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第四章 浮遊霊は見つけてもらいたい
46.動悸
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ステージの上は人間よりも一回り以上大きな着ぐるみたちでぎゅうぎゅう詰めだ。なんといっても全部で十四種類も居るのだからその様子はこの真冬でも暑苦しさを感じる。
司会の男女が一体ずつ名前と出身を紹介していった。それが終わるとそれぞれのアピールタイムがあるとのアナウンスだ。盛り上がっているのかどうかよくわからないが、アピールが進むたびに観客席から拍手が上がる。地元応援団が駆けつけているところは一層大きな拍手が上がっていた。
「千代はあのみつばちさんがすきかなー」
「えっとあれは、はっちんみーつって言うらしいね。阿波尾郡は養蜂が盛んではちみつが特産品らしいよ」
「とくさんひん?」
「うん、その町とか村のお薦めってことだね」
その時観客席の後ろの方から悲鳴が上がった。なんだろう、なにかトラブルだろうか。そう思ったのもつかの間、観客席の間から大きな口をニィっと開き大きな歯を見せた、いかにも悪役めいた姿が現れた。
「おっとー、会場に西縞町のニシシ魔人が現れた! これは一大事だ!」
「ライダー! 早く助けてー」
司会のアナウンスはやけに説明じみているが、こういった予定調和は子供受けするに違いない。事実千代は一見怯えているようで目が輝いている。
「ニシシ魔人! 会場の子供たちに手出しはさせないぞ!」
「いくぞ! 覚悟しろ!」
司会のアナウンスに合わせステージ中央に登っていたニシシ魔人を挟むように、両側からライダーが現れた。
全体的に白っぽいライダーと、黒っぽいライダーの二人が正面を向き決めポーズをとると、司会の解説が入った。
「満月ライダー! 新月ライダー! 来てくれたのね!」
「これで会場も守られるに違いない!みんなでライダーを応援だー!」
観客席の子供たちの大きな声援が、司会のアナウンスによっていっそう大きくなった。
「行くぞニシシ魔人!」
「ムーンライダーダブルキックを喰らえ!」
両側からそれぞれのライダーが走り寄り、ニシシ魔人の手前でジャンプキックをしながら交差した。するとニシシ魔人は後ろへ倒れ、ライダーたちが決めポーズをとる。
ここで会場の子供たちの熱気は最高潮に達し、大きな拍手と歓声が鳴り響く。こんなところでヒーローショーをやるなんて、さすが地元だ、力の入れようが違う。
ふと横を見ると、千代も夢中で拍手していた。どうやら楽しんでいるようで僕はうれしくなった。
その後も他のゆるキャラがアピールをしたが、ライダー達の盛り上がりには到底及ばず、どちらかというと地味な引き立て役なってしまったように思えた。
二時間半ほどで第一部は終了し、司会が次は十四時の部になることを告げていた。観客席からは人が次々と去っていき、代わりに通りの屋台前に人が溢れている。
僕達も知らないうちに夢中になっていたらしく、危うく本来の目的を忘れるところだったと気が付いた。
「大矢、ステージが終わったからチラシ配りをしているか確認しに行こう」
「あーそうだったねぇ、忘れてたよぉ」
大矢の反応は予想通りだ。僕達三人は無人となったステージの上に登り、会場の外側を見渡し人の出入りを確認した。
すると先日シルクロード編集部で見かけた制服の女子生徒数人がチラシを配っているのが見えた。
しかし目的である色付きの女の子ではない。やはりゆるキャラグランプリにも芸術祭にも関係ないのだろうか。
「とりあえず周りをまわってみようか。チラシ配っている生徒がそこにいるだけとは限らないしさ」
「えいにいちゃん、のりにいちゃん、いこういこう」
千代は屋台が気になって仕方ないらしい。僕達は、朝歩いたように屋台の前を一回りしてみることにした。屋台の前はかなり混雑している。人の動きが無ければ間をすり抜けていけばいいが、歩いている人にぶつかるとはね飛ばされてしまうので、ここを歩いて行くのは無理がありそうだ。
「お昼時だから屋台に人が並んでて抜けていくのは無理そうだね。少し空くまで待ってようか」
