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第六章 浮遊霊たちは気づいてしまう
73.曇空
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四つ葉へ着いた時、講堂の時計は十四時手前を指していた。全力で走り続けたけれど二時間近くはかかっていた。
胡桃はおそらく授業中だと思うが千代はどこにいるのだろう。学園敷地入口の門扉の辺りから見渡しても姿は見えない。どうやら校庭にはいないようだ。
校舎に近付いたが玄関は閉まっており中へ入ることはできない。念のため裏手へ回ってみたが、やはりこちらも閉まっていた。とりあえず休み時間まで待っているしか手はない。僕はチャイムが鳴るのを待ちながら芝生へ寝転んで空を眺めていた。少し雲が多いけれど雨の心配はなさそうに見える。
そういえば今日は胡桃も演劇の練習に参加すると言っていたな。どんな演技をするのだろう。僕は今まで演劇どころか流行りの音楽や学校の授業でやるものすべて、あらゆる芸術系に興味が沸いたことが無い。
しかし今は胡桃が何かをしているところが見てみたいと思っている。これは何と言うか心境の変化と片付けられない。明らかに胡桃の行動や発言すべてが気になっていると自認できているのだから。
寝転がって数分経っただろうか。校舎の方で非常ベルの音が鳴った。そういえばこの学校はチャイムではなくベルの音だったなと思いだしながら体を起こした。芝生から校舎へ向かって歩き出してすぐに、こちらへ千代が走ってくるのが見えた。
「おにいちゃーん、えいにいちゃーん」
千代が僕を呼ぶ声にあまり元気が無いように感じるのは気のせいだろうか。やはり待っている間退屈していたのだろうか。
「遅くなってごめんね。大矢はまだ戻ってきてなかったよ」
「すぐくるとおもってたのになかなかこないから、千代ずっとずっとずーっとひとりでまっていないといけないとおもってさみしかったの。くるみおねえちゃんのじゃましないようにひとりでおへやのそとにいたんだよ」
「そうか、偉かったね。これからは離れないようにするよ」
「うん!」
千代と一緒に校舎から出てきた胡桃は、校庭の周囲に設けられたベンチに腰掛けてこちらを眺めている。その表情は穏やかに微笑んでいて、僕はそれを見て胸が締め付けられる想いを感じていた。
僕は千代と一緒に胡桃の元へ向かい、怒ってもいない相手へ来るのが遅くなったことを詫びる。胡桃は当然のように微笑んでいるだけだ。
「千代ちゃんたらね、午前中はご機嫌だったんだけどお昼過ぎになっても英介君が来ないから不安になってしまったみたい。それに私の横で授業聞いているのも飽きちゃったようだしね」
「ちがうよ、千代はね、くるみおねえちゃんのじゃましないようにひとりでまつことにしたのよ」
「そうだったわね、ありがとう、千代ちゃん」
「遅くなってすいません、面倒おかけしました」
「ううん、大丈夫よ。それよりも英介君を見つけた千代ちゃんが大喜びで走っていくところ見て少しやきもち焼いちゃったわ」
胡桃の話し方は独特と言うほどでもないが、どこか違う世界の言葉を聞いているように感じることがある。皮肉とは違うけれど本心なのか冗談で言っているのか判断しづらい。それでも優しい笑顔を見せてくれるということは、僕の事を悪く思っているわけでは無いと感じるのは楽観的すぎるだろうか。
「じゃあ私は次の授業があるから教室へ行くわね。この後まだ二限あるから退屈でしょうけどその辺りで遊んでいて頂戴」
「はい、放課後の練習見るの楽しみにしてるのでそれまで時間つぶしてますね」
「千代もたのしみー」
「うふふ、そんなに期待されてるならいいとこ見せないといけないわね。ではまた後でね」
胡桃はそう言って校舎の中へ戻っていった。勉強に演劇、きっとどちらも優秀だろう。少なくとも演劇に関しては、期待をかける言葉に対して照れも謙遜もせずにいいとこ見せるなんて言うくらいだし、部長の不在に演技指導を任されれるくらいだから自信があるようだ。
また校舎からベルの音が鳴り、それを聞いた僕と千代は校庭へ向かい、暇つぶしがてら走ったり芝生を転がったりして授業の終わりを待つことにした。
