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第四章 浮遊霊は見つけてもらいたい
48.約束
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胡桃という女子生徒が僕達に何者かと問う。それに返答できる明確な答えを僕達は持っていない。それでも何かしら答えるべきだろう。
「えと、僕は本田英介、元県立江原高校の一年生です」
「僕はぁ、大矢紀夫、英ちゃんと同じ高校一年だよぉ」
「あたしは千代」
「僕達は、世間一般で言うところの、その…… 幽霊ってやつです」
それを聞いた胡桃は頭を抱えている。無理もない。突然現れた知らない人たちが、私達は幽霊ですなんて自己紹介したなら理解を超えてしまうだろう。
「一応自己紹介しておくわ。私は百目木胡桃、四つ葉女子大付属高校の一年生よ」
「どめ?」
千代は聞き取れなかったようで胡桃へ聞き返した。
「どうめぎくるみ、千代ちゃんよろしくね」
「うん、よろしく、くるみおねえちゃん」
千代へ優しく微笑みかけた胡桃だが、そうは言っても頬がややこわばっているようにも見える。さてこれからどうしたらいいだろう。
「あなた達は他の人に見えてないようだけれど、なぜ私には見えるのかしら?」
「それは僕達にもわからないです。僕達から見ると、百目木さんだけには色が付いていて、他の人や物や風景はほぼ真っ白にしか見えないんです」
「私からはあなたたちが白っぽく見えるのと同じなのかな。江原高校の生徒ってことはもしかして絹原辺りの人なのかしら?」
「大矢が絹原寄りで僕は物流倉庫の近くです」
「もしかしてあなた、英介君だっけ? 物流倉庫駅の近くで車にひかれてた人?」
「ああ、やっぱりこっちを見ていたんですね。実は何週間か前の夜に、通りで百目木さんらしき人を見かけて探していたんです」
「あれって気のせいじゃなかったんだ……人がはねられたのに、引いた車もうちの車も何の関心も示さなかったからおかしいと思っていたのだけれど、まさか幽霊だとはね、驚いたわ」
胡桃は最初に気を失ったとは思えない位に落ち着きを取り戻していた。
「いけない、もっとお話ししたいと思わないわけじゃないけれど、早く戻らないといけないの。芸術祭の宣伝が終わったら時間出来るから十八時過ぎにまた会いましょう」
「はい、わかりました」
「なんだかよそよそしいわね、同い年なんだからもっと気楽にお願いね。じゃあ十八時過ぎにうちのブースの前に来て頂戴」
「うん、またねーくるみおねえちゃん」
胡桃がテントから出て、僕らもその後に続いた。
ハキハキしていて地味な見た目よりも快活な印象だ。もっと気楽にと言われてもなんとなく気後れしてしまう英介だった。
僕達はまた三人になり、ステージ外側からゆるキャラ紹介を眺めていた。先ほどと同じことをやっているので新鮮味はないが、それでも千代は楽しそうだ。
「大矢、やったな」
「案外苦労しないで見つかったねぇ」
「うん、まあだからどうしたというか、これからどうするかのほうが重要なんだけどね。井出達へ仕返ししたいからって手伝いなんてお願いできると思う?」
「ちょっとそれはぁ難しいかもしれないねぇ。やってくれるかどうかよりもぉ、そんなことをお願いすること自体、僕にはできないなぁ」
「まあその辺は追々って感じかね。そもそも女の子と普通に会話できるかどうかの方が心配だよ」
「運転手付きのお嬢様だしねぇ」
僕と大矢はあれこれと相談しながら時間が過ぎるのを待っていた。相変わらず千代はステージ上のゆるキャラたちを見てはしゃいでいる。
ステージは前半と同じくらいの時間で終わり、観客席はまばらになった。屋台で買ってきたものを食べている人もいる。その後十八時で交通規制が終わるとのアナウンスが流れていた。辺りは薄暗くなってきており、ステージ上を片づけているスタッフの顔はもう確認できない位だ。
ステージ最前列から観客席側に振り向いてみると、一番外側の席に見覚えのある中年男性が座っていた。
「あれって大矢のお父さんじゃないか?」
僕が大矢に声をかけると大矢が振り向いた。
「あーパパだねぇ、きっと取材に来てたんじゃないかなぁ。仕事人間だからさぁ、よくママとの約束を破ってケンカしてたんだよねぇ」
「へぇそうなんだ、そういえば今日も日曜だし、こないだも日曜に取材へ行くって言っていたもんね。仕事とは言え大変だなぁ」
「でも休みの日に出かける約束したのにぃ、後から仕事いれちゃうのはひどいよぉ」
「まあ確かに約束破られるのは嫌だよね」
「だよねぇ」
大矢の父は厳しい人らしいとは聞いていたが、自分に厳しいから他人というか子供にも厳しかったのだろう。仕事に一生懸命なのは悪いことではないはずだけど、厳しい親は子供にとっていいことばかりではないのかもしれない。
その点うちの父親はのんびりと物静かな性格だ。今はふさぎ込んでいるようなのが心配だけれど、母さんもしっかり者だし今後は何とかするだろう。
