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第五章 戦いの日々
58.三つ巴
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野外では満足な調理ができないという当たり前のこと以前に、そもそも調理道具を持ってきてないし料理が出来る者が私を含めて数人しかいないという不自由の中、それでも全員の士気が高いままなのは嬉し師ありがたい。
思ってもみなかったドレメル侯爵からの共闘の申し出は、これから王国がどうなるかにも左右するであろう重要な出来事だった。トーラス卿との関係性から考えれば断る理由は無いのだが、ドレメル侯爵が最終的に描いている絵図を知らないことには話を進められない。
「うーむ、わたくしとしては姫様のお考え同様、侯爵はゴーメイト皇子を推していると思います。
もちろん当面共通の敵であるトーラス卿やハマルカイト皇子に対しては共闘すべきでしょうな」
「俺は賛成できねえぜ。
もし数日以内に戦が始まってもやつらが来る前にカタがつく。
終わった後に共闘するとの盟約があれば戦後賠償を横取りされるぜ?
むろん俺がドレメル侯爵をよく知らないからってのも理由の一つだがな」
「それでは間を取りましょうよ。
協力関係ではあるけど共闘はしない。
ドレメル侯爵の軍にはモンドモル軍を牽制して王都進軍させないようにしてもらうのよ。
トーラス軍とハマルカイトの私兵だけなら私たちと王国軍で有利に戦えるわ」
「北のエラソ侯爵と東のラギリ伯爵たちの軍はどうするんだ?
トーラス領まではかなりあるが一応王都隣接だぞ。
そっちは王国軍に任せるのか?」
「どちらも大した数ではないし、エラソ卿は北の国境も監視しないといけない。
うかつに進軍したら北からの侵攻を許すことになるもの。
ラギリ伯爵家は没落寸前だったから大した戦力は無いと聞いているわ。
その程度に負ける王国軍ならどちらにせよタマルライト皇子に未来はないでしょ」
「まあ我々にすればどちらの皇子が王になろうと大差はございませんからな。
他の領主のことはトーラス卿を討ってから考えても十分かと」
「では方針は決まったわね。
今日中には迎えが来ると思うけどどちらがついて来てくれるのかしら。
ちなみにさっき街でお酒を買ってきたから全員一杯ずつくらいは飲めるわよ」
「ぐっ、お供に行けばいい酒が出るかもしれねえがお茶かもしれん。
残れば確実に安酒が飲めるということか」
「グラン殿、いいところを持って行ってばかりで申し訳ないが私が参りましょう。
どうか今晩はゆるりと一杯やってください」
「ルモンド殿、いつも申し訳ねえ。
くれぐれもポポのやつを頼む、絶対に暴れさせないように」
「何言ってるのよ、失礼ね!
私がいつ暴れたって言うのよ!」
そう言いながらグランへ向かって拳を突きだした。もちろん数メーターは離れているので本当に殴るつもりではなくただのポーズだ。しかしグランはなぜか勢いよく真後ろへ飛んでいき、大きな木へぶつかって止まった。そしてそのままぐったりして起き上がろうとしない。
「ちょっとグランたら何ふざけてるのよ。
この距離で当たるわけないでしょ?」
駆け寄って揺さぶってみるがピクリとも動かない。動揺しながら口元へ手を当てると息はしているようだ。誰かが水を持ってきてくれたので飲ませてみるが飲みこまずに首元へこぼれていくだけである。
そこへルモンドが来てくれて、なにか試験管のようなものを鼻へ近づけた。するとグランはむせながら目を覚ましたのだった。
「おお、気付けが効きましたな。
無事で何よりです」
「バカヤロウ…… これで三度目だからな……
向かう時も馬から落ちそうになってまさかとは思ってたんだが……」
「ええ!? あの時ってふざけてたんじゃなかったの!?
