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第五章 戦いの日々

67.尊い時間

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 王都決戦から六日が過ぎ、私たちはようやく領地まで帰ってきた。戦には勝利したが今のところ得るものが少なくて足取りは重かった。

 だが一人も欠けることなく帰ってくることが出来たのは喜ぶべきことだし、ダグラスとその部下が加わってくれるのだからこれもめでたいことである。あとは後日頂けるであろう褒美に期待するしかない。

「ただ今戻ったわ。
 ジムジイ、馬の世話大変だろうけどお願いね。
 ダグラスは大人しくしてたかしら、まさかまた鉱山へ行ってないでしょうね」

「レン様おかえりなさいませ。
 すぐにお風呂の準備をいたしますね」

「ありがとうメアリー、まずは汗臭くて仕方ない男連中から入ってもらうわ。
 人数が多いけど着替えの用意できるかしら?」

「はい、いつお帰りになっても平気なように準備してございます。
 レン様の分はノルンたちが準備しお部屋へ整っております。
 針仕事を頑張ったようなので褒めてあげてくださいませ」

「わざわざ作ってくれたのかしら。
 それはうれしいわね、さっそく行ってみるわ。
 いつもありがとうね」

 笑顔でお辞儀をするメアリーを見ると心が安らぐ。とにかく今は自分に近い人たちだけでも、この先ずっと幸せでいてもらいたい。そんな思いで玄関を入るとサトとルアが駆け寄ってきた。

「レン様おかえりなさいませ。
 きっとお風呂は他の人へ譲って後に入るだろう姉さまが言ってました。
 だからお帰りが見えてから湯を沸かしていたんです」
「もう少しでおけにご用意できますからお部屋でおまちください。
 ノルンとアキが先にじゅんびしてます」

「みんなありがとうね、とても嬉しいわ。
 まずは体を拭いて一眠りしようかしら。
 夕方になったら一緒にお風呂へ入りましょうね」

 二人を伴って自室へ戻ると待ち構えていたノルンに全部脱がされて裸にされてしまった。そこへアキがひざまずいて丁寧に足元を拭いてくれる。なんだか妙な背徳感を感じながらもされるがままで任せていると次はお湯を貯めた桶に入れられた。

「わたしがせなかをお流しします。
 まかせてください」

 そういって最年少のサトが一生懸命に背中を流してくれた。さらにルア、アキ、ノルンとかわるがわる全身くまなく流してくれて身体はさっぱりキレイに、心もすっかり心地よくなったのだった。

「みんなありがとうね、もう大満足よ。
 それじゃ少し横になるわ、むさくるしいおじさんばかりの中にいたから疲れたわ」

 そういってベッドにドンっと腰かけてから横になった。ちゃんと布団へ入るのも面倒で足をぶらぶらさせていると、ルアが横へ飛び込んできて隣へ寝転がる。

「ああ、ルアずるいー、わたしもー」

 今度はサトが反対側に飛び込んできた。それを見てアキはアキを叱ろうかどうか考えているようだ。私は二人を引き寄せてからアキとノルンへ声をかけた。

「いいから二人も来なさいよ。
 みんな揃ってお昼寝しちゃいましょ」

 二人は見合って悩んでいるようだったが、すぐに笑顔でベッドへ寝転がった。五人並んで足をぶらぶらさせているのはとても楽しくて幸せなことだと感じる。

 はあ、これぞハーレムってやつなんだろう。かわいい子たちに囲まれて身の回りを世話してもらえる贅沢、すばらしい!

 私はその後すぐに眠りについた。この尊い時間を大切にしたいし、ずっと続けて行かれるよう頑張っていこうと思う。多分そんなことを考えているうちに眠ってしまった気がする。

