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第五章 浮遊霊たちの転機
50.横顔
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胡桃は商店街の方角へ歩き、すぐそばの小料理屋の前までやってきた。救護テントの中で話していた女性が待っているのだろう。
「ここで少しだけ待ってて頂戴ね。千代ちゃんは一緒に行こうか?」
「うーん、千代もここでまってる。おにいちゃんたちさびしくなっちゃうかもしれないから」
「そう、優しいのね」
そう千代へ微笑みかけ、振り返り引き戸を開く。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
「おつかれさま」
明るい店内から女性二人の声が聞こえた。ただいまと言ったということはここが自宅なのだろうか。田舎町の小料理屋とあの高級車、それに送迎付きで通うような学校が今一結びつかない。
中からは楽しそうな声が聞こえる。時折おいしいとか最高! 等と聞こえてくるので何か食べているようだ。ここは小料理屋なのだから当然とも言える。
店内では今日、真で出していた料理を胡桃が食べているところだった。
「このつみれ? 本当に美味しいわ。お味噌の甘さと山椒の香りが良くあうのね」
「これはこれからうちの定番として出すつもりよ。あさりはどうかしら?」
「あさりも最高! さすが真子さんね。ふっくらしてて美味しいし、それになんだか懐かしい香り」
「うふふ、気が付いたかな?」
「なんだかパパが好きそうなお料理ね」
「胡桃さん、そのあさりの酒蒸しにはね、真九郎様がいつも飲んでいるお酒を使ってあるんですって」
「なるほど! そう言われてみると確かにうちの食卓で嗅いだ香りだわ。小さい頃はパパが私を抱きながらお酒を飲んでるのが嫌だったけど、こうやって離れているとまた違う感覚になるのかしら」
「これは聞き逃せない情報ですねよ!おじさまに伝えてあげなければいけませんねぇ」
真子がゴシップ番組司会の様な口調で胡桃をちゃかした。
「ちょっと真子さん、私はパパが懐かしいなんて言ってませんからね。あくまで子供の頃が懐かしいってだけよ」
「はいはい、そうでしたそうでしたー」
「もう、真子さんたら、そこ! 康子さんも隠れて笑わない!」
「うふふ、でも胡桃さん、顔真っ赤よ。柔子さんそっくりね」
「どうせド近眼のぐるぐる眼鏡ですよーだ」
三人の談笑はまだまだ続きそうな気配だ。そこへ朝日浩二が下りてきた。
「胡桃お嬢お帰んなさい、祭りはどうでした?」
「とてもいい感触を得たわ、ご協力ありがとうね」
「いやいやとんでもない。それよりもこの後海洋まで行くなら送っていきますぜ」
「ううん、近いから平気よ、終わったら連絡入れるわね」
「もう暗いから気を付けてくださいね」
「ええ、ありがとう、せっかくご馳走してくれるって言ってたのにごめんなさいね」
「帰ってから何か食べますよね?なにか軽いものでも作っておきますね」
「はーい、よろしくでーす。真子さん、康子さんに飲ませ過ぎないようお願いよ」
「今日は美味しいお酒があるから無理かなぁ」
「うふふ、朝日さんだけ飲めなくて悪いわね。じゃあまた後で」
胡桃は元気よく扉を開け店から出てきた。そして振り返り手を振りながら扉を閉めた。
「じゃあ行きましょうか。荒波海洋高校で反省会やるのよ」
「ついていっていいんですか?」
「ついて来てくれないとお話しできないでしょ。千代ちゃんおいで」
胡桃が千代を呼び、その手を差し出す。千代は喜んで駆け寄り手を繋いだ。僕達は屋台の片づけが終わってすっかり元通りとなった道を並んで歩いて行った。
道路には人数よりも少ない影が映っている。時折海側から吹いてくる風に胡桃の髪が揺れ、それに合わせ影も揺れる。
