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第一章 序章
3.理不尽
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まさかプリンセスを目指すゲームの序盤で王子との婚約が破棄されるとは思っても見なかった。しかもその原因となったのが私がCVをあてたキャラクターなのだからショックが大きい。それにしても目的達成できなくなったわりにゲームオーバーになったりはしないのか。
思いもよらぬ展開に疲れてしまったので今日はここまでで辞めておこう。私はメニュー画面を出してゲーム終了しようとし、その時にふとおかしな表示に気が付いて手を止める。
「なにこのレベルとか攻撃力とかって。
まるでRPGじゃないの。
魔法は無いみたいだけどスキルや装備の欄まであるわね」
一体これはどういうゲームなんだろうか。選択肢を選んでいくだけで進められると思っていたのだが、これから戦ったりする展開が待っているとでも言うのだろうか。とりあえず今日のところは中断することにして一息入れよう。
こうして私が初めて名前を貰った役とゲーム内で出会った初日は、自分に打ちのめされて終わったのだった。
翌日アルバイトを終えて帰宅した私は、さっそく『ロープリ』の世界へ飛び込んだ。昨日の続きからと言うことで、教室での修羅場からスタートだ。
ハマルカイト王子はまだ床へ座り込んだままだし、イリアはその場に並んで座り込んでいる。まったくもって不愉快な光景だが、その片方が自分だと思うとなおさら腹立たしい。
初めての名前付きの役、つまりは実質デビュー作と言えなくもないのに、最初からこんなひどい憎まれ役だなんて泣けてくる。きっと昨日の発売以降、何百か何千かわからないが多くの人に嫌な思いを振りまいているのだ。
しかしこんなことでめげるわけにはいかない。いつの日かきっと素敵な役がもらえるように頑張っていくのだ。そのためにも、まずは目の前の自分を攻略するくらいのメンタルを持つのが、希望に燃える若手声優というもののはずだ、が、もう若くもないのが切ない。
さて、しかしここからどうすればいいのだろうか。特に選択肢も出てこないので画面の向こうにいる人たちの出方次第と言ったところか。しばらく誰も動かず固まったままで戸惑っていると、画面の右下に『Loading……』との表示が出ていた。つまりまだ再開できていないのだろう。
しばらくすると表示が消えて、イリアが立ち上がった。
『暴力はおやめください。
私が悪いのであれば謝ります。
叩くなら私めをお叱り下さるようお願い申し上げます』
あれ? こんなセリフあったっけ? アフレコが終わってからホッとしすぎて記憶があいまいだが、確かに自分の声なのだから収録したに違いない。それにしてもこんなベタなセリフ…… 聞いている方が恥ずかしい。録っている最中はなんとも思わないのだから、そうとう必死だったと言うことだ。
選択肢が出ると思って待っていたが画面には何も表示されない。それなのにイリアは催促するように近づいてくる。
『お願いです。
ハマルカイト様をお許しください。
私はどうなっても構いません』
ああ、このセリフは覚えている。ハマルカイトと言うのが王子だとは認識していなかったが、自分は身分が低い役だと把握していたので敬称については気にしていなかった。
それでもまだ選択肢は出てこない。しかしイリアはまだ近づいてきてすぐ目の前までやってきている。私は余りの近さにビックリして両手を前に突き出した。すると――
『きゃあ、いたたた』
『イリア、平気かい?
ルルー、あまりひどいことをするものではないよ?
君も貴族なら民を労わることを考えるべきだろう、違うかい?』
「そんなこと言っても今のは不可抗力なのよ。
わざと突き飛ばしたわけじゃないわ」
必死の弁明も向こう側には届かない。替わりにルルリラが返答してくれた。
『何言ってるの、そのどんくさい女が近寄り過ぎて勝手に転んだのよ?
どちらかと言えば私が被害者だわ!』
『おいおい、そんな言い分は無いだろう。
今のは、君が両手でイリアを突き飛ばしたことがはっきりしているよ?
僕に対してなら我儘放題でも構わなかったが、他の人たちへの危害は容認できない』
『容認できないですって?
王族に産まれたからって何を偉そうに。
元はと言えばハマルカイト! あなたが浮気をしたのがいけないのでしょ!』
『ぐぬぬ、、それを言われると申し訳なさを感じるが……
だが決して浮気などしてないよ。
私はイリアの素朴なやさしさに心打たれ敬意を表しただけなのだから』
『ではなぜ私との婚約を破棄するなんて言ったのかしら?
