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第七章 浮遊霊は考え込む
82.不安
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まもなく胡桃の家へ向かう時間だ。でも僕はこの荒波海岸駅のホームから動けずにいた。
父さんと大矢の父親がなぜ一緒にいるのかが気になる。たまたま一緒になったというならばこの荒波海岸が始発なのだからそれほど不自然ではないが、父さんが電車でどこかへ行くなんてことはほとんどなかった。
「えいにいちゃん、どうしたの?またかんがえごと?」
千代が声をかけてきた。それくらい僕はぼうっとしていたのだろう。
「ううん、なんでもないよ。電車が来なくて暇だなって思ってただけさ」
「それならいいんだけどむつかしそうなおかおだったよ」
「そうだったかなぁ、でももうすぐ電車が来るみたいだね。僕達はそろそろ胡桃お姉ちゃんの家に向かわないといけないね」
「えいにいちゃんだいじょうぶなの?」
「えっ、大丈夫って何が?」
「ううん、なんでもない、だいじょうぶならいいの」
千代が何かを感じ取ったようだが今はひとまず予定通り行動しよう。大矢が戻ってきたら改めて考えればいいことだ。僕と千代はホームから戻り、改札をまたフリーパスで抜けてから胡桃のマンションへ向かった。
念のためマンションへ向かう前に『小料理屋 真』の前を通ったらまだ明かりはついており営業中のようだ。胡桃がもう帰ったのかどうかまではわからないが、予定の時間よりも十分以上早くつけそうなのでおそらくは問題ないはずだ。
僕と千代は海岸沿いの道を二人で歌いながら歩いて行った。千代はいつの間にかアニメの主題歌をすっかり覚えており、うろ覚えの僕よりもはるかに上手に歌うくらいで、子供の吸収率はすさまじいと感じる。
そもそも僕はあまり歌が得意ではない。同級生たちは友達同士でカラオケに行ったりしているようだが、その席に誘われたこともなく、また誘われたとしても行かなかっただろう。
決して音痴ではないと自分では思っているけれど、人前で歌うほど上手なわけでもなく、どうしても恥ずかしいという気持ちが先に出てしまう。だから音楽の授業や合唱会で歌うときは、どうにかして逃れられないかをいつも考えていたくらいだ。
でも今は千代しかいないので気楽に歌っていられる。誰にも気にせず大きな声で歌うことは新鮮で気持ちの良いものだった。何と言っても聞かれる相手は幽霊か胡桃に限られる気楽さが大きい。
予定よりも早めにマンションの前についた僕と千代は、車寄せから良く見えるよう玄関の自動ドア横に建って待つことにした。
「千代はいましあわせだよ。ずっとずっとひとりだったのにいまはえいにいちゃんやくるみおねえちゃんがいっしょにいてくれるんだもの」
千代のその発言は唐突過ぎて僕はすぐに言葉を返すことができなかった。
「千代ちゃんがそう思ってくれるのはとても嬉しいよ。これからもずっと一緒にいたいね」
「ほんとうに? えいにいちゃんずっと千代といっしょにいてくれる?」
「もちろんさ、むしろ僕の方がお願いしたくらいだもの」
「えへへ、うれしいな」
やはり千代は何かを感じ不安になったのかもしれない。それとも大矢がなかなか戻ってこないことが不安につながったのだろうか。どちらにせよ千代の不安を解消してあげないといけないかもしれない。
明日もまた絹原へ行くつもりなのでその時にでも話してみるか。それとも大矢が戻ってきてからにしようか。結局答えを出せないうちに朝日の車がマンション前に入ってきた。どうやら食事会が終わったようだ。
「朝日さん、真子さんありがとう、おやすみなさい。お腹いっぱいですぐには寝られないかもしれないわ」
「真子さんに後片付けおまかせしてしまって申し訳ありません。今度お返ししますね、おやすみなさい」
胡桃と田上康子が朝日に挨拶をしている。助手席には朝日の娘で真の店主、朝日真子が乗っているようで挨拶する声が聞こえてくる。
二人が走り去る車へ手を振り、車が見えなくなったところで玄関へ振り返った。その時に胡桃がこちらを見て小さく手を振ったのが見えたので、僕と千代は胡桃の元へ駆け寄った。
「あら? 胡桃さん、誰かいたのかしら?」
「ううん、なんで?」
「なにか植え込みの方を気にしてたみたいだったから。もう夜も遅いし、不審者とかいたら怖いですからね」
「そうね、早く中に入りましょう」
胡桃はそう言いながら康子を促しつつ、後ろ手で僕達を呼んでいる。僕と千代も急いで胡桃の後ろについてマンション内へ入っていった。