まさか当たってもいないのにこんなことになるなんて思ってなかったのよ……
ごめんね、グラン、痛かったでしょ……」
「木にぶつかった時に頭を打っちまったせいだな。
おお、ビックリしたぜ。
ちょっと上の枝めがけて同じようにやってみろよ」
私は頷いてからはるか上空にある木の枝向って拳を突き上げた。すると――
『バサッ、バキバキ』
周囲の木々ごと大きく揺れ、枝が数本折れて大量の葉と共に頭上から降り注いだ。いったいこれはどういうことなのだろうか。私は恐る恐る振り返り、みんなの顔を見ながら自分を指さした。
すると全員が一斉にうんうんと頷くのだった。この光景、以前にも見たことがある…… もうこうなったらどうにでもなってしまえ。私には制御できない不思議な力が働いているのは間違いないが、それが何かを考えたとしても何の意味もない。
私はうなだれながらそこらじゅうに散乱した葉っぱを踏みつけながら歩いていると、馬車が走ってくる音が聞こえてきた。陽はまだ高く夕方前と言ったところなので思ってたよりも早い迎えだ。
馬車が止まり中から高貴そうな出で立ちのイケオジが出て来た。どうやら騎士ではなくドメレル公爵配下の貴族のようである。
「アローフィールズ伯爵閣下、お迎えに上がりました。
わたくしドレメル侯爵にお仕えしておりますキマタ・ラ・ディオンと申します。
侯爵は王都内の別宅でお待ちでございますのでご同行いただけますでしょうか」
「お迎えありがとう、それではうかがいましょう。
もしかしてあなたはビスマルク先生のご子息かしら?」
「アローフィールズ閣下は卒業生ではなさそうですが父をご存じなのですね。
父は相変わらず元気に教鞭を振るっております」
「私は学園の中退者だからね……
まあそんなことはさておき向かいましょうか。
侯爵にお会いできるのが楽しみだわ」
キマタに手を引かれ馬車へ乗り込むと続いてルモンド、そしてモーデルが乗ってきた。
「ちょっとモーデル? なんであなたまで乗ってくるのよ。
ちゃんとお留守番してなさいな」
「でもお、ずっとここにいるの飽きてしまったの。
わたくしもたまにはお出かけしたいですう」
遊びに行くわけじゃないんだけどなんだか梃子でも動かないような雰囲気である。キマタのほうを見ると不思議そうな顔をして訪ねてきた。
「閣下? この方はどなたなのでしょうか。
兵卒には見えませんがまさか……」
「違う違う! へんなこと想像しないで!
こちらはトーラス卿のご息女でモーデルよ」
「はて? モーデル様とは先日城でお会いしましたがお顔が大分違うような……
別人ではございませんか?」
「ちょっと事情があってね、向こうは偽物なのよ。
仕方ない、それも含めて話してみることにするか……
モーデル、あなたも来ていいけど大人しくしているのよ?」
「はーい、馬車に乗るのも久しぶり。
ちゃんといい子にしてますねえ」
もう急にあれこれあり過ぎて疲れてきた。せっかく考えがまとまったはずなのにまた混乱しているが、いったいどうすればいいのだろう。いくらグランを吹き飛ばしても全然晴れることの無いこの気持ち。悩めば悩むほど悩み事だけが増えていくことに、また悩むのだった。
思ってもみなかったドレメル侯爵からの共闘の申し出は、これから王国がどうなるかにも左右するであろう重要な出来事だった。トーラス卿との関係性から考えれば断る理由は無いのだが、ドレメル侯爵が最終的に描いている絵図を知らないことには話を進められない。
「うーむ、わたくしとしては姫様のお考え同様、侯爵はゴーメイト皇子を推していると思います。
もちろん当面共通の敵であるトーラス卿やハマルカイト皇子に対しては共闘すべきでしょうな」
「俺は賛成できねえぜ。
もし数日以内に戦が始まってもやつらが来る前にカタがつく。
終わった後に共闘するとの盟約があれば戦後賠償を横取りされるぜ?
むろん俺がドレメル侯爵をよく知らないからってのも理由の一つだがな」
「それでは間を取りましょうよ。
協力関係ではあるけど共闘はしない。
ドレメル侯爵の軍にはモンドモル軍を牽制して王都進軍させないようにしてもらうのよ。
トーラス軍とハマルカイトの私兵だけなら私たちと王国軍で有利に戦えるわ」
「北のエラソ侯爵と東のラギリ伯爵たちの軍はどうするんだ?
トーラス領まではかなりあるが一応王都隣接だぞ。
そっちは王国軍に任せるのか?」
「どちらも大した数ではないし、エラソ卿は北の国境も監視しないといけない。
うかつに進軍したら北からの侵攻を許すことになるもの。
ラギリ伯爵家は没落寸前だったから大した戦力は無いと聞いているわ。
その程度に負ける王国軍ならどちらにせよタマルライト皇子に未来はないでしょ」
「まあ我々にすればどちらの皇子が王になろうと大差はございませんからな。
他の領主のことはトーラス卿を討ってから考えても十分かと」
「では方針は決まったわね。
今日中には迎えが来ると思うけどどちらがついて来てくれるのかしら。
ちなみにさっき街でお酒を買ってきたから全員一杯ずつくらいは飲めるわよ」
「ぐっ、お供に行けばいい酒が出るかもしれねえがお茶かもしれん。
残れば確実に安酒が飲めるということか」
「グラン殿、いいところを持って行ってばかりで申し訳ないが私が参りましょう。
どうか今晩はゆるりと一杯やってください」
「ルモンド殿、いつも申し訳ねえ。
くれぐれもポポのやつを頼む、絶対に暴れさせないように」
「何言ってるのよ、失礼ね!
