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第四章 浮遊霊は見つけてもらいたい

41.汽車

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 土曜日になり、いつもと同じように稲荷神社へのお参りと国道監視をした。その後、僕と千代は病院へ向かった。辺りはすっかり暗くなっている。

「のりにいちゃんおとなしくまってるかなー」

「そうだね、話し相手も居なくて退屈しているかもしれないね」

 僕達は病院への道を早足で歩き、いつもの酒屋を通り過ぎ物流倉庫駅の手前まで来た時、一台の軽自動車とすれ違った。

 今のは父さんだったかもしれない。もう仕事へ出られるようになったのかな。しばらく両親を見に行っていないが、元気にしてくれているならそれでいい。色々と物事が進んだらまた会いに行けばいいのだ。

 それに今の僕には大矢も千代もいる。寂しくなんかない。僕は手を繋いだ先の千代を見て微笑みかける。千代もそれに応えて笑い返してくれる。小さなことかもしれないが、幸せを感じることに大も小もない。幸せを感じられること自体が幸せなのだ。

 病院の中庭につくと大矢が木のベンチに寝転んでいた。

「お待たせ、暇してるみたいだね」

「のりにいちゃん、おまたせー」

「二人ともぉ、待ちくたびれたよぉ。あまりに暇だからぁ星がいくつあるか数えてたんだけどぉ途中でわかんなくなっちゃったよぉ」

「そりゃ無謀な暇つぶしだね」

 僕は呆れたように笑った。千代は星がいくつあるのか気になるようで、大矢に何個まで数えたか確認している。

「始発が出る時間くらいにになったら絹原駅へ行こうか」

「さんせーい、もう退屈で仕方ないよぉ」

「きしゃきしゃーしゅっぽっぽー」

 千代は初めての電車が楽しみで仕方ないらしい。ただ、現代の電車はシュッポシュッポとは走ってないのだけれど、それは乗った時まで内緒にしておこう。

「そういえば大矢さ、橋の下のマンガが入れ替えられて新しくなってたんだよ。なんだか気味悪いな」

「幽霊が気味悪いなんてぇそんなセリフ、まるでマンガだよぉ。誰かがぁ万引きさせられてるとかじゃなければいいけどねぇ」

「そっか、そういう可能性も無きにしも非ずかぁ」

 大矢と僕がいなくなった後の井出達が、今どんな高校生活を送っているのかはわからない。もし新たな標的を見つけいじめている可能性も十分ある。しかし英介の自宅を訪問し父さんへ懺悔していた姿も気にはなる。一体どうなっているのだろう。

 気になることは確かだが、今最優先すべきなのは色付きの女の子を探すことだ。そのために今日は荒波海岸まで行くのだから。

「きしゃはまだはしってないの?千代たのしみすぎておちつかないなー」

「じゃあまだ早いけど駅まで行こうか」

「うん! ありがとう」

 病院から駅に向かう道は小さな商店が並ぶアーケード街だ。ここには再開発前からの店舗がそこそこ残っている。でも数年前からチェーン店が出店を増やしていて、僕と大矢が行きつけにしていた全国チェーンの古本屋もこのアーケードの中にある。

 電車で通っている近隣以外の生徒は駅ロータリー側のファストフード店や大型のゲームセンターにたむろしていることが多いので、つくりの古いアーケード街は地元の生徒の癒しの場だった。

 アーケード街を通り抜け駅前ロータリーへ出ると始発待ちのバスが停車していた。行先は国道の向こうの八幡通ニュータウンと絹原駅循環と書いてある。これは酒屋の前を通るバスのはずだ。ニュータウンまでかなりの道のりだが乗る人がどれだけいるのだろう。

 ニュータウンから江原高校へ通っている生徒もいたように思うが、ほとんどが自転車通学だろう。僕は生徒たちの中でも学校に近い方だったので、通学手段については明るくないが、学校の自転車置き場はいつもいっぱいだった。井出とその取り巻きは電車通学だったから、土手で出くわすことなんてないはずだったのに、なんでこうなってしまったんだろう。

 いやいや、今はそんなこと考えるのはヤメだ。今日は三人で楽しく電車の旅と行きたいものだ。そしてあの女の子が見つかったなら最高なんだけどな。

「千代ちゃん、駅のホームまでぇ行ってみよぉかぁ」

「うん、いくー」

「あとどれくらいで始発が来るんだろうね」

「ホームまで行けばぁ時計も時刻表もあるよぉ」

「それもそうだね」

 三人は無人の改札を通りホームへ出た。絹原駅は自動改札になっているが、一番端の改札はゲートが半分しかないのですんなり通れた。物流倉庫駅は無人駅なので自動改札は新鮮だった。

 時刻は五時二十分で始発は六時五分と書いてある。毎日六時に家を出ていた母さんが物流倉庫駅から絹原駅へ出て、そこで乗り換えるのはもう少し後の電車だろう。

 五時半になったあたりで電車の音が近づいてくるのに気が付いた。

「きしゃがきたよー」

 千代が飛び跳ねてはしゃいでいる。しかし近づいてきた電車は速度をあまり緩めている様子が無い。駅のすぐ手前で警笛が鳴った。千代が驚いて後ずさりをした直後、貨物列車が通り過ぎて行った。

「きしゃとまってくれないでいっちゃった……」

「今のは貨物列車だから人は乗せないんだよ。隣の物流倉庫へ行ったんじゃないかな」

「なんだーざんねんね」

「それにぃ乗せてくれたとしてもぉ反対方面へ行っちゃうよぉ」

「そっかぁ、でも千代、きしゃがくるまでちゃんとまてるよ」

「もうすぐ来るからしりとりでもして待ってようかね」

「うん! じゃあさいしょはきしゃ、ね」

「しゃ、しゃ、しゃくとりむし。次大矢だよ」

「えー、し、しんぶんしー」

「またしなのー」

 そんなことをしているうちに時間はあっという間に過ぎ、ホームへも人が集まってきていた。僕達は乗客の脇で一緒に電車を待つ。ようやく始発がやってきて、一般の乗客と一緒に僕達三人も乗り込むことができた。

 絹川鉄道はこの辺りで数少ない路線だけど、利用者数はそれほど多くないらしい。観光名所と言うほどの物もなく、終点の山の方まで行けば釣りやハイキングができるくらいで、後は昔の養蚕資料館がある程度だ。

 そんな絹川市にも何種類かのゆるキャラがいるんだからやっぱり流行っていると言うことだ。そのゆるキャラで何がしたいのかはわからないけど、多分観光誘致とかだろう。

 僕は年甲斐もなく、荒波海岸へ着くのが楽しみになっていた。大矢と千代は電車の窓から見える風景を楽しんでいるようだ。

「えいにいちゃんもこっちおいでよーきしゃってはやいね!」

「はやいねぇあっという間に通り過ぎてっちゃうねぇ」

 意外にも幼い大矢の姿を見て、英介は妹に加え弟もできたような気分になっていた。

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