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週の始まりは朝のキスから
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スマホのアラームが鳴っている。身体が重くて仕方ないがもうそんな時間なのか。僕は渋々起き上がりながら眠い目をこすった。
するとそこには見慣れない光景が、いや正しくは見慣れてはいるがここにいるのはまずいという場所で目を覚ましたのだ。しかも二日続けてこんな醜態をさらすことになるとは我ながら情けない。
画面を見ると五時を少し回ったところだった。早く家に戻らないと行けない。今日は月曜日だから学校もあるというのに僕はいったい何をしているんだ。
このしゃれたリビングにひと気はない。咲の部屋は確か二階だがキッチンにもいないようなのでまだ寝ているのかもしれない。
声をかけてから帰ろうかどうしようか悩むところだけど、女子が寝ているところへ立ち入るのも良くないし、まだ寝ていたら起こすのも悪い気がする。僕はこっそりと帰ることにした。
しかし、玄関へ出て靴を履いていたところで咲が二階から声をかけてきた。
「おはよう、さすがに早いのね。
黙って帰ってしまうなんてひどい人」
「ご、ごめん、黙ってるつもりじゃなくて起こしたら悪いと思ったんだよ。
まだいくらなんでも早すぎるだろ?」
僕は振り向きながら答えた。それは決して言い訳ではなく正直な気持ちなのだ。それをわかってくれない咲ではないだろうが、このまま帰してくれなさそうな予感もする。
その予想通り、咲は足早に階段を降りてきて半端な体制でいる僕のそばまでやってきた。
「優しいのかもしれないけどちゃんと声かけに来てほしかったわ。
そうしたら私が降りてこなくても良かったでしょ?」
「まあそうだけどさ・・・・・・
ごめんよ」
「うふふ、冗談よ。
これからランニングへ行くのかしら?」
「もちろんだよ。
平日はばっちり練習しないとさ。
昨日一昨日って楽しみすぎちゃったし食べすぎもしちゃったからね」
「でも足りないもの、忘れ物があるわよ」
咲はそう言ってから玄関で座っている僕の隣へ腰かけた。そしてそのまま顔を寄せてくる。僕ももう慣れたもので、そっと近寄り唇をあわせた。ごく短い間触れ合う唇。それは、僕と咲の間でもう挨拶のように繰り返されていた軽いキスだ。
唇が離れた後も二人の顔はごく近いままでおでこがくっつきそうなくらいの位置で止まっていた。離れがたく愛くるしくて仕方がない、そんな気持ちになってしまう。
昨日は一度もキスをしなかったことを思いだしたが、今、僕の心は何とも言えない満足感で溢れていた。
もちろん気にならないわけではない。咲と初めてキスをしてから一日も欠かすことがなかったのに、昨日は一度もしなかったのはなぜか。しかも丸一日中一緒にいたというのに、だ。
昨日と今日に何か違いがあるのかもしれないが、少なくとも嫌われたり不満に思われたりしているんじゃなければ安心できる。僕は思い切って聞いてみた。
「ねえ、昨日はさ、あの……
一度も、その……」
「キスしなかったのはなぜか?」
僕は軽く頷く。
「うふふ、それは内緒よ。
でも何事にも休養が必要ってことだけ言っておくわ」
「休養?
キスにも休養が必要ってこと?」
「さあどうかしら。
キミだって週末には練習お休みにしてるじゃない?