私がいつ暴れたって言うのよ!」
そう言いながらグランへ向かって拳を突きだした。もちろん数メーターは離れているので本当に殴るつもりではなくただのポーズだ。しかしグランはなぜか勢いよく真後ろへ飛んでいき、大きな木へぶつかって止まった。そしてそのままぐったりして起き上がろうとしない。
「ちょっとグランたら何ふざけてるのよ。
この距離で当たるわけないでしょ?」
駆け寄って揺さぶってみるがピクリとも動かない。動揺しながら口元へ手を当てると息はしているようだ。誰かが水を持ってきてくれたので飲ませてみるが飲みこまずに首元へこぼれていくだけである。
そこへルモンドが来てくれて、なにか試験管のようなものを鼻へ近づけた。するとグランはむせながら目を覚ましたのだった。
「おお、気付けが効きましたな。
無事で何よりです」
「バカヤロウ…… これで三度目だからな……
向かう時も馬から落ちそうになってまさかとは思ってたんだが……」
「ええ!? あの時ってふざけてたんじゃなかったの!?
まさか当たってもいないのにこんなことになるなんて思ってなかったのよ……
ごめんね、グラン、痛かったでしょ……」
「木にぶつかった時に頭を打っちまったせいだな。
おお、ビックリしたぜ。
ちょっと上の枝めがけて同じようにやってみろよ」
私は頷いてからはるか上空にある木の枝向って拳を突き上げた。すると――
『バサッ、バキバキ』
周囲の木々ごと大きく揺れ、枝が数本折れて大量の葉と共に頭上から降り注いだ。いったいこれはどういうことなのだろうか。私は恐る恐る振り返り、みんなの顔を見ながら自分を指さした。
すると全員が一斉にうんうんと頷くのだった。この光景、以前にも見たことがある…… もうこうなったらどうにでもなってしまえ。私には制御できない不思議な力が働いているのは間違いないが、それが何かを考えたとしても何の意味もない。
私はうなだれながらそこらじゅうに散乱した葉っぱを踏みつけながら歩いていると、馬車が走ってくる音が聞こえてきた。陽はまだ高く夕方前と言ったところなので思ってたよりも早い迎えだ。
馬車が止まり中から高貴そうな出で立ちのイケオジが出て来た。どうやら騎士ではなくドメレル公爵配下の貴族のようである。
「アローフィールズ伯爵閣下、お迎えに上がりました。
わたくしドレメル侯爵にお仕えしておりますキマタ・ラ・ディオンと申します。
侯爵は王都内の別宅でお待ちでございますのでご同行いただけますでしょうか」
「お迎えありがとう、それではうかがいましょう。
もしかしてあなたはビスマルク先生のご子息かしら?」
「アローフィールズ閣下は卒業生ではなさそうですが父をご存じなのですね。
父は相変わらず元気に教鞭を振るっております」
「私は学園の中退者だからね……
まあそんなことはさておき向かいましょうか。
侯爵にお会いできるのが楽しみだわ」
キマタに手を引かれ馬車へ乗り込むと続いてルモンド、そしてモーデルが乗ってきた。
「ちょっとモーデル? なんであなたまで乗ってくるのよ。
ちゃんとお留守番してなさいな」
「でもお、ずっとここにいるの飽きてしまったの。
わたくしもたまにはお出かけしたいですう」
遊びに行くわけじゃないんだけどなんだか梃子でも動かないような雰囲気である。キマタのほうを見ると不思議そうな顔をして訪ねてきた。
「閣下? この方はどなたなのでしょうか。
兵卒には見えませんがまさか……」
「違う違う! へんなこと想像しないで!
こちらはトーラス卿のご息女でモーデルよ」
「はて? モーデル様とは先日城でお会いしましたがお顔が大分違うような……
別人ではございませんか?」
「ちょっと事情があってね、向こうは偽物なのよ。
仕方ない、それも含めて話してみることにするか……
モーデル、あなたも来ていいけど大人しくしているのよ?」
「はーい、馬車に乗るのも久しぶり。
ちゃんといい子にしてますねえ」
もう急にあれこれあり過ぎて疲れてきた。せっかく考えがまとまったはずなのにまた混乱しているが、いったいどうすればいいのだろう。いくらグランを吹き飛ばしても全然晴れることの無いこの気持ち。悩めば悩むほど悩み事だけが増えていくことに、また悩むのだった。
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