こんな出来の悪い乙女ゲーなんてお断り!~婚約破棄された悪役令嬢に全てを奪われ不幸な少女になってしまったアラサー女子の大逆転幸福論~

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
上 下
72 / 76
第六章 二人だけの革命軍

72.血の楼上(バルコニー)

しおりを挟む
 前回と違い暴れて捕らえられたわけではないからか、今回は鎖でぐるぐる巻きにされることもなく檻の中に入れられただけだ。ここまではまあ想定通りなので打ち合わせ通りに行動を開始しよう。

 まずは檻を破壊して牢から出ると、相変わらず看守のいない通路を通って階段を上っていった。流石にエントランスには衛兵が数人立っていたが、身なりのせいか挨拶をしながらあるくと敬礼を返してくれるほど無警戒である。

 そのままあっさりと正門の裏までやってくるとさすがにさっき連行され通ったばかりなのを覚えている様子だ。

「もうお帰りになられるのですか?
 アーマドリウス子爵様からはなにも言われていないのですが……」

「ええ大丈夫よ、あなた達も別の場所へ行っていいわよ。
 これから門を壊すから怪我しないよう離れていてね」

「は? それはどういう――」

 門の衛兵が言葉を続ける前に私は扉を素手で殴り飛ばし一撃で破壊した。砕け散った扉が堀へと落ちていく。ちなみに前回砲撃で壊した城壁はすぐに直せなかったのか、今は石造りではなく木造だった。それを再び壊してしまい申し訳ない気もするが仕方ない。

 壊した門から表へ出た私は再び演説を始めた。目の前には連行されたときに後をついて来ていた群衆が群がっている。

「たった今、私は牢へ入れられました。
 しかしみなさんへ言葉を伝えるためにこうしてここへ戻ってきたのです。
 私へ力を分けてください!
 剣に負けない言葉の力を信じ後押ししていただきたいのです!」

 そう言ってから城へ向かって振り返る。ここでダメ押しだ。

「国王陛下! 顔をお見せください!
 なぜ実の兄を殺し裁かれるはずだったハマルカイト皇子へ譲位なさるのですか!
 殺人者の王が民を導くことが出来ますでしょうか!
 今ここで! 民衆の前でご説明下さいませ!」

 しかし当然のように国王が出てくるはずもなく、奥からコノモや他の貴族がやってきた。その中には王の遠縁にあたるプレバディス公爵もいる。彼の家系に譲位するならまだ納得がいくと言うものだ。

「これはこれは、アローフィールズ伯爵、一応お初ですな?」

「プレバディス公爵、お騒がせしております。
 私は今回の王位継承を受け入れることが出来ないためここへやってきました。
 公爵はご納得しているのでしょうか」

「はっはっは、私には発言権はございませぬよ。
 国王の決断をただ受け入れるのみです。
 ただ伯爵の言い分もわからないではない。
 ここはどうか穏便に済ませてはいただけぬだろうか」

「お気遣い感謝いたします。
 しかし私は国王の真意をここでお話しいただくまでは一歩も動きません。
 たとえ力ずくで排除しようとしても最後まで抵抗いたします」

 背後にはどんどん人が集まってくる。できればこの聴衆の前で国王に話をさせたいところだ。このまま玉座の間まで行って無理やり連れて来てもいいが、それでは武力行使を見せつけることになってしまう。

「趣旨は十分理解しました。
 ただ国王も病み上がりの身、あまり無理はさせられませぬ。
 少々高いが楼上ろうじょうからでもよろしいだろうか」

「民へ言葉をおかけくださるのであればどこからであろうと差支えございません。
 侯爵のお気遣いに感謝いたします」

 思わぬ展開だが国王が顔を出すのであれば何でも構わない。私は城門から堀を渡って群衆と共に国王を待つことにした。

 ほどなくしてバルコニーに国王が現れた。傍らにはハマルカイトもいる。あの顔を見るだけで吐き気がするくらい腹がたつが今は気にしている場合ではない。

「アローフィールズ伯爵よ、この度の行い覚悟の上と聞いた。
 その覚悟に免じてこの度の決定について説明しよう」

「国王陛下、お心遣い感謝いたします。
 そして騒動を起こしたこと、お詫び申し上げます」

「全ての民へ問おう。
 この国を建てたのは誰か、民を導いてきたのは誰か。
 人には生まれながらに役割と言うものがあるのだ。
 我々王族は全ての民を従え治め、糧をもたらしている。
 この国を統治できるのは王族だけなのだ」

 国王の演説に頷いている人たちもいるが、首を横に振っている人もいる。事前に行った私の演説は無駄でなかったようだ。そんな群衆の様子には目もくれず国王は言葉を続けた。

「確かに我が息子ハマルカイトは罪を犯したかもしれん。
 だがしかしそれは王族の中でのことであり、力関係を示す戦いでもある。
 そこまですることこそが王として民を治める覚悟とも言えよう。
 そして約束しよう、その力は決して民に向かって振るわれるものではないと言うことを!」

 まさか兄弟の殺し合いを肯定するとは考えてもいなかった。いくら大人しい王国民相手とは言え、これは受け入れがたいのではないだろうか。その証拠に昨日までであればここで大歓声でも起こったのかもしれないが、今は怒号のほうが大きいように感じる。

