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第六章 浮遊霊たちは気づいてしまう
68.夢想
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幽霊はお腹もすかなければ眠くなることもなく、そして疲れることもない。しかし逆に言えば、食べることはできず眠ることができないものだと聞いていたし僕もそう思っていた。
しかし目の前で横になっている千代は間違いなく眠っている。
愛らしい寝顔で千代が眠っているのを見た僕は、もしかしたら僕達幽霊が眠ることが無いのは、眠くならないため寝るという意識が無いから起きているだけなのではないかと考えた。
そして壁にもたれていた体を動かし床に寝転んで目を瞑ってみる。カーテン越しに入ってくるわずかな光も遮断され落ち着いた気分にはなるが一向に眠れそうにない。
瞼を閉じて真っ暗になった僕の視界には何も見えないはずだが、遠くに何かが見えるように感じる。それは徐々にはっきりとして来てやがてわからない何かから特定の人物だということがわかる。
それはもちろん胡桃の姿だ。暗闇にポツンとたたずむ僕の前に近付いてきた胡桃はなんとなくいつもと違って見える。学生服ではない大人っぽい服を着た胡桃が僕に問いかける。
「英介君? 君はいつまで子供のままなのかしら?私はもう来年から社会人だし、いつまでもあなた達と遊んでいられないのよ。今まで楽しかったわ、それじゃあね」
そう言い放った胡桃は踵を返し闇の中へ消えていった。僕はその姿を追いかけようとしたが足が一歩も動かず進むことができない。足元を見ると膝から下には何もなかった。そしてその浸食は膝から上へと進み、やがてお腹の辺りまでが消えてなくなっていた。
僕はいったいどうなるのだろう。焦りもがいてもその場から動くことができない。腕を振り回し逃げ出そうとしてもなんの効果もなく、やがてそのもがいている腕も闇に飲み込まれた。最後に顔だけになった僕は言葉すら発することができず、そのまま闇の中へと消えた。
もちろんこれは僕の妄想にしか過ぎないが、それにしてもリアリティのある未来像でもある。僕はずっとこのまま十六歳で止まったままだ。しかし周囲の時間は当たり前のように流れていき、胡桃は毎年一つずつ歳を重ねる。
その当たり前のことは僕に恐怖に似た感情を持たせるに十分だった。床から起き上がった僕はまた壁にもたれ、うつむき加減で膝を抱えていた。僕の考えることは僕一人の世界であり、唯一誰にも邪魔されない自由な空間のはず。けれど、やっぱり現実やその時の気分に影響されてしまうのは仕方がない。
やっぱり僕は胡桃の事が好きになってしまったのだ。もしかしてそうなのかもと考えたことはあったが、今まで誰かに恋愛感情を持ったことが無かった僕には、自分が恋心を抱いているのかどうかを判断する力が無かった。
しかし、四六時中胡桃の事ばかり考えてしまい、会っている間は胡桃の事が気になってついつい視線が追ってしまう。これが恋愛感情でないなら何なのか。
ただしその恋愛感情と言うものが必ずしもいいこととは思えない。今はまだ同い年だけれど、間もなく年もあけ来年になれば胡桃は十七歳になるだろう。でも僕は十六歳のままだし、その次も、またその次の年も同じことが繰り返される。
そう考えると辛い気持ちにもなってくるが、そもそも知り合えただけでも奇跡なんだとついこの間思ったばかりではないか。負の感情を持つことが当たり前だった生前は忘れ、これからは前向きな気持ちで生きて?行くのだと誓ったはず。これは誰のためでもなく自分のためである。
ベッドをみると二人が静かに眠っている。一体どんな夢を見るのだろう。願わくば僕の見たような悪夢でないことを願うばかりだ。といっても僕の場合は寝ていたわけではないので夢ではなく、ただ自分の想像の産物に過ぎないのだが。
自分の感情を整理し、うまく割り切って考えることができないと、この先胡桃との関係を続けていくことができないと考えると不安な気持ちになってしまう。どこでどう折り合いをつければいいのか今は全く思いつかないが、ごく普通に、普通に振る舞っていくことが僕のできる精一杯かもしれない。
