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第二章 少女と盗賊
8.偽善の盗賊
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荒野に建てられた粗末なバラック、ここが私の新しい住まいになるのか…… ベッドもお風呂も着替えすらない。もちろんプライバシーなんて無いようで、頭の膝の上に乗せられて縮こまっているくらいしかできそうにない。
「おう小娘、俺はグラン・マクウェルだ。
見ての通り盗賊の頭をやっている。
お前も名前くらい名乗れ」
「ルルリラ…… ルルリラ・シル・アーマドリウス…… です……」
「ポポポポか、背は高いが良く見るとまだ子供っぽいな。
歳はいくつなんだ?」
「じゅ、十二歳です……」
「それもポポポか?
わからねえから指でいいから教えてくれよ」
仕方ないので左右の指を一本、二本と掲げた。
「二十一? いや十二歳か!?
まだしょんべんくさいガキじゃねえか。
そんなんじゃ俺の女になんてできねえな。
世の中には子供が好きな野郎もいることだしどっかへ売り飛ばすか」
それを聞いた私は悲しさ悔しさやるせなさが入り混じって泣き出してしまった。もう戻れないのだろうか。もちろんこの世界にあるアーマドリウス家ではなく元の世界へ帰りたい。
このまま盗賊に監禁されたままなのは嫌だが、おかしなところへ売られてしまうのはもっと嫌だ。だが今の私に何ができるのだろう。
本物のルルリラのように気が強くて腕っぷしも良ければ逃げ出すこともできるかもしれないが、私には屈強な男へ立ち向かうような度胸はない。
「おいおい、そんなに泣くなよ、うるさくて敵わん。
泣いて嫌がるくらいなら商品にならねえし売り飛ばせねえよ。
大体、そうやってポポポポしか言えねえのか?
何言ってるのかさっぱりわからん」
私は仕方なく無言で首を振った。私だってちゃんと話ができるならいくらでもするが、できないものは仕方がない。複雑な事情があるというのに、身振りだけで説明することなんて到底できっこない。いったいどうすればいいのだろうか。
ダメ元でいいから試してみようと私はすぐ下の地面に数字で十二と書いてみた。
「だから歳はもうわかったからいいんだよ。
十二歳ならもう名前は書けるか?」
カタカナで通じるのかわからないが書いてみるしかない。そう思った私の頭の中にはきちんとこの国の言葉が入っているようで、自然に指が動いていた。どうやらほぼアルファベットなので何となく理解できそうである。
「ルルリラ・シル・アーマドリウスって読むのか?
おいおいアーマドリウスと言ったら王都近郊に領地を持つ大貴族様じゃねえか。
そんなとこの娘がなんでこんな辺鄙な村に居たんだ?」
筆談が可能だと言うことなら意思疎通は出来るだろう。急に希望が見えてきたような気がした私は、大急ぎで地面へ指を走らせた。
「学園へ入学したんだけど事件を起こしてしまって逃げ出して来たの」
「事件ってよお……
いくらなんでもお転婆が過ぎるんじゃねえのか?
世の中はお嬢ちゃんの家の中と違って厳しいんだぜ?」
「でもその時は仕方なかったのよ。
私にはそれしか選べなかったの」
「それじゃ家まで連れて行ってやるか。
保護したってことで礼金でも貰えるかもしれねえ」
それはまずい。私は大きく首を振って断固拒否の構えを見せる。もし王都まで、家まで連れていかれたらきっと処罰されるし、傷害だけではなく脱獄に盗みの罪まで上乗せされてしまうだろう。
「なんだ? 家に帰りたくないのか?
もしかして家出してきたのか?」
私は再び首を振った。
「何を聞いても首は横か。
まだ十二歳だもんなあ、どう扱っていいのかさっぱりわからねえ。
誰か子供がいたことあるやつはいねえのか?」
盗賊たちの中で手を上げる者はいない。逆に家族がいるのに盗賊をやっている人がいたなら、そのほうが驚きだ。私は再び地面に指で文字を書いて説明をする。
一方的に婚約を破棄されたこと、それに激高し婚約者へ手を上げてしまったこと、そして捕らえられた後逃げ出したことを。するとグランは同情したのか優しい言葉をかけてくれた。
「そうか、お前さんも帰るところがないってことだな。
よしわかった、俺が面倒見てやろう。
もちろん女にするなんて下衆なことは言わねえぜ。
娘ってほど俺はいい歳でもねえから妹分ってとこだな」
申し出は嬉しいしグランの意外なやさしさにも驚いた。しかしそれを受けると言うことは、私が盗賊になるとの意味ではないだろうか。
「私は盗賊になりたくない。
だからその辺に捨ててください」
「まったくこれだから世間知らずってやつは困っちまうぜ。
俺たちだって好きで盗賊やってるわけじゃねえんだよ。
でもな? 元々住んでた村が圧制で苦しくなり廃村になったりよお。
王族や貴族の欲にかられた戦へ駆り出されて働き手がいなくなったりしてな。
俺たちはそういう境遇で集まった孤児の集まりなのさ」
「それでもまっとうに生きてる人たちは大勢いるわ。
あなた達だって出来るはずなのにしないのは怠け者だからなのよ」
「ルルリラだったっけか、ガキのくせに生意気言うねえ。
さっきの村の連中見たかい? ひどい格好だっただろ?
働いたら半分は持ってかれちまって、日々の食い扶持にも困る暮らしさ。
だから俺たちは貴族の指先になってる商人を襲って貧しい村へばら撒いてるんだよ」
「そんなの嘘よ、それならなんであの人たちはあれほど怯えていたの?
助けているなら恩を感じていてもおかしくないでしょ」
どうだ、これなら取り繕ったような嘘では返せないだろう。私は高圧的な人たちはキライだが、それを理由に怠ける人や、努力を嫌って悪いことをする人は大嫌いなのだ。
「そりゃ簡単なことよ。
盗賊とつながりがあるなんて思われたら、街からくる取税人や国の警備隊に目を付けられるからな」
「やっぱり迷惑をかけているんじゃないの。
義賊を気どったって悪人であることには変わりない、盗賊なんてやめなさいよ。
大義を掲げれば何してもいいなんてことはないわ」
「流石大貴族様の娘だ、随分と賢いじゃねえか。
しかしそれじゃ俺たちも村人たちも飢え死にしちまうんだよ。
それくらいわかるだろ?」
まあ確かにその通りだし、この人たちが今から畑を耕し汗水たらして働くことはできないだろう。だからと言って見過ごすわけにはいかない。
「それなら私に考えがあるわ。
貴族を直接襲えばいいのよ。
贅沢三昧で暮らしているんだもの、商人よりももっと沢山の金品を持っているわよ?」
私の言葉を聞いたグランは、口をぽっかり開けただらしない顔でこちらを眺めている。一瞬の間があった後一旦口を閉じ、再び口を開いてしゃべりだしたグランは少々お怒り気味である。
「あのなあ、ガキだから優しく聞いてりゃいい気になりやがって。
貴族を襲うだあ? あいつらの警備がどれだけ強大なのかわかってんだろ?
歯が立つわけねえじゃねえか」
「ほうら、結局もっともらしいことを言ったって、出来ることは弱い者いじめだけなのよ。
本当の大義を持って行動するつもりなら革命を起こすくらいのこと言いなさい」
「こっんのクソガキ……
生意気ばかり言ってやがると本当にぶっ飛ばすぞ!」
「今まで何度も殴り殺したくせによく言うわ。
私だってそう簡単にはやられないんだからね!」
「はあ? 俺がお前さんを殺した?
じゃあ目の前にいるアンタはなにもんでなんで生きてるんだ?
まったくおかしなやつだぜ、拍子抜けだ」
「まったくだらしない。
あなたの手下だってぶっ飛ばしたんだからね」
そう書いてから周囲を見回すと、あの凸凹コンビがバツ悪そうな顔で縮こまっていた。きっとグランには正確に報告してないのだろう。
「なんだと!? おいお前ら、さっきは罠に掛けられたって言ってたよな?
まさかこのチビちゃんが言うように殴り合いでやられたってのか?」
「へ、へえ…… 面目ねえ。
いやでも不意を突かれて当たり所が悪かっただけなんで、次はそんなこと――」
「バカヤロウ! 十二歳の女のガキにもう一度挑もうってのか!
あんまり恥をかかすんじゃねえよ、ったく……」
グランはもう一度こちらを向いて、あきれた様子を顔と態度で示す。
「それにしてもお前はおかしなガキだな。
賢いのかバカなのかわからねえが、いっちょ話に乗せられてみようじゃねえか。
それで具体的な策でもあるのかな? お嬢様?」
私は笑いながら地面へ指を走らせる。
「そうね、まずは娘を誘拐したから身代金をよこせとでも言ってみる?」
グランは再び口をぽっかり開けた。
「おう小娘、俺はグラン・マクウェルだ。
見ての通り盗賊の頭をやっている。
お前も名前くらい名乗れ」
「ルルリラ…… ルルリラ・シル・アーマドリウス…… です……」
「ポポポポか、背は高いが良く見るとまだ子供っぽいな。
歳はいくつなんだ?」
「じゅ、十二歳です……」
「それもポポポか?
わからねえから指でいいから教えてくれよ」
仕方ないので左右の指を一本、二本と掲げた。
「二十一? いや十二歳か!?
まだしょんべんくさいガキじゃねえか。
そんなんじゃ俺の女になんてできねえな。
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それを聞いた私は悲しさ悔しさやるせなさが入り混じって泣き出してしまった。もう戻れないのだろうか。もちろんこの世界にあるアーマドリウス家ではなく元の世界へ帰りたい。
このまま盗賊に監禁されたままなのは嫌だが、おかしなところへ売られてしまうのはもっと嫌だ。だが今の私に何ができるのだろう。
本物のルルリラのように気が強くて腕っぷしも良ければ逃げ出すこともできるかもしれないが、私には屈強な男へ立ち向かうような度胸はない。
「おいおい、そんなに泣くなよ、うるさくて敵わん。
泣いて嫌がるくらいなら商品にならねえし売り飛ばせねえよ。
大体、そうやってポポポポしか言えねえのか?
何言ってるのかさっぱりわからん」
私は仕方なく無言で首を振った。私だってちゃんと話ができるならいくらでもするが、できないものは仕方がない。複雑な事情があるというのに、身振りだけで説明することなんて到底できっこない。いったいどうすればいいのだろうか。
ダメ元でいいから試してみようと私はすぐ下の地面に数字で十二と書いてみた。
「だから歳はもうわかったからいいんだよ。
十二歳ならもう名前は書けるか?」
カタカナで通じるのかわからないが書いてみるしかない。そう思った私の頭の中にはきちんとこの国の言葉が入っているようで、自然に指が動いていた。どうやらほぼアルファベットなので何となく理解できそうである。
「ルルリラ・シル・アーマドリウスって読むのか?
おいおいアーマドリウスと言ったら王都近郊に領地を持つ大貴族様じゃねえか。
そんなとこの娘がなんでこんな辺鄙な村に居たんだ?」
筆談が可能だと言うことなら意思疎通は出来るだろう。急に希望が見えてきたような気がした私は、大急ぎで地面へ指を走らせた。
「学園へ入学したんだけど事件を起こしてしまって逃げ出して来たの」
「事件ってよお……
いくらなんでもお転婆が過ぎるんじゃねえのか?
世の中はお嬢ちゃんの家の中と違って厳しいんだぜ?」
「でもその時は仕方なかったのよ。
私にはそれしか選べなかったの」
「それじゃ家まで連れて行ってやるか。
保護したってことで礼金でも貰えるかもしれねえ」
それはまずい。私は大きく首を振って断固拒否の構えを見せる。もし王都まで、家まで連れていかれたらきっと処罰されるし、傷害だけではなく脱獄に盗みの罪まで上乗せされてしまうだろう。
「なんだ? 家に帰りたくないのか?
もしかして家出してきたのか?」
私は再び首を振った。
「何を聞いても首は横か。
まだ十二歳だもんなあ、どう扱っていいのかさっぱりわからねえ。
誰か子供がいたことあるやつはいねえのか?」
盗賊たちの中で手を上げる者はいない。逆に家族がいるのに盗賊をやっている人がいたなら、そのほうが驚きだ。私は再び地面に指で文字を書いて説明をする。
一方的に婚約を破棄されたこと、それに激高し婚約者へ手を上げてしまったこと、そして捕らえられた後逃げ出したことを。するとグランは同情したのか優しい言葉をかけてくれた。
「そうか、お前さんも帰るところがないってことだな。
よしわかった、俺が面倒見てやろう。
もちろん女にするなんて下衆なことは言わねえぜ。
娘ってほど俺はいい歳でもねえから妹分ってとこだな」
申し出は嬉しいしグランの意外なやさしさにも驚いた。しかしそれを受けると言うことは、私が盗賊になるとの意味ではないだろうか。
「私は盗賊になりたくない。
だからその辺に捨ててください」
「まったくこれだから世間知らずってやつは困っちまうぜ。
俺たちだって好きで盗賊やってるわけじゃねえんだよ。
でもな? 元々住んでた村が圧制で苦しくなり廃村になったりよお。
王族や貴族の欲にかられた戦へ駆り出されて働き手がいなくなったりしてな。
俺たちはそういう境遇で集まった孤児の集まりなのさ」
「それでもまっとうに生きてる人たちは大勢いるわ。
あなた達だって出来るはずなのにしないのは怠け者だからなのよ」
「ルルリラだったっけか、ガキのくせに生意気言うねえ。
さっきの村の連中見たかい? ひどい格好だっただろ?
働いたら半分は持ってかれちまって、日々の食い扶持にも困る暮らしさ。
だから俺たちは貴族の指先になってる商人を襲って貧しい村へばら撒いてるんだよ」
「そんなの嘘よ、それならなんであの人たちはあれほど怯えていたの?
助けているなら恩を感じていてもおかしくないでしょ」
どうだ、これなら取り繕ったような嘘では返せないだろう。私は高圧的な人たちはキライだが、それを理由に怠ける人や、努力を嫌って悪いことをする人は大嫌いなのだ。
「そりゃ簡単なことよ。
盗賊とつながりがあるなんて思われたら、街からくる取税人や国の警備隊に目を付けられるからな」
「やっぱり迷惑をかけているんじゃないの。
義賊を気どったって悪人であることには変わりない、盗賊なんてやめなさいよ。
大義を掲げれば何してもいいなんてことはないわ」
「流石大貴族様の娘だ、随分と賢いじゃねえか。
しかしそれじゃ俺たちも村人たちも飢え死にしちまうんだよ。
それくらいわかるだろ?」
まあ確かにその通りだし、この人たちが今から畑を耕し汗水たらして働くことはできないだろう。だからと言って見過ごすわけにはいかない。
「それなら私に考えがあるわ。
貴族を直接襲えばいいのよ。
贅沢三昧で暮らしているんだもの、商人よりももっと沢山の金品を持っているわよ?」
私の言葉を聞いたグランは、口をぽっかり開けただらしない顔でこちらを眺めている。一瞬の間があった後一旦口を閉じ、再び口を開いてしゃべりだしたグランは少々お怒り気味である。
「あのなあ、ガキだから優しく聞いてりゃいい気になりやがって。
貴族を襲うだあ? あいつらの警備がどれだけ強大なのかわかってんだろ?
歯が立つわけねえじゃねえか」
「ほうら、結局もっともらしいことを言ったって、出来ることは弱い者いじめだけなのよ。
本当の大義を持って行動するつもりなら革命を起こすくらいのこと言いなさい」
「こっんのクソガキ……
生意気ばかり言ってやがると本当にぶっ飛ばすぞ!」
「今まで何度も殴り殺したくせによく言うわ。
私だってそう簡単にはやられないんだからね!」
「はあ? 俺がお前さんを殺した?
じゃあ目の前にいるアンタはなにもんでなんで生きてるんだ?
まったくおかしなやつだぜ、拍子抜けだ」
「まったくだらしない。
あなたの手下だってぶっ飛ばしたんだからね」
そう書いてから周囲を見回すと、あの凸凹コンビがバツ悪そうな顔で縮こまっていた。きっとグランには正確に報告してないのだろう。
「なんだと!? おいお前ら、さっきは罠に掛けられたって言ってたよな?
まさかこのチビちゃんが言うように殴り合いでやられたってのか?」
「へ、へえ…… 面目ねえ。
いやでも不意を突かれて当たり所が悪かっただけなんで、次はそんなこと――」
「バカヤロウ! 十二歳の女のガキにもう一度挑もうってのか!
あんまり恥をかかすんじゃねえよ、ったく……」
グランはもう一度こちらを向いて、あきれた様子を顔と態度で示す。
「それにしてもお前はおかしなガキだな。
賢いのかバカなのかわからねえが、いっちょ話に乗せられてみようじゃねえか。
それで具体的な策でもあるのかな? お嬢様?」
私は笑いながら地面へ指を走らせる。
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