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第三章 浮遊霊たちは探索する
29.潜入
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うどん屋を出る時に見た時計は十三時を少し回ったところだった。夕方まではまだ時間があるのでどこかで時間をつぶさないといけない。
この時間をつぶすということがなかなか厄介で難しい。生きているときなら学校から帰ってからマンガやテレビを見てゴロゴロしているうちに夜になり、今日も退屈な一日だったなんて無駄に過ごしていたものだけど、いざ時間を使えるとなってもこの体じゃできることも限られる。
「さてどうしようかねぇ」
「どうしましょうかねぇ」
千代はおどけて僕の口調を真似した。どうやらうどん屋がだいぶ気に入ったらしくご機嫌のようだ。
ふと国道の反対側に目をやると大きな建物が目についた。あれは家電量販店だな。そうだ、あそこへ行ってみよう。
「千代ちゃんはテレビって知らないよね?」
「てれび?」
「まあ見ればわかるから行ってみよう」
英介はそう言うと千代の手を引いて電気店へ向かった。電気屋の一階部分は何もなく自動販売機やカプセルトイが置いてあるくらいのようだ。外からテレビは見えそうにない。大きなガラス窓には暖房器具や照明器具、もちろん大型テレビの広告ポスターが貼ってある。もう年末近いのでボーナス商戦なのだろう。
建物の中まで入らないとテレビを見ることができないということは、誰かお客さんが来るのを待たないといけない。これが幽霊の行動を大きく制限していて不便極まりない。しばらく待っていてもお客さんの気配はない。こういうお店は平日日中の来客が少ないものなのかもしれない。
「入れそうにないねぇ」
「うん、ざんねんね」
諦めて場所を移動しようとしたその時、店の後ろの方に人影が見えた。制服を着ているので店員だろうか。
僕達が近づいてみるとそこには荷物の搬入口があり、従業員が出たり入ったりしている。ここからなら出入りできそうである。
「よし、ここから入ってみよう」
「はーい」
中へ入って行く従業員に続いてのれんのようなビニールの扉をくぐり、僕達は店内へ入ることができた。そこから薄暗い階段を上っていくと大きな扉があり、真ん中から明るい店内の光が漏れている。
先ほどの従業員は倉庫の中で何やら作業をしていて扉を通る気配がない。しかしほどなくして別の従業員が入ってきた。
僕達はその隙に店内へ滑り込んだ。
「うわあー、あかるい、まぶしいねーでんきがいっぱいついてるよ」
店内へ入ってすぐのところは照明売り場だったらしい。天井からたくさんの照明器具がぶら下がり、壁沿いにはシーリングライトが横向きに設置されている。
千代は珍しくて仕方ないという様子できょろきょろとあたりを見回している。僕はテレビ売り場を探して天井にぶら下がっている案内板を見ていた。
「千代ちゃん、向こうの端の方にテレビ売り場があるみたいだよ。行ってみよう」
「うん!」
照明売り場から少し離れると店内は常識的な明るさになったが、それでも普通の住宅とは比べ物にならない明るさだ。途中の売り場で見るもの全てが珍しい千代は、洗濯機を見て一つ目小僧と言ったり掃除機を見て象さんの車だと言ったりして、その発想の一つ一つが面白い。
そしていよいよテレビ売り場まで来たときにはもう声も出ない様子だった。
千代はしばらくぽかーんと立ち尽くした後口を開いた。
「これって……ほんとうになかにだれもいないの?おなじひとがたくさんいるし……これがてれび?」
薄型テレビが一般的になってからもうずいぶん経つので、店内にブラウン管のテレビなんて置いてあるわけもない。その為さすがに誰かが入っているとは思わないようだ。一昔前のタイムスリップ物とかだとテレビの中に人がいると思い込む昔の人の描写もあったものだが、それも僕が赤ん坊の頃かそれより古い時代の創作だ。
今映っているのは年配の芸能人が司会をしているワイドショーのような番組で、整理整頓術のようなことをやっていた。これでは千代が楽しむことは難しいだろう。
壁面にかけてある大型のテレビはすべて同じチャンネルだが、通路内側にある小型テレビのコーナーには違う番組が映っていた。その一つに幼児向けのアニメが流れている。
僕は千代を呼んでそのアニメを見せた。
「かみしばいみたいだけどぜんぜんちがうのね。千代、びっくりしどおしよ」
そんなことを呟きながら夢中になって画面に食いついている。どうやら気に入ったようで良かった。
アニメを数本見ているうちに店内の時計が十五時半を回った。そろそろいい時間かもしれない。
「千代ちゃん、満足したかい?そろそろ見張りに行こうと思うけど、まだここでテレビ見ていてもいいよ?」
「だめだめ、千代、えいにいちゃんといっしょにいくよ」