 ところが――

「おい! ポポ! 起きろ! 今すぐ起きてくれ!」

「なあに? グレンなの? ここは男子禁制よ……
 まったくもう、駄目なんだからねえ……」

「寝ぼけてる場合じゃねえぞ!
 ゴーメイト皇子が死んだんだとよ!」

「えっ!? 何を言ってるのよ、まだ帰ってきたばかりじゃない。
 なにか事件が起きるにしても早すぎるんじゃない?」

「もうあれから六日も経ってるんだぜ?
 何があってもおかしくねえ、ってわけじゃねえらしい。
 今やってきた早馬の手紙を読んでみろ」

「もう、また勝手に開けたのね。
 私宛の手紙を先に開けないでよ!」

 寝ぼけていた照れ隠しもあって強い口調で文句を言ってから開封済みの手紙を読んだ。すると確かに国王のエンボス付きの便箋にはゴーメイト皇子が亡くなったと記されている。

 しかも死因は北の防衛線からの帰り道にぬかるみにはまって馬ごと山道から滑落したのだと書いてあるではないか。悲惨で悲しい出来事だが、いくらなんでもこの死に方は哀れで同情する。せっかく王位継承が決まって連れ戻されたと言うのにこんなことがあるのだろうか。

 それよりも国王は今後どうするのだろうか。これですべての皇子がいなくなってしまい後継者がいなくなってしまった。王族が養子をとって国を継がせるなんてことがあり得るとも考えづらい。と言うことは王の兄妹の子供を任命するのだろうか。

 確か国王には弟が二人いたと思うが、以前の戦争で亡くなっていたはず。もしかしたらそこに息子がいるのかもしれない。どちらにせよこれから何かが起こることは間違いなさそうだ。

「ねえグラン、これからどうなると思う?
 私たちはなにに備えて何をしたらいいのかな」

「そうだなあ、とりあえず一杯飲んでたらふく食って頭を休ませたらいいんじゃねえか?
 お前は大分頑張ったから疲れてるはずだぜ。
 なんでも自分で背負いこまないでもいいのさ」

「そうなのかしら。
 でも、準備不足がたたって誰かの身に不幸が起こったら嫌だもの。
 だから事前に出来ることはしておきたいのよ」

「だからよ、まずは自分の体を万全にしてから考えようぜ。
 夕食の後に会議ってことでよ。
 ほれ、おチビさんたちも腹減ったって顔してるだろ?」

「そうね、腹が減っては戦はできぬって言うものね。
 考えるのはその後にするわ。
 みんな、行きましょ」

 決して心配事が無くなったわけではないが、ひとまずは気持ちも落ち着いてきた。グランの言う通りしっかり食べて頭を休めてから今後について話し合うことにしよう。


 夕食の後、テーブルには私、グラン、ルモンド、そして騎士団長や部隊長たちが勢ぞろいした。その中には少し前から部隊長を任せるようになったカウロスや、今日から正式に配下となったダグラスもいる。

「それでは始めましょうか。
 と言っても具体的に何かが起こっているわけじゃないのよね。
 これから起きそうな出来事を想定しておくのとそれに対する備えを考えるって感じね」

「何も起きていなことに対しての備えですか。
 姫様は相変わらず無茶を言いなさる。
 やはり王位をどうするかは非常に気になるところですなあ。
 国王の弟君であるカイライト大公のご子息にフラー子爵がおりましたが現在は行方知れずです」

「やはり前回の戦争で?
 今お幾つぐらいなのかしら」

「前回の戦争で大公がお亡くなりになった後、大公妃と共に出奔し行方が分かっておりません。
 確かあの時も反乱騒ぎがあったはずで、大公妃は命を狙われているとの噂がありました。
 無事に逃げおおせたのかどうかはわかりません。
 それももう三十年以上前の話ですから探し出すのは無理でしょうな」

「じゃあグランと同い年くらいなのね。
 グランがそのフラー子爵だったってことにして王位についちゃうのはどうかな」

「バカ言うな、そんなことできるわけないだろ。
 大体騙るにしたってどうやってフラー子爵だって証明するんだよ。
 もうちょっとまじめに考えようや」

 ファンタジーノベルなんかだとここで王族の証の短剣とか体に特徴のある痣や刻印があるなんて話が多いけどそんなうまい話があるわけもなく、盗賊だった当然グランはフラー子爵ではない。まあなんとなく言ってみただけの夢物語だ。

 結局この夜の会議では何も決まらず、王都で何か動きがあった時にすぐ動けるよう準備しておくくらいの話をした程度で解散となった。
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