45 / 158
謎は解明すべきか楽しむべきか
しおりを挟む
父さんたちを見送った僕はシャワーを浴びて制服へ着替えた。そして学校へ行く用意をしてから朝食をとる。牛乳にきな粉をどさっと入れ一気に飲み干した後バナナを食べていた僕は、ふと何かを感じ玄関へ向かった。
僕の勘は大当たりで、ドアを開けてほんの数秒後には咲の姿が視界に入った。
「おはよう、咲」
僕はそう言いながら玄関の中へ咲を迎え入れた。表で話していると誰かに見られるかもしれないが、その場合は僕が約束を破ったことになるのだろうかと気になる。
二人は玄関先に並んで座った。咲の肩が僕の腕に寄りかかり、ほんの少しだけ重みを感じるがそれはとても心地よいものだ。
「おはよう、出迎えてくれたなんて嬉しいわね」
「うん、不思議なんだけどなんとなく咲が来るのがわかった気がしたんだ」
「いい傾向ね、そのうち私の行動が筒抜けになってしまうかもしれないわ」
「キミのことが私に筒抜けなようにね」
「えっ、そうなの!? そんな…… まさか……」
「うふふ、冗談よ、でも全部はわからなくても少しはわかるようになるものよ」
「テレパシー、日本語だと以心電信って言うんでしょ?」
「まさかそんなことあるのかな、確かに昔から以心電信とか第六感って言葉はあるけどさ」
「でもキミは現に何かを感じてこうやってドアを開けたわけでしょう?」
「信じるも信じないもキミ次第だけどね」
確かに咲の言う通りだ。僕は物音を感じたわけじゃなく、何となく咲が来るような気がしただけだった。でもそれは時間的にそろそろかもという期待に基づいた行動だったような気もする。
じゃあ咲が僕の帰りに合わせて家から出てくるのはどういうことだろう。玄関前まで行くとすぐにドアを開けてくれるのはなんでだろう。やはり咲には僕の行動が筒抜けなんじゃないか、そう思うほかない。
僕が考え込んでいると咲が横でそっとささやいた。
「あまり難しく考えるものじゃないわ」
「私がキミに会いたいと願って、その想いにキミが応えてくれた、それでいいじゃない?」
「ま、まあそうなんだけどさ、やっぱり不思議なことがあるとどんなからくりがあるか知りたくなるじゃん」
「ふふ、わからないことがあるから世の中は面白いのよ」
「何でも分かるようになったらきっとつまらない世界になってしまうわ」
「うーん、なんだかはぐらかされた気分だなあ」
「だって咲は僕の行動を先回りしてるようなことが多いじゃん? あれが不思議なんだ」
「私はね、特別なのよ、キミのことに関して、はね」
「僕のこと…… 特別なのは嬉しいけど全部筒抜けなのは恥ずかしいな……」
「恥ずかしがらなくていいのよ、私はキミのことをすべて受け入れるわ」
「キミが私を信じて約束を守ってくれているうちは大丈夫よ」
「理屈じゃないんだよ、恥ずかしいものは恥ずかしいんだからさ」
僕の頭の中には自分を慰めた行為が浮かんでいた。昨日はメールしながら寝てしまったから、咲とこうやって話していても後悔の念はないのがまだマシだ。
「大丈夫、信じて、ね?」
「キミのすべてはキミなのよ、当たり前のことかもしれないけど大切なこと」
そう言って咲はこちらを見つめる。僕はうつむき加減で頷いてから顔を寄せた。
お互いの唇は軽く触れる程度で何度も触れ合い、そして何度も離れる。その度に僕の顔は熱くなっていき体は強張っていく。
咲は僕の胸に手を当てている。心音でも確認しているのだろうか。その触れた手のひらはとても暖かい。
ふいに僕の頭の後ろに右手が回され左手は胸から背中へ移った。まるで逃がさないと言わんばかりの行動だが、僕にはその束縛感が嬉しくてたまらない。僕も同じように咲の腰のあたりへへ手を回した。
「んふふ、くすぐったいわ、さあ、こちらを見て」
「うん……」
数秒の間見つめ合った二人は最後に長いキスをした。
互いの唇が離れた後、僕が下駄箱の上に置いてある時計を見るとちょっと怪しい時間になっていた。あまりのんびりしているとまた遅刻してしまう。
「さ、行ってらっしゃい、愛しいキミ」
「きっと今日もうまくいくわ」
「そうかな、でも咲がそう言ってくれるんだから間違いないね」
「だって今だって僕の体に先から力が流れ込んでくるのを感じたんだ」
「本当に? あまり思い込みすぎたり入れ込みすぎたりしない方がいいわよ」
「何事にも波があるんだから、うまくいかなかったときの落胆が大きくなってしまうかもしれないわ」
「うん、大丈夫、僕はやってきたことを信じて力を出すだけさ」
「僕にどのくらいの能力が備わっているのかはわからないけど、咲のおかげでうまく引き出せると信じているよ」
僕は自分で何を言ってるかよくわからなくなったが言い方なんてどうでもよく、咲への信頼感を伝えたかっただけなのだ。
「そうね、キミの言うように、自分を知り、信じ、過信しない、これができていれば問題ないわね」
「キミにはそれができると私も信じているわ」
「ありがとう、じゃあ間に合わなくなっちゃうから僕は学校行くよ」
そう言ってから二人揃って立ち上がった。その際、下駄箱の上にある木彫りの熊と目が合ってしまい、僕は思わずその熊を手に取って壁に向けて置きなおす。