「はーい」
「仕方ないねぇ」
ステージから見て海側にある屋台は通りを塞ぐようにたくさんの人手だし、反対の駅側の商店街も人でごった返している。そういえば朝見かけた、高級車が止まった店はどうだろう。確か小料理屋だったはずなので食べるものを出しているのは間違いない。
その店の方向を見てみると長蛇の列ができている。いくつか並んでいる店全てに人が並んでいるような状況なので、どの店にどれだけ並んでいるのかはわからないが、どこも大盛況といったところか。
こんなに人を集めることができるなんて、たかがゆるキャラなんて言えない馬鹿に出来ない効果があるものなのだなと僕は驚いていた。
ステージの時計台が十三時半を指す頃になると、十四時の回を見る人たちが席を埋め始め、代わりに屋台の前の道は随分と空いて来ていた。
「そろそろいいんじゃなぁい?」
「いってみよーよー」
「よし、行こうか」
僕達はいつものように手を繋ぎ、屋台を眺めながら歩いていた。千代がリンゴ飴を見つけて綺麗だと喜んだり、大矢が焼きそばが食べたいと言ったり、僕はソースせんべいのルーレットを回す真似をしたりして、思い思いに楽しんていた。
しばらく屋台を楽しんだ僕達はステージ裏の通りに並んでいる市区町村ブースまでやってきた。さっきはクラナダリュウが一番混んでいたが、ショーの後ということもあるのだろう、今は満月ライダー、新月ライダーが一番人気のようだ。
ショーでは敵同士だったニシシ魔人も仲よく隣り合って愛想を振りまいているのが何とも言えない雰囲気である。
千代のお気に入りだったはっちんみーつのブースは見当たらず、別の場所にあるのだろうかとあたりに気を取られているうちに、ふと千代がいなくなっていることに気が付いた。
大矢も気が付かなかったようで、二人で顔を見合わせた後辺りを見回す。しかし人の波に入ってしまえば背の小さな千代は見えなくなってしまう。
「千代ちゃーん、どこ行ったのー」
「ちーよーちゃあーん」
どうせ誰にも聞こえないだろうと大声を張り上げたが返事は無い。するとその時大矢が僕を呼んだ。
「英ちゃん、裏にもぉ別のブースがあるよぉ。こっちにいるかもしれないからぁ見に行こうよぉ」
「そっか、市区町村ブースは背中合わせになっていたのか。よし、行ってみよう」
僕達が裏手へ回ると蔵灘市と絹川市以外のブースが並んでいた。こちらから見て一番奥にあるのが阿波尾郡のブースのようだ。はっちんみーつを探して千代がそこにいるかもしれない。
そのブースへ近寄った僕と大矢は、人ごみの向こうに女の子の姿を見つけた。阿波尾郡のブースの隣には四校合同クリスマス芸術祭実行委員会と掲げられたブースがあり、そのテーブルの前に千代はいた。僕はまるで心臓の鼓動が早くなるような、ドキドキした感覚でそれを見つめていた。大矢もポカンと見つめている。
「ねぇ、おねえちゃんは千代のことみえてるの?」
「え? どういうこと?」
千代の目の前にいる女子学生が答えた。
「わぁ、やっぱりおねえちゃんは千代とおはなしてきるんだね。ほんとうにあかいおりぼんなのね。千代かんげきしちゃった」
「赤いリボンって……この制服のことね。同じ学校の子は同じリボンよ」
「でもほかのひとはみんなまっしろなのよ。おねえちゃんだけあかおりぼんでぐんじょういろのおようふくなの」
「それってどういう意味なのかしら?お嬢ちゃんは一人で来たの?迷子なのかしら?」
「えいちいちゃんとのりにいちゃんといっしょにきたの」
「そのお兄ちゃんたちはどこかしら?はぐれちゃったの?」
「ちょっと胡桃、誰と話してるの?」
隣にいた別の女子生徒が胡桃と呼ばれた生徒へ問いかけた。
「誰って目の前に居る振袖を着た小さな女の子だけど?」
「え? 女の子なんてどこにもいないけど……」
「いないって? そんな……白い振袖に白い髪の……」
僕と大矢はようやく千代のいるところまでたどり着いた。
「あ、えいにいちゃんにのりにいちゃん」
「千代ちゃん、探したよ。それにこの人……」
「うん、千代とお話してくれてたの」
やっぱり僕達のことが見えるんだ! 僕は興奮しつつも緊張し、とりあえずペコリと頭を下げ話しかけた。
