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第三章 浮遊霊たちは探索する
26.明暗
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土手の上へ上がると月がきれいに見え辺りも白く照らされている。夜遅くに出かけることなどなかった英介にはこれがとても新鮮だった。家族でどこかに出かけきれいな風景を見たとしても特別な感情など湧くことは無かったのに、これも心境の変化なのだろうか。
千代の白い髪が艶やかにきらめいている。本当ならばきっときれいな黒髪何だろうが、この世界では仕方ない。もちろん僕も大矢の髪の毛も老人のように真っ白だ。
この真っ白と陰影のみの世界でひときわ目立った赤いリボン。それを身に着けていた、僕と同い年くらいの女の子は一体どこにいるんだろう。
もし別の市や別の県など遠いところから来て、たまたま通りがかっただけだったとしたら、もう一度遭遇する可能性なんてほぼゼロに違いない。
何の手がかりもないので、今はただ一度見かけたところや人の多そうな場所で偶然出会えるのを期待するのみだ。そんな行き当たりばったりの偶然任せで本当にもう一度会えるのだろうか。
初めに見たときにはその可能性に胸躍らせ期待していたが、期待の見張りが空振りで自分を信用しきれなくなっているのかもしれない。いや、まだ数日しか経っていないのにこんな事じゃだめだ。
「なにかいいアイデアないかなぁ」
「いいあいであ?」
「うん、同じところで見張ってるだけじゃ中々見つからないと思うんだ。車で学校へ通っているならとっくに見つかってもおかしくない。それなのに見つからないということは、あの酒屋の前を毎日通っているわけじゃないということだと思うんだ」
「うーん、千代、むつかしいことはわからないけど、いろがついてるひとならとてもめだつとおもうの。だからたかいところからみたらいいんじゃないかなぁ」
「高いところかぁ、それも悪くないかもしれないね。問題は人や車の通りが多くて、そこが見晴らせるような高い場所がどこにあるか、だね」
物流倉庫近隣にある高い場所と言えば倉庫の上くらいしかない。しかも見えるのはトラックばかりだ。絹原周辺には商業ビルやマンションが少しあるが、そっちは大矢に見張ってもらうよう相談してみたほうが良さそうだ。
となると、こちらに近いところで高い建物があるのは国道沿いの店舗くらいになるかもしれない。どんな店があるのかはあまり把握していないけれど、確認してみる価値はありそうだ。
「千代ちゃん、いいアイデア出してくれてありがとうね」
「いいあいであだった?やったー」
これで見つかればいいんだけどそんなうまくいくわけはない。でも同じところだけではなく、可能な限り広い範囲を探すことを考えよう。試行錯誤しているうちに道が開けることもあるだろう。
千代は褒められてよほどうれしかったのか笑顔で走り回っている。その白い姿が月の光に照らされ輝いている。それはまるで千代の純真さを表しているように思えた。
そうだ、探そうとしているから見つからない。ならばこちらが目立つところにいて見つけてもらえばいいんだ。もし運良く通りがかってくれたら見つけてもらえるように。
僕は走り回っている千代へ近づいて一緒に走って、そして一緒に笑った。月に照らされた千代の顔は僕の周りをくるりと回って月を背にすると暗い影の中に入る。でもそれは決して嫌な暗さではなく明るさを背負っている証だ。
なにかがうまくいかない時でも成功と紙一重かもしれない。そう考え明日からも頑張ろう。報われるかどうか今はわからないが諦めるのはまだ早いだろう。
そうこうしているうちに辺りが白んできた。そろそろ今日も一日が始まる。退屈な日にするのか、実のある日にするのかはいつも自分が決めるものだ。今の英介ならそう言える。
「そろそろ神社へ向かおうか」
「うん」
そうして二人は手を繋いで橋を渡って行った。
神社へついて間もなくするとおばあさんがやってきた。今日も手には油揚げの入った容器を持っている。
いつもと同じように鳥居の前で一礼すると石畳をゆっくりと進んで手を清める。そして社の前の石の上に油揚げを置いた。いつも同じ時間、いつも同じ行動、でもおばあさんにとってこれは退屈な日常なんかではないだろう。
一日が始まるための儀式のようなものであり習慣だろう。一日一日を大切に過ごしているからこそ毎日願うことがあるのではないか。英介はそう考えるようになっていた。
おばあさんが柏手を打ってから何かを祈る。僕達も同じように手を合わせた。お参りを済ませたおばあさんが元来た道を戻り、無事に立ち去るのを確認してから僕は千代へ話しかけた。
「よし、じゃあ今日も張り切っていこうか」
「うん、きょうもおばさんがげんきにおみせあけてるといいね。すずめさんもげんきにしてるかなー」
「きっと千代ちゃんの事待ってるんじゃないかな」
