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第二章 少女と盗賊

10.引っ越し再び

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 引っ越しからもうだいぶ経っていたがいまだになんの動きも説明もなく、私は少しだけ不安に感じながら日々過ごしていた。とは言っても何もせずゴロゴロしているわけではなく、洗濯や炊事の手伝いくらいはやっている。

 だが水仕事は手が荒れるのでやめろ、調理は刃物が危ないからやめろと言われてばかりで、いつものけ者にされてしまい少し不満を感じていた。いくらなんでも甘やかしすぎだろうと言ってもグランは言うことを聞いてくれないし、他のみんなも私に雑用をさせたがらない。

 かと言って買い物に行くのは隣国で危険だし本当にやれることが少ない。仕方なくすぐ近くを馬で回ってみたり、いつの日かグランへリベンジするために一人でパンチを繰り出す練習をしたりして暇をつぶしているのだった。

 そのおかげなのか、馬に乗るのは随分うまくなったし、パンチも以前より鋭さを増している、ような気がする。とは言え私は別にグランに殴り掛かるつもりなんてすでに無いのだが。

 それにしても元盗賊のみんなは出かけたり出掛けなかったりはあるが、毎日何をしているのだろうか。たまに聞いてもはぐらかされるだけで、グランは何も教えてくれない。

 そんなある日、グランが数人の仲間と出掛けると言い、私も連れて行ってくれることになった。ここへやってきてから初めての外出に心が躍るが、念のためだと言って地味な色のズボンにシャツ、それに帽子を被らされて男の子みたいな恰好をさせられてしまった。

 それでも外出は楽しみで嬉しい。私は移動中しっかりとグランの背中にしがみついてはいたが、地に足がつかないくらいワクワクを隠せないでいた。

「よし、着いたぞ。
 ほうれ降ろしてやろう」

 グランに抱えられて降りてみると、そこはキャラバン隊のマーケットだった。そう言えば以前買い物に連れて行けとせがんだ際、街はだめだけどキャラバンが近くに来たら連れて行ってくれると言っていた。

「約束覚えててくれたのね。
 ありがとう、グラン大好き」

 私は黒板を出してろう石でお礼を言った。するとグランは柄にもなく照れているようだ。この男、意外にちょろいタイプかもしれない。悪い女に引っかからないよう目を光らせなければ。

 そのままグランに手を引かれあれこれと見てまわるが、欲しいと思えるほどのものはない。大体は食べ物で後は衣類だがそのほとんどは大人用だ。派手な色のスカーフを見かけたグランが買ってくれると言ったが、私には使い道が思い浮かばなかったので断ってしまった。

 それでもこうやってにぎやかな所へ連れてきて貰えただけでも嬉しい。アジトが快適じゃないわけではないが、やはり閉じこもりきりなのはつまらないし精神的に参ってしまう元だ。

 まあちょっとしたデートのような気分が味わえるだけでも十分な気晴らしにはなった。デートと言えば、元ルルリラの私は敦也と出掛けてくると言ったまま音沙汰がない。いったい何をしているのだろう。今となっては彼氏を取られえたとかそんなことどうでも良くなっていたが、それでも元彼がおかしな女に騙されていると思うとやるせないものなのだ。

 そんな時、グランが周囲を気にしていることに気が付いた。何かを警戒しているのだろうか。その割には表情が厳しいという言うこともなくいたって平常と言ったところだ。

「誰かを探しているの?」

「ああ、待ち合わせをしているんだが細かい場所を決めてなかったからな。
 見つかったら少しだけあいつらと待っててくれよ」

 私は頷いてから黒板をしまった。引き続き出店を見てまわったが、結局食べ物を少し買ってもらったくらいでそれほど面白いものは無かった。しかしグランの探し人は見つかったらしく、私は凸凹コンビと一緒に道の傍らに座ってお菓子を摘まんで待つことにした。

「おう、待たせたな。
 無事に商談成立ってとこだ。
 お前らも覚悟しておけよ?」

「へ、へえ、本当にやるんですかい?
 あっしは気乗りしませんが…… 本当に大丈夫なんですよね?」

「やってみればなんてことないさ。
 いつもやってる事とそう変わりはないだろうよ」

 私だけ話に入れずむくれていると、グランが抱きかかえてから説明してくれた。すると驚くことに、私たちが隣国へ住むために家を購入したと言うではないか。しかも小さな家ではなく元盗賊二十数名が暮らせるほどの屋敷らしい。

「ポポにも働いてもらうからな。
 ガサツなこいつらの面倒をしっかり見てくれよ?」

 わけがわからずポカンとしていると、凸凹コンビの兄貴分がぼそりと呟いた。

「本当に宿屋なんて務まるんですかねえ。
 そりゃ洗濯や炊事なんてお手の物ですが、お客を相手にするのは無理だと思いやすぜ?」

「お前らにはそんな期待はしていないって。
 ちゃんと接客に向いたやつもいるし、ポポだって教えてくれるから何とかなるさ」

「はあ、頭は何をするんです?
 まさか宿の主人だからなにもしねえってことはねえでしょ?」

「当たり前だ、俺はちゃんと主人としてなんでもやるぞ。
 どう考えても俺が一番接客に向いてそうだろ。
 あともう頭はやめろよ、ちゃんとご主人か主(あるじ)と呼んでくれ」

「ぷっ、わかりやしたよ、ご主人様」

 私は首をかしげながらグランと凸凹コンビへ視線を行ったり来たりさせてからポポポポと笑った。だってこんなおかしいことがあるだろうか。よりによって盗賊から宿屋へ鞍替えとは信じられない。

 それでも、グランたちが盗賊を辞めると言って新たな道を模索していたことは嬉しかった。志があるのであればまっとうに生きて果たしてもらいたいからである。

 それに今度は私も何か役に立てるよう頑張れそうだということも嬉しさに拍車をかけた。そうとなれば張り切って働くぞ、とここ最近の無気力さを吹き飛ばすように意欲が湧いてきた。

 その後数日かけて荷物をまとめた私たちは、ようやく馴染んできた廃墟の我が家を引き払い隣国へと旅立った。数日の道のりらしいがグランの背中につかまっていれば何の心配もいらない。

 こうして私たちは、何度かの野営を経て隣国の都市へ到着し、新しい我が家へと入っていった。
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