同じようなものよ」
「なんだかごまかされてるような気がするなあ。
でも咲がそう言うならそれを信じるよ」
「あら、随分いい子ね。
じゃあご褒美あげようかな」
咲はこうやって僕を小さい子供のように扱うことが好きなのか? それともそういう話し方か性格なのか、いまだ計り知れないところがある。
しかしそんなことを考える間もなく、すぐ目の前にあった顔がさらに近づいて唇と唇が再び触れ合った。さっきよりも長いキスが僕の心音を早くするが、同時に安堵感ももたらしてくれる。
キスをしながら僕の手を握った咲は、もう片方の腕を僕の背中に回し体を引き寄せてきた。背中に感じる咲の柔らかな感触に僕は思わずこのまま一緒にいたいと考えてしまう。
しかしそれを遮るように僕のポケットのスマホがアラームを慣らした。まったく気の利かないやつだと思いながらアラームを止める。
「二度目の目覚ましかしら。
早くランニングへ行かないと学校に間に合わなくなるわね」
「うん……
後ろ髪を引かれる想いって言うのはこういう時に使うんだなあ」
「そうかもね。
でも今日からまたいつもの日々だから頑張りましょう。
キミの努力が私のためにもなるのだから」
相変わらず意味の分からないことをいう咲だが、意味が分からないと思いつつ素直に頷いてしまう僕も相当おかしくなっているのかもしれない。咲と出会ってからの僕は自分でもわかるくらいに変わってしまったのだ。
二人はもう一度軽いキスをしてから立ち上がる。玄関の一段高いところで一緒に立ち上がった咲はちょうど同じくらいの目線にいた。
「とてももの欲しそうにこちらを見てるわよ。
外でそんな顔しないように気をつけなさい。」
そう言ってまたキスをしてから僕はようやく咲の家を出た。
◇◇◇
いつもより少しだけ遅く家を出ることになってしまったが、準備運動だけはしっかりやってからピッチを上げて走った。防災公園まで行くと時間が足りなくなりそうなのでそれより手前の児童公園までにしておこう。
ここは保育園に通っていた頃、園の散歩でよく連れて来てもらった場所だ。もう十年以上前の話なのにあまり変わらない場所でもある。
昔から変わらないと思っていた児童公園まで行くと、遊具類が少し減っているようで公園内がすっきりした印象だ。中央にあったかごみたいなのでぐるぐる回るの奴が無くなっていて、残っているのは小さな鉄棒と埋めてあるタイヤくらいか。
シーソーがあったはずの場所は、動物の形をした遊具に変わっていた。僕は何の気なしにそこへまたがって一休みして、それからまたすぐに立ち上がり走り出そうとした。
しかし何か引っかかるものを感じて足が動かない。確かここにあったシーソーで遊んでるときになにか事件と言うか、なんらかの出来事があったような気がしたのだ。しかし全く思い出せない。
なんといっても保育園時代のことだ。覚えていなくても当然だろう。少しだけ気にはなったが時間もあまりないので僕はハイペースで家へ戻った。
シャワーを浴びてから制服に着替えバナナを一本食べる。そしてきな粉をたっぷりと入れた牛乳を一気に飲み干すと、なんだかいつものペースが思い出されていた。
たった二日間休んだだけ、それも毎週こうしているのに今週末は密度が高かったせいか現実に戻るのに時間がかかった。
別に練習漬けの一週間を繰り返すこと自体に問題はなく、退屈な日々を送っていたわけじゃないが、それよりも、今は咲と一緒に過ごす時間の方が数倍いや、数百倍は楽しいと思っている。
明日には両親が帰ってくるので先週のようには一緒にいられないだろう。そう思うと僕は寂しくて仕方なくなってくる。するとそんな僕の心を知ってか知らずかスマホへメッセージが届いた。
送信者は母さんだった。こんな朝早くから何してるのかと思えば、現地の担当さんに朝市へ連れて行ってもらったと書いてある。今日の冷蔵便で刺身の盛り合わせを送ったらしい。