咲はそんな僕を見て優しく微笑んだ。
僕の勘は大当たりで、ドアを開けてほんの数秒後には咲の姿が視界に入った。
「おはよう、咲」
僕はそう言いながら玄関の中へ咲を迎え入れた。表で話していると誰かに見られるかもしれないが、その場合は僕が約束を破ったことになるのだろうかと気になる。
二人は玄関先に並んで座った。咲の肩が僕の腕に寄りかかり、ほんの少しだけ重みを感じるがそれはとても心地よいものだ。
「おはよう、出迎えてくれたなんて嬉しいわね」
「うん、不思議なんだけどなんとなく咲が来るのがわかった気がしたんだ」
「いい傾向ね、そのうち私の行動が筒抜けになってしまうかもしれないわ」
「キミのことが私に筒抜けなようにね」
「えっ、そうなの!? そんな…… まさか……」
「うふふ、冗談よ、でも全部はわからなくても少しはわかるようになるものよ」
「テレパシー、日本語だと以心電信って言うんでしょ?」
「まさかそんなことあるのかな、確かに昔から以心電信とか第六感って言葉はあるけどさ」
「でもキミは現に何かを感じてこうやってドアを開けたわけでしょう?」
「信じるも信じないもキミ次第だけどね」
確かに咲の言う通りだ。僕は物音を感じたわけじゃなく、何となく咲が来るような気がしただけだった。でもそれは時間的にそろそろかもという期待に基づいた行動だったような気もする。
じゃあ咲が僕の帰りに合わせて家から出てくるのはどういうことだろう。玄関前まで行くとすぐにドアを開けてくれるのはなんでだろう。やはり咲には僕の行動が筒抜けなんじゃないか、そう思うほかない。
僕が考え込んでいると咲が横でそっとささやいた。
「あまり難しく考えるものじゃないわ」
「私がキミに会いたいと願って、その想いにキミが応えてくれた、それでいいじゃない?」
「ま、まあそうなんだけどさ、やっぱり不思議なことがあるとどんなからくりがあるか知りたくなるじゃん」
「ふふ、わからないことがあるから世の中は面白いのよ」
「何でも分かるようになったらきっとつまらない世界になってしまうわ」
「うーん、なんだかはぐらかされた気分だなあ」
「だって咲は僕の行動を先回りしてるようなことが多いじゃん? あれが不思議なんだ」
「私はね、特別なのよ、キミのことに関して、はね」
「僕のこと…… 特別なのは嬉しいけど全部筒抜けなのは恥ずかしいな……」
「恥ずかしがらなくていいのよ、私はキミのことをすべて受け入れるわ」
「キミが私を信じて約束を守ってくれているうちは大丈夫よ」
「理屈じゃないんだよ、恥ずかしいものは恥ずかしいんだからさ」
僕の頭の中には自分を慰めた行為が浮かんでいた。昨日はメールしながら寝てしまったから、咲とこうやって話していても後悔の念はないのがまだマシだ。
「大丈夫、信じて、ね?」
「キミのすべてはキミなのよ、当たり前のことかもしれないけど大切なこと」
そう言って咲はこちらを見つめる。僕はうつむき加減で頷いてから顔を寄せた。
お互いの唇は軽く触れる程度で何度も触れ合い、そして何度も離れる。その度に僕の顔は熱くなっていき体は強張っていく。
咲は僕の胸に手を当てている。心音でも確認しているのだろうか。その触れた手のひらはとても暖かい。
ふいに僕の頭の後ろに右手が回され左手は胸から背中へ移った。まるで逃がさないと言わんばかりの行動だが、僕にはその束縛感が嬉しくてたまらない。僕も同じように咲の腰のあたりへへ手を回した。
「んふふ、くすぐったいわ、さあ、こちらを見て」
「うん……」
数秒の間見つめ合った二人は最後に長いキスをした。
互いの唇が離れた後、僕が下駄箱の上に置いてある時計を見るとちょっと怪しい時間になっていた。あまりのんびりしているとまた遅刻してしまう。
「さ、行ってらっしゃい、愛しいキミ」
「きっと今日もうまくいくわ」
「そうかな、でも咲がそう言ってくれるんだから間違いないね」
「だって今だって僕の体に先から力が流れ込んでくるのを感じたんだ」
「本当に? あまり思い込みすぎたり入れ込みすぎたりしない方がいいわよ」
「何事にも波があるんだから、うまくいかなかったときの落胆が大きくなってしまうかもしれないわ」
「うん、大丈夫、僕はやってきたことを信じて力を出すだけさ」
「僕にどのくらいの能力が備わっているのかはわからないけど、咲のおかげでうまく引き出せると信じているよ」
僕は自分で何を言ってるかよくわからなくなったが言い方なんてどうでもよく、咲への信頼感を伝えたかっただけなのだ。
「そうね、キミの言うように、自分を知り、信じ、過信しない、これができていれば問題ないわね」
「キミにはそれができると私も信じているわ」
「ありがとう、じゃあ間に合わなくなっちゃうから僕は学校行くよ」
そう言ってから二人揃って立ち上がった。その際、下駄箱の上にある木彫りの熊と目が合ってしまい、僕は思わずその熊を手に取って壁に向けて置きなおす。
咲はそんな僕を見て優しく微笑んだ。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ハーレムに憧れてたけど僕が欲しいのはヤンデレハーレムじゃない!