話のつじつまが合っていないわ』
『それは……
世の中には我儘を言ったり暴力を振るったりしない女性がいると知ったからだよ。
別にルルーのことが嫌いになったわけじゃないのさ』
『じゃあさっきのことは――』
『ああ、もちろん本気だ。
私はイリアと結婚しようと思う』
この王子、さらっとひどいこと言ってるなあ。なんてシナリオなのだろうか。それにイリアと結婚すると言っても相手の気持ちを何も考えずに言っている。我がままなのはこのバカ王子のほうだ。そう思ってイリアを見ると、頬を真っ赤に染めてうつむいていた。
「なんであなたはそんな顔してるのよ!
まんざらでもないどころかめちゃくちゃうれしそうじゃないの!」
こほん、ちょっと興奮しすぎてしまった。たかがゲーム、たかがゲーム内での出来事だ。もっと冷静にプレイしなければ。そう考えていたのは私だけで、画面の向こうでは主人公のルルリラが激高していた。
『ハマルカイト…… 絶対許さない……
私に恥をかかせるなんて、殺してやる!』
そう言うとどこからか刃物を取り出した。ただ眺めるしかない私には何もできない。それでも頭を動かすと視点が変わるので、何かしら操作は有効のようだ。王子を見るとピコッと音がしてカーソルが表示された。次にイリアを見ると同じように効果音が鳴ってカーソルが合わさる。
もしかするとこれが攻撃対象なのかもしれない。というかこの二択!? 攻撃自体をやめるという選択肢はないのかしら。あれこれボタンを押すとステータス画面が表示され、そこには装備品『ナイフ』となっている。
大急ぎで装備を外して素手にしたのできっと刺殺事件へ発展することはないだろう。そう思って王子を見ると、ルルリラはハマルカイト王子へ向かってグーで殴りかかっていた。
その渾身の一撃をあっさりとかわされたルルリラは、再びナイフを手に持ち、事もあろうか自分へと突き立てたのだった。
『GAME OVER』
理不尽すぎる…… これがいわゆるクソゲーってやつなのか。余りの無力さとやるせなさ、それに画面の向こうにいた自分の分身に腹が立ち、思わずコントローラーをベッドへ叩きつけた。
その後缶ビールを一気に飲み干してから、私は一式全てを箱へしまった。
思いもよらぬ展開に疲れてしまったので今日はここまでで辞めておこう。私はメニュー画面を出してゲーム終了しようとし、その時にふとおかしな表示に気が付いて手を止める。
「なにこのレベルとか攻撃力とかって。
まるでRPGじゃないの。
魔法は無いみたいだけどスキルや装備の欄まであるわね」
一体これはどういうゲームなんだろうか。選択肢を選んでいくだけで進められると思っていたのだが、これから戦ったりする展開が待っているとでも言うのだろうか。とりあえず今日のところは中断することにして一息入れよう。
こうして私が初めて名前を貰った役とゲーム内で出会った初日は、自分に打ちのめされて終わったのだった。
翌日アルバイトを終えて帰宅した私は、さっそく『ロープリ』の世界へ飛び込んだ。昨日の続きからと言うことで、教室での修羅場からスタートだ。
ハマルカイト王子はまだ床へ座り込んだままだし、イリアはその場に並んで座り込んでいる。まったくもって不愉快な光景だが、その片方が自分だと思うとなおさら腹立たしい。
初めての名前付きの役、つまりは実質デビュー作と言えなくもないのに、最初からこんなひどい憎まれ役だなんて泣けてくる。きっと昨日の発売以降、何百か何千かわからないが多くの人に嫌な思いを振りまいているのだ。
しかしこんなことでめげるわけにはいかない。いつの日かきっと素敵な役がもらえるように頑張っていくのだ。そのためにも、まずは目の前の自分を攻略するくらいのメンタルを持つのが、希望に燃える若手声優というもののはずだ、が、もう若くもないのが切ない。
さて、しかしここからどうすればいいのだろうか。特に選択肢も出てこないので画面の向こうにいる人たちの出方次第と言ったところか。しばらく誰も動かず固まったままで戸惑っていると、画面の右下に『Loading……』との表示が出ていた。つまりまだ再開できていないのだろう。
しばらくすると表示が消えて、イリアが立ち上がった。
『暴力はおやめください。
私が悪いのであれば謝ります。
叩くなら私めをお叱り下さるようお願い申し上げます』
あれ? こんなセリフあったっけ? アフレコが終わってからホッとしすぎて記憶があいまいだが、確かに自分の声なのだから収録したに違いない。それにしてもこんなベタなセリフ…… 聞いている方が恥ずかしい。録っている最中はなんとも思わないのだから、そうとう必死だったと言うことだ。
選択肢が出ると思って待っていたが画面には何も表示されない。それなのにイリアは催促するように近づいてくる。
『お願いです。
ハマルカイト様をお許しください。
私はどうなっても構いません』
ああ、このセリフは覚えている。ハマルカイトと言うのが王子だとは認識していなかったが、自分は身分が低い役だと把握していたので敬称については気にしていなかった。
それでもまだ選択肢は出てこない。しかしイリアはまだ近づいてきてすぐ目の前までやってきている。私は余りの近さにビックリして両手を前に突き出した。すると――
『きゃあ、いたたた』
『イリア、平気かい?
