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第四章 出戻り貴族

40.計画

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 グランが三人分のお茶を淹れ私とルモンドの前へ出してくれる。その後自分のお茶を持って席に座ると続きを話しはじめた。

「忍び込むなんて面倒なことせずに相手を全滅させる方法があるぜ。
 しかも上手く良きゃ事故だと思わせられる妙案さ」

「ちょっとグラン? それ本当なんでしょうね。
 領主自ら夜襲を仕掛けたなんてばれたら取り繕うのが大変なのよ?」

「まあまずは二人とも聞いてくれよ。
 カメル卿の屋敷は王城にも負けない鉄壁の守りが自慢だ。
 北と西側は岩山で東側には高い石壁がある。
 唯一の出入り口は南側だがでけえ堀と跳ね橋があるって構造になってる。
 ちなみにその内側にはギャクハーン男爵をはじめとする配下の屋敷がある」

「グラン男爵、随分とお詳しいですね。
 以前から諜報活動でもされていたのですか?」

「そうよ、色々と知っていたならルモンドに調べてもらう必要なかったじゃない。
 なんで先に言わないのよ!」

「落ち着けっての。
 実はキャラバンのリーダーはカメル卿へ使えているセイサミ家の五男坊なんだ。
 とは言っても家からは勘当されているけどな。
 今回の件で何か役に立つかもしれねえと中のことを聞いておいたのさ。
 だが現在の内部情勢はまったく知らねえとよ」

「キャラバンのリーダーが元貴族だなんて驚きね。。
 それよりも、私がキャラバンのリーダーだと思ってた女性は奥様だったのかあ」

「いやあ、あの年増っぽいやつがリーダーで間違いねえ。
 あいつ実は男なんだ」

 私は驚きのあまり開いた口がふさがらなくなった。自分の領地が攻め込まれようとしていると聞いたよりもはるかに。この国は保守的な封建社会だから、もしかしてそれが原因で勘当されたのかもしれないと頭をよぎったが、これ以上首を突っ込む気はせず黙っていることにした。

「それはどうでもいいとして、西側の岩山裏は石切り場として開発されている。
 んでもってそこに上まで登るルートがあるんだよ。
 カメル卿の屋敷は北と西の岩肌沿いの角、ギャクハーン卿の屋敷はその西側の岩肌沿いにある」

「だから真上から奇襲するってこと?
 突入しないって言うのはどういう意味なの?」

「簡単な話さ。
 岩山を崩して全部埋めちまえばいい。
 と言うより崩れたように見せかけて大岩の雨を降らせるのさ」

「それを私にやれと?
 私人殺しってやりたくないのよね。
 考えが甘いかもしれないけど、できれば…… ね」

「まあそりゃそうか。
 それなら屋敷を混乱させる程度で構わねえよ。
 あそこの屋敷は全部石造りらしいからペチャンコになることはねえさ。
 やつらがうろたえてる間に俺たちで始末してくるぜ」

 今後革命を起こすことになればきっと多くの血が流されるだろう。きれいごとかもしれないけど、もしその時が来ても出来る限り殺傷はせずに済ませたいと考えている。それは自分がまだ子供で覚悟が出来ていないと言うことかもしれないし、近代文明で育ってきた記憶がまだまだ強く残っている影響かもしれない。

「では屋敷への襲撃はグラン殿が引き受けてくださいますか?
 わたくし共はやつらが先に手を出すよう仕向けてみましょう。
 その上で出立直前に跳ね橋を破壊します」

「そりゃいいな。
 こちらの領地へ攻め込むことが出来なきゃ被害もないってもんだ。
 狙いはギャクハーン男爵だけでいいか?」

「そうね、カメル卿やお子さんは被害者みたいなものかもしれないし。
 それと腕のいいお医者様の手配も考えておいて。
 遅行性の毒ならまだ助かるかもしれないわ」

 こうして私たちはさらに綿密な計画を練り、岩山の下見や人や物の出入りを見張ったりしながらその時を待つのだった。なんせ相手の出方次第なので実行がいつになるか全くわからない。となると大切なのは諜報活動なのである。

 ルモンドはキャラバンでカメル卿領地の村人と交流する西の村の人たちに金の粒を持たせ買い物に使わせることで新たな金山が見つかったと言う噂を流していた。この策は効果てきめんで噂は瞬く間に広がり、いつの間にか領内の東の村でも噂になるほどだった。

「それにしてもみんな噂話が好きねえ。
 それともお金の話が好きなのかしら」

「その両方ではないでしょうか。
 いくら村では物々交換が主体とは言え金は富の証ですからね」

「まあそれもそうね。
 今後は村の余剰物資を現金で買い付けることも検討しようかしら。
 そこからなにか新しいことが生まれるかもしれないわ。
 自分でキャラバンに出店したりなにか商売を始めたりとかね」

 盗賊だったグランたちもルルリラの身代金としてせしめた大金を元に宿屋を始めたくらいだ。人生切っ掛けなんてどこに転がっているかわからない。その可能性を広げるためにお金と言うアイテムを手にして考えることも悪くないだろう。

 あれこれと策を巡らせはじめて約二か月が過ぎ、その間に私は十四歳になっていた。しかしカメル卿陣営に動きはなく、実は考えすぎだったのか、それとも向こうの計画がとん挫したのかと悩む時間も増えている。

 そんなある日――

「レン様! 動きました!
 カメル卿の砦内で兵が陣を組みながら集結しております。
 内通者によるとやはり行き先はアローフィールズ領とのこと。
 西の村へ攻め込むつもりのようです」

「とうとうこの日が来たのね。
 出来るだけ殺傷は避けるように、でも自分の身が第一だとみんなに伝えてね。
 堀へ落とすだけなら死ぬことは無いでしょうけどくれぐれも油断の無いように頼むわ」

「はっ! もちろんでございます。
 このルモンド、必ずやお望みの結果となるよう尽力いたします!
 相手陣営が出立したところで跳ね橋を破壊しますので後はお願いいたします」

「任せておいて!
 この日のためにちゃんと練習してきたんだから頑張っちゃうわよ!」

 ルモンドの報告を合図に私たちはそれぞれも持ち場へと向かった。カメル卿の兵隊たちが屋敷と言うか砦を出る前に行動しなければならない。すぐにグランと合流し石切り場のある岩山へと馬を走らせる。

「絶対折れないように柄まで鉄でできてる斧を作っておいたぜ。
 心置きなくぶちかましてやれ。
 あとはトビヨたちが落石の騒ぎに乗じてギャクハーン男爵を始末する手はずになってるからな」

「くれぐれも下敷きにならないようにしてよ?
 岩がどこへ落ちるかなんて誰にもわからないんだからね」

「そんなマヌケはいねえよ。
 んで息子はさらっちまっていいんだな?」

「ええ、予定通りに行きましょう。
 良く話を聞いて、関与の度合いによって処罰を決めることにするわ」

 数時間後、私たちは岩山へ到着しその時を待つのみとなった。果たしてうまくいくかどうか。初めての攻城戦に私の喉は乾き手には汗がにじむのだった。
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