僕が一目惚れした美少女転校生はもしかしてサキュバスじゃないのか!?

釈 余白(しやく)

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まさにシーソーゲーム

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 二回の表を終えて4-0と決していいとは言えない序盤だ。しかもこちらはまだ三人しか打席に立っていない。

 かたや向こうは一打席ごとに選手交代をしていて、打席も二巡目の六番まで回っている。まあその割に四点で抑えているのは上出来だ。

「ハカセ、おつかれさん。
 目標より一点少なく抑えたから上出来だったな」

「いやはや疲れたよ。
 僕の打順には代打を頼もう」

 どうやらハカセは二回を投げてもうヘロヘロのようだ。まあ無理もない。数日前に突然決められていきなり練習試合の先発だったのだから、よくやったと言えるだろう。

「さて行ってくるか。
 マルマン、アレな、忘れるなよ」

「任せとけっての。
 お前こそミスるなよ?」

 また木戸と丸山が怪しげなことを言っている。こいつらの楽しむ姿勢は悪くないんだが、その緊張感の無さには時々頭が痛くなる。

 木戸がバッターボックスへ向かい、丸山がネクストサークルへいく準備をしているところでふと尋ねた。

「なあ、木戸とまたなにか賭けをしたのか?
 野球に関しては真面目だから黙認してるけど、他の部員へ変な影響を与えないでくれよ?」

「相変わらず心配性だな、カズはよ。
 なんてことないさ、ランナーがいないときには必ず塁に出るってだけさ。
 そんで俺が必ず返すって、それだけの約束だから心配無用よ」

「なんだそんなことか、ってそんなうまく行くはずないだろ。
 かといってそれでチームが回らなくなることもなさそうだからいいけどさ……」

 やっぱりこの二人の緊張感の無さにはついていけない。自分で投げているときはヒット一本も打たれないつもりで投げてるけど、それはあくまで目標であって本気で全打席押さえられるとは思っていない。

 でも木戸と丸山は全打席ヒット、あわよくばホームランが打てると考えてる節があるのだ。

「せんぱいと丸山先輩はやっぱりすごいですね。
 あんなに自信満々で打席に立てるのは本当にすごいです」

 いつの間にか僕の横に来ていた由布がしきりに感心している。そう言えば、どちらかというと由布もあちら側の人間のような気がする……

「ところであの一年生のピッチャーは随分球速が遅いですね。
 強豪矢実のレギュラーを争えるとはとても思えないんですが、カズ先輩はどう思います?」

「確かにそうだね。
 初回のチビベンと池田先輩の当たりも待ちきれなくて引っ張りすぎた感じだったしなぁ。
 まあ木戸と丸山が何とかしてくるよ」

 そしてその予想は的中し、木戸は三球目の外角低めを流し打ちしてツーベースヒット、続く丸山はセンターオーバー、第二グラウンドを転々と転がる長打で二点を返した。

「あれは完全にホームランでいいだろ?
 スコアブックにはそうつけておいてくれよ」

「わかってます! さすがです!
 普通の球場なら場外だったかもしれませんね!」

 木戸はベンチに戻ってきてからすぐに、次の打順である柏原先輩へ何か説明していた。倉片もそれを同時に聞いているが、しきりに首を縦に振っている。なにか攻略法でも見つけたのだろうか。

「丸山さ、あのピッチャーはどうなんだ?
 球はあんまり早そうじゃないけど、変化球が切れるとかあるか?」

「いやいや、アレはまだ中学生だわ。
 体が出来てないんだろうな。
 ボールの縫い目を数えながら打つくらいでちょうどいいだろ」

 また大げさなことを言っている…… しかし一年生たちは目を光らせて頷いていた。まったく、今年は感化されやすい奴ばかり集まったようだ。

 続いて柏原先輩がヒット、倉片は外野フライ、長崎先輩がヒットでワンアウト一三塁となった。どうやら木戸のアドバイスが効いたようだ。

 ここまで二回を投げてへばりかけているハカセには代打が出され涌井先輩がタイムリーを打ちこれで4-3まで詰め寄る。打順はここで一番に返って、嶋谷は内野ゴロだったが、ゲッツー崩れで同点となった。