ルルー、あまりひどいことをするものではないよ?
君も貴族なら民を労わることを考えるべきだろう、違うかい?』
「そんなこと言っても今のは不可抗力なのよ。
わざと突き飛ばしたわけじゃないわ」
必死の弁明も向こう側には届かない。替わりにルルリラが返答してくれた。
『何言ってるの、そのどんくさい女が近寄り過ぎて勝手に転んだのよ?
どちらかと言えば私が被害者だわ!』
『おいおい、そんな言い分は無いだろう。
今のは、君が両手でイリアを突き飛ばしたことがはっきりしているよ?
僕に対してなら我儘放題でも構わなかったが、他の人たちへの危害は容認できない』
『容認できないですって?
王族に産まれたからって何を偉そうに。
元はと言えばハマルカイト! あなたが浮気をしたのがいけないのでしょ!』
『ぐぬぬ、、それを言われると申し訳なさを感じるが……
だが決して浮気などしてないよ。
私はイリアの素朴なやさしさに心打たれ敬意を表しただけなのだから』
『ではなぜ私との婚約を破棄するなんて言ったのかしら?
話のつじつまが合っていないわ』
『それは……
世の中には我儘を言ったり暴力を振るったりしない女性がいると知ったからだよ。
別にルルーのことが嫌いになったわけじゃないのさ』
『じゃあさっきのことは――』
『ああ、もちろん本気だ。
私はイリアと結婚しようと思う』
この王子、さらっとひどいこと言ってるなあ。なんてシナリオなのだろうか。それにイリアと結婚すると言っても相手の気持ちを何も考えずに言っている。我がままなのはこのバカ王子のほうだ。そう思ってイリアを見ると、頬を真っ赤に染めてうつむいていた。
「なんであなたはそんな顔してるのよ!
まんざらでもないどころかめちゃくちゃうれしそうじゃないの!」
こほん、ちょっと興奮しすぎてしまった。たかがゲーム、たかがゲーム内での出来事だ。もっと冷静にプレイしなければ。そう考えていたのは私だけで、画面の向こうでは主人公のルルリラが激高していた。
『ハマルカイト…… 絶対許さない……
私に恥をかかせるなんて、殺してやる!』
そう言うとどこからか刃物を取り出した。ただ眺めるしかない私には何もできない。それでも頭を動かすと視点が変わるので、何かしら操作は有効のようだ。王子を見るとピコッと音がしてカーソルが表示された。次にイリアを見ると同じように効果音が鳴ってカーソルが合わさる。
もしかするとこれが攻撃対象なのかもしれない。というかこの二択!? 攻撃自体をやめるという選択肢はないのかしら。あれこれボタンを押すとステータス画面が表示され、そこには装備品『ナイフ』となっている。
大急ぎで装備を外して素手にしたのできっと刺殺事件へ発展することはないだろう。そう思って王子を見ると、ルルリラはハマルカイト王子へ向かってグーで殴りかかっていた。
その渾身の一撃をあっさりとかわされたルルリラは、再びナイフを手に持ち、事もあろうか自分へと突き立てたのだった。
『GAME OVER』
理不尽すぎる…… これがいわゆるクソゲーってやつなのか。余りの無力さとやるせなさ、それに画面の向こうにいた自分の分身に腹が立ち、思わずコントローラーをベッドへ叩きつけた。
その後缶ビールを一気に飲み干してから、私は一式全てを箱へしまった。
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