「国王陛下! 民は王族や貴族に従えられるために産まれてくるのではありません。
 一人ひとり同じ権利を持って産まれて来ているのです。
 産まれながらの役割などというものはございません!
 それに王位継承権を理由にした殺し合いが肯定されることもございません!
 なぜ肯定されるものならばタマルライト皇子は国王を助けたのでしょうか。
 あの時ハマルカイト皇子の手の者に暗殺されかけた国王のことを!」

「そ、それは……
 譲位が済んでいなかったからであろう……」

「しかしタマルライト皇子は継承権第一位でした。
 ハマルカイト皇子によって国王が暗殺されればご自身が国王となるはず。
 つまり王位欲しさに父親や兄弟を手に掛けるような人ではなかったと言うことに他ありません」

「それは結果論であろう。
 過去をさかのぼっても王位継承に血の争いは付き物なのだ!」

「では国のため民のためであれば民に討たれてもよろしいのですね?
 私が王族を討てば国は私の物でしょうか。
 いいえ、そうであってはなりません。
 国と言うものは、民が団結し平等を掲げ、話し合いによって統治されるべきだからです!」

「国と言うものは多くを統一した存在なのだ。
 統一すべき王がいなければまとまらず塵と消えることだろう。
 貴公の言っていることは絵空事にすぎぬ!」

「その王たるべく存在が身内殺しをするような者でも良いとおっしゃるのですか?
 一族の血にけがれたその手で幼子おさなごの手を引けるのでしょうか。
 慈愛を持って全てを包み込み守っていけるのは民の団結に他なりません」

 私の言葉に呼応するように、群衆が大きな歓声を上げた。これこそが民の団結だと言わんばかりの大声にたじろいだのか、国王は思わず衛兵へ向かって合図をする。その合図を受けて衛兵たちは私の前に集結し群衆を威嚇した。

 剣と槍が光を放ち背後の群衆が委縮するが、その威嚇を遮るように私は両手を広げ衛兵たちの行く先を遮って声を張り上げた。

「国王陛下! 民を恐怖で縛るのはおやめください!
 それは統治ではなく支配ではございませんか!」

「愛だの慈悲だのはまやかしである。
 それでは国を護ることはできないと言うのがなぜわからぬ。
 兵は恐怖ではなく力の証明であり、王国を護るために誇示することも必要なのだ。
 貴公が言う力の否定は民衆を扇動し破滅に導く行為に他ならない」

「民が自ら破滅へ向かうと考えることが思い上がりなのです。
 王も民も同じ人間、ならば同じように考えることが出来て当然とは考えられませんか?
 この際、まつりごとを民に委ね、民による国家樹立をお考えください!
 血塗られた我が子を王とするのは富と権力にしがみつく愚行でございます!!」

「ぐ、愚行とは無礼な!
 王国は王族の物なのだ! 後を継ぐのは王族でなければならぬのだ!
 すべての民は王に分け与えられる富で生きるものなのだぞ!」

 国王がそう言うと、群衆がいっそう声を張り上げて叫び始めた。何を言っているのか聞き取れるような統率されたものではなく、怒号というほかない怒りの声だ。

 その時突然、国王がバルコニーの手すりへもたれかかった。

「父上! いかがなされた!
 おい、具合が芳しくないようだ、奥へお連れしろ」

 ハマルカイトが慌てた様子で国王へ肩を貸している。長丁場の言論合戦に疲れてしまったのかもしれない。体調を心配しながら国王が引き上げるところを見ていたが、その背中に赤いものが広がっていることに気が付き、私は背筋が凍るような思いを感じたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

完膚なきまでのざまぁ! を貴方に……わざとじゃございませんことよ?

せりもも
恋愛
学園の卒業パーティーで、モランシー公爵令嬢コルデリアは、大国ロタリンギアの第一王子ジュリアンに、婚約を破棄されてしまう。父の領邦に戻った彼女は、修道院へ入ることになるが……。先祖伝来の魔法を授けられるが、今一歩のところで残念な悪役令嬢コルデリアと、真実の愛を追い求める王子ジュリアンの、行き違いラブ。短編です。 ※表紙は、イラストACのムトウデザイン様(イラスト)、十野七様(背景)より頂きました

悪役令嬢ってこれでよかったかしら?

砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。 場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。 全11部 完結しました。 サクッと読める悪役令嬢(役)。

身分違いの恋に燃えていると婚約破棄したではありませんか。没落したから助けて欲しいなんて言わないでください。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるセリティアは、ある日婚約者である侯爵令息のランドラから婚約破棄を告げられた。 なんでも彼は、とある平民の農家の女性に恋をしているそうなのだ。 身分違いの恋に燃えているという彼に呆れながら、それが危険なことであると説明したセリティアだったが、ランドラにはそれを聞き入れてもらえず、結局婚約は破棄されることになった。 セリティアの新しい婚約は、意外な程に早く決まった。 その相手は、公爵令息であるバルギードという男だった。多少気難しい性格ではあるが、真面目で実直な彼との婚約はセリティアにとって幸福なものであり、彼女は穏やかな生活を送っていた。 そんな彼女の前に、ランドラが再び現れた。 侯爵家を継いだ彼だったが、平民と結婚したことによって、多くの敵を作り出してしまい、その結果没落してしまったそうなのだ。 ランドラは、セリティアに助けて欲しいと懇願した。しかし、散々と忠告したというのにそんなことになった彼を助ける義理は彼女にはなかった。こうしてセリティアは、ランドラの頼みを断るのだった。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。 突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。 襲撃を受ける元婚約者の領地。 ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!! そんな数奇な運命をたどる女性の物語。 いざ開幕!!

処理中です...