そしてそこへは彼女と一緒に食べろと書いてあった。まったく・・・・・・ 父さんが余計なことを吹き込んだに違いない。
でも咲と一緒に食べるようにと言ってくるということは、今後母さんがいるときでも咲のところへ出入りしやすいかもしれない。そこは嬉しいポイントだ。
かといって二人の関係を知られてはいけないって約束もあるし、そこは咲に相談しておかないといけないだろう。それに今日の便って何時ごろくるんだろうか。
僕は母さんへ返信し着時間を確認したがすぐには返事がない。今頃朝市で朝飯でも食っているのかもしれない。二人で出かけると僕の事をすぐにほったらかしにしてなんて親だと思うことも有ったが、今はむしろほっておいてくれて大歓迎だと言いたくなる。
洗い物を終えてからユニフォーム等を鞄へ突っ込んで玄関を開けた。そこには咲が待っている、なんてことはなく、かといって今日刺身が送られてくることを伝えに行く時間もなさそうだ。
僕はバッグを肩にかけ早足で学校へ向かった。
するとそこには見慣れない光景が、いや正しくは見慣れてはいるがここにいるのはまずいという場所で目を覚ましたのだ。しかも二日続けてこんな醜態をさらすことになるとは我ながら情けない。
画面を見ると五時を少し回ったところだった。早く家に戻らないと行けない。今日は月曜日だから学校もあるというのに僕はいったい何をしているんだ。
このしゃれたリビングにひと気はない。咲の部屋は確か二階だがキッチンにもいないようなのでまだ寝ているのかもしれない。
声をかけてから帰ろうかどうしようか悩むところだけど、女子が寝ているところへ立ち入るのも良くないし、まだ寝ていたら起こすのも悪い気がする。僕はこっそりと帰ることにした。
しかし、玄関へ出て靴を履いていたところで咲が二階から声をかけてきた。
「おはよう、さすがに早いのね。
黙って帰ってしまうなんてひどい人」
「ご、ごめん、黙ってるつもりじゃなくて起こしたら悪いと思ったんだよ。
まだいくらなんでも早すぎるだろ?」
僕は振り向きながら答えた。それは決して言い訳ではなく正直な気持ちなのだ。それをわかってくれない咲ではないだろうが、このまま帰してくれなさそうな予感もする。
その予想通り、咲は足早に階段を降りてきて半端な体制でいる僕のそばまでやってきた。
「優しいのかもしれないけどちゃんと声かけに来てほしかったわ。
そうしたら私が降りてこなくても良かったでしょ?」
「まあそうだけどさ・・・・・・
ごめんよ」
「うふふ、冗談よ。
これからランニングへ行くのかしら?」
「もちろんだよ。
平日はばっちり練習しないとさ。
昨日一昨日って楽しみすぎちゃったし食べすぎもしちゃったからね」
「でも足りないもの、忘れ物があるわよ」
咲はそう言ってから玄関で座っている僕の隣へ腰かけた。そしてそのまま顔を寄せてくる。僕ももう慣れたもので、そっと近寄り唇をあわせた。ごく短い間触れ合う唇。それは、僕と咲の間でもう挨拶のように繰り返されていた軽いキスだ。
唇が離れた後も二人の顔はごく近いままでおでこがくっつきそうなくらいの位置で止まっていた。離れがたく愛くるしくて仕方がない、そんな気持ちになってしまう。
昨日は一度もキスをしなかったことを思いだしたが、今、僕の心は何とも言えない満足感で溢れていた。
もちろん気にならないわけではない。咲と初めてキスをしてから一日も欠かすことがなかったのに、昨日は一度もしなかったのはなぜか。しかも丸一日中一緒にいたというのに、だ。
昨日と今日に何か違いがあるのかもしれないが、少なくとも嫌われたり不満に思われたりしているんじゃなければ安心できる。僕は思い切って聞いてみた。
「ねえ、昨日はさ、あの……
一度も、その……」
「キスしなかったのはなぜか?」
僕は軽く頷く。
「うふふ、それは内緒よ。
でも何事にも休養が必要ってことだけ言っておくわ」
「休養?
キスにも休養が必要ってこと?」
「さあどうかしら。
キミだって週末には練習お休みにしてるじゃない?