外はカーテン越しで何も見えず明るさは全く感じない。今日の夜は人生で最長の夜だなと思いつつ、英介は膝を抱えてうずくまっていた。
しかし目の前で横になっている千代は間違いなく眠っている。
愛らしい寝顔で千代が眠っているのを見た僕は、もしかしたら僕達幽霊が眠ることが無いのは、眠くならないため寝るという意識が無いから起きているだけなのではないかと考えた。
そして壁にもたれていた体を動かし床に寝転んで目を瞑ってみる。カーテン越しに入ってくるわずかな光も遮断され落ち着いた気分にはなるが一向に眠れそうにない。
瞼を閉じて真っ暗になった僕の視界には何も見えないはずだが、遠くに何かが見えるように感じる。それは徐々にはっきりとして来てやがてわからない何かから特定の人物だということがわかる。
それはもちろん胡桃の姿だ。暗闇にポツンとたたずむ僕の前に近付いてきた胡桃はなんとなくいつもと違って見える。学生服ではない大人っぽい服を着た胡桃が僕に問いかける。
「英介君? 君はいつまで子供のままなのかしら?私はもう来年から社会人だし、いつまでもあなた達と遊んでいられないのよ。今まで楽しかったわ、それじゃあね」
そう言い放った胡桃は踵を返し闇の中へ消えていった。僕はその姿を追いかけようとしたが足が一歩も動かず進むことができない。足元を見ると膝から下には何もなかった。そしてその浸食は膝から上へと進み、やがてお腹の辺りまでが消えてなくなっていた。
僕はいったいどうなるのだろう。焦りもがいてもその場から動くことができない。腕を振り回し逃げ出そうとしてもなんの効果もなく、やがてそのもがいている腕も闇に飲み込まれた。最後に顔だけになった僕は言葉すら発することができず、そのまま闇の中へと消えた。
もちろんこれは僕の妄想にしか過ぎないが、それにしてもリアリティのある未来像でもある。僕はずっとこのまま十六歳で止まったままだ。しかし周囲の時間は当たり前のように流れていき、胡桃は毎年一つずつ歳を重ねる。
その当たり前のことは僕に恐怖に似た感情を持たせるに十分だった。床から起き上がった僕はまた壁にもたれ、うつむき加減で膝を抱えていた。僕の考えることは僕一人の世界であり、唯一誰にも邪魔されない自由な空間のはず。けれど、やっぱり現実やその時の気分に影響されてしまうのは仕方がない。
やっぱり僕は胡桃の事が好きになってしまったのだ。もしかしてそうなのかもと考えたことはあったが、今まで誰かに恋愛感情を持ったことが無かった僕には、自分が恋心を抱いているのかどうかを判断する力が無かった。
しかし、四六時中胡桃の事ばかり考えてしまい、会っている間は胡桃の事が気になってついつい視線が追ってしまう。これが恋愛感情でないなら何なのか。
ただしその恋愛感情と言うものが必ずしもいいこととは思えない。今はまだ同い年だけれど、間もなく年もあけ来年になれば胡桃は十七歳になるだろう。でも僕は十六歳のままだし、その次も、またその次の年も同じことが繰り返される。
そう考えると辛い気持ちにもなってくるが、そもそも知り合えただけでも奇跡なんだとついこの間思ったばかりではないか。負の感情を持つことが当たり前だった生前は忘れ、これからは前向きな気持ちで生きて?行くのだと誓ったはず。これは誰のためでもなく自分のためである。
ベッドをみると二人が静かに眠っている。一体どんな夢を見るのだろう。願わくば僕の見たような悪夢でないことを願うばかりだ。といっても僕の場合は寝ていたわけではないので夢ではなく、ただ自分の想像の産物に過ぎないのだが。
自分の感情を整理し、うまく割り切って考えることができないと、この先胡桃との関係を続けていくことができないと考えると不安な気持ちになってしまう。どこでどう折り合いをつければいいのか今は全く思いつかないが、ごく普通に、普通に振る舞っていくことが僕のできる精一杯かもしれない。
外はカーテン越しで何も見えず明るさは全く感じない。今日の夜は人生で最長の夜だなと思いつつ、英介は膝を抱えてうずくまっていた。
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