 二巡目のチビベンは綺麗に三遊間を抜くクリーンヒットだ。彼女が見ている前でなんとかカッコがついてホッとしているかもしれない。

 同点でツーアウト一二塁、さっきは外野へいい当たりを飛ばした池田先輩が、今度はきれいな流し打ちをしたが、一塁ベース近くに守っていたファースト正面に飛んでしまい万事休す。

「すまん…… 今日はツキがないようだ」

「一塁ランナーがいなければ抜けてたんですけどね。
 多分ピッチャー変わるんで流れ変えていきましょう」

 僕はありきたりの言葉をかけてはみたものの、ベンチにいることがとてももどかしかった。次の攻撃ではまた木戸からとなるが、三四番の前にランナーを貯めることができないのは残念だ。

 三回の表、こちらのピッチャーは木尾に代わった。木戸はハカセの時と同じように五点までに抑えるよう伝えているらしい。

 しかし木尾はいい方に裏切る好投を見せ、三回を無失点に抑えた。テンポよくツーアウトを取って安心したのかヒットとファーボールで一二塁となったが、後続を三振に取り無事に切り抜けた。この辺りは今後の課題になりそうだ。

「やっぱりピッチャー変えてきたか。
 矢実のレギュラー取りは大変なんだろうなあ」

「そうでしょうね。
 今年は新入部員が百人以上入ったらしいですよ。
 ちなみに去年の一年生、つまり今の二年生で残ったのは二十人以下です」

「良く調べてあるね。
 あのピッチャーは二年生?」

「はい、確か二軍の控えだったはずです。
 今日は三年生がいないみたいなのが残念ですね」

 由布はいつの間にか各学校の選手を調べていたようだ。手に持っている小型のファイルには、プリントアウトされた選手一覧が閉じてある。

「マネちゃん、その二軍のエースは来てるのか?
 そいつは二年生?」

「はい、今ブルペンから見ているのがそうです」

「そっか、舐めプされてるみたいだから引きずり出しちゃおうかな。
 マルマン、ちょっと」

 木戸は由布に投手の確認をした後、丸山へ何やら耳打ちしている。絶対これは良からぬことを考えているに違いない。

「おい、どうでもいいけど真面目にはやれよ?
 変なことはしないように頼むよ」

「任せとけって。
 できれば三年生まで引っ張り出したいけど、来てないなら仕方ないな」

 いったい何をするつもりなのだろうか。というか、味方の僕がなんでこんなことで心配しなければいけないのか。

 投球練習が終わって木戸がようやくバッターボックスへ入った。丸山へ確認しようとしたらさっさとネクストサークルへ逃げて行ってしまったので詳細不明だが、絶対に何か企んでいる。

