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第五章 浮遊霊たちの転機
58.意識
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四つ葉女子からの帰り道、僕と千代は家電量販店へ立ち寄った。ちょうどテレビで夕方のアニメを放送する時間だったのだ。
千代がアニメを見ている間に僕は他のテレビでワイドショーやニュース等を適当に眺める。思い返せば社会情勢や芸能関係等には興味を持てなかったので、こういった番組を見ることは今まで無かった。もちろん普段は学校へ行っていたのだから見る機会もそうなかったのだが、学校では芸能人の恋愛事や、流行りの食べ物やファッションの話をしている生徒たちが大勢いた。
僕はその話題に入ることは無く、いいとこ大矢とマンガやゲームの話をする位だった。他にも話に交じる生徒はいたが、僕と大矢のようにそれくらいにしか興味が無いわけではなく、たまたま僕達が話題に上げていたマンガやゲームを知っているから聞きに来た程度だった。
そんな学校生活に退屈さを感じてはいたが、別につまらなかったり疎外感を感じていたわけではなかったが、今改めて考えると視野の狭さや話題の少なさを痛感する。家柄が良く頭脳明晰でテキパキと物事をこなし言いたいことをきちんと言える、そんな印象の胡桃と僕とでは月並みな言い方をすれば住む世界が違うと言えるだろう。
そもそも僕は幽霊で胡桃はまだ生きている人間だ。比喩的表現でなく実際に住む世界が違う。この先仲良くなってどうしようというのだ。親しくなったからといって無理難題をお願いするなんてことができるのか。
そんな打算的な事を考えながら近づくなんて失礼な気がしていた。それに胡桃は薄々何かに気が付いていて、それが先ほど言っていた、僕が核心を話していないとの言葉に繋がっているのだろう。
核心というほどでもないが、胡桃に仕返しについて頼めることが有るか持ちかけてみるか。それで無理ならば諦めるだけだ。でも無理難題を持ちかけて嫌われたくはない。
そもそもなんで僕はそんなに胡桃のことを気にしているのだろうか。幽霊を見ることができる生きた人間だからか? それならそれほど難しく考える必要もなく、当たり障りのない会話をしているだけで構わないだろう。
「ねええいにいちゃん」
千代が話しかけてきたことで僕は現実に引き戻された。
「なんだい、千代ちゃん」
「このてれびにでてくるひとたちは、このあいだみたいなおまつりにはこないのかしら。千代、このあたまにおどんぶりのせているひとたちとあってみたいなぁ」
「あはは、この人たちはもう有名だからね。昨日のイベントはまだあまり知られていない人達がもっとみんなに知ってもらいたいと思って開いた物なんだよ」
「そっかぁ、いつかあえるといいなー」
「うん、そうだね」
アニメが終わると外は薄暗くなっていた。僕達は通用口から表へ出て歩き出す。千代は久しぶりのアニメにご機嫌で主題歌を何度も歌っている。神社の近くまで来るともう辺りは暗くなっていて、上りはじめた月が、辺りを淡く照らし始めている。ふと月を見上げると薄くもやがかかっていた。
「今晩は雨が降るかもしれないなぁ」
「そうなの?」
「月がぼやけてるでしょ? アレはおぼろ月と言って雨の予兆なんだよ」
「へぇ、さすがえいにいちゃんはものしりだね」
「そんなことないけど…… 今日は神社で一晩明かそうか。明日の天気が良ければまた四つ葉まで行きたいでしょ?」
「うん、あしたもいきたい」
「明日からは劇の練習があるって言っていたから楽しみだね」
「たのしみたのしみー」
神社に着いても千代はまだ歌っていた。境内の外灯に照らされて歌っている千代に僕は時折拍手を贈る。胡桃達の演劇はどんなものだろう。不思議の国のアリスは小さい頃に絵本で読んだ気もするが細かいところは覚えていない。
主役がアリスという女の子なこと、うさぎやトランプ兵士が出てくることくらいは覚えているけど、帽子屋ってどんなのだっただろう。しかもイカレ帽子屋なんて変な名前だ。名前を聞く限りあまりまともな役とは思えないが、芸術祭実行委員をやるような胡桃が演じるのだから登場人物の中では重要なのかもしれない。
