浮遊霊が青春してもいいですか?

釈 余白(しやく)

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第八章 浮遊霊の抱える不安

93.尋問

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「ごめんなさいね、突然呼び止めてしまって。私は百目木胡桃と言うの」

「俺は山下昇です。いったい話ってなんですか? 十九時から塾があるんです」

 山下のやつ進学するわけでもないくせに塾なんて行っているのか。学校の成績がよほど悪いのかもしれない。

「あと三十分くらいね、それなら回りくどいことは無しで聞くわ。英介君が亡くなった原因とそこに至るまでの毎日について教えてほしいの」

「ほ、本田のじ、事故の件ですか!?」

「そう、事故なのか事件なのかあなたの口から聞かせてもらえるかしら。そしてもし知っているなら紀夫君のこともね」

「紀夫? もしかして大矢の事ですか?」

「ええそうよ、この二人の死について知っていることを話して頂戴」

「ちょ、ちょっと待ってください、二人のって…… 大矢は、その、亡くなったんですか!?学校を辞めたと聞いていたんですけど……」

「あらそうなの? それはおかしいわね。あなた達からいじめられて学校へ行かれなくなり、その後命を落としたようなのだけれどね」

「そんな、それは間違いないんですか?」

「私、こんな不謹慎な嘘をつくような人間じゃないわ。あなた個人を責めるつもりもないから知っていることを包み隠さず話してほしいの」

「確かに大矢はいじめられていたというか、井出先輩にたかられていました。でも俺はいじめてなんかいませんよ」

「あなたは直接いじめてないかもしれないけど、その場にはいたわけでしょう?見て見ぬふりではなくどちらかと言えば当事者だったはずだわ」

「それはそうですが…… でも逆らったりしたら俺が標的にされちゃうんです。大矢が学校へ来なくなった後、本田が代わりにいじられるようになったように」

 山下はそう言ったが、僕の場合期間も短く大した被害はなかった。しかし結果として事故死する羽目になったのだから、井出も山下もその他の取り巻き連中も許せる存在ではない。

「じゃあその井出という先輩? さっき河川敷で会ったもう一人の男子よね?その人がすべて悪いということになるのかしら」

「二人に直接手を出していたのは先輩だけです。でも俺もやつらから取り上げたマンガを一緒に読んだりしていたのは確かだけど……」

「そのことを今は後悔しているのね、だからあの場所へマンガを置いているの?」

「えっ、なんで俺が置いているのを知っているのさ」

「別に知らなかったわよ、もしかしてそうかなって思っただけ。でもあなたには罪の意識がある、それを聞けて少しだけ安心したわ」

 僕はそれを聞いて少しだけ救われた気もしたが、同時に読むことのできないマンガを積み上げられても迷惑なだけだとつぶやいた。

「それで俺を、俺たちをどうしようって言うんですか?教師にも警察にもさんざん聞かれて正直参ってるんだ」

「今後どうするかはまだ考えていないわ。あなたはどうしたいのかしら? 罪を認めて償い心の重荷を下ろした方がいいのではなくて?」

「そ、それは…… 俺一人で決められることじゃないから……」

「それはどういう意味? 誰かに何かを口止めされているということのように感じるわね」

「い、いや、そういうことじゃない、今はサッカー部へ戻ってるし、何かあると試合に出られなくなると思ったから……」

 やはり井出も山下もサッカー部へ復帰しているようだ。それが僕達の死と関係があるのかまではわからないが、山下の態度からは何か事情が隠されているように感じた。

「そろそろ時間ね、急なお誘いに応じてくれてありがとう。また連絡してもいいかしら?」

「いやいやごめんだ、話すことなんかもうないよ。それよりいったいどうするつもりなんだよ、俺たちを捕まえさせるのか?」

「捕まえる? 誰に? そうなるという心当たりがあるのかしら?あなたが誠実に生きているならばそんなことにはならないでしょうし、過去不誠実であって罪の意識があるならご自分で対処することもできるでしょう?」

「それはそうだけど……」

「私はね、真実を知りたいだけなの。それとね、河川敷へお供えしているマンガはもう不要よ」

「でも……」

「あなたが自分の心を鎮めるためにしていることだろうけれど、それが英介君のためになっているわけではないわ。英介君や紀夫君のために何かしたいと思うならもっと別の方法があるでしょう?」

 山下はうつむいて黙ってしまった。

「さあ、もったいないから全部飲んでいってね。このチョコレートも持っていくといいわ、勉強の後には甘いものを食べた方が覚えが良くなるのよ?」

 胡桃はそう言ってから自分のカップを手に取り、冷めてしまったカフェ・オ・レを半分ほど飲んだ。山下は一気に飲み干して小皿のチョコレートを半分ほど掴んで席を立った。

「支払いは私がするから心配しないで、お勉強頑張ってね。私は四葉女子高等部の百目木胡桃と言うの、他にも何か話したいと思ったときは連絡して頂戴」

 胡桃は決して無理強いしないが強い口調で語った。山下は暴力に訴えるタイプではないので大きなトラブルが起こる心配はしていなかったが、今後はどういうことになるかわからない。

 ただの興味本位であれば当事者と直接話をする必要などなく、胡桃の真意を確かめる必要があると考えつつも、これ以上の行動を止めることができるかどうか自信がなかった。山下が去った後のテーブルは、まるで雲が晴れた後のように重苦しい雰囲気が消えていた。

 僕は胡桃の正面に座り何か言おうとしたが、胡桃が優しく微笑んだのを見て胸がいっぱいになり何も言えなくなった。

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