 木戸は、主審の合図を受けてヘルメットを取って挨拶をすると、バットを構えた。いつもより棒立ち気味だけど大丈夫だろうか。

 そんな木戸が初球をいきなり強打する。ストレートを流し打った打球はホームラン性の大きなあたりだが、ライン際に飛んで行ってライトのはるか後方に転がっていった。

 首をかしげる木戸と、なにか笑いをこらえているような丸山の姿を見て僕は察した。まさかそんなことをするなんて馬鹿げてる。

 二球目のカーブは引っ張ってファール、三球目も同じだ。球数はどんどん増えていき、一度明らかなボール球を見送った以外はすべて大きな当たりだ。

「マネージャー、今何球目?」

「ええっと、十四球ですね。
 次が十五球目です」

 これだけ投げさせられたらピッチャーは嫌になってしまう。もし自分だったらと考えるとぞっとする出来事だ。しかもその後に丸山まで同じことをするつもりだとしたら……

 そして十五球目のストレートを力いっぱい振りぬいた打球は、ピッチャーの頭上をを超えセンターが歩いて追っていくようなどでかい一発だった。

 文句なしのホームラン性の当たりだが、駆け足でベースを駆け抜けてきた木戸は丸山とタッチしてからベンチへ戻ってきた。

 そこへすかさず小声で話しかける。

「おい木戸、お前なんてことするんだよ。
 あのピッチャーがかわいそうじゃないか」

「おいおい、練習試合とは言え勝負だぜ?
 こっちはフルメンバーに近い戦力でやってるんだから、力の差を見せてやらないといけないだろ」

「いや、それはわからなくもないけどさ……
 向こうだって選手の育成とかあるだろうし……」

「じゃあお前は打たれてやるのか?
 控えでも打てるような球を、わざわざほうってやる方が失礼だろうよ」

 やってることは褒められることじゃないとは思うものの、木戸の言い分には言い返すことができなかった。

 他の部員は木戸のホームランに喜んでいて、本当の意図に気が付いていないようだった。問題は丸山の打席だ。まったく同じようになぞったとしたら、いくらなんでもだれでも気が付くだろう。

 矢実のベンチでは監督が手近な選手へ耳打ちをしている。もしかしたら、早くも投手交代について考えているのかもしれない。

 それは大当たりで、丸山が打席に入ろうとしたところで監督がベンチから出てきた。まだ一人にしか投げていないので、丸山が終わってからピッチャーを変えると思っていたが早めに動いたようだ。

 ブルペンにいた二軍のエースが呼ばれマウンドへ向かい、一緒に出てきたキャッチャーも一緒に交代した。ということはこれが二軍の正バッテリーということだろう。

 数球の練習投球の後、改めて丸山がバッターボックスに入った。矢実の二軍と言ったらその辺りの学校と変わらない実力のはずだ。さすがに丸山も遊んではいられないだろう。

 交代したピッチャーはテンポよく投げ込んできたが、制球が定まらないのかボール先攻でツーボールとなった。三球目、ストライクを取りに来た甘いカーブを丸山はあっさり見送る。

 問題はここからだ。続けて投げてきたカーブを引っ張ってファールにし、次もカーブだったが今度は流してファールとなった。どうやら変わったピッチャーも丸山たちの相手には力不足のようだ。

 そして同じく十五球目のスライダーを、丸山は完璧に捉えてセンター大オーバーの二打席連続ホームランを放った。

 これで4-6となり二点勝ち越しだ。ピッチャーはがっくりとうなだれていて敵ながらかわいそうになる。ただ打たれただけならまだしも、二者連続で弄ばれてからのホームランはチーム全体を意気消沈させるに十分だろう。

 案の定、ナナコー打線はここから打者一巡寸前までヒットを重ねて三点追加して4-9とした。最後は今日一番ツキの無い池田先輩が打ったセンター返しが、ピッチャープレートに当たってファースト前に転がり、内野ゴロとなって攻撃終了となった。

「本当にすまん……
 今日はことごとくストッパーになっちまった」

 僕はかける言葉が見つからず困ってしまった。野手の正面に飛んだなら結果的に打ち取られたと考えることができるが、まさかプレートに当たってアウトになるとは……

「まあビッグイニングになったから問題ないっすよ。
 次の守備で頑張りましょう、先輩」

 木戸は全く気にしていない様子だし、もちろん悪いとも思っていないだろう。確かに悪意はないだろうが、ピッチャー視点からするとむごすぎるイニングだった。

 つくづくあの二人と対戦する必要がないことにホッとする。きっと木戸は、自分が真剣に取り組んでいる野球というものをバカにされた気分だったのだろう。

 丸山は悪ふざけのつもりでただ乗っかっただけかもしれないけど、でも同じように野球に対しては真剣そのものだ。僕とは考え方が異なるところがあるにせよ、根っこの部分ではやはり同類なのかもしれない。

 いや、僕は本当にあの二人ほど真剣なのだろうか。帽子をいったん脱いでおでこに手をやりながら、朝の事を思い出していた。
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