浮遊霊が青春してもいいですか?

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
上 下
29 / 119
第三章 浮遊霊たちは探索する

29.潜入

しおりを挟む
 うどん屋を出る時に見た時計は十三時を少し回ったところだった。夕方まではまだ時間があるのでどこかで時間をつぶさないといけない。

 この時間をつぶすということがなかなか厄介で難しい。生きているときなら学校から帰ってからマンガやテレビを見てゴロゴロしているうちに夜になり、今日も退屈な一日だったなんて無駄に過ごしていたものだけど、いざ時間を使えるとなってもこの体じゃできることも限られる。

「さてどうしようかねぇ」

「どうしましょうかねぇ」

 千代はおどけて僕の口調を真似した。どうやらうどん屋がだいぶ気に入ったらしくご機嫌のようだ。

 ふと国道の反対側に目をやると大きな建物が目についた。あれは家電量販店だな。そうだ、あそこへ行ってみよう。

「千代ちゃんはテレビって知らないよね?」

「てれび?」

「まあ見ればわかるから行ってみよう」

 英介はそう言うと千代の手を引いて電気店へ向かった。電気屋の一階部分は何もなく自動販売機やカプセルトイが置いてあるくらいのようだ。外からテレビは見えそうにない。大きなガラス窓には暖房器具や照明器具、もちろん大型テレビの広告ポスターが貼ってある。もう年末近いのでボーナス商戦なのだろう。

 建物の中まで入らないとテレビを見ることができないということは、誰かお客さんが来るのを待たないといけない。これが幽霊の行動を大きく制限していて不便極まりない。しばらく待っていてもお客さんの気配はない。こういうお店は平日日中の来客が少ないものなのかもしれない。

「入れそうにないねぇ」

「うん、ざんねんね」

 諦めて場所を移動しようとしたその時、店の後ろの方に人影が見えた。制服を着ているので店員だろうか。

 僕達が近づいてみるとそこには荷物の搬入口があり、従業員が出たり入ったりしている。ここからなら出入りできそうである。

「よし、ここから入ってみよう」

「はーい」

 中へ入って行く従業員に続いてのれんのようなビニールの扉をくぐり、僕達は店内へ入ることができた。そこから薄暗い階段を上っていくと大きな扉があり、真ん中から明るい店内の光が漏れている。

 先ほどの従業員は倉庫の中で何やら作業をしていて扉を通る気配がない。しかしほどなくして別の従業員が入ってきた。

 僕達はその隙に店内へ滑り込んだ。

「うわあー、あかるい、まぶしいねーでんきがいっぱいついてるよ」

 店内へ入ってすぐのところは照明売り場だったらしい。天井からたくさんの照明器具がぶら下がり、壁沿いにはシーリングライトが横向きに設置されている。

 千代は珍しくて仕方ないという様子できょろきょろとあたりを見回している。僕はテレビ売り場を探して天井にぶら下がっている案内板を見ていた。

「千代ちゃん、向こうの端の方にテレビ売り場があるみたいだよ。行ってみよう」

「うん!」

 照明売り場から少し離れると店内は常識的な明るさになったが、それでも普通の住宅とは比べ物にならない明るさだ。途中の売り場で見るもの全てが珍しい千代は、洗濯機を見て一つ目小僧と言ったり掃除機を見て象さんの車だと言ったりして、その発想の一つ一つが面白い。

 そしていよいよテレビ売り場まで来たときにはもう声も出ない様子だった。

 千代はしばらくぽかーんと立ち尽くした後口を開いた。

「これって……ほんとうになかにだれもいないの?おなじひとがたくさんいるし……これがてれび?」

 薄型テレビが一般的になってからもうずいぶん経つので、店内にブラウン管のテレビなんて置いてあるわけもない。その為さすがに誰かが入っているとは思わないようだ。一昔前のタイムスリップ物とかだとテレビの中に人がいると思い込む昔の人の描写もあったものだが、それも僕が赤ん坊の頃かそれより古い時代の創作だ。

 今映っているのは年配の芸能人が司会をしているワイドショーのような番組で、整理整頓術のようなことをやっていた。これでは千代が楽しむことは難しいだろう。

 壁面にかけてある大型のテレビはすべて同じチャンネルだが、通路内側にある小型テレビのコーナーには違う番組が映っていた。その一つに幼児向けのアニメが流れている。

 僕は千代を呼んでそのアニメを見せた。

「かみしばいみたいだけどぜんぜんちがうのね。千代、びっくりしどおしよ」

 そんなことを呟きながら夢中になって画面に食いついている。どうやら気に入ったようで良かった。

 アニメを数本見ているうちに店内の時計が十五時半を回った。そろそろいい時間かもしれない。

「千代ちゃん、満足したかい?そろそろ見張りに行こうと思うけど、まだここでテレビ見ていてもいいよ?」

「だめだめ、千代、えいにいちゃんといっしょにいくよ」

「ありがとう、僕も一人じゃ寂しいから助かるよ」

「うふふ、ちゃんと千代がついていってあげますからね」

 そんな会話を交わし、僕達はまた搬入口から外へ出た。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

隣の家の幼馴染は学園一の美少女だが、ぼっちの僕が好きらしい

四乃森ゆいな
ライト文芸
『この感情は、幼馴染としての感情か。それとも……親友以上の感情だろうか──。』  孤独な読書家《凪宮晴斗》には、いわゆる『幼馴染』という者が存在する。それが、クラスは愚か学校中からも注目を集める才色兼備の美少女《一之瀬渚》である。  しかし、学校での直接的な接触は無く、あってもメッセージのやり取りのみ。せいぜい、誰もいなくなった教室で一緒に勉強するか読書をするぐらいだった。  ところが今年の春休み──晴斗は渚から……、 「──私、ハル君のことが好きなの!」と、告白をされてしまう。  この告白を機に、二人の関係性に変化が起き始めることとなる。  他愛のないメッセージのやり取り、部室でのお昼、放課後の教室。そして、お泊まり。今までにも送ってきた『いつもの日常』が、少しずつ〝特別〟なものへと変わっていく。  だが幼馴染からの僅かな関係の変化に、晴斗達は戸惑うばかり……。  更には過去のトラウマが引っかかり、相手には迷惑をかけまいと中々本音を言い出せず、悩みが生まれてしまい──。  親友以上恋人未満。  これはそんな曖昧な関係性の幼馴染たちが、本当の恋人となるまでの“一年間”を描く青春ラブコメである。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...