並んで歩いている胡桃の方をちらっと見やると、眼鏡の奥に隠れていた長いまつげが良く見えて、僕は緊張を隠すのが精いっぱいだった。
「ここで少しだけ待ってて頂戴ね。千代ちゃんは一緒に行こうか?」
「うーん、千代もここでまってる。おにいちゃんたちさびしくなっちゃうかもしれないから」
「そう、優しいのね」
そう千代へ微笑みかけ、振り返り引き戸を開く。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
「おつかれさま」
明るい店内から女性二人の声が聞こえた。ただいまと言ったということはここが自宅なのだろうか。田舎町の小料理屋とあの高級車、それに送迎付きで通うような学校が今一結びつかない。
中からは楽しそうな声が聞こえる。時折おいしいとか最高! 等と聞こえてくるので何か食べているようだ。ここは小料理屋なのだから当然とも言える。
店内では今日、真で出していた料理を胡桃が食べているところだった。
「このつみれ? 本当に美味しいわ。お味噌の甘さと山椒の香りが良くあうのね」
「これはこれからうちの定番として出すつもりよ。あさりはどうかしら?」
「あさりも最高! さすが真子さんね。ふっくらしてて美味しいし、それになんだか懐かしい香り」
「うふふ、気が付いたかな?」
「なんだかパパが好きそうなお料理ね」
「胡桃さん、そのあさりの酒蒸しにはね、真九郎様がいつも飲んでいるお酒を使ってあるんですって」
「なるほど! そう言われてみると確かにうちの食卓で嗅いだ香りだわ。小さい頃はパパが私を抱きながらお酒を飲んでるのが嫌だったけど、こうやって離れているとまた違う感覚になるのかしら」
「これは聞き逃せない情報ですねよ!おじさまに伝えてあげなければいけませんねぇ」
真子がゴシップ番組司会の様な口調で胡桃をちゃかした。
「ちょっと真子さん、私はパパが懐かしいなんて言ってませんからね。あくまで子供の頃が懐かしいってだけよ」
「はいはい、そうでしたそうでしたー」
「もう、真子さんたら、そこ! 康子さんも隠れて笑わない!」
「うふふ、でも胡桃さん、顔真っ赤よ。柔子さんそっくりね」
「どうせド近眼のぐるぐる眼鏡ですよーだ」
三人の談笑はまだまだ続きそうな気配だ。そこへ朝日浩二が下りてきた。
「胡桃お嬢お帰んなさい、祭りはどうでした?」
「とてもいい感触を得たわ、ご協力ありがとうね」
「いやいやとんでもない。それよりもこの後海洋まで行くなら送っていきますぜ」
「ううん、近いから平気よ、終わったら連絡入れるわね」
「もう暗いから気を付けてくださいね」
「ええ、ありがとう、せっかくご馳走してくれるって言ってたのにごめんなさいね」
「帰ってから何か食べますよね?なにか軽いものでも作っておきますね」
「はーい、よろしくでーす。真子さん、康子さんに飲ませ過ぎないようお願いよ」
「今日は美味しいお酒があるから無理かなぁ」
「うふふ、朝日さんだけ飲めなくて悪いわね。じゃあまた後で」
胡桃は元気よく扉を開け店から出てきた。そして振り返り手を振りながら扉を閉めた。
「じゃあ行きましょうか。荒波海洋高校で反省会やるのよ」
「ついていっていいんですか?」
「ついて来てくれないとお話しできないでしょ。千代ちゃんおいで」
胡桃が千代を呼び、その手を差し出す。千代は喜んで駆け寄り手を繋いだ。僕達は屋台の片づけが終わってすっかり元通りとなった道を並んで歩いて行った。
道路には人数よりも少ない影が映っている。時折海側から吹いてくる風に胡桃の髪が揺れ、それに合わせ影も揺れる。
並んで歩いている胡桃の方をちらっと見やると、眼鏡の奥に隠れていた長いまつげが良く見えて、僕は緊張を隠すのが精いっぱいだった。
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