僕は千代へ微笑みかけて右手を差し出し、千代は僕の手を掴んだ。
今日がいつもと変わらない日でもいい。退屈な日ではなく、いつもと変わらないけど意味のある日にするのは自分自身なのだから。
千代の白い髪が艶やかにきらめいている。本当ならばきっときれいな黒髪何だろうが、この世界では仕方ない。もちろん僕も大矢の髪の毛も老人のように真っ白だ。
この真っ白と陰影のみの世界でひときわ目立った赤いリボン。それを身に着けていた、僕と同い年くらいの女の子は一体どこにいるんだろう。
もし別の市や別の県など遠いところから来て、たまたま通りがかっただけだったとしたら、もう一度遭遇する可能性なんてほぼゼロに違いない。
何の手がかりもないので、今はただ一度見かけたところや人の多そうな場所で偶然出会えるのを期待するのみだ。そんな行き当たりばったりの偶然任せで本当にもう一度会えるのだろうか。
初めに見たときにはその可能性に胸躍らせ期待していたが、期待の見張りが空振りで自分を信用しきれなくなっているのかもしれない。いや、まだ数日しか経っていないのにこんな事じゃだめだ。
「なにかいいアイデアないかなぁ」
「いいあいであ?」
「うん、同じところで見張ってるだけじゃ中々見つからないと思うんだ。車で学校へ通っているならとっくに見つかってもおかしくない。それなのに見つからないということは、あの酒屋の前を毎日通っているわけじゃないということだと思うんだ」
「うーん、千代、むつかしいことはわからないけど、いろがついてるひとならとてもめだつとおもうの。だからたかいところからみたらいいんじゃないかなぁ」
「高いところかぁ、それも悪くないかもしれないね。問題は人や車の通りが多くて、そこが見晴らせるような高い場所がどこにあるか、だね」
物流倉庫近隣にある高い場所と言えば倉庫の上くらいしかない。しかも見えるのはトラックばかりだ。絹原周辺には商業ビルやマンションが少しあるが、そっちは大矢に見張ってもらうよう相談してみたほうが良さそうだ。
となると、こちらに近いところで高い建物があるのは国道沿いの店舗くらいになるかもしれない。どんな店があるのかはあまり把握していないけれど、確認してみる価値はありそうだ。
「千代ちゃん、いいアイデア出してくれてありがとうね」
「いいあいであだった?やったー」
これで見つかればいいんだけどそんなうまくいくわけはない。でも同じところだけではなく、可能な限り広い範囲を探すことを考えよう。試行錯誤しているうちに道が開けることもあるだろう。
千代は褒められてよほどうれしかったのか笑顔で走り回っている。その白い姿が月の光に照らされ輝いている。それはまるで千代の純真さを表しているように思えた。
そうだ、探そうとしているから見つからない。ならばこちらが目立つところにいて見つけてもらえばいいんだ。もし運良く通りがかってくれたら見つけてもらえるように。
僕は走り回っている千代へ近づいて一緒に走って、そして一緒に笑った。月に照らされた千代の顔は僕の周りをくるりと回って月を背にすると暗い影の中に入る。でもそれは決して嫌な暗さではなく明るさを背負っている証だ。
なにかがうまくいかない時でも成功と紙一重かもしれない。そう考え明日からも頑張ろう。報われるかどうか今はわからないが諦めるのはまだ早いだろう。
そうこうしているうちに辺りが白んできた。そろそろ今日も一日が始まる。退屈な日にするのか、実のある日にするのかはいつも自分が決めるものだ。今の英介ならそう言える。
「そろそろ神社へ向かおうか」
「うん」
そうして二人は手を繋いで橋を渡って行った。
神社へついて間もなくするとおばあさんがやってきた。今日も手には油揚げの入った容器を持っている。
いつもと同じように鳥居の前で一礼すると石畳をゆっくりと進んで手を清める。そして社の前の石の上に油揚げを置いた。いつも同じ時間、いつも同じ行動、でもおばあさんにとってこれは退屈な日常なんかではないだろう。
一日が始まるための儀式のようなものであり習慣だろう。一日一日を大切に過ごしているからこそ毎日願うことがあるのではないか。英介はそう考えるようになっていた。
おばあさんが柏手を打ってから何かを祈る。僕達も同じように手を合わせた。お参りを済ませたおばあさんが元来た道を戻り、無事に立ち去るのを確認してから僕は千代へ話しかけた。
「よし、じゃあ今日も張り切っていこうか」
「うん、きょうもおばさんがげんきにおみせあけてるといいね。すずめさんもげんきにしてるかなー」
「きっと千代ちゃんの事待ってるんじゃないかな」
僕は千代へ微笑みかけて右手を差し出し、千代は僕の手を掴んだ。
今日がいつもと変わらない日でもいい。退屈な日ではなく、いつもと変わらないけど意味のある日にするのは自分自身なのだから。
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