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第六章 浮遊霊たちは気づいてしまう
66.誘惑
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他愛もない会話をしていると胡桃があくびをした。時計を見るとすでに日付が変わっている。
「あら、もうこんな時間なのね。おしゃべりしていると時間なんてあっという間に過ぎてしまうわ」
「すいません、僕達のせいで寝不足になってしまって申し訳ないです」
「じゃあ私はそろそろ寝るわ。朝は六時ごろ起きる、というか起こしてもらってるんだけどね」
「えっと、僕はどうしたらいいんでしょうか……」
「あら、せっかくだから乙女の寝顔でも眺めていたらどうかしら?。こんな機会、滅多にないのではなくて?」
「あ、いや、その、そんな……」
もう何度も胡桃にはからかわれているがいまだにうまいこと対処ができない。中高一貫の女子校へ通っている割には男子のツボというか、困るようなセリフを使うのが上手い気がする。
でも高校一年生にもなれば、異性と付き合う人もそこそこいるし、それはどの学校も同じなのかもしれない。しかし、あんな山の中の学校でもそういう機会があるとしたら驚きではある。
「冗談はさておき、気になるようならリビングに居てもいいし、何ならバルコニーでも構わないわよ。でも私はともかく、千代ちゃんは英介君がそばにいないと不安になってしまうかもしれないわね」
「千代、ひとりでもへいきだよ。でもみんないっしょだとすごくうれしいの」
「そうよね、じゃあ千代ちゃんは私と一緒に寝ようか?。布団に入っても大丈夫なのかしら?」
「うーん、わからないけどもしかしたらぺちゃんこになってしまうかもね」
「そっか、じゃあ布団の上でいいから隣にいらっしゃい。お手手繋いで横になるだけでいいわ」
「うん!」
「じゃあ申し訳ないけど、英介君はその辺で寝転がっててね。おやすみなさい」
そういうとメガネをはずしてベッドサイドにぶら下げてあるポーチへしまった。
僕は胡桃へ同じ言葉を返す。
「おやすみなさい」
胡桃は掛け布団から片手を出して横になり千代と手を繋いだ。どうやら寝つきは良いらしく、数分で寝息をたてはじめた。
大きな枕に頭を少しだけうずめた胡桃の顔は、メガネを外しているため大きい目と濃いまつげが良く分かる。色白ではないが健康的な肌の色、肩より少し長い程度で切りそろえた黒い髪、そしてつややかで淡いピンク色の唇が嫌でも目に入ってくる。
僕は動揺とも興奮とも言えない、もしかするとその両方が入り混じった気持ちで頭の中がいっぱいになり、今までにないほどの緊張を体験している。思春期の男子であれば、よほど胆の据わったやつじゃないとこんな体験をしながら平常ではいられないだろう。
そんな僕の変化を胡桃にも千代にも悟られてはならないと思い、なるべく胡桃の方を見ないよう心がけるのだが、どうしてもその寝顔に惹きこまれてしまう。このままじゃ僕の体は沸騰して爆発してしまいそうだ。やっぱり学校かどこかで待機しておくべきだったのだ。
これはマンガのシーンに例えれば、まるで自分そっくりの悪魔と天使が戦う場面のように思えた。実際にこんな場面に出くわすなんて想像もしていなかったが、これはまさにわかりやすい葛藤で、悪魔と天使のやり取りはベタだけどこんな状況にピッタリの表現だろう。
胡桃にとっては、幽霊である僕が現実に生きる人間へ何かできるわけではないと信じているからこそ安心して寝ていられるのだろうが、もしそれが嘘だったらどうするつもりなのだ。
僕達幽霊は現実の人や物へ干渉することはできない。それは紛れもない事実ではあるのだが、それを実際に証明したわけではない。それに、たとえ干渉できないとしても出来ることがあるのも確かだ。
緊張が最高潮に達した僕は、もういてもたってもいられなくなりその場を立ち上がった。視線が胡桃の顔に釘づけになっているのが自分でも良く分かる。
