像にたやすい。
まあ僕の想像がどうであろうと、ようやく絶叫から解放されたとホッとする間もなく事情聴取と言う名目で部室を後にすることになるのだった。
「ちょっとあんたたち……
吉田君と木戸君、それと身に覚えのある部員に掛川さんは職員室までいらっしゃい」
「はい……」
◇◇◇
「ええ…… 申し訳ない……
手ごろなケースがそれしかなくてですね……
いや、教師と生徒と言えど趣味を同じくする者たちですので…… つい……」
僕たちが真弓先生にこっぴどく叱られた後、少し離れたところで三谷先生が副校長に叱られていた。
「だいたいあんな紛らわしいもの、なんで部室へ置いたままにしたのよ。
木戸君が借りたんでしょ?」
「ああ、そうなんだけどマルマンへ回す予定をついうっかり忘れちゃってさ。
そのうち見当たらなくなっちまったんだよね。
見つかってよかったわ、なあマルマン」
「おうよ、アレ楽しみにしてたのにこいつがなくしたとか言いやがって。
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木戸や丸山と同じように格闘技が好きな三谷先生が録画しておいたものを、今までもちょくちょく渡していたらしい。
「まったく、とんだお騒がせだわ。
だからと言って掛川さん、あんな大きな声で泣き叫ぶことはないでしょ。
てっきり吉田君に何かしたのかと思ってびっくりしたわよ」
「え!? 私がカズ先輩になにかする方ですか!?
まさかそんな! 私はカズ先輩のところへお嫁に行くまで清い体でいますから!」
「ほう、ということはマネちゃんはまだバ」
木戸がそこまで言ったか言わないかの辺りで僕の目の前を何かがかすめていった。
「真弓ちゃん、ナイススロー……
おーあぶねえ」
「あなたねえ…… 時と場合を考えて言葉を発しなさい!」
真弓先生はそう言うと木戸のキャッチした、分厚い英語の辞書を回収した。
こう言ってはなんだけど、この二人は仲がいいと言えばいいのか、まるで夫婦漫才を見ているような気分になってくる。三谷先生もだけど、木戸との関係性がまるで同年代の友達のようだ。
理由はわからないけど木戸にはそういう素質のようなものがあるのかもしれない。そんな事を考えていた僕の耳に信じられない言葉が飛び込んできた。
「真弓先生と木戸せんぱいは付き合ってるんですか?
どうしたらそんなに仲良くなれるんでしょうか。
私もカズ先輩と仲良くなりたいんです! 教えてください!」
「ちょ! いきなりそんなデカい声で……
というかそんなこと言われると、まるで僕がマネージャーのこと邪険にしてるみたいじゃないか」
「だって何かにつけて避けたり逃げたりするじゃないですか!
お昼だってご一緒したいのに、二年生のフリースペースでちょろちょろするなとか言うし……」
「だって、あそこは僕たちだけがいるわけじゃないんだからさ。
周りの目だってあるだろ?」
なんだか話の方向性がとんでもないところへ進み始めている気がする。そろそろ練習をはじめないとまずいし…… 木戸なんとかしろ、と目配せをするが、こいつはニヤニヤするだけで知らん顔だ。
「あなたね…… 私は三谷先生と違って生徒との距離感はしっかり保ってますよ?
それを付き合ってるとかそう言うこと言わないの。
まったくウブなんだかおませなんだかわからない子ね」
「私は別によこしまな考えで言っているんじゃありません!
本気で将来カズ先輩を支えていきたいと思っているんです!」
「だからそんなことしてくれなくても大丈夫だって。
僕には……」
あ、まずい。思わず変なこと言いそうになった、と慌てて口をつぐんだが、由布はその瞬間を逃さなかった。
「僕には? 誰かがついているって言うことですか?
私の出る幕はすでにないってことなんですか!?」
嫌な予感がしたのは僕だけじゃないらしく、木戸と丸山も後ずさりを始めている。真弓先生は両手を耳元へ運び、この後起きる出来事に備えているようだ。
「そんな…… ひどいです……
私…… こんなにカズ先輩の事……
うわああああああああああああああん!!!!!!!!」
職員室中の目がこちらへ向いているが僕たちはどうすることもできない。真弓先生は諦め顔で耳を押さえている。
僕は離れて笑っている木戸と丸山の二人を睨めつけながら、由布をなだめるのだった。
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