「や、やあ、こんにちは、僕達のことが見えているんですよね?」
すると目の前の女子生徒は気を失いその場に倒れこんだ。僕の目の奥には彼女の赤いリボンの残像が残った。
司会の男女が一体ずつ名前と出身を紹介していった。それが終わるとそれぞれのアピールタイムがあるとのアナウンスだ。盛り上がっているのかどうかよくわからないが、アピールが進むたびに観客席から拍手が上がる。地元応援団が駆けつけているところは一層大きな拍手が上がっていた。
「千代はあのみつばちさんがすきかなー」
「えっとあれは、はっちんみーつって言うらしいね。阿波尾郡は養蜂が盛んではちみつが特産品らしいよ」
「とくさんひん?」
「うん、その町とか村のお薦めってことだね」
その時観客席の後ろの方から悲鳴が上がった。なんだろう、なにかトラブルだろうか。そう思ったのもつかの間、観客席の間から大きな口をニィっと開き大きな歯を見せた、いかにも悪役めいた姿が現れた。
「おっとー、会場に西縞町のニシシ魔人が現れた! これは一大事だ!」
「ライダー! 早く助けてー」
司会のアナウンスはやけに説明じみているが、こういった予定調和は子供受けするに違いない。事実千代は一見怯えているようで目が輝いている。
「ニシシ魔人! 会場の子供たちに手出しはさせないぞ!」
「いくぞ! 覚悟しろ!」
司会のアナウンスに合わせステージ中央に登っていたニシシ魔人を挟むように、両側からライダーが現れた。
全体的に白っぽいライダーと、黒っぽいライダーの二人が正面を向き決めポーズをとると、司会の解説が入った。
「満月ライダー! 新月ライダー! 来てくれたのね!」
「これで会場も守られるに違いない!みんなでライダーを応援だー!」
観客席の子供たちの大きな声援が、司会のアナウンスによっていっそう大きくなった。
「行くぞニシシ魔人!」
「ムーンライダーダブルキックを喰らえ!」
両側からそれぞれのライダーが走り寄り、ニシシ魔人の手前でジャンプキックをしながら交差した。するとニシシ魔人は後ろへ倒れ、ライダーたちが決めポーズをとる。
ここで会場の子供たちの熱気は最高潮に達し、大きな拍手と歓声が鳴り響く。こんなところでヒーローショーをやるなんて、さすが地元だ、力の入れようが違う。
ふと横を見ると、千代も夢中で拍手していた。どうやら楽しんでいるようで僕はうれしくなった。
その後も他のゆるキャラがアピールをしたが、ライダー達の盛り上がりには到底及ばず、どちらかというと地味な引き立て役なってしまったように思えた。
二時間半ほどで第一部は終了し、司会が次は十四時の部になることを告げていた。観客席からは人が次々と去っていき、代わりに通りの屋台前に人が溢れている。
僕達も知らないうちに夢中になっていたらしく、危うく本来の目的を忘れるところだったと気が付いた。
「大矢、ステージが終わったからチラシ配りをしているか確認しに行こう」
「あーそうだったねぇ、忘れてたよぉ」
大矢の反応は予想通りだ。僕達三人は無人となったステージの上に登り、会場の外側を見渡し人の出入りを確認した。
すると先日シルクロード編集部で見かけた制服の女子生徒数人がチラシを配っているのが見えた。
しかし目的である色付きの女の子ではない。やはりゆるキャラグランプリにも芸術祭にも関係ないのだろうか。
「とりあえず周りをまわってみようか。チラシ配っている生徒がそこにいるだけとは限らないしさ」
「えいにいちゃん、のりにいちゃん、いこういこう」
千代は屋台が気になって仕方ないらしい。僕達は、朝歩いたように屋台の前を一回りしてみることにした。屋台の前はかなり混雑している。人の動きが無ければ間をすり抜けていけばいいが、歩いている人にぶつかるとはね飛ばされてしまうので、ここを歩いて行くのは無理がありそうだ。
「お昼時だから屋台に人が並んでて抜けていくのは無理そうだね。少し空くまで待ってようか」
「はーい」
「仕方ないねぇ」
ステージから見て海側にある屋台は通りを塞ぐようにたくさんの人手だし、反対の駅側の商店街も人でごった返している。そういえば朝見かけた、高級車が止まった店はどうだろう。確か小料理屋だったはずなので食べるものを出しているのは間違いない。
