浮遊霊が青春してもいいですか?

釈 余白(しやく)

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第三章 浮遊霊たちは探索する

28.飯事(ままごと)

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 僕と千代が中央分離帯で見張りを始めてから数十分ほど経っただろうか。早くも千代は飽きて来たらしい。酒屋の前と違ってスズメも居ないし人もほとんど通らない。

 僕も千代も一歩も動かずに佇んでいる。行き交う車と点滅している信号が時間の流れを示しているくらいだ。

 これは思ったより苦行かもしれない。

「千代ちゃん、飽きてきちゃったんでしょ」

「ううん!そんなことないよ」

「我慢しなくてもいいんだよ。僕も飽きて来たからさ」

「えっと、ちょっとだけつまんない」

「そうだよね、それに学生の通学時間とは違うから昼間ここに居ても仕方ないかもしれないな。明日からは朝と夕方にここへ来て、酒屋の前は行かないつもりだけど千代ちゃんはどうする?」

「……えいにいちゃんといっしょがいい」

 千代はほんの少し考えた後そう言った。

「じゃあまた夕方ここに来ることにして、今はどこかへ散歩に行こう」

「うん!」

 二人は国道を渡り歩道へ戻って左右を見比べた。ファミレスはさっき行ったからもう少し先に歩いてみることにして歩き始めた。

 数分歩くと赤い屋根の建物があった。ここは全国チェーンのファストフード店だ。

「えいにいちゃん、あそこにおおきなおじさんがいるよ」

「ああ、あれはこのお店の看板みたいなものだね。少し覗いてみようか」

 僕達はドライブスルーと書いてある看板の矢印に沿って進んでいった。

「ほら、ここにメニューがあるでしょ。さっきのファミレスとはまた違う食べ物が載っているよ」

「わぁ、こっちもおもしろいねーこのまるいのはなあに?」

「それはハンバーガーという食べ物さ。パンにお肉が挟んであってこうやってガブッとかじりつくんだ」

 僕は両手でハンバーガーを持つ真似をして大きく口を開けて見せた。

「まっ、はしたないのね」

「あはは、そうだね」

 ドライブスルーをぐるりと回ってまた国道沿いの歩道に出た。お客さんは全然いないみたいで店員は暇そうにしている。

 歩道からまた他の店を見てみると見慣れない建物があった。どうやらうどん店のようだが以前はこんな店は無かったはずだ。

「千代ちゃん、あそこにうどん屋さんがあるよ、行ってみよう」

「おうどんたべたーい」

 入口まで来ると店内には数人のお客さんがいて、うどんをすすっているのが見える。少し待つと食べ終わったお客が丼をさげてからこちらへ向かってきた。おそらく帰るのだろう。

「よし、入ってみよう」

「うん!」

 さっきのお客さんが出入り口まで来ると自動ドアが開く。二人は悠々と店内へ入って行った。

「僕はやっぱりきつねうどんだなぁ」

「千代はおかめうどんね」

 僕と千代は丼を持った真似をしながら手近なテーブル席へ座った。僕はまるで落語のように箸を使い、うどんをすする真似をした。

「わぁえいにいちゃんじょうずねぇ」

「ふふ、そうかな」

 続いて千代も真似して食べるふりをした。

「千代ちゃんも上手だよ。本当に食べてるみたいだね」

「うん、おいしいね、たのしいね」

 そうだな、おままごとだと思えばなんということはない。こんなことをするのは保育園以来かもしれないが、楽しみの少ない今は貴重な娯楽かもしれない。

 満足した僕達はお客さんの出入りに合わせて店を出た。人気のお店なのか出入りは多かったので出入りは楽で助かる。

「たのしかったねー」

「うん、また来ようね」

 国道沿いには他にも飲食店がある。本当に食べることはできないが、千代はごっこ遊びでも楽しんでくれる。それに僕も千代を喜ばせることが楽しいんだ。

 ほんのささやかな楽しみに満足し、足取り軽くご機嫌な千代。その千代を見て優しい笑みを浮かべ手を繋ぐ英介。

 傍から見ると、その姿はまるで本当の兄妹のようだっただろう。

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