僕が一目惚れした美少女転校生はもしかしてサキュバスじゃないのか!?

釈 余白(しやく)

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日々の積み重ねは誰のためか

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 昨日はしっかり投げ込む間もなく丸山と勝負させられてしまった。その分を取り返す必要はないが、調子が良ければその感触を忘れないようそれなりの球数を投げておきたい。

 そんな僕の気持ちを無視するかのように、投げ込みは二十球くらいで中断することになった。昨日の勝負を見ていた部員たちが同じように勝負させろと木戸へ詰め寄ってきたのだ。

 やれやれ、明日以降はグラウンド全部が使えるんだからシートバッティングでもやればいいのに、それを待てないほど子供でもなかろう。

 木戸も同じような意見で部員たちを説得する。珍しく最後まで食い下がっている池田先輩を何とか説得しピッチングを再開した。

 ようは今日も調子は抜群で、遠目から見てもボールがキレているのだろう。

「ホントどうしちゃったのかねえ、調子が良すぎて恐いくらいだな」
「チビベンも受けて見ろよ」

「いいのか? 興味はあるんだよな、横で聞いていてもボールの回転音がすごいんだ」

「捕ってみたらよくわかるよ、そろそろ変化球も混ぜていくか」
「カズ! キャッチャー交代だ、カーブもいけるかー?」

「オッケー、肩は温まってるから大丈夫だー」

 隣で投げている木尾とプレート位置を交代し、僕はゆっくりと振りかぶってからチビベンへ向かってストレートを投げこんだ。

 スパーンといい音を立ててボールがミットへ吸い込まれる。木戸には敵わないがチビベンの捕球も悪いものではない。

「ヒョー、こいつはすごいな、一球で手が痛いわ」
「よーし、次はカーブを投げてくれー、サインでいくかー」

 チビベンがミットの下からサインを出し、僕はそれを見てカーブを投げた。一瞬上ずって見えたボールが、大きな弧を描いて低めに構えられたミットのさらにその下へ落ちていき、ショートバウンドになったボールをチビベンが慌てて抑えた。

「あれ? 悪い悪い! 思ったよりも低かったなー」
「いつもと同じに投げたつもりなんだけど、おっかしいなあ」

「いや、ストライクゾーンには入ってるから問題ないぞー、すげえキレてるよ」
「木戸よお、こいつはやばいな、キャッチング磨かないと捕り損ねるかもしれんぜ」

「そんなかよ、マジで今年はいいとこまで行けるかもな」

 続いてもう一度同じボールのサイン、今度はインコースの要求だった。

 さっきの感じからすつともう少し高めに投げないといけないかもと意識して投げ込んだカーブは、右バッターの頭のあたりへ進んでいく。もし曲がらなかったら危険投球になりかねないほどだ。

 しかし途中で急に曲がり始めたボールは、先ほどと同じように大きな弧を描いてインコース低目のミットへ収まった。今度はバウンドしなかったがチビベンは一瞬立ち上がりかけていた。

「うほっ、すげえなこのカーブ、すっぽ抜けかと思って思わず一瞬立っちまったよ」
「こりゃ今度の練習試合が楽しみだな」

 そこからさらに十五球程度、真っ直ぐとカーブ、スライダーを、チビベンのサインで投げ分けた僕はかなりの好感触を得て練習を終えることにした。

 真っ直ぐだけじゃなく変化球のキレも明らかに増している。これもすべて咲のおかげなのだろう。どういう仕組なのかわからないが、咲とあんなことになる前と違うことは間違いない。

 しかし、咲の言い方だとあくまで潜在的な力を引き出すことができるだけとのことだから、調子に乗って練習の手を緩めてはならないのだ。それだけは肝に銘じておかないといけないだろう。

 今後どれくらいの力が発揮できるのかわからないが、全ては日々の積み重ねの結果なはずだ。その修練こそが僕のためであり咲のためにもなるのが本当ならなおさら手は抜けない。

 自分のためにしていることが誰かのためにもなる。それはまるで夫婦二人三脚で歩んできた両親を思い出させ、それを自分と咲に当てはめるとなんだか照れくさくなってくる。

 いつの間にか、野球のことよりも咲のことを考える時間が増えてきているように感じるが、今日はまだやることがある。きっちり頭を切り替えないといけない。グラウンドにトンボをかけながら僕はそんなことを考えていた。

 グラウンド整備と用具の片付けを終えた後、一年生と三年生が先にシャワーを浴び着替えて引き揚げていった。昨日言っておいたため今日は一年生たちが僕らを待っていることもなかった。

 練習中に木戸が言っていたように二年生は居残りだ。そのため一番最後に全員でシャワーを浴びていた。

 シャワーの前に、水道で手を冷やしているチビベンに向かって木戸が話しかけた。

「今日もカズのは調子よかったな、うちのチームであれ打てるやついないかもしれん」
「そういやチビベン、手は大丈夫だったか? 手袋してなかったろ」

「大丈夫だ、全部真っ直ぐだったらやばかったかもな」
「次からカズの球受けるときは試合用のミット使わないとダメだわ」

「そうか、チビベンの練習用ミットは中抜きでペラペラだったっけな」
「あれだといい音がしてピッチャーは気分いいんだよ」

 それを聞いた僕は思わず口を挟んだ。

「それマジか? そんなことして怪我でもしたら大変じゃないか」

「いやあ木尾みたいに自信持てないやつには効果あるんだよ」
「今日もカズの投球見て落ち込んでたみたいだから少し心配だな」

「そっか、意外に頭つかってるんだな、見直したよ」

 思わず本音が出た僕に木戸が横から突っ込んできた。

「なあに言ってんだ、キャッチャーはチームの頭脳だぜ? 一番頭いいやつがやってんだよ、なあチビベン」

「え? 木戸は頭つかってないだろ、どう見ても野生の勘だけでキャッチャーやってるようにしか思えん」

「んなことねえよ! 俺の頭の中は八割がた野球のことを考えるようにできてんだからよ」
「まったく失礼しちゃうぜ」

 木戸が笑いながらチビベンの突っ込みをいなした。木戸の頭の中が八割がた野球だとしたら僕はどれくらいだろう。以前は九割以上が野球のことだったが、今は七割、いや六割くらいに減っているかもしれない。

 しかしこんなバカ話をしていてはきりがない。僕は頭の中の三割か四割、もしかしたらそれ以上に考えている人のためにも時間が遅くなるのは避けたいのだ。

「おいおい、ミーティングやるんだろ? さっさと着替えようぜ」
「マネージャーも残したってことはスタメン考えるんだろ?」

「おう、そうだな、詳しくは後で話そう」

 僕達はシャワーを手早く切り上げ制服に着替えた。僕は今日も汗のにおいが残らないように石鹸で丁寧に体を洗っていた。

 練習も大事だけど、僕にはこの後大切な予定がある。それは誰にも言えないことだが、何よりも大切で楽しみな時間なのだ。

 全員を先にシャワー室から追い出した僕は、一人にやけながらシャワー室の掃除をするのだった。
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