また近いうちに家に立ち寄ってみよう。父さんももう立ち直っているかもしれない。英介はそんなことを考えつつ約束の時間を待っていた。
「えと、僕は本田英介、元県立江原高校の一年生です」
「僕はぁ、大矢紀夫、英ちゃんと同じ高校一年だよぉ」
「あたしは千代」
「僕達は、世間一般で言うところの、その…… 幽霊ってやつです」
それを聞いた胡桃は頭を抱えている。無理もない。突然現れた知らない人たちが、私達は幽霊ですなんて自己紹介したなら理解を超えてしまうだろう。
「一応自己紹介しておくわ。私は百目木胡桃、四つ葉女子大付属高校の一年生よ」
「どめ?」
千代は聞き取れなかったようで胡桃へ聞き返した。
「どうめぎくるみ、千代ちゃんよろしくね」
「うん、よろしく、くるみおねえちゃん」
千代へ優しく微笑みかけた胡桃だが、そうは言っても頬がややこわばっているようにも見える。さてこれからどうしたらいいだろう。
「あなた達は他の人に見えてないようだけれど、なぜ私には見えるのかしら?」
「それは僕達にもわからないです。僕達から見ると、百目木さんだけには色が付いていて、他の人や物や風景はほぼ真っ白にしか見えないんです」
「私からはあなたたちが白っぽく見えるのと同じなのかな。江原高校の生徒ってことはもしかして絹原辺りの人なのかしら?」
「大矢が絹原寄りで僕は物流倉庫の近くです」
「もしかしてあなた、英介君だっけ? 物流倉庫駅の近くで車にひかれてた人?」
「ああ、やっぱりこっちを見ていたんですね。実は何週間か前の夜に、通りで百目木さんらしき人を見かけて探していたんです」
「あれって気のせいじゃなかったんだ……人がはねられたのに、引いた車もうちの車も何の関心も示さなかったからおかしいと思っていたのだけれど、まさか幽霊だとはね、驚いたわ」
胡桃は最初に気を失ったとは思えない位に落ち着きを取り戻していた。
「いけない、もっとお話ししたいと思わないわけじゃないけれど、早く戻らないといけないの。芸術祭の宣伝が終わったら時間出来るから十八時過ぎにまた会いましょう」
「はい、わかりました」
「なんだかよそよそしいわね、同い年なんだからもっと気楽にお願いね。じゃあ十八時過ぎにうちのブースの前に来て頂戴」
「うん、またねーくるみおねえちゃん」
胡桃がテントから出て、僕らもその後に続いた。
ハキハキしていて地味な見た目よりも快活な印象だ。もっと気楽にと言われてもなんとなく気後れしてしまう英介だった。
僕達はまた三人になり、ステージ外側からゆるキャラ紹介を眺めていた。先ほどと同じことをやっているので新鮮味はないが、それでも千代は楽しそうだ。
「大矢、やったな」
「案外苦労しないで見つかったねぇ」
「うん、まあだからどうしたというか、これからどうするかのほうが重要なんだけどね。井出達へ仕返ししたいからって手伝いなんてお願いできると思う?」
「ちょっとそれはぁ難しいかもしれないねぇ。やってくれるかどうかよりもぉ、そんなことをお願いすること自体、僕にはできないなぁ」
「まあその辺は追々って感じかね。そもそも女の子と普通に会話できるかどうかの方が心配だよ」
「運転手付きのお嬢様だしねぇ」
僕と大矢はあれこれと相談しながら時間が過ぎるのを待っていた。相変わらず千代はステージ上のゆるキャラたちを見てはしゃいでいる。
ステージは前半と同じくらいの時間で終わり、観客席はまばらになった。屋台で買ってきたものを食べている人もいる。その後十八時で交通規制が終わるとのアナウンスが流れていた。辺りは薄暗くなってきており、ステージ上を片づけているスタッフの顔はもう確認できない位だ。
ステージ最前列から観客席側に振り向いてみると、一番外側の席に見覚えのある中年男性が座っていた。
「あれって大矢のお父さんじゃないか?」
僕が大矢に声をかけると大矢が振り向いた。
「あーパパだねぇ、きっと取材に来てたんじゃないかなぁ。仕事人間だからさぁ、よくママとの約束を破ってケンカしてたんだよねぇ」
「へぇそうなんだ、そういえば今日も日曜だし、こないだも日曜に取材へ行くって言っていたもんね。仕事とは言え大変だなぁ」
「でも休みの日に出かける約束したのにぃ、後から仕事いれちゃうのはひどいよぉ」
「まあ確かに約束破られるのは嫌だよね」
「だよねぇ」
大矢の父は厳しい人らしいとは聞いていたが、自分に厳しいから他人というか子供にも厳しかったのだろう。仕事に一生懸命なのは悪いことではないはずだけど、厳しい親は子供にとっていいことばかりではないのかもしれない。
その点うちの父親はのんびりと物静かな性格だ。今はふさぎ込んでいるようなのが心配だけれど、母さんもしっかり者だし今後は何とかするだろう。
また近いうちに家に立ち寄ってみよう。父さんももう立ち直っているかもしれない。英介はそんなことを考えつつ約束の時間を待っていた。
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