同じようなものよ」
「なんだかごまかされてるような気がするなあ。
でも咲がそう言うならそれを信じるよ」
「あら、随分いい子ね。
じゃあご褒美あげようかな」
咲はこうやって僕を小さい子供のように扱うことが好きなのか? それともそういう話し方か性格なのか、いまだ計り知れないところがある。
しかしそんなことを考える間もなく、すぐ目の前にあった顔がさらに近づいて唇と唇が再び触れ合った。さっきよりも長いキスが僕の心音を早くするが、同時に安堵感ももたらしてくれる。
キスをしながら僕の手を握った咲は、もう片方の腕を僕の背中に回し体を引き寄せてきた。背中に感じる咲の柔らかな感触に僕は思わずこのまま一緒にいたいと考えてしまう。
しかしそれを遮るように僕のポケットのスマホがアラームを慣らした。まったく気の利かないやつだと思いながらアラームを止める。
「二度目の目覚ましかしら。
早くランニングへ行かないと学校に間に合わなくなるわね」
「うん……
後ろ髪を引かれる想いって言うのはこういう時に使うんだなあ」
「そうかもね。
でも今日からまたいつもの日々だから頑張りましょう。
キミの努力が私のためにもなるのだから」
相変わらず意味の分からないことをいう咲だが、意味が分からないと思いつつ素直に頷いてしまう僕も相当おかしくなっているのかもしれない。咲と出会ってからの僕は自分でもわかるくらいに変わってしまったのだ。
二人はもう一度軽いキスをしてから立ち上がる。玄関の一段高いところで一緒に立ち上がった咲はちょうど同じくらいの目線にいた。
「とてももの欲しそうにこちらを見てるわよ。
外でそんな顔しないように気をつけなさい。」
そう言ってまたキスをしてから僕はようやく咲の家を出た。
◇◇◇
いつもより少しだけ遅く家を出ることになってしまったが、準備運動だけはしっかりやってからピッチを上げて走った。防災公園まで行くと時間が足りなくなりそうなのでそれより手前の児童公園までにしておこう。
ここは保育園に通っていた頃、園の散歩でよく連れて来てもらった場所だ。もう十年以上前の話なのにあまり変わらない場所でもある。
昔から変わらないと思っていた児童公園まで行くと、遊具類が少し減っているようで公園内がすっきりした印象だ。中央にあったかごみたいなのでぐるぐる回るの奴が無くなっていて、残っているのは小さな鉄棒と埋めてあるタイヤくらいか。
シーソーがあったはずの場所は、動物の形をした遊具に変わっていた。僕は何の気なしにそこへまたがって一休みして、それからまたすぐに立ち上がり走り出そうとした。
しかし何か引っかかるものを感じて足が動かない。確かここにあったシーソーで遊んでるときになにか事件と言うか、なんらかの出来事があったような気がしたのだ。しかし全く思い出せない。
なんといっても保育園時代のことだ。覚えていなくても当然だろう。少しだけ気にはなったが時間もあまりないので僕はハイペースで家へ戻った。
シャワーを浴びてから制服に着替えバナナを一本食べる。そしてきな粉をたっぷりと入れた牛乳を一気に飲み干すと、なんだかいつものペースが思い出されていた。
たった二日間休んだだけ、それも毎週こうしているのに今週末は密度が高かったせいか現実に戻るのに時間がかかった。
別に練習漬けの一週間を繰り返すこと自体に問題はなく、退屈な日々を送っていたわけじゃないが、それよりも、今は咲と一緒に過ごす時間の方が数倍いや、数百倍は楽しいと思っている。
明日には両親が帰ってくるので先週のようには一緒にいられないだろう。そう思うと僕は寂しくて仕方なくなってくる。するとそんな僕の心を知ってか知らずかスマホへメッセージが届いた。
送信者は母さんだった。こんな朝早くから何してるのかと思えば、現地の担当さんに朝市へ連れて行ってもらったと書いてある。今日の冷蔵便で刺身の盛り合わせを送ったらしい。
そしてそこへは彼女と一緒に食べろと書いてあった。まったく・・・・・・ 父さんが余計なことを吹き込んだに違いない。
でも咲と一緒に食べるようにと言ってくるということは、今後母さんがいるときでも咲のところへ出入りしやすいかもしれない。そこは嬉しいポイントだ。
かといって二人の関係を知られてはいけないって約束もあるし、そこは咲に相談しておかないといけないだろう。それに今日の便って何時ごろくるんだろうか。
僕は母さんへ返信し着時間を確認したがすぐには返事がない。今頃朝市で朝飯でも食っているのかもしれない。二人で出かけると僕の事をすぐにほったらかしにしてなんて親だと思うことも有ったが、今はむしろほっておいてくれて大歓迎だと言いたくなる。
洗い物を終えてからユニフォーム等を鞄へ突っ込んで玄関を開けた。そこには咲が待っている、なんてことはなく、かといって今日刺身が送られてくることを伝えに行く時間もなさそうだ。
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