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第九章 浮遊霊たちは袂を別つ

109.恥辱

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 確かに高校生でも性行為で最後の段階まで進んでしまう人たちが大勢いるのは知っている。いくらなんでもいまどき嫁入り前は純血で当たり前などとは思っていない。

 でもそれを全員が当たり前のように考えるかどうかは別の話であって、考えが古かろうと新しかろうと、自分の信念い基づいて決めたらいいことだと桃香は考えていた。そして桃香は古い考え方である。

 執拗に体を求める彼と、かたくなに断り続ける桃香の話はどこまでも平行線だ。そのうちに頭に血が上ってしまった彼は桃香を押し倒し無理やり行為に及ぼうとし、逆らいきれずにキスまではしてしまった。

 抵抗を続けとうとう泣き出した桃香を見て正気に戻ったのか、彼はそこで手を止めたとこのことだ。しかし事はそこで終わらない。

 実は隠れて見ていた同級生が数人いて、その彼に向って情けないとかだらしないとか言いながらぞろぞろと現れたのだ。そこで改めて危機を感じた桃香は当然彼に助けを求めたのだ。

 しかしそこで彼から出た言葉は想像をはるかに超える衝撃的なものだった。

「そこらのおっさんには体売っといて、彼氏の俺は金払わないからヤらせてくれないわけ?たかが噂だと思ってたのに、本当にそんなことしてるなんて知ってたら助けてやらなかったよ。俺にだって一回くらいいいだろ?」

 桃香は絶句した。信頼していた彼もがあんな嘘を信じたこと、それを自分にぶつけてきたことが受け入れ難かったのだ。呆然と立ち尽くす桃香の前にほかの男子が近づいてくる。

 その中にはあまり評判の良くない男子もいる。桃香は身の危険を感じ表へ出ようと走った。しかし出入り口には見張り役の男子がしっかりと陣取っていて逃げられない。

「おとなしくしろよ。減るもんじゃあるまいしもう散々ヤりまくってるんだから今更逃げることもねえだろ」
「そうだよ、金取れないならやらせないとかプロすぎだろ」
「あいつが先に済ました後にいただこうと思ったのに仕方ねえな。
 おとなしくしてりゃ痛くはしねえからよ」

 何人もが汚い言葉をかけてくる。手を伸ばされたらすぐに掴まれそうな距離に何人もの男子、桃香はどうすればいいのかわからず怯えて声すら出せない。

 一人が手を伸ばし桃香の腕をつかんだ。そのまま引っ張られて床に転がされる。痛みよりも恐怖が勝っているせいか声が出ない。何とかしないといけない。しかし唯一の望み、さっきまで優しい彼だと思っていたその男は情けなく立ちすくんでいた。

 床に倒された後一人が腹部へ馬乗りになる。こうなったらもう動くことすら難しい。他の男子がスカートのチャックを下ろしている。この人たちは本気で私を……

 もがき足を暴れさせるが簡単に抑えられてスカートが剥ぎ取られた。男性の前に下着があらわにされるなんてなんと屈辱的なことか。

 桃香の頬には悔し涙がつたう。それを見てもこの鬼畜たちは何とも思わないようで、今後は笑いながらブレザーを脱がそうとしている。袖をつまんだり背中を浮かさないようにしても力任せに脱がされてしまった。

「そんなに抵抗するなよ。
 ちゃんと優しくしてあげたいんだからさ」
「そこらの変な親父よりは安心だろ?」

 こいつらは何を言っているんだ。優しくとか安心とか、そんな言葉が良く出てくるものだ。桃香は激しく体を動かし抵抗するがやはり声が出ない。いったいどうしてしまったのだろう。

 ブレザーを脱がされた後、ブラウスはボタンが飛び散るように引っ張られ胸元がむき出しになってしまった。もう桃香が身に着けているのは上下の下着、それに何の意味もなさない靴下のみである。

「俺もうがまんできねえよ。一番先にしてもいいだろ?」
「ふざけんなよ。抑えてる俺が一番大変なんだから俺が最初に決まってんだろ」
「順番なんてどうでもいいから早くしようぜ。誰か来たらヤれなくなっちゃうぞ」

 こいつらだけは、こいつらだけは絶対に許さない。人の体を力ずくで弄ぼうとしているだけでなく、まるで自分の持ち物のように勝手に順番だとかくだらないことで争っているのだ。声さえ出れば何とかなるかもしれないのに、これは恐怖のせいなのか、桃香の頭の中はパニックで気がおかしくなりそうだった。

 その時見張りの男子が小声で合図をした。

「外を通る音がするよ。静かにしてろよ」

 その声を聞いてか、上に乗っている男子はともかく、足と腕を掴んでいる二人の力が少しだけ緩んだ。これが唯一のチャンスかもしれないと、力を振り絞り手足を振り回す。そしてうまい具合に両手が自由になる。

 そこからは無我夢中だった。とにかく手の当たる範囲にあるものすべてを叩いたり引っかいたり激しく暴れた。すると上に乗った男子が小声で命令する。

「バカ野郎、なんでしっかりつかんどかないんだよ。早く抑えろ」

 そう言いながら自分でも抑えようとしたのだろう。桃香の腕を上に乗ったまま抑えに来た。その時に少しだけ前かがみになって近づいた顔に桃香の爪が突き立てられ、男子の鼻の辺りにひっかき傷ができるくらいの抵抗ができたのだった。

「痛ってえなこいつ!おとなしくしてろって言ってんだろ!」

 そう言うと桃香のブラジャーを鷲掴みにし無理やり引きちぎるように引っ張った。ブラのホックはしっかりできているのでそう簡単には壊れるものではない。そのため肩ひもが外れただけで済んだが、一緒に掴まれた乳房に痛みが走り、それと同時に辱めを受けていることの限界線を越えた気がした。

 ブラが剥ぎ取れなかったことに腹を立てたのか、反対の手で脇の下辺りをかなり強い力ではたいてきた。顔を叩かないところに手慣れた雰囲気を感じると同時に、桃香はなぜか急に冷静になる自分に気が付いた。

「おい、もういなくなったか?さっさと済ませちまおうぜ」
「じゃあそのまま乗っててくれよ。俺が最初でいいな?」

 上に乗った男子と足を押さえている男子が勝手に順番を決めている。ここまで辱めを受け、さらには暴力まで振るわれて、結局そのまま慰み者になってしまうのかと悔しさのあまり体に力を入れることをやめた。叩かれた脇の下はきっと腫れているのだろう。ジンジンと痛みがひどくなってきた。

 すると急に息苦しさが薄れてきて声が出るような気になってきた。しかしここで叫ぶのは逆効果かもしれない。力では決して敵わない。ならば頭で対抗すべきだろう。

 桃香は静かに、そしてゆっくりと口を開いた。

「私は体を売ったことなんてないわ。それどころか裸を見られたのだって今日が初めて。このことは絶対忘れないわ」

 男子たちが顔を見合わせている。手足を押さえている力が緩んでいるが、ここで抵抗はしない。桃香はそのまま話を続けた。

「それを知ったうえでまだ続けるなら好きにしなさい。私は家に帰ったらすべてをネット上にぶちまけて公開自殺するわ。その時にはあなた達の名前、全員分読み上げるから覚悟しておいてね」

 そこまで言い切ったところで、足を掴んでいた男子と見張りの二人は無言で去って行った。あとは上に乗っている一番体の大きい評判の悪い男子が厄介で、腕を押さえているのはただの取り巻きだろう。

「おい、今言ったのは本当なのか?ウリやってるから何したっていいって俺は聞いたんだよ」

「嘘なんてつかないわ。疑うなら覚悟の上で好きにしなさいよ。今まで生きてきて一番の辱めを受けているのよ。全員絶対に許さないわ」

 なぜ気の弱い桃香の口からこんな言葉が出てくるのだろう。自分でも不思議だったが、身を守るための精いっぱいの虚勢であり、もしもの時には本当に死ぬつもりでもあったからかもしれない。

 それでも涙はあふれ続け体は小刻みに震えている。怖いし悔しいし情けなくて恥ずかしい、そんな風にさまざまな気持ちが積み重なっているのだ。

 しばしの沈黙の後、腹部に乗っていた男子が桃香の上から腰を上げた。

「俺がやったことを許せとは言わねえよ。チクリたいなら好きにしろ。ちくしょう、引っかかれ損だぜ」

 そう言い捨ててもう一人と一緒に出ていった。

 桃香はブラウスを羽織ってから数個だけ残っているボタンを留めるとブレザーを着てから少し離れたところへ投げ捨てられていたスカートを拾って履いた。床には大粒の涙がぼたぼたと落ち続けている。

 散らばっているボタンを拾って鞄へ入れてから帰ろうとすると、そこにはつい先ほどまで彼氏だった物体がまだ立ち尽くしていた。

「桃香…… 俺さ」

 そこまで聞いた瞬間に頭が真っ白になり、今まで一度もしたことのないビンタをするつもりで手を思い切り振った。しかし手をうまく広げることができずに拳を握りしめたままあごの辺りを叩いてしまい、彼氏のような物はその場に倒れこんでいた。

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