転校してきた美少女に僕はヒトメボレ、でも彼女って実はサキュバスらしい!?

釈 余白(しやく)

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食後にキスがやってきた

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 部活の後、僕は寄り道もせずに帰宅した。木戸には明日までに何とかしろと言われたが、改善できる見込みや対処法もわからないので約束はできなかった。

 月末には練習試合があるが、せめてそれまでには何とかしないといけない。しかし、一体どうすればいいのだろうか。

 帰宅すると家には誰もいなかった。そういえば母さんは今日から兄貴のところへ行っているんだ。父さんはまだまだ帰ってくる時間でもない。

 テーブルの上にはあんぱんが一つ置いてあり、その下に一万円札が挟んで置かれていた。とりあえず部活から帰って腹ペコなのであんぱんをかじりながら夕飯の事を考える。

 こういう時はいつも近くの弁当屋にするか、それとも少し先のラーメン屋まで行くか、商店街の定食屋にするかの三択だ。

 今日は体調が悪いのが何なのかわからないが、余り出歩く気もしないので一番近い弁当屋にするか。それともガッツリと食べたほうがいいのだろうか。

 なんだか考えるのも面倒になって冷蔵庫をあさってみたが大したものは入っていなかった。かろうじて冷凍庫に冷凍食品のナポリタンがあったのでそれで済ませて、飯代は小遣いにしてしまおう。

 裏面を見るとレンジで温めるだけで食べられるようだ。ウインナーや野菜を足して炒めるともっとおいしいと書いてあるが、そんな手間をかけるくらいなら弁当を買いに行く方がいい。

 食にこだわりはないし手っ取り早いのは悪くない。レンジで温めて付属のソースを絡めるだけらしい。とりあえず麺をレンジに入れスタートを押してから、僕は自分の部屋へ荷物を置きに行き部屋着へ着替えた。

 まるで懐かしのソフト麺のようなナポリタンを食べ終わった僕は、まあまあ満足して椅子にもたれかかったまま大きく息を吐いた。

 一息ついたところで今日の出来事をまた思い出す。一体咲はどういうつもりなんだろうか。僕が女子になれていないからってからかっているのだろうか。

 それにしても咲の唇は信じられないくらい柔らかかったな。咲の舌が口の中へ入って来た時にはその温かさと絡められた舌のぬめりに驚いてしまったが、キスというのはああいうものなのだろうか。

 思い出すだけで体が火照ってくるのがはっきりとわかる。これっきりなのか、それとも二度目があるのかわからないが、どちらにせよ真意は知っておきたいところだ。

 明日、いや近日中には本人へ問いただしてやる。今のままだと主導権を握られたままみたいでなんだか悔しい。

 その時玄関のチャイムが鳴った。うちのインターフォンにはモニターが付いていないので玄関まで出るしかない。

 チェーンのかかった扉を開けて様子を見ながら声をかける。

「はーい、どちら様ですか?」

「お届け物です、受け取りをお願いします」

 よく見る宅配便の制服を着た男性が荷物を持って立っていた。僕はいったん扉を閉めてからチェーンを外し、玄関先に置いてあるゴム印を押し荷物を受け取った。荷物の差出人は母さんで、どうやら先週出掛けた際の荷物を送っておいたようだ。

 荷物を廊下まで運んでから、玄関のカギを閉めるために一度玄関に戻り、ついでに郵便物を確認しに門扉まで出てポストを開ける。中にはピザ屋と不用品買取のチラシが入っていたのみだった。

