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第六章 浮遊霊たちは気づいてしまう

69.睡眠

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 外が明るくなり始めたころ、テーブルの上の時計が六時を指した。と同時に控えめな電子音でアラームが鳴る。本当に起きる気があるか疑わしいくらいの小さい音だ。案の定胡桃は微動だにせず寝息をたてたままだし、それは千代も同じだった。

 ほんの少し間をあけて部屋をノックする音がした。ドアの外で康子さんと言う女性の声がする。

「胡桃さん、朝ですよ、入りますよ」

 そう声をかけてからドアを開け部屋に入ってきた康子は、手に持ったスマートフォンを眠ったままの胡桃へ向けた。そして何かを再生したのだろうか、聴いたことの無い男女の声が流れた。

『胡桃ちゃん、朝ですよ、起きなさい。学校に遅れてしまいますよ』
『胡桃! まだ寝てるのか!早く起きないと朝飯抜きだぞ!』

 それを聞いた胡桃は横になったままで目をぱっちりと開けた。そして手探りでベッドサイドのメガネを手に取りそれをかける。

「康子さん、おはよう。今日もバッチリ目が覚めたわ」

 そう言いながら体を起こし手を組んで伸びをした。

真九郎様柔子さんの声だとすぐ起きるから私も助かってますよ。私がいくら声をかけてもなかなか目を覚まさないのはなぜなのかしらね」

 康子が半ばからかうような口調で胡桃へ問いかける。

「だって康子さんの声だと心地よくて、まだまだ夢の中に居たいって気分になってしまうわ。でも今日は部屋をノックした音が聞こえたからまだましかしらね」

「あら珍しい、では早めに準備してくださいね」

「はーい、シャワーしてくるわ。ところで朝ご飯は何かしら?」

「今朝は昨夜いただいたハマグリに、アスパラガスとパプリカを合わせた焼き物にしてみたの。味付けはハニーソースにしてみたのだけれど、はちみつの甘さが程良い自信作よ」

「朝から豪華で嬉しいわ。はやくシャワーしてこないとね」

「じゃあキッチンで続きをやっているわ」

 そういうと康子は部屋を出ていった。

「さてと、千代ちゃん、英介君、おはよう。学校まで一緒に行くかしら?」

「えっと、千代ちゃんと相談してみます。とりあえず百目木どうめぎさんは遅刻するといけないので準備どうぞ」

「そうね、朝食食べ終わったらまた来るわね」

 胡桃がハンガーごと着替えをもって部屋を出ていった。とりあえずは千代を起こして相談してみるとしよう。

「千代ちゃん? もう朝だよ。今日はこれからどうしようか?」

 僕は千代へ話しかけたが返事は返ってこなかった。まだ寝ているのだろうか。布団の上に横たわる千代に特別な変化はない。顔色はもともと真っ白で具合の良しあしなどわからない。これはいったいどういう状況なのだろうか。まさか一度寝たら起きることができないなんてことは無いだろうが、少しだけ不安な気持ちになっているのも確かだ。

 僕はもう一度千代の名を呼びかけた。

「千代ちゃん、聞こえるかい?朝になったから起きようよ」

 するとようやく千代の目がパチリと開いた。良かった、何かとんでもないことが起きていたらどうしようと思っていたがそんなことは無かったようだ。

「あ、えいにいちゃん。いまって千代寝てた?」

「うん、ベッドで横になってすぐに寝てたよ」

「くるみおねえちゃんはどこいちゃったの?」

「今学校へ行く準備と朝ご飯食べてるところだよ」

「そっかあ、もうそんなじかんなんだね。千代、ずっとずっとまえからいっかいもねむったことなかったよ?なのにくるみおねえちゃんとてをつないだらねちゃった、ふしぎだね」

「そうだね、なんでかはわからないけど不思議だね。でも久しぶりに眠れてどうだった? いい夢でも見たかな?」

「うーん、なにかたのしいゆめだったかもしれないけどおぼえてないや」

 幽霊になっているだけでも不思議なのに、それ以上の不思議な体験をするなんて想像もつかない事だった。きっと大矢に話したら驚くだろうな。

 あ、そういえば大矢はどうしているんだろう。すっかり忘れていた自分の薄情さを少しだけ反省した。

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