その店の方向を見てみると長蛇の列ができている。いくつか並んでいる店全てに人が並んでいるような状況なので、どの店にどれだけ並んでいるのかはわからないが、どこも大盛況といったところか。
こんなに人を集めることができるなんて、たかがゆるキャラなんて言えない馬鹿に出来ない効果があるものなのだなと僕は驚いていた。
ステージの時計台が十三時半を指す頃になると、十四時の回を見る人たちが席を埋め始め、代わりに屋台の前の道は随分と空いて来ていた。
「そろそろいいんじゃなぁい?」
「いってみよーよー」
「よし、行こうか」
僕達はいつものように手を繋ぎ、屋台を眺めながら歩いていた。千代がリンゴ飴を見つけて綺麗だと喜んだり、大矢が焼きそばが食べたいと言ったり、僕はソースせんべいのルーレットを回す真似をしたりして、思い思いに楽しんていた。
しばらく屋台を楽しんだ僕達はステージ裏の通りに並んでいる市区町村ブースまでやってきた。さっきはクラナダリュウが一番混んでいたが、ショーの後ということもあるのだろう、今は満月ライダー、新月ライダーが一番人気のようだ。
ショーでは敵同士だったニシシ魔人も仲よく隣り合って愛想を振りまいているのが何とも言えない雰囲気である。
千代のお気に入りだったはっちんみーつのブースは見当たらず、別の場所にあるのだろうかとあたりに気を取られているうちに、ふと千代がいなくなっていることに気が付いた。
大矢も気が付かなかったようで、二人で顔を見合わせた後辺りを見回す。しかし人の波に入ってしまえば背の小さな千代は見えなくなってしまう。
「千代ちゃーん、どこ行ったのー」
「ちーよーちゃあーん」
どうせ誰にも聞こえないだろうと大声を張り上げたが返事は無い。するとその時大矢が僕を呼んだ。
「英ちゃん、裏にもぉ別のブースがあるよぉ。こっちにいるかもしれないからぁ見に行こうよぉ」
「そっか、市区町村ブースは背中合わせになっていたのか。よし、行ってみよう」
僕達が裏手へ回ると蔵灘市と絹川市以外のブースが並んでいた。こちらから見て一番奥にあるのが阿波尾郡のブースのようだ。はっちんみーつを探して千代がそこにいるかもしれない。
そのブースへ近寄った僕と大矢は、人ごみの向こうに女の子の姿を見つけた。阿波尾郡のブースの隣には四校合同クリスマス芸術祭実行委員会と掲げられたブースがあり、そのテーブルの前に千代はいた。僕はまるで心臓の鼓動が早くなるような、ドキドキした感覚でそれを見つめていた。大矢もポカンと見つめている。
「ねぇ、おねえちゃんは千代のことみえてるの?」
「え? どういうこと?」
千代の目の前にいる女子学生が答えた。
「わぁ、やっぱりおねえちゃんは千代とおはなしてきるんだね。ほんとうにあかいおりぼんなのね。千代かんげきしちゃった」
「赤いリボンって……この制服のことね。同じ学校の子は同じリボンよ」
「でもほかのひとはみんなまっしろなのよ。おねえちゃんだけあかおりぼんでぐんじょういろのおようふくなの」
「それってどういう意味なのかしら?お嬢ちゃんは一人で来たの?迷子なのかしら?」
「えいちいちゃんとのりにいちゃんといっしょにきたの」
「そのお兄ちゃんたちはどこかしら?はぐれちゃったの?」
「ちょっと胡桃、誰と話してるの?」
隣にいた別の女子生徒が胡桃と呼ばれた生徒へ問いかけた。
「誰って目の前に居る振袖を着た小さな女の子だけど?」
「え? 女の子なんてどこにもいないけど……」
「いないって? そんな……白い振袖に白い髪の……」
僕と大矢はようやく千代のいるところまでたどり着いた。
「あ、えいにいちゃんにのりにいちゃん」
「千代ちゃん、探したよ。それにこの人……」
「うん、千代とお話してくれてたの」
やっぱり僕達のことが見えるんだ! 僕は興奮しつつも緊張し、とりあえずペコリと頭を下げ話しかけた。
「や、やあ、こんにちは、僕達のことが見えているんですよね?」
すると目の前の女子生徒は気を失いその場に倒れこんだ。僕の目の奥には彼女の赤いリボンの残像が残った。
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