上 下
29 / 76
第四章 出戻り貴族

29.いざ王都へ

しおりを挟む
 あくる日私のところへ隣国の王都から手紙が届いた。もちろん先日話したことの続きだ。馬車の中で使者へ託したアーマドリウス家への注文はほぼすべてが受け入れられた。つまりルルリラという人物を売り渡した対価に貰い受けるものが決まったと言うことになる。

「ポポ、内容はどんなだ?
 騙されたりひどい目にあったりしなそうか?」

「そうね、おおむね問題ないかしら。
 予定通りグランは私の配下の貴族になるんだからね」

「へいへい、わかりやしたよ閣下」

 と言うわけであらかじめ決まっていた領地以外にも伯爵の地位を貰えることになった。お金を含む資産も相当量が約束されたのでしばらくは利益度外視で行動していても問題なさそうだ。ただすべてが通ったわけではなく、グランの子爵は却下され男爵どまりだったのは残念である。

 まあ配下の貴族の爵位に関しては飾りみたいなものだし問題はない。それよりも元からいた貴族たちを全員引き取って貰えたのが何より喜ばしかった。これで信頼できない配下に寝首をかかれる心配もないし、思い入れもないの人たちの面倒を見る必要もない。

 代わりにアーマドリウス家からルモンドを貰い受けることは承知してもらえたし、村二つに鉱山ひとつという領地の規模から言っても直属に二人の男爵、その下に騎士団や兵卒を従えてもらえれば十分だ。

 任命式はゲストを入れて大々的にやる物ではなく形式上仕方なくする物らしいので、ハマルカイトのバカ皇子にも顔をあわせないで済むことを期待している。

 私が正式にルルリラ・シル・アーマドリウスという身分を取り上げられ別の人間になってから、代わりにあのイリアがルルリラに成り代わってハマルカイトと婚姻するはずだ。つまりまだ城にはいないはずなのでこの先一生会わずに済むと言うことだ。

 イリアは通行人Aや生徒Bなんて役ではなく、私がはじめてもらった名前付きの役柄だったのにまさかこんな巡りあわせになるだなんて思いもしなかった。もはや恨んでも仕方ないのでとにかく二度と会うことがないようにと願うのみである。

 一緒に頼んでおいたドレスと礼服も届いたことだしあとは任命式当日を待つばかりだ。王都まで行かないといけないのが面倒だが、国王から任命される必要があるのだから仕方がない。

 平民が一代貴族の爵位を貰うことは珍しくないが、世襲もなしに爵位を賜り永続貴族の仲間入りをするなんて過去に例はないらしい。そのためあの辺境の貴族が国を裏切り大ごとになる前に未然に防いだ立場として貴族になり領地を引き継ぐと言う名目だと聞いた。

 結局私が生きていることを知り身分を取り上げる方法を考え、税をちょろまかしていた貴族を利用して口止めしつつ身分の剥奪をすることにしたと言うところか。別に放っておかれたとしてもわざわざしゃべることは無かったと思うが、辺境近辺から急に王族の嫁が偽貴族だと噂が立つのも困るのだろう。

 それから数日が経ち私とグラン、それに護衛として数人の仲間が連れだって王都へ向かう日がやってきた。道中が安全とは限らないし王都や城へ入ってもどこから狙われるかわからない。私たちは十分に注意するようあらかじめ話し合っていた。

「二人とも道中の見張りお願いするわよ?
 それにしてもどこから見ても騎士には見えないわね。
 領地へ入って落ち着いたらちゃんとそれらしい衣類と武器を揃えてあげるから我慢してね」