こんな風に毎日の楽しみがある生活ってのもいいものだ、なんて思っているうちに、僕が朝抱いていたもやもやした気持ちはすっかり晴れていた。
胡桃はおそらく授業中だと思うが千代はどこにいるのだろう。学園敷地入口の門扉の辺りから見渡しても姿は見えない。どうやら校庭にはいないようだ。
校舎に近付いたが玄関は閉まっており中へ入ることはできない。念のため裏手へ回ってみたが、やはりこちらも閉まっていた。とりあえず休み時間まで待っているしか手はない。僕はチャイムが鳴るのを待ちながら芝生へ寝転んで空を眺めていた。少し雲が多いけれど雨の心配はなさそうに見える。
そういえば今日は胡桃も演劇の練習に参加すると言っていたな。どんな演技をするのだろう。僕は今まで演劇どころか流行りの音楽や学校の授業でやるものすべて、あらゆる芸術系に興味が沸いたことが無い。
しかし今は胡桃が何かをしているところが見てみたいと思っている。これは何と言うか心境の変化と片付けられない。明らかに胡桃の行動や発言すべてが気になっていると自認できているのだから。
寝転がって数分経っただろうか。校舎の方で非常ベルの音が鳴った。そういえばこの学校はチャイムではなくベルの音だったなと思いだしながら体を起こした。芝生から校舎へ向かって歩き出してすぐに、こちらへ千代が走ってくるのが見えた。
「おにいちゃーん、えいにいちゃーん」
千代が僕を呼ぶ声にあまり元気が無いように感じるのは気のせいだろうか。やはり待っている間退屈していたのだろうか。
「遅くなってごめんね。大矢はまだ戻ってきてなかったよ」
「すぐくるとおもってたのになかなかこないから、千代ずっとずっとずーっとひとりでまっていないといけないとおもってさみしかったの。くるみおねえちゃんのじゃましないようにひとりでおへやのそとにいたんだよ」
「そうか、偉かったね。これからは離れないようにするよ」
「うん!」
千代と一緒に校舎から出てきた胡桃は、校庭の周囲に設けられたベンチに腰掛けてこちらを眺めている。その表情は穏やかに微笑んでいて、僕はそれを見て胸が締め付けられる想いを感じていた。
僕は千代と一緒に胡桃の元へ向かい、怒ってもいない相手へ来るのが遅くなったことを詫びる。胡桃は当然のように微笑んでいるだけだ。
「千代ちゃんたらね、午前中はご機嫌だったんだけどお昼過ぎになっても英介君が来ないから不安になってしまったみたい。それに私の横で授業聞いているのも飽きちゃったようだしね」
「ちがうよ、千代はね、くるみおねえちゃんのじゃましないようにひとりでまつことにしたのよ」
「そうだったわね、ありがとう、千代ちゃん」
「遅くなってすいません、面倒おかけしました」
「ううん、大丈夫よ。それよりも英介君を見つけた千代ちゃんが大喜びで走っていくところ見て少しやきもち焼いちゃったわ」
胡桃の話し方は独特と言うほどでもないが、どこか違う世界の言葉を聞いているように感じることがある。皮肉とは違うけれど本心なのか冗談で言っているのか判断しづらい。それでも優しい笑顔を見せてくれるということは、僕の事を悪く思っているわけでは無いと感じるのは楽観的すぎるだろうか。
「じゃあ私は次の授業があるから教室へ行くわね。この後まだ二限あるから退屈でしょうけどその辺りで遊んでいて頂戴」
「はい、放課後の練習見るの楽しみにしてるのでそれまで時間つぶしてますね」
「千代もたのしみー」
「うふふ、そんなに期待されてるならいいとこ見せないといけないわね。ではまた後でね」
胡桃はそう言って校舎の中へ戻っていった。勉強に演劇、きっとどちらも優秀だろう。少なくとも演劇に関しては、期待をかける言葉に対して照れも謙遜もせずにいいとこ見せるなんて言うくらいだし、部長の不在に演技指導を任されれるくらいだから自信があるようだ。
また校舎からベルの音が鳴り、それを聞いた僕と千代は校庭へ向かい、暇つぶしがてら走ったり芝生を転がったりして授業の終わりを待つことにした。
こんな風に毎日の楽しみがある生活ってのもいいものだ、なんて思っているうちに、僕が朝抱いていたもやもやした気持ちはすっかり晴れていた。
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