なんにせよ、明日見に行けばわかることか。胡桃がどんな演技をするのか楽しみだ。早く明日にならないかな、なんて子供みたいなことを考えながら、英介は夜空を見上げていた。
千代がアニメを見ている間に僕は他のテレビでワイドショーやニュース等を適当に眺める。思い返せば社会情勢や芸能関係等には興味を持てなかったので、こういった番組を見ることは今まで無かった。もちろん普段は学校へ行っていたのだから見る機会もそうなかったのだが、学校では芸能人の恋愛事や、流行りの食べ物やファッションの話をしている生徒たちが大勢いた。
僕はその話題に入ることは無く、いいとこ大矢とマンガやゲームの話をする位だった。他にも話に交じる生徒はいたが、僕と大矢のようにそれくらいにしか興味が無いわけではなく、たまたま僕達が話題に上げていたマンガやゲームを知っているから聞きに来た程度だった。
そんな学校生活に退屈さを感じてはいたが、別につまらなかったり疎外感を感じていたわけではなかったが、今改めて考えると視野の狭さや話題の少なさを痛感する。家柄が良く頭脳明晰でテキパキと物事をこなし言いたいことをきちんと言える、そんな印象の胡桃と僕とでは月並みな言い方をすれば住む世界が違うと言えるだろう。
そもそも僕は幽霊で胡桃はまだ生きている人間だ。比喩的表現でなく実際に住む世界が違う。この先仲良くなってどうしようというのだ。親しくなったからといって無理難題をお願いするなんてことができるのか。
そんな打算的な事を考えながら近づくなんて失礼な気がしていた。それに胡桃は薄々何かに気が付いていて、それが先ほど言っていた、僕が核心を話していないとの言葉に繋がっているのだろう。
核心というほどでもないが、胡桃に仕返しについて頼めることが有るか持ちかけてみるか。それで無理ならば諦めるだけだ。でも無理難題を持ちかけて嫌われたくはない。
そもそもなんで僕はそんなに胡桃のことを気にしているのだろうか。幽霊を見ることができる生きた人間だからか? それならそれほど難しく考える必要もなく、当たり障りのない会話をしているだけで構わないだろう。
「ねええいにいちゃん」
千代が話しかけてきたことで僕は現実に引き戻された。
「なんだい、千代ちゃん」
「このてれびにでてくるひとたちは、このあいだみたいなおまつりにはこないのかしら。千代、このあたまにおどんぶりのせているひとたちとあってみたいなぁ」
「あはは、この人たちはもう有名だからね。昨日のイベントはまだあまり知られていない人達がもっとみんなに知ってもらいたいと思って開いた物なんだよ」
「そっかぁ、いつかあえるといいなー」
「うん、そうだね」
アニメが終わると外は薄暗くなっていた。僕達は通用口から表へ出て歩き出す。千代は久しぶりのアニメにご機嫌で主題歌を何度も歌っている。神社の近くまで来るともう辺りは暗くなっていて、上りはじめた月が、辺りを淡く照らし始めている。ふと月を見上げると薄くもやがかかっていた。
「今晩は雨が降るかもしれないなぁ」
「そうなの?」
「月がぼやけてるでしょ? アレはおぼろ月と言って雨の予兆なんだよ」
「へぇ、さすがえいにいちゃんはものしりだね」
「そんなことないけど…… 今日は神社で一晩明かそうか。明日の天気が良ければまた四つ葉まで行きたいでしょ?」
「うん、あしたもいきたい」
「明日からは劇の練習があるって言っていたから楽しみだね」
「たのしみたのしみー」
神社に着いても千代はまだ歌っていた。境内の外灯に照らされて歌っている千代に僕は時折拍手を贈る。胡桃達の演劇はどんなものだろう。不思議の国のアリスは小さい頃に絵本で読んだ気もするが細かいところは覚えていない。
主役がアリスという女の子なこと、うさぎやトランプ兵士が出てくることくらいは覚えているけど、帽子屋ってどんなのだっただろう。しかもイカレ帽子屋なんて変な名前だ。名前を聞く限りあまりまともな役とは思えないが、芸術祭実行委員をやるような胡桃が演じるのだから登場人物の中では重要なのかもしれない。
なんにせよ、明日見に行けばわかることか。胡桃がどんな演技をするのか楽しみだ。早く明日にならないかな、なんて子供みたいなことを考えながら、英介は夜空を見上げていた。
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