こんな出来の悪い乙女ゲーなんてお断り!~婚約破棄された悪役令嬢に全てを奪われ不幸な少女になってしまったアラサー女子の大逆転幸福論~

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
上 下
66 / 76
第五章 戦いの日々

66.最終決戦

しおりを挟む
 床に敷かれた真っ赤な絨毯の上はいま異質な空間となっている。周囲ではグランとルモンドがハマルカイトたちの護衛騎士と戦闘を繰り広げている。二人とも半端な強さではないが、それでも十数人を相手にいつまで持ちこたえられるかわからない。

 だがすぐには助けに行けそうにない。なんといってもこの部屋中央では静かに殺意が飛び交う恐ろしい出来事が進んでいる最中なのだ。

「さあルルー、大人しく討たれてしまうんだ。
 一撃で済むからきっと痛みは一瞬さ」

「なんでそう思うのかしら?
 私は国王になんの義理も思い入れもないわ。
 あなたの警告を無視してこのまま進むこともできるのよね」

「なにひどいことをさらっと言っているんだ。
 結局耳触りのいいことを言ったとしても人の本質は変わっていないと言うことか。
 やっぱり君はクズのままなのさ」

「では一つ聞くけど、私を殺した後は国王をどうするの?
 まさか治療して丁重に扱うなんてことあるのかしら。
 このままだとゴーメイト第六皇子が王位継承するんでしょうに。
 つまりあなたは父親である国王を殺してもう一人の兄も殺すしかないってことよ」

「まあ普通に考えたらそうなるね。
 君も物事を考えて判断するようになったのか。
 常に力で解決しようとしているのだとばかり思っていたよ」

 まったくハマルカイトのルルリラへ対する憎悪は相当なものだ。今まで相当いじめられてきたことは知っているが、その行動しかわからず彼の心中は知るすべもない。ここまで憎み恨んでいてよく十二歳になるまで婚約破棄してこなかったものだ。

 その我慢強いハマルカイトもそろそろ限界のようだ。イライラしている様子が手に取るようにわかる。そしてとうとう右手を上げて声を張り上げた。

「やれ! ゴリヤテ!
 その女を殺してしまえ!」

 その瞬間、大男の持った鉄の棍棒が私の真横から襲いかかってきた。確かにこれはすごい力だと認めるしかないほど思い切り殴られて、私は部屋の端までふっとばされて家具を跳ね飛ばしながら壁にぶつかり止まった。

「ポポ!!」
「姫様!!」

 二人の叫ぶ声が聞こえる。はたから見たら即死だろうがまだ死ぬわけにはいかない。私はゆっくりと立ち上がった。

「な、なんだと、この化け物め!
 ゴリヤテ! 何をしている、早くやってしまえ!」

 私のところへ走ってきた大男に再び殴りつけられ同じように壁まで吹き飛ばされる。それでも私はまた立ち上がった。せっかくのドレスがびりびりに破れ埃まみれになってしまった。

「な、なにしてるの?
 意外に大した、こと…… ないわね」

 力なく、しかしまだやれると強がってみせるとゴリヤテという大男は再び走り寄ってくる。そのまま棍棒を振り回し私を殴りつける瞬間、私は前に倒れたので棍棒は半端にカスって今度は壁まで吹き飛ばされずにほんの少しだけ転がって止まった。

「なんだ、もう虫の息だったのか、この化け物め!
 さすがにもう死んでいるだろうよ」

 ハマルカイトはそう言いながら、足元に転がっている私を見おろし頭を何度も踏みつける。

「捕まえた。
 言っておくけど私は一歩も動かなかったんだからね」

 ハマルカイトの足首を掴んだ私はそのまま起き上がり、一歩も動かずに振り回してトーラスへぶつけた。二人はくっついたまま部屋の端まで飛んで行って壁にぶつかりぐったりしたまま動かなくなった。

「死んでないといいのだけど大丈夫かしら。
 ねえあなたはどう思う? これくらいじゃ死なないものかしらね」

 目の前に立ちすくむ大男へ向かって話しかけてから、私は一歩、また一歩と近づいて行った。私が進むごとに下がっていくゴリヤテだったが永遠に下がりつづけられるわけもなく、背中を壁につけたところで足を止めた。

「やられた分はお返ししないと気が済まないのよね。
 三回は殴らせてもらえるかしら?」

「ふ、ふざけるなああ!!」

 ゴリヤテは手に持った棍棒を私の頭上へ振り下ろした。その棍棒をバンザイしながら受け止めたものの、その破壊力は相当なもので、私は床へめり込んでしまった。

「これで四回ね、さああ私の番よ」

 頭上の棍棒を力ずくで取り上げた私は両手を広げてから思いっきり力を入れて捻じ曲げた。真っ二つに折れ曲がった棍棒を後ろへ放り投げると、玉座の間の中央付近へ落下して大きな音を響かせる。周囲で剣を落とす音が聞こえてくるが何が起きているのかは大体想像がつく。

