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第六章 二人だけの革命軍

71.大げさな演説

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「―― と言うことがありました!
 それなのにこともあろうかその罪人は国王の座につこうとしています!
 国王は王位継承を自らの欲のために行おうとしている!
 自らの血筋を護るために殺人者を王にするつもりなのです!」

 王都について私が最初にしたことは広場での演説だった。すぐに人は集まってきてちょっとした騒ぎである。先日皇子が立て続けに無くなったことは事故と公表されていたようなので、今私が暴露した継承権争いによる殺人だと知れば世論に何らかの影響は出るだろう。

 ただ民衆には何の権限もないため騒ぎになったからと言って何かが変わるものではない。しかし民に疑問を投げかけることくらいはできると信じているのだ。

「皆さんは、兄殺しの王が統治する国でいいのでしょうか。
 罪を犯した我が息子でも国王にしようとする王を信頼できるのでしょうか。
 そんな欲にまみれた王族に期待できるのでしょうか!
 彼らは自分たちの富と権力にしか興味がありません!」

 初めての経験だけど演説と言うのは意外に気持ちが良い。大声で叫び民衆へ語りかけていると自分が物語の主人公にでもなった気分になる。しかし自己満足に酔ってはいけない。これはまだ入り口にしか過ぎないのだ。

 演説が長くなるにつれ人はどんどん集まってきて周囲と話し込む人や相づちを叫んでくれる人も出て来た。そろそろこの騒ぎは城まで伝わっただろうか。

「我々は戦わなければなりません!
 しかし武器は剣ではなく言葉です!
 声を上げ、真に民のためとなる国を作ろうではありませんか!
 この国は王族や貴族たちのものではない!
 すべての民のためにこの地はあるのです。
 いまこそ民のものは民へ取り戻しましょう!」

 観衆の熱気があがりつづけていくと自分にもその熱が伝わってくるようだ。最後に拳を高くつきあげると、おおー! という大きな歓声が広場を包んだ。

「こらあ! お前たち何をやっている!
 散れ! 解散しろ!
 そこのお前は連行する!」

 すると興奮した群衆が衛兵へ向かって暴言を吐いたり抵抗しようとしている。このままではけが人が出てしまうかもしれない。

「みなさん! 私を連れて行こうとしている人を責めないでください!
 彼らは王国のために職務を全うしようとしているだけなのです。
 自分たちを率いている国王が殺人者を次期国王にしようとしているなんて知らないのですから」

「なんだと!? お前は一体何者だ!
 民衆を扇動し騒乱を招いた罪だ、ついてこい」

「私はアローフィールズ伯爵、辺境の領主です。
 そして実の兄であるタマルライト皇子を殺害したハマルカイトを捕らえた者!
 正義の名の元に連れていくと言うなら従いましょう。
 では逮捕拘束の後、誰が私を裁くのでしょうか」

「殿下が殺人者!? それはまことでしょうか。
 あなた様は本当にアローフィールズ伯爵閣下なのですか?」

「封蝋印を照合しても構いませんよ。
 私は覚悟を持ってこの場に来ています。
 拘束するのであればしかるべき立場の者がここへ来るべきでしょう」

「はっ、かしこまりました。
 お伝えしてまいります」

 職務に忠実なせいか貴族に対して敬意を持ってくれるのは助かる。おかげでもう少し演説を続けられることが出来た。私は繰り返しハマルカイトの兄殺しと、王族が権力にしがみつくために殺人を不問にし次期国王への譲位を行おうとしていることを訴えた。

 多くの人が足を止めて話を聞いてくれ王族の横暴に言管理を感じてくれる。中にはそんなバカな話あるわけないなんて声も聞こえるが、今は民が疑問を持つだけでも十分だ。

「アローフィールズ伯爵、この騒ぎは一体なんだね。
 こんなことをしたらただでは済まないぞ?」

 ようやく迎えが来たようだ。群衆を割って入ってきたのは騎士団に警護されたコノモ・ルシ・アーマドリウスだった。怒りをあらわにしているように見えたが、心なしか悲しそうな表情にも思えてくる。

「コノモ様、私はこの度の一件が許せないのです。
 王族の横暴をどうしても民に知ってもらいたい、その想いでやって参りました。
 そのためなら自分の身がどうなっても構わないのです!」

 ちょっと大げさかもしれないが嘘はついていない。すると民衆からは歓声が上がった。

「皆の者、鎮まるのだ!
 伯爵は私と来ていただこうか」

「私はなにも間違ったことは言っておりません。
 どんな問いにも喜んでお答えいたします。
 民の平等のためにこの身を捧げるようにと遣わされたのですから恐怖はありません」

「遣わされた? 誰にだ?
 背後に誰かがついていると言うのか。
 それも含め中でゆっくり聞かせていただこう」

 コノモが私を連行しようと騎士団に囲ませようとしたその時、群衆の中にドレメル侯爵の顔が見えた。彼がどう出るかわからないが試してみる価値はある。先日会談した際に言っていたことが本心ならこの好機を生かしてくれるだろう。

 そう考えた私は演説を締めくくるためさらに大きな声を上げた。

「私を遣わしたのは天!!
 全ての大地は民の物!!
 天からの再分配を実現するため私は国王でさえ敵にするでしょう!!」

 この道化じみた宣言は群衆の心をうまくつかめたらしく、王都中央広場はより大きな歓声に包まれることとなった。ただ幾分か加熱しすぎな気もするのでこのままだと暴動が起きてしまうかもしれない。

「しかしくれぐれも軽はずみな行動を起こさないで下さい。
 暴力に頼るような行動は慎むようお願いします。
 慈愛、平穏、献身の心を大切にしてくれることを願っております」

 群衆の中で『女神だ』と言う声が上がった。おそらくドレメル侯爵かディオン子爵だろう。すると群衆はその言葉に追従し声が大きくなる。大勢が私を女神だと崇める中、騎士団は私を囲みコノモに率いられながら王城へと向かった。

 歩きながらすぐ隣にコノモがやってきてささやく。

「我が妹よ、なぜこんなことをしたのだ。
 国王が許すはずもないぞ?
 場合によっては死罪も免れん」

「今も私を妹と呼んで下さるのですか?
 お父様に捨てられる以前より家を棄て逃げた私なのですよ?
 お兄様にはお手を煩わせてもうしわけないと思っています。
 しかし私は逃亡の末に天より力を授けられたのです」

「それでお前は変わったと言うのか?
 にわかに信じられんが、別人のようになっているのもまた事実。
 本当はゆっくりと話がしたいが時間がもらえるかはわからん。
 願わくば極刑が言い渡されないことを望む、私のかわいい妹よ」

 まったく想定外もいいところだ。わがままな妹に振り回される優等生の兄、嫌われることはあっても好かれることなどないと思っていたのに。

 そう言えば私を甘やかしすぎてしつけなんてものを一切考えなかった両親に変わり、他人への接し方を諭してくれたのはコノモだった。機嫌に任せルモンドを叩いていたところを叱ってくれたこともあったっけ。

 きっと当たり前のことが出来ていないルルリラを気に入らないと言うごく当然の態度だっただけで、嫌っていたわけではなかったのだろう。そんなこともわからない、知ろうとしなかった幼少期のルルリラはやっぱりろくでもない人間である。

 懐かしさと嬉しさを感じながら城の中へと連れて行かれようやく現実へと帰る。今の私は反逆者として連行されている最中だったのだ。そのまま尋問室に連れて行かれるかと思ったがまずは牢獄へ拘留されることになった。
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