いーじーしっくす
青春
赤坂拓真は漫画やアニメのハーレムという不健全なことに憧れる健全な普通の男子高校生。
しかし、ある日突然目の前に現れたクラスメイトから相談を受けた瞬間から、拓真の学園生活は予想もできない騒動に巻き込まれることになる。
その相談の理由は、【彼氏を女帝にNTRされたからその復讐を手伝って欲しい】とのこと。断ろうとしても断りきれない拓真は渋々手伝うことになったが、実はその女帝〘渡瀬彩音〙は拓真の想い人であった。そして拓真は「そんな訳が無い!」と手伝うふりをしながら彩音の潔白を証明しようとするが……。
証明しようとすればするほど増えていくNTR被害者の女の子達。
そしてなぜかその子達に付きまとわれる拓真の学園生活。
深まる彼女達の共通の【彼氏】の謎。
拓真の想いは届くのか? それとも……。
「ねぇ、拓真。好きって言って?」
「嫌だよ」
「お墓っていくらかしら?」
「なんで!?」
純粋で不純なほっこりラブコメ! ここに開幕!
陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!
みずがめ
青春
杉藤千夏はツンデレ少女である。
そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。
千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。
徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い!
※他サイトにも投稿しています。
※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。
家政婦さんは同級生のメイド女子高生
coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。
全体的にどうしようもない高校生日記
天平 楓
青春
ある年の春、高校生になった僕、金沢籘華(かなざわとうか)は念願の玉津高校に入学することができた。そこで出会ったのは中学時代からの友人北見奏輝と喜多方楓の二人。喜多方のどうしようもない性格に奔放されつつも、北見の秘められた性格、そして自身では気づくことのなかった能力に気づいていき…。
ブラックジョーク要素が含まれていますが、決して特定の民族並びに集団を侮蔑、攻撃、または礼賛する意図はありません。
【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?
おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。
『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』
※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。
先輩に振られた。でも、いとこと幼馴染が結婚したいという想いを伝えてくる。俺を振った先輩は、間に合わない。恋、デレデレ、甘々でラブラブな青春。
のんびりとゆっくり
青春
俺、海春夢海(うみはるゆめうみ)。俺は高校一年生の時、先輩に振られた。高校二年生の始業式の日、俺は、いとこの春島紗緒里(はるしまさおり)ちゃんと再会を果たす。彼女は、幼い頃もかわいかったが、より一層かわいくなっていた。彼女は、俺に恋している。そして、婚約して結婚したい、と言ってきている。戸惑いながらも、彼女の熱い想いに、次第に彼女に傾いていく俺の心。そして、かわいい子で幼馴染の夏森寿々子(なつもりすずこ)ちゃんも、俺と婚約して結婚してほしい、という気持ちを伝えてきた。先輩は、その後、付き合ってほしいと言ってきたが、間に合わない。俺のデレデレ、甘々でラブラブな青春が、今始まろうとしている。この作品は、「小説家になろう」様「カクヨム」様にも投稿しています。「小説家になろう」様「カクヨム」様への投稿は、「先輩に振られた俺。でも、その後、いとこと幼馴染が婚約して結婚したい、という想いを一生懸命伝えてくる。俺を振った先輩が付き合ってほしいと言ってきても、間に合わない。恋、デレデレ、甘々でラブラブな青春。」という題名でしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる