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第八章 浮遊霊の抱える不安
97.朝餉
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休日なのに珍しく早起きをした胡桃がベッドの上で大きく伸びをした。隣ではまだ千代が寝ている。
「ああびっくりした、一瞬自分がどこにいるのかわからなかったわ。でも早起きできて良かった、英介君達はリビングへ出て待ってる?」
「はい、胡桃さんが顔を洗いに行ってる間に千代ちゃん起こしておきます」
「ええ、よろしくね」
胡桃はそう言い残してから洗面所へ向かった。千代は僕が声をかけるとすぐに目を覚ます。どうやら今日は寝起きがいい様子だ。ドアは開いたままだったので僕と千代はリビングへ出た。
レースのカーテン越しに差し込む光が今日の天気が良いことを教えてくれる。ダイニングテーブルにはすっかり見慣れた朝日が座っている。奥のキッチンでは康子と真子が談笑しながら何かを調理しているようだ。
僕と千代は窓際の邪魔にならないところへ座って見学だ。まもなく胡桃が戻ってきて朝日の正面へと座った。
「お待たせしました、朝日さんには少ないかもしれないけれど、足りなければおかわりしてくださいね」
それぞれの目の前にはご飯とみそ汁、白い皿に盛りつけられたおかずが置かれたあと、四人がいただきますと言いながら箸を手にして食べ始めた。
「お、焼きねぎの味噌汁ですか、こりゃいい香りです。おかずは卵焼きにベーコンですかね? なんだか変わった色してますなぁ」
「やーね朝日さん、卵焼きじゃなくてオムレツって呼んであげてよ。こっちはベーコンじゃなくて鹿肉の塩漬けかな?」
「はい、ベーコンにしようと漬けておいたのですが、マンションで燻製は難しくてそのまま漬け込みすぎてしまったの。でも次作るときには、真子さんのところで作らせていただくことになったわ」
「へえ、田上さんが作るようなおしゃれな料理にうちの店が役に立つなんてにわかに信じがたいですわ」
「なーに言ってんのよお父さん、私だっておしゃれな料理も作れるわよ。でも漁師町ではそういうのウケないわけ、わかる?」
「へえへえそうかね、お前とおしゃれがどうも結びつかねぇがな。大体矢島まで行くってのに化粧もしねぇし普段着のままじゃねぇか」
「普段着で何が悪いのよ! 着飾ったり遊んだりする暇もなく店継がせたくせにさ。そんなこと言うなら、後でデパートにでも寄って高い服でも買っちゃうか」
「いいわね真子さん、私コーディネートのお手伝いしますよ。洋服見に行くなら胡桃さんも一緒にどうかしら?」
「私はいいわ、今日は自然を楽しみに行きたい気分なの。天気もいいし、青空の下で康子さんのお弁当をいただくわ」
胡桃はそういったが、もしかして僕達に気を使っているんじゃないかと心配になる。本当は康子さんたちと一緒に出掛けて、かわいい服の一着でも買ってきたらいいのにとも思う。
「ごちそうさま、とてもおいしかったわ、さすが康子さんね」
「いやあ、この鹿肉の塩漬けってのは旨いもんですね、でも朝っぱらなのに酒が欲しくなるのがいけねぇ。お屋敷にいるときにも材料はあったはずですが、うちのかかあじゃ作れなかったでしょうな」
「あらお上手ね、でもこれは失敗作なんです、後片付けみたいでごめんなさいね。この次は燻製にしてベーコンを作りましょう」
全員きれいに食べきったあと、片づけは胡桃がやっておくと言い康子達三人を送り出した。
「二人ともごめんなさい、できることなら食べさせてあげたかったのだけれど、本当に残念だわ」
「いえいえ、気にしないでください。それよりも一緒に行かなくて良かったんですか? 買い物も行くみたいですし」
「いいのよ、私は千代ちゃんや英介君と出掛けたいの。それともついていくのは迷惑かしら?」
「とんでもない! 一緒に来てくれるのは嬉しいです。でも洋服を買いに行ったりしたいものじゃないかなって思ったんです」
「私ファッションには全然興味ないのよね。きっと康子さんが何か見繕って買ってきてくれるし、私の持っている洋服のほとんどは康子さんが買ってきてくれたものなのよ?」
「そうなんですね、だから大人っぽい服装なのかな」
「そうかしら? 確かに同年代の子たちよりも落ち着いているかもしれないけど、私はそういうの好きよ。荒北家政の子たちなんてすごいミニスカートとか履いてるけど、女の私から見てもはしたないって思ってしまうわ」
「うちの学校の女子も髪染めたりスカート短くしたりしてましたね……ああいうのは僕も苦手です」
「うふふ、気が合うわね」
そう言って無邪気に笑う胡桃はとてもかわいくて、流行を追いかける必要なんてない自然な美しさだと感じる。
「それじゃ着替えてくるから少し待っていてね」
食器を濯いで食器洗い機へセットし終わった胡桃は、千代を連れて自分の部屋へ入っていった。
「ああびっくりした、一瞬自分がどこにいるのかわからなかったわ。でも早起きできて良かった、英介君達はリビングへ出て待ってる?」
「はい、胡桃さんが顔を洗いに行ってる間に千代ちゃん起こしておきます」
「ええ、よろしくね」
胡桃はそう言い残してから洗面所へ向かった。千代は僕が声をかけるとすぐに目を覚ます。どうやら今日は寝起きがいい様子だ。ドアは開いたままだったので僕と千代はリビングへ出た。
レースのカーテン越しに差し込む光が今日の天気が良いことを教えてくれる。ダイニングテーブルにはすっかり見慣れた朝日が座っている。奥のキッチンでは康子と真子が談笑しながら何かを調理しているようだ。
僕と千代は窓際の邪魔にならないところへ座って見学だ。まもなく胡桃が戻ってきて朝日の正面へと座った。
「お待たせしました、朝日さんには少ないかもしれないけれど、足りなければおかわりしてくださいね」
それぞれの目の前にはご飯とみそ汁、白い皿に盛りつけられたおかずが置かれたあと、四人がいただきますと言いながら箸を手にして食べ始めた。
「お、焼きねぎの味噌汁ですか、こりゃいい香りです。おかずは卵焼きにベーコンですかね? なんだか変わった色してますなぁ」
「やーね朝日さん、卵焼きじゃなくてオムレツって呼んであげてよ。こっちはベーコンじゃなくて鹿肉の塩漬けかな?」
「はい、ベーコンにしようと漬けておいたのですが、マンションで燻製は難しくてそのまま漬け込みすぎてしまったの。でも次作るときには、真子さんのところで作らせていただくことになったわ」
「へえ、田上さんが作るようなおしゃれな料理にうちの店が役に立つなんてにわかに信じがたいですわ」
「なーに言ってんのよお父さん、私だっておしゃれな料理も作れるわよ。でも漁師町ではそういうのウケないわけ、わかる?」
「へえへえそうかね、お前とおしゃれがどうも結びつかねぇがな。大体矢島まで行くってのに化粧もしねぇし普段着のままじゃねぇか」
「普段着で何が悪いのよ! 着飾ったり遊んだりする暇もなく店継がせたくせにさ。そんなこと言うなら、後でデパートにでも寄って高い服でも買っちゃうか」
「いいわね真子さん、私コーディネートのお手伝いしますよ。洋服見に行くなら胡桃さんも一緒にどうかしら?」
「私はいいわ、今日は自然を楽しみに行きたい気分なの。天気もいいし、青空の下で康子さんのお弁当をいただくわ」
胡桃はそういったが、もしかして僕達に気を使っているんじゃないかと心配になる。本当は康子さんたちと一緒に出掛けて、かわいい服の一着でも買ってきたらいいのにとも思う。
「ごちそうさま、とてもおいしかったわ、さすが康子さんね」
「いやあ、この鹿肉の塩漬けってのは旨いもんですね、でも朝っぱらなのに酒が欲しくなるのがいけねぇ。お屋敷にいるときにも材料はあったはずですが、うちのかかあじゃ作れなかったでしょうな」
「あらお上手ね、でもこれは失敗作なんです、後片付けみたいでごめんなさいね。この次は燻製にしてベーコンを作りましょう」
全員きれいに食べきったあと、片づけは胡桃がやっておくと言い康子達三人を送り出した。
「二人ともごめんなさい、できることなら食べさせてあげたかったのだけれど、本当に残念だわ」
「いえいえ、気にしないでください。それよりも一緒に行かなくて良かったんですか? 買い物も行くみたいですし」
「いいのよ、私は千代ちゃんや英介君と出掛けたいの。それともついていくのは迷惑かしら?」
「とんでもない! 一緒に来てくれるのは嬉しいです。でも洋服を買いに行ったりしたいものじゃないかなって思ったんです」
「私ファッションには全然興味ないのよね。きっと康子さんが何か見繕って買ってきてくれるし、私の持っている洋服のほとんどは康子さんが買ってきてくれたものなのよ?」
「そうなんですね、だから大人っぽい服装なのかな」
「そうかしら? 確かに同年代の子たちよりも落ち着いているかもしれないけど、私はそういうの好きよ。荒北家政の子たちなんてすごいミニスカートとか履いてるけど、女の私から見てもはしたないって思ってしまうわ」
「うちの学校の女子も髪染めたりスカート短くしたりしてましたね……ああいうのは僕も苦手です」
「うふふ、気が合うわね」
そう言って無邪気に笑う胡桃はとてもかわいくて、流行を追いかける必要なんてない自然な美しさだと感じる。
「それじゃ着替えてくるから少し待っていてね」
食器を濯いで食器洗い機へセットし終わった胡桃は、千代を連れて自分の部屋へ入っていった。
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