浮遊霊が青春してもいいですか?

釈 余白(しやく)

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第十章 浮遊霊の苦悩

117.帰着

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 昼休みよりも少し前、僕と千代は四つ葉マークの入った建物が建っている校庭についた。埋まっている沢山のタイヤの一つにそれぞれ座って時間がたつのを待っているのだ。

 しばらくするとけたたましい非常ベルのような音が鳴る。この学校のチャイムなのだが、これでは何か事故があった時と区別がつかないんじゃないかと思ってしまう。

「ジリリリってなったね、えいにいちゃん」

「うん、なったね。
 昇降口の扉が開いたら教室まで行ってみようか」

「うん!」

 二人が校舎へ向かう途中に扉が開いて何名かの生徒が出てくるのが見えた。十二月で寒いだろうにそれでも外で昼飯を食べるのかと感心する。

 胡桃は僕たちが一緒の時は自習室を使っていたけれど、一人の時はどうしているのだろう。教室から移動していなければすぐに見つけられるだろうが、どこかへ行ってしまっていたら探さないとならない。

「えいにいちゃん、くるみおねえちゃんがまってるって。まえのところにいるっていってるよ」

「えっ!? 千代ちゃんは胡桃おねえちゃんの考えがわかるの?前のところって自習室かな?」

「わかんないけどそんなきがするだけ。いってみようよ」

 千代は今朝元気を取り戻してから少し様子がおかしい。おかしいというか変わったというか、とにかく今までとは少し違ってきているように感じる。とりあえずは、千代の言う通りに前回と同じ自習室へ向かうことにした。

 自習室は一か所を覗いて扉が全部しまっている。そして扉が開いているのは、前回胡桃と僕たちとが入った部屋だった。

「もう、いったい何していたの?何も言わずに戻ってこないから心配したんだからね」

 開いた扉から中を覗いた僕たちに久しぶりの笑顔が飛び込んだ。

「おねえちゃん!ごめんね、千代がいけないの」

 そう言いながら千代が胡桃が広げた手の中へ飛び込んでいった。こういう時子供は得だ。

「本当にごめんなさい。色々と事情があるんだけど、連絡手段もないからどうにもできなかったんです」

「それはそうよね。私もきつく当たってごめんなさい」

 胡桃はそう言いながら自習室の扉を閉めた。

「でも無事に戻ってきてくれてよかった。突然消えることも有るようなこと言っていたから心配したわ。私が千代ちゃんへ帰ってくるよう願ったのが効いたのかしら?」

「うん、くるみおねえちゃんがかえってきなさいっていうの、千代わかったよ。だからえいにいちゃんへおしえてかえってきたの」

「え!? そうなの?夢の中で千代ちゃんが泣いていたから、英介君と何かあったのかと思って心の中で呼びかけたんだけど……まさか本当に伝わったわけじゃないわよね?」

「本当のところは僕にはわかりませんけど、今朝急に呼んでるから帰ろうって言ったのは確かです。なにかテレパシーのような能力でもあるんでしょうか」

 僕は冗談のつもりで言ったが、大矢が現実世界の物に触れることができるようになったことを考えると、千代にも何かしらの能力が備わっていたとしても不思議ではないと感じた。

 ならば僕には何かあるのだろうか。急に下を向いて考え込んでいる僕へ向かって千代が話しかけてきた。

「えいにいちゃん、どうしたの?すごくむつかしいおかおしているよ?」

「あ、ああ、なんでもないんだ。ちょっとだけ考え事してただけ、心配いらないよ」

「やっぱり何かあったんでしょ?紀夫君には会えたの?」

 胡桃の勘は相変わらず鋭く、いとも簡単にこちらの考えを当てられてしまう。それとも僕の考えが単純なだけなのだろうか。

「えとね、のりにいちゃんはいたけどもうもどってこないって。しらないおねえちゃんといっしょにどこかへいっちゃったの」

「知らないお姉ちゃん?それって同じ幽霊さんかしら?」

「ううん、くるみおねえちゃんみたいなひとよ。でも千代、ちょっとこわかったな」

 千代はちょっとと言っているが、本当は僕の後ろに隠れるくらいに怯えていた。しかし胡桃へ心配かけないよう気を使っているのだろう。

「どうやら向こうで、胡桃さんと同じように僕たちが見える人と出会ったようなんです。これからはそっちで過ごすと言ってまた行ってしまいました」

「そうなの、それは残念ね。
 仲の良いお友達だったんでしょ?」

「そうですね、でも大矢にも事情があるでしょうし、何かあればまた戻ってくるかもしれない。なにもなく戻ってきてもいいし……」

 僕は思わず本心が口からこぼれてしまった。それを見逃す胡桃ではない。何かに気づいたことを示すように鋭い視線をこちらへ向ける。しかし、膝の上に乗っている千代の頭上に目をやったのみで何も語ることはなかった。

 きっと何かあったことは察したのだろう。もし時間があれば千代が寝ている間に話をすることになりそうだ。

 昼休みの後、午後の授業が終わるまで千代と校庭で走り回ったり、タイヤ跳びをしたりしながら時間をつぶした。放課後になれば胡桃たちの演劇を見ることができるはずで、それは幽霊になってしまった僕にとって数少ない楽しみの一つだ。


 さすがに走り回るのにも飽きてきて千代と一緒に芝生の上へ寝転がっていると、おそらく六限終了のベルが鳴った。

「そろそろ終わりじゃないかな?ようやく演劇の時間になると思うよ」

「やったあ、千代たのしみにしてたの。だってひさしぶりだもんね」

「うんうん、僕も楽しみだよ。今週からは向こうの大きい建物でやってるはずだから、前に見たのとはまた印象が違うかもしれないね」

「えいにいちゃん、はやくいこう!」

 千代はそう言って講堂へ走り出した。やれやれ、まだ誰も校舎から出てきていないのに待ちきれないらしい。それはまあ僕も同じようなものだけど。

 真っ白な振袖をひらひらさせながら走っていく小さな後姿を、僕は急いで追いかけていった。

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