そして二人が寝ているベッドへそっと近寄り寝ている胡桃に顔を近づける。一呼吸おいてから思い切って小さな声で囁きかけた。
「あら、もうこんな時間なのね。おしゃべりしていると時間なんてあっという間に過ぎてしまうわ」
「すいません、僕達のせいで寝不足になってしまって申し訳ないです」
「じゃあ私はそろそろ寝るわ。朝は六時ごろ起きる、というか起こしてもらってるんだけどね」
「えっと、僕はどうしたらいいんでしょうか……」
「あら、せっかくだから乙女の寝顔でも眺めていたらどうかしら?。こんな機会、滅多にないのではなくて?」
「あ、いや、その、そんな……」
もう何度も胡桃にはからかわれているがいまだにうまいこと対処ができない。中高一貫の女子校へ通っている割には男子のツボというか、困るようなセリフを使うのが上手い気がする。
でも高校一年生にもなれば、異性と付き合う人もそこそこいるし、それはどの学校も同じなのかもしれない。しかし、あんな山の中の学校でもそういう機会があるとしたら驚きではある。
「冗談はさておき、気になるようならリビングに居てもいいし、何ならバルコニーでも構わないわよ。でも私はともかく、千代ちゃんは英介君がそばにいないと不安になってしまうかもしれないわね」
「千代、ひとりでもへいきだよ。でもみんないっしょだとすごくうれしいの」
「そうよね、じゃあ千代ちゃんは私と一緒に寝ようか?。布団に入っても大丈夫なのかしら?」
「うーん、わからないけどもしかしたらぺちゃんこになってしまうかもね」
「そっか、じゃあ布団の上でいいから隣にいらっしゃい。お手手繋いで横になるだけでいいわ」
「うん!」
「じゃあ申し訳ないけど、英介君はその辺で寝転がっててね。おやすみなさい」
そういうとメガネをはずしてベッドサイドにぶら下げてあるポーチへしまった。
僕は胡桃へ同じ言葉を返す。
「おやすみなさい」
胡桃は掛け布団から片手を出して横になり千代と手を繋いだ。どうやら寝つきは良いらしく、数分で寝息をたてはじめた。
大きな枕に頭を少しだけうずめた胡桃の顔は、メガネを外しているため大きい目と濃いまつげが良く分かる。色白ではないが健康的な肌の色、肩より少し長い程度で切りそろえた黒い髪、そしてつややかで淡いピンク色の唇が嫌でも目に入ってくる。
僕は動揺とも興奮とも言えない、もしかするとその両方が入り混じった気持ちで頭の中がいっぱいになり、今までにないほどの緊張を体験している。思春期の男子であれば、よほど胆の据わったやつじゃないとこんな体験をしながら平常ではいられないだろう。
そんな僕の変化を胡桃にも千代にも悟られてはならないと思い、なるべく胡桃の方を見ないよう心がけるのだが、どうしてもその寝顔に惹きこまれてしまう。このままじゃ僕の体は沸騰して爆発してしまいそうだ。やっぱり学校かどこかで待機しておくべきだったのだ。
これはマンガのシーンに例えれば、まるで自分そっくりの悪魔と天使が戦う場面のように思えた。実際にこんな場面に出くわすなんて想像もしていなかったが、これはまさにわかりやすい葛藤で、悪魔と天使のやり取りはベタだけどこんな状況にピッタリの表現だろう。
胡桃にとっては、幽霊である僕が現実に生きる人間へ何かできるわけではないと信じているからこそ安心して寝ていられるのだろうが、もしそれが嘘だったらどうするつもりなのだ。
僕達幽霊は現実の人や物へ干渉することはできない。それは紛れもない事実ではあるのだが、それを実際に証明したわけではない。それに、たとえ干渉できないとしても出来ることがあるのも確かだ。
緊張が最高潮に達した僕は、もういてもたってもいられなくなりその場を立ち上がった。視線が胡桃の顔に釘づけになっているのが自分でも良く分かる。
そして二人が寝ているベッドへそっと近寄り寝ている胡桃に顔を近づける。一呼吸おいてから思い切って小さな声で囁きかけた。
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