浮遊霊が青春してもいいですか?

釈 余白(しやく)

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第三章 浮遊霊たちは探索する

35.掲示

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 月曜日、僕と千代はいつものように神社へお参りへ行き国道沿いへ出かけた。うどん屋へ寄ってから国道の中央分離帯で監視をし、家電量販店で千代がアニメを見る。
 
 僕は他のテレビであの女の子を探すが、さすがに平日昼間の番組に映るわけもなかった。夕方にはまた国道へ出て監視をし、何の成果もないまま土手の橋の下へトボトボと戻る。そんな代わり映えの無い日が続いていた。

 そして水曜日の夜になっても大矢は現れなかった。

 予定の日を過ぎていること自体はまあいいけれど、病院にもいないとしたら僕達の場合は存続に直結してしまう。もし大矢の身に何かあったのであれば大変なことだ。僕達幽霊が命を落とした場所に縛られているというのが事実かどうかはわからないし、その場所を何日くらい離れていても平気なのかもわからない。

 土曜日の待ち合わせに来なかったのが天候のせいだとしても、雨が上がってから丸三日は経つ。いくらなんでもこのままいつまでも待っているわけにもいかない。

「大矢のやつどうしちゃったんだろう。さすがに見に行った方がいいような気がするなぁ」

「そうね、千代ものりにいちゃんしんぱいだよ」

「じゃあこれから病院まで行こうか」

「うん!」

 病院方面へ向かう土手の上を歩くのは久しぶりだ。どうせなら酒屋の前を通って行くことにしよう。何と言っても大矢が使う可能性のある道を行くのが無難だ。酒屋の前まで来る間に猫一匹見ることもなく、辺りはひっそりとしている。もちろん千代の友達、スズメたちも居ない。点滅する信号だけが時間が動いていると感じさせる。

「もうよるだからさかやのおばさんいないね」

「そうだね、朝早いからもう寝てるかもしれないね」

「すずめさんたちもきっとねてるよね」

「スズメたちも朝早いんじゃないかな」

「そうねー」

 僕と千代はそんな会話をしながら病院へ向かう。そして街灯の少ない田舎道をてくてくと歩きようやく病院についた。夜の病院は建物が古いせいもあって薄気味悪く感じる。もっと照明を明るくすればいいのに、これじゃお化けでも出そうに思われてしまうだろう。

 建物の裏手に行くと夜間入り口があり、こちらにはこうこうと明かりが灯っている。緊急で運ばれてきたり来院する人のためなので暗くては困るだろう。しかし今はひっそりとして平和な様子であった。

 中庭まで行くとそこには誰もいなかった。以前なら重子さんや先生がいたはずの場所は、今となっては大矢だけの居場所になっているはずだ。しかしその大矢もここにはいなかった。やはり何かあったに違いない。今どこにいる可能性が一番高いだろう。

 予定通りなら絹原駅周辺にいるのだろう。しかし僕達のように何か他の場所を思いつき絹原駅以外へ行ったかもしれない。でも今は絹原駅に行ってみるくらいしか思いつく場所が無い。僕達は駅へ向かった。

「千代、きしゃにのってみたいなぁ。まだいちどものったことないの」

「そっか、じゃあ大矢が見つかったらみんなで乗ってみようか」

「ほんとうに! やったー」

 正直僕も電車にはあまり乗ったことが無い。近所に行くには自転車に乗るし、そもそも出かけること自体が少ない。両親と出かける時には車で行くことがほとんどであった。

 先ほど病院で見た時計は零時を回っていた。そのため駅前はひっそりとしていた。交番とまだ開いている居酒屋の看板位が明るく光っている。夕方は学校帰りの学生でにぎわうファストフード店やコンビニエンスストアもすでに閉店しているため、今まで見たことの無い静けさだ。

 駅前のコンビニエンスストアは都会にあるそれとは違い、終電が終わった後には営業終了してしまう。ただし防犯のためか店内の電気は薄暗くついているようだ。英介は閉店後のコンビニを見てふと何かに気が付いた。

「千代ちゃん、ちょっとこっち」

 そう言って千代を呼び、コンビニへ近づいた。するとそこには、ゆるキャラグランプリのポスターが貼ってあった。

「えいにいちゃん、これってこないだのてれびのやつ?」

「多分そうだね、こないだの日曜日のところにバツが書いてある。開催場所は荒波海岸駅前広場だったのか」

「あらなみ?」

「電車に乗って最後の駅だよ。次回は来週の日曜だってさ」

「じゃあそのひにいってみるの?」

「もちろんさ。ゆるキャラグランプリとあの女の子に何の関係があるのかわからないし、もしかしたら何の関係もないかもしれないけど、今は手がかりになりそうな所へ行ってみるしかないからね」

「あとはのりにいちゃんをみつけるだけね」

「それだよなぁ、一体どこに行ってしまったんだろう。病院にいないとなるとこの近辺位しか考えられないんだけどなぁ」

「のりにいちゃあーん」

 千代が大きな声で叫んだ。しかし辺りは静まり返ったままだ。僕も千代の後に続いて叫んでみた。

「おおやあー」

 やはり返事はない。いくら真夜中で人がおらず静まり返っていると言っても、声の届く範囲なんてたかが知れているだろう。

 またコンビニに貼ってあるポスターに向かって振り向き隣のポスターを見た。そこには第一回四校合同クリスマス芸術祭と書いてある。その時、そのポスターの上に動く影が反射して映っていた。

 なんだ!? 誰かが手を振っているのか!? 振り向いてみると後ろのビルの二階から大矢が手を振っているのが見えた。

「大矢!」

 まさかそんな偶然があっていいのか。英介は驚きを隠せなかった。

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