「ありがとう、僕も一人じゃ寂しいから助かるよ」
「うふふ、ちゃんと千代がついていってあげますからね」
そんな会話を交わし、僕達はまた搬入口から外へ出た。
この時間をつぶすということがなかなか厄介で難しい。生きているときなら学校から帰ってからマンガやテレビを見てゴロゴロしているうちに夜になり、今日も退屈な一日だったなんて無駄に過ごしていたものだけど、いざ時間を使えるとなってもこの体じゃできることも限られる。
「さてどうしようかねぇ」
「どうしましょうかねぇ」
千代はおどけて僕の口調を真似した。どうやらうどん屋がだいぶ気に入ったらしくご機嫌のようだ。
ふと国道の反対側に目をやると大きな建物が目についた。あれは家電量販店だな。そうだ、あそこへ行ってみよう。
「千代ちゃんはテレビって知らないよね?」
「てれび?」
「まあ見ればわかるから行ってみよう」
英介はそう言うと千代の手を引いて電気店へ向かった。電気屋の一階部分は何もなく自動販売機やカプセルトイが置いてあるくらいのようだ。外からテレビは見えそうにない。大きなガラス窓には暖房器具や照明器具、もちろん大型テレビの広告ポスターが貼ってある。もう年末近いのでボーナス商戦なのだろう。
建物の中まで入らないとテレビを見ることができないということは、誰かお客さんが来るのを待たないといけない。これが幽霊の行動を大きく制限していて不便極まりない。しばらく待っていてもお客さんの気配はない。こういうお店は平日日中の来客が少ないものなのかもしれない。
「入れそうにないねぇ」
「うん、ざんねんね」
諦めて場所を移動しようとしたその時、店の後ろの方に人影が見えた。制服を着ているので店員だろうか。
僕達が近づいてみるとそこには荷物の搬入口があり、従業員が出たり入ったりしている。ここからなら出入りできそうである。
「よし、ここから入ってみよう」
「はーい」
中へ入って行く従業員に続いてのれんのようなビニールの扉をくぐり、僕達は店内へ入ることができた。そこから薄暗い階段を上っていくと大きな扉があり、真ん中から明るい店内の光が漏れている。
先ほどの従業員は倉庫の中で何やら作業をしていて扉を通る気配がない。しかしほどなくして別の従業員が入ってきた。
僕達はその隙に店内へ滑り込んだ。
「うわあー、あかるい、まぶしいねーでんきがいっぱいついてるよ」
店内へ入ってすぐのところは照明売り場だったらしい。天井からたくさんの照明器具がぶら下がり、壁沿いにはシーリングライトが横向きに設置されている。
千代は珍しくて仕方ないという様子できょろきょろとあたりを見回している。僕はテレビ売り場を探して天井にぶら下がっている案内板を見ていた。
「千代ちゃん、向こうの端の方にテレビ売り場があるみたいだよ。行ってみよう」
「うん!」
照明売り場から少し離れると店内は常識的な明るさになったが、それでも普通の住宅とは比べ物にならない明るさだ。途中の売り場で見るもの全てが珍しい千代は、洗濯機を見て一つ目小僧と言ったり掃除機を見て象さんの車だと言ったりして、その発想の一つ一つが面白い。
そしていよいよテレビ売り場まで来たときにはもう声も出ない様子だった。
千代はしばらくぽかーんと立ち尽くした後口を開いた。
「これって……ほんとうになかにだれもいないの?おなじひとがたくさんいるし……これがてれび?」
薄型テレビが一般的になってからもうずいぶん経つので、店内にブラウン管のテレビなんて置いてあるわけもない。その為さすがに誰かが入っているとは思わないようだ。一昔前のタイムスリップ物とかだとテレビの中に人がいると思い込む昔の人の描写もあったものだが、それも僕が赤ん坊の頃かそれより古い時代の創作だ。
今映っているのは年配の芸能人が司会をしているワイドショーのような番組で、整理整頓術のようなことをやっていた。これでは千代が楽しむことは難しいだろう。
壁面にかけてある大型のテレビはすべて同じチャンネルだが、通路内側にある小型テレビのコーナーには違う番組が映っていた。その一つに幼児向けのアニメが流れている。
僕は千代を呼んでそのアニメを見せた。
「かみしばいみたいだけどぜんぜんちがうのね。千代、びっくりしどおしよ」
そんなことを呟きながら夢中になって画面に食いついている。どうやら気に入ったようで良かった。
アニメを数本見ているうちに店内の時計が十五時半を回った。そろそろいい時間かもしれない。
「千代ちゃん、満足したかい?そろそろ見張りに行こうと思うけど、まだここでテレビ見ていてもいいよ?」
「だめだめ、千代、えいにいちゃんといっしょにいくよ」
「ありがとう、僕も一人じゃ寂しいから助かるよ」
「うふふ、ちゃんと千代がついていってあげますからね」
そんな会話を交わし、僕達はまた搬入口から外へ出た。
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