康子が不審者を心配していたが、僕達も考え方によっては不審者だなと思いながらも、開き直って胡桃の背中を追いかけるのだった。
父さんと大矢の父親がなぜ一緒にいるのかが気になる。たまたま一緒になったというならばこの荒波海岸が始発なのだからそれほど不自然ではないが、父さんが電車でどこかへ行くなんてことはほとんどなかった。
「えいにいちゃん、どうしたの?またかんがえごと?」
千代が声をかけてきた。それくらい僕はぼうっとしていたのだろう。
「ううん、なんでもないよ。電車が来なくて暇だなって思ってただけさ」
「それならいいんだけどむつかしそうなおかおだったよ」
「そうだったかなぁ、でももうすぐ電車が来るみたいだね。僕達はそろそろ胡桃お姉ちゃんの家に向かわないといけないね」
「えいにいちゃんだいじょうぶなの?」
「えっ、大丈夫って何が?」
「ううん、なんでもない、だいじょうぶならいいの」
千代が何かを感じ取ったようだが今はひとまず予定通り行動しよう。大矢が戻ってきたら改めて考えればいいことだ。僕と千代はホームから戻り、改札をまたフリーパスで抜けてから胡桃のマンションへ向かった。
念のためマンションへ向かう前に『小料理屋 真』の前を通ったらまだ明かりはついており営業中のようだ。胡桃がもう帰ったのかどうかまではわからないが、予定の時間よりも十分以上早くつけそうなのでおそらくは問題ないはずだ。
僕と千代は海岸沿いの道を二人で歌いながら歩いて行った。千代はいつの間にかアニメの主題歌をすっかり覚えており、うろ覚えの僕よりもはるかに上手に歌うくらいで、子供の吸収率はすさまじいと感じる。
そもそも僕はあまり歌が得意ではない。同級生たちは友達同士でカラオケに行ったりしているようだが、その席に誘われたこともなく、また誘われたとしても行かなかっただろう。
決して音痴ではないと自分では思っているけれど、人前で歌うほど上手なわけでもなく、どうしても恥ずかしいという気持ちが先に出てしまう。だから音楽の授業や合唱会で歌うときは、どうにかして逃れられないかをいつも考えていたくらいだ。
でも今は千代しかいないので気楽に歌っていられる。誰にも気にせず大きな声で歌うことは新鮮で気持ちの良いものだった。何と言っても聞かれる相手は幽霊か胡桃に限られる気楽さが大きい。
予定よりも早めにマンションの前についた僕と千代は、車寄せから良く見えるよう玄関の自動ドア横に建って待つことにした。
「千代はいましあわせだよ。ずっとずっとひとりだったのにいまはえいにいちゃんやくるみおねえちゃんがいっしょにいてくれるんだもの」
千代のその発言は唐突過ぎて僕はすぐに言葉を返すことができなかった。
「千代ちゃんがそう思ってくれるのはとても嬉しいよ。これからもずっと一緒にいたいね」
「ほんとうに? えいにいちゃんずっと千代といっしょにいてくれる?」
「もちろんさ、むしろ僕の方がお願いしたくらいだもの」
「えへへ、うれしいな」
やはり千代は何かを感じ不安になったのかもしれない。それとも大矢がなかなか戻ってこないことが不安につながったのだろうか。どちらにせよ千代の不安を解消してあげないといけないかもしれない。
明日もまた絹原へ行くつもりなのでその時にでも話してみるか。それとも大矢が戻ってきてからにしようか。結局答えを出せないうちに朝日の車がマンション前に入ってきた。どうやら食事会が終わったようだ。
「朝日さん、真子さんありがとう、おやすみなさい。お腹いっぱいですぐには寝られないかもしれないわ」
「真子さんに後片付けおまかせしてしまって申し訳ありません。今度お返ししますね、おやすみなさい」
胡桃と田上康子が朝日に挨拶をしている。助手席には朝日の娘で真の店主、朝日真子が乗っているようで挨拶する声が聞こえてくる。
二人が走り去る車へ手を振り、車が見えなくなったところで玄関へ振り返った。その時に胡桃がこちらを見て小さく手を振ったのが見えたので、僕と千代は胡桃の元へ駆け寄った。
「あら? 胡桃さん、誰かいたのかしら?」
「ううん、なんで?」
「なにか植え込みの方を気にしてたみたいだったから。もう夜も遅いし、不審者とかいたら怖いですからね」
「そうね、早く中に入りましょう」
胡桃はそう言いながら康子を促しつつ、後ろ手で僕達を呼んでいる。僕と千代も急いで胡桃の後ろについてマンション内へ入っていった。
康子が不審者を心配していたが、僕達も考え方によっては不審者だなと思いながらも、開き直って胡桃の背中を追いかけるのだった。
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