「ちょっと背が高すぎて届かないわね。
 悪いけどしゃがんでもらえるかしら?」

 手の届く高さにある膝の横を軽くビンタすると大男は膝をついた。これなら十分手が届く。次にほっぺたを叩くとその場でキリモミしながら浮き上がり、空中で数回転したあと床へと落下した。男は泡を吹いてそのままピクリとも動かない。

「もう、四回叩かせてって言ったのにまだ二回よ?
 こんなに大きな体してるのに情けないわねえ。
 さあ次は誰かしら?」

 そう言って振り向くと、立っているのはグランとルモンドだけで他の騎士たちは全員ひざまずいて命乞いをしていた。どうやら無事に終わったようで何よりである。

 私はバルコニーへ出ると勝ち名乗りを上げた。階下では仲間たちが大はしゃぎである。トーラス軍やハマルカイトの私兵の中には諦めきれず抵抗する者もいたが数は多くなくすぐに鎮圧された。

 城内は大混乱の装いだが、しばらくするとアーマドリウス公爵、ドレメル侯爵、ホウライ伯爵がやってきて沈静化を図る。もちろん王国軍騎士団長も懸命に混乱を治めようと尽力し、夜遅くになってからではあるが王都の混乱はようやく収まりを見せた。

 いたるところが破壊されているが他に適当な場所もなく、しかたないので王城で緊急の貴族会合が開かれた。前回の会合から数日しかたっていないのですべての領主はまだ王都に滞在しておりすぐに集まることが出来た。

 こうして戦後処理のために会合が緊急招集されたおかげで深夜まで拘束されることとなったのだが、私と言えば重要な会議の席だと言うのに眠くて仕方がなく、何度もテーブルに突っ伏して頭をぶつけていた。

「レン殿はそろそろお寝むのご様子ですな。
 大筋はこのくらいにして明日以降また場を設けるとしませんか?」

「タバス様、お気遣い痛みいります。
 人員については、トーラス軍より少量の兵をいただければ後はお任せいたします。
 領地に関しては鉱山と人足を頂きたいと考えておりますがいかがでしょう」

「新参のくせに欲張り過ぎではないか?
 あまり生意気だと叩かれる元となりますぞ?
 子供はもう少し控えめなほうがいい」

 会合が始まってからずっと不機嫌そうなエラソ侯爵がここでもいちゃもんをつけてきた。どうもこの方は他人の利益が気に食わないらしい。まったく心が狭いお人だと呆れてしまうがさすがに顔へは出せないので愛想笑いでごまかしてみた。

 するとモンドモル公爵も同意見だと言いだした。このままでは揉めそうな気配だが、トーラス卿をいち早く討ったのは私たちだし、反ハマルカイト派にとっては窮地を救われたも同然なのだからこちらに味方してくれてもいいはずだ。

 するとアーマドリウス公爵が、人員は騎士団一個小隊分をアローフィールズ家へ、残りは王国騎士団へ編入、鉱山や領内の村に関しては国王の回復を待って褒美として希望してみるのが良いのではないかと提案した。

 この案にはエラソ侯爵以外全員が賛成し、私は無事ダグラス・ホーンとその部下たちを配下に加えることが認められる事となった。領地へ帰ったらさっそく教えてあげよう。

 それにしてもいつも不機嫌で反対ばかりのエラソ侯爵は困ったお人だ。こんなのが御三家として権力を持っているのだから王国貴族主義はダメになるのだ。ここでもうひと暴れして王国自体を滅ぼすこともできるかもしれないが、武力によるクーデターでは民衆の支持は得られまい。

 私は帰ってからしばらくはゆっくりしたいと思いつつ、会合が終わる頃にはすっかり寝入ってしまったのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

完膚なきまでのざまぁ! を貴方に……わざとじゃございませんことよ?

せりもも
恋愛
学園の卒業パーティーで、モランシー公爵令嬢コルデリアは、大国ロタリンギアの第一王子ジュリアンに、婚約を破棄されてしまう。父の領邦に戻った彼女は、修道院へ入ることになるが……。先祖伝来の魔法を授けられるが、今一歩のところで残念な悪役令嬢コルデリアと、真実の愛を追い求める王子ジュリアンの、行き違いラブ。短編です。 ※表紙は、イラストACのムトウデザイン様(イラスト)、十野七様(背景)より頂きました

悪役令嬢ってこれでよかったかしら?

砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。 場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。 全11部 完結しました。 サクッと読める悪役令嬢(役)。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

【完結】22皇太子妃として必要ありませんね。なら、もう、、。

華蓮
恋愛
皇太子妃として、3ヶ月が経ったある日、皇太子の部屋に呼ばれて行くと隣には、女の人が、座っていた。 嫌な予感がした、、、、 皇太子妃の運命は、どうなるのでしょう? 指導係、教育係編Part1

処理中です...