「へいお嬢、じゃなかった閣下!
 俺たちが貴族の仲間入りかあ、驚いちゃうな」

「うんうん兄貴の言う通り、まったく驚いちゃうよ。
 俺は羽のついた帽子が欲しいなあ」

「おめえら何言ってやがんだ、騎士は貴族じゃねえぞ?
 それにポポの配下の前にお前らは俺の部下だ」

「まあなんでもいいさ、運送の仕事も飽きて来たところだしな。
 グランの兄貴に言われてた通りそこらの街で貧乏小僧を拾ってた甲斐があったってもんだ」

「じゃあもうちゃんと引き継ぎはできそうなのね?
 騎士と言っても当面仕事は無いから運送屋さん続けてもいいのよ?」

 実際に騎士の出番が来るような物騒なことはないほうがいい。普段は領内の警備や村の治安維持くらいしかやることがないからきっと暇を持て余すだろう。

「まあガキどもにはゆっくりと教え込んでいきやすよ。
 村からも幾人か働きに来たいってやつもいるしね」

「そうだわ、お屋敷に住み込みで働いてくれる人も探さないと。
 娼館の女性が四名来てくれるけど料理できる人が欲しいのよ」

「それなら村長の妹がいいんじゃねえかな。
 旦那が流行り病で死んじまって今は村長夫婦の家に居候してるってからな。
 通りがかりに話しつけてきますわ」

「きっと一人じゃ足りないわ。
 お屋敷にはグランやルモンドたちとその配下が数名でしょ。
 メイドさんたちにもちろん私もいるんだから二、三人いた方がいいわね」

「かしこまりやした、ってこういうのはグランの兄貴が決めるんじゃねえのか?
 今さっき偉そうなこと言ってたばっかなのに頼りねえなあ」

「なんだその言いぐさは!
 俺はだな、異論がないから口を出さなかっただけだ。
 それだけだ!」

 グランは周囲に気を配っていて緊張している様子だ。こちらの話は大して重要な事でもないしあまり聞いてなかったのだろう。

「ねえグラン、あなたの配下は何人くらいになるのかしら。
 領内の巡回や自治警備の人員を考えると十人以上は必要だと思うわ。
 村に詰所を作って半分はそこへ、もう半分は屋敷で寝泊まりしてもらおうと思うの。
 もちろん公平に交代制でね」

「そうだなあ、村の治安は悪くねえが喧嘩とかまああるしな。
 農地の巡回に屋敷の警備も必要だろ?
 運送屋から六人、娼館から三人だとちと足らんな」

「運送屋へ街の人を雇い入れたら?
 仲間を全員引き揚げてくればあと六人で十五人になるわ」

「街議会で相談してみるか。
 でも別の国の貴族になるなんて言っちまって平気かねえ」

「元々国を渡って移住したのはどういう経緯だったの?
 その時にはなにも言われなかったのかしら」

 私は今になってなにも知らなかったことに気が付いた。いつの間にか流れで宿屋経営をすることになったが、そもそもなんでそうなったんだろうか。

「ああ、あれはな、議会の偉い人に金積んだんだよ。
 宿をやるのが条件だったから安くしてもらったがそれでも例の身代金を大分使ったぜ」

「どっちの国の人もお金には目がないってとこね。
 今どれくらい残ってるの? 全部クラリスへあげてしまっていいわよ」

「大分稼いだからほぼ元通りだぜ?
 なんと言っても人助けは金になるからなあ。
 宿屋は売り上げでトントンってとこだし、運送屋はこいつらが飲みまくるからよ」

「そりゃひでえよ! ちゃんと給金貰ってるから自腹で飲んでるっつーの。
 お嬢? 運送屋はちゃんと儲かってるからな?」

 凸凹コンビはグランへ抗議をしながら私へ説明を始める。でもそんなこと言われなくてもちゃんとやっているのは知っている。もちろん信じていると言うと二人とも安心したように笑顔になった。

「これから引き継ぎで一時的に人が多くなるでしょ?
 でもみんなきちんと賃金を貰うのよ?
 お金の管理はクラリスへ任せることにしてうまいことやってもらいましょ。
 大工業も一緒にするんだし運送が加わっても平気よ」

「また知らねえとこでクラリスに押し付けてよお。
 あとで聞いたら腰抜かしちまうぞ?」

「その時はディックスが支えてくれるんだから平気に決まってるわ。
 グランに振られてしまった私とは違うんだもの」

 そういうとグランは「ちっ藪蛇だったぜ」と舌打ちをしてからバツが悪そうに顔をそらすのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!

Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。 転生前も寝たきりだったのに。 次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。 でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。 何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。 病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。 過去を克服し、二人の行く末は? ハッピーエンド、結婚へ!

【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~

北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!** 「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」  侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。 「あなたの侍女になります」 「本気か?」    匿ってもらうだけの女になりたくない。  レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。  一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。  レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。 ※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません) ※設定はゆるふわ。 ※3万文字で終わります ※全話投稿済です

【完結】悪役令嬢に転生したのでこっちから婚約破棄してみました。

ぴえろん
恋愛
私の名前は氷見雪奈。26歳彼氏無し、OLとして平凡な人生を送るアラサーだった。残業で疲れてソファで寝てしまい、慌てて起きたら大好きだった小説「花に愛された少女」に出てくる悪役令嬢の「アリス」に転生していました。・・・・ちょっと待って。アリスって確か、王子の婚約者だけど、王子から寵愛を受けている女の子に嫉妬して毒殺しようとして、その罪で処刑される結末だよね・・・!?いや冗談じゃないから!他人の罪で処刑されるなんて死んでも嫌だから!そうなる前に、王子なんてこっちから婚約破棄してやる!!

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

気がついたら自分は悪役令嬢だったのにヒロインざまぁしちゃいました

みゅー
恋愛
『転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈ります』のスピンオフです。 前世から好きだった乙女ゲームに転生したガーネットは、最推しの脇役キャラに猛アタックしていた。が、実はその最推しが隠しキャラだとヒロインから言われ、しかも自分が最推しに嫌われていて、いつの間にか悪役令嬢の立場にあることに気づく……そんなお話です。 同シリーズで『悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい』もあります。

処理中です...