浮遊霊が青春してもいいですか?

釈 余白(しやく)

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第三章 浮遊霊たちは探索する

39.帰還

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 大矢の父は駅に向かって歩き出した。そういえば取材に行くと言っていたな。僕達も電車に乗って荒波海岸駅まで行きたいところだが、大矢が病院から五日ほど離れているのでいったん戻らななければならない。

「千代ちゃん、電車は少し先になるけど我慢できるかい?」

「うん、千代だいじょうぶだよ」

「英ちゃん、千代ちゃん、ごめんねぇ」

「いやいや、大矢が行方不明になったおかげで大収穫があったんだから大矢様々だよ」

「なんだかぁ複雑な気分だなぁ」

 久しぶりに三人揃ったし、こうやって笑いながら歩くのはいいもんだ。絹原駅から総合病院までは大した距離ではない。編集部からの道中でも何事もなく、僕達は無事に病院の中庭についた。

「大矢はしばらくここでゆっくりしててくれよ。土曜日の夜にまた来るから、日曜の朝に荒波海岸へ行こう」

「うんーわかったよぉ。退屈だけど仕方ないねぇ」

「ちゃんとおやすみしないとだめですよー」

「はーい、わかりましたー」

「じゃあ僕達もいったん戻るから、またね」

 僕と千代は病院の中庭を後にしまた二人となった。千代は満面の笑みでのりにいちゃん見つかって良かった良かったとはしゃいでいる。しかし、大矢が無事で本当によかった。

 僕達が酒屋の前まで来たころには陽が大分落ちてきていた。そろそろスズメたちも店じまいのようだ。酒屋のおばちゃんは暇そうに、店内のカウンターで肘をついて顔を乗せている。もう少しすると帰宅する人たちが店に来るのだろうが、それまでは休憩時間のようなものかもしれない。

「せっかく久しぶりに酒屋に来たから見張りしてから帰ろうか」

「うん、千代はすずめさんとあそんでくるね」

 僕は通りを見ながら今後の事を考えていた。

 日曜に荒波海岸へ行き色付きの女の子が見つかればそれが一番だけれど、見つからなかった時には四つ葉という学校の事を調べないといけない。高校進学の説明会でも聞かなかった名前だけど新設校だろうか。少なくともこの近所ではなさそうだ。

 荒波海岸駅で乗り換えるのかもしれないが、他の女子生徒は四つ葉には交通機関が無いと言っていた。そんな学校があるなんて思いもしなかったが、行動範囲も視野も狭い英介がどれだけ世の中の事を知っているというのだろう。

 幽霊になってからの方が行動的だし頭も使っている気がするが、どうしてこれを生前にやらなかったのか、今となっては悔いるくらいしかできない。

 でももし生きている人と意思疎通ができたならまた何か違う世界が広がるんじゃないか、英介はそう考えていた。自分をこんな目に合わせた奴らへの仕返しも忘れてはいないが、出来るかわからないことを考えるよりまずはできることについて考えたほうがいいだろう。

 しかし今自分ができることと言っても、色付きの女の子を探すことと千代と遊んであげることくらいか。幽霊とはなんと無力なものだろう。せめて物に触れることができれば全然違ってくるのに。それほど大した力なんて必要ないけど、せめて本のページが捲れるくらいの力があればいいのに。

「力が欲しい!」

 英介はそんな願望が押しとどめられず思わず大声を出した。すると千代がびっくりした様子でこちらへ駆け寄ってきて僕に尋ねた。

「えいちいちゃん、きゅうにおっきなこえだしてどうしたの?」

「ああ、ごめん、ちょっと考え事しててね。なんで僕達には何の力もないんだろうなって思ってさ」

「そんなことないよ。千代のしらないことおしえてくれたり、のりにいちゃんみつけたりしたじゃない?それってとってもすごいって、千代はおもうよ」

「そうなのかな、自分ではわからないけどありがとうね。千代ちゃんにはいつも励まされてるよ」

「そうかな、うふふ」

 千代に励まされたらなんだか元気が出たような気がする。人と話をすること自体が苦手で、どちらかと言えば好きではなかった僕にとってはあまりなかった体験である。

 しばらく酒屋の前にいたが、店内の時計が九時を指した辺りで僕と千代は橋の下へ向かった。繋いだ手に温もりが感じられないのはいつも少し寂しい。

 今日は色々あって大変だったが、自分の場所へ帰ってきてこれで落着けると思っていた僕を待ち受けていたのは新たに起こった小さな変化だった。

「あれ?雑誌の山が新しくなってる?いったい誰がこんなことをしてるのだろう」

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