 僕はそのチラシを適当に折りたたみながら玄関へ振り返った。が、背後に人の気配を感じもう一度振り向く。するとそこには女の子が一人立っていた。

「こんばんは、ここキミのおうちなの?」

 驚きのあまり僕は返す言葉が出なかった。なぜならその声の主は咲だったからだ。しばらく、といってもほんの数秒だとは思うが、ようやく僕は返答をした。

「そ、そうだよ、なんでこんなところにいるのさ」

「私の家、そのすぐ先なのよ。
 今は商店街へ買い物に行ってきたとこなの」

「なんだ結構近いとこに住んでるんだな」

「そうね、ところでおうちの方は誰もいないの?」

「ああ、まだ帰ってきていないよ。
 えっと、それがどうかした?」

「じゃあ上がらせてもらうわ、お茶でも飲みながらお話ししましょう。
 春になっても立ち話にはまだ寒いわ」

 またか。咲は一方的に自分の要求を突き付けてくる。学校であんなことをしたその日にその相手の家に上がり込もうなんてどういうつもりなんだろう。

 僕が断ろうと口を開きかけたその瞬間、咲は自分の言葉でそれを遮った。

「キミが私の事を考えていたからわざわざ立ち寄ったのよ。
 さあ早く入れてちょうだい」

 そんなバカな。確かに僕はさっき咲の事を思い返していたが、別に呼んだわけじゃないのだ。しかし、なぜかその押しに逆らえず、僕は咲を招き入れてしまった。

 居間のテーブルに向かい合って座った僕と咲はしばらく黙ったままだった。このまま黙っていても仕方がない。思い切って咲の真意を確かめるんだ。

「あのさ、」

 咲が僕の言葉を一方的に遮る。

「ねぇキミ、お湯沸かすくらい出来るかしら?
 お料理はあまりできないようだけど」

 シンクの中に投げ捨てられているナポリタンの成れの果てを指差しながら咲が言い放った。ちくしょう、どうもペースが掴めない。このままじゃ咲の言いなりにことが進むばかりだ。

「やかんでお湯を沸かすくらい出来るさ。
 コーヒーならこっちで淹れるけどお茶がいいの?」

 僕はコーヒーメーカーを指差しながら、こちらの気持ちを全く考えていなそうに、目の前で微笑んでいる咲へ確認した。

「丁度いいことに、私が今買ってきた紅茶があるのよ。
 ハーブティーには気持ちを落ち着ける作用があるから飲んでみない?
 ティーカップかマグ、あるかしら?」

「あるよ、ちょっとまって」

 飲んでみないかって確認しているつもりかもしれないが、そこに続く言葉はどう考えても自分の考えを押し通している。それでも逆らう理由もないので食器棚から揃いのマグを二つ出して調理台へ乗せた。そして目の前にあったやかんに水を入れてコンロに火をつける。

「ありがとう、後は私がやるわよ」

 そう言って咲は後ろから声をかけてきた。その声はとても優しく魅力的だ。言葉の端々は当たりが強く感じるが、それは面と向かった時の顔立ちにも寄るのかもしれない。

 性格はきつめだけど顔はかわいくてスタイルもいい。そもそも僕が咲に対して好意を持っているのは間違いない。そんあ相手からお茶を淹れて貰えるなんて、成り行きとはいえラッキーだ。そんなことを考えながら僕は振り向いた。

「サンキュー、じゃあ頼むよ」

 そう言ったか言わないかののうちに咲の顔が近づいてきた。これはヤバい、と思ったときにはもう遅く、顔と顔はもうくっつきそうなくらいの近さになっていた。

「夕ごはんのナポリタン、おいしかったかしら?」

 そう言った直後、僕の唇のすぐ脇をペロッと舐めて、次に唇と唇を軽く合わせた。それはほんの一瞬だったはずだけど、僕には途方もなく長い時間に感じた。

「ケチャップがついていたわよ。
 小さい子供みたいでかわいいところがあるのね」

 そう言われた僕は慌てて口を手で拭う。同時に照れと恥ずかしさで顔が熱くなり、どうにもできなくてそのまま立ち尽くしていた。

 咲を挟んでその向こう側では、火にかけられたやかんが僕の気持ちを代弁するように蒸気を吐き出し始めていた。
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