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第一章 浮遊霊始めました
5.先輩
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ようやく、というほど久しぶりという感覚はないが、確かに英介は帰ってきた。
見慣れた我が家の門扉には、家族旅行で沖縄へ行った際なんとなく買ってきたシーサーが乗せてある。表札には両親と英介の名前が書いてあるままだ。
しかし実際にはもう英介が帰ってくることはない。大矢の話によるとあの事故、いや事件から約一週間以上は経っている。
両親は今どうしているだろう。真っ暗な夜空を考えると今は真夜中だろうし、当然二人とも寝ているに違いない。ドアノブに手をかけ回そうとしたが当然びくともしない。
新聞配達のオートバイが走る音すら聞こえないということはまだ明け方近くにもなっていないということか。これは朝まで待つしかないだろう。
僕は大矢へ話しかけた。
「こういう時は何して時間つぶせばいいんだろうね。眠くもないしお腹もすかないし」
「んー、じゃあ先輩のところにでも行こうかぁ。歩くにはちょっと遠いけどぉ、疲れるわけじゃないし時間はたっぷりあるしねぇ」
先輩、か。僕からしたら大矢も先輩だし、僕の知らないことを知っている誰かに会っておくのも悪くない。それにこの先の人生? 長くなるのかもしれないし。
というわけで僕らは総合病院へ向かうことにした。
英介の家から総合病院までは自転車で三十分程度の所にある。歩いていくなら一時間くらいの道のりだろう。普段はあまり歩き回ることなどなく、まして健康だけが取り柄のような英介にとって総合病院のような大きい病院は縁の無い場所だった。
総合病院自体は絹原駅のすぐ近くにあるのだが、英介の最寄り駅はその隣の物流倉庫駅なのであまり利用したことが無い。何より絹原駅周辺にはゲームセンターやファストフード店等がそこそこあるため、井出のような奴らが学校帰りに徘徊していたりする。そのため自然と足が遠のくようになったのだ。
しかし人通りの無く薄暗い街灯しかない道をただひたすら歩くということはなんとつまらない事か。英介はたまらず口を開いた。
「ねぇ大矢。幽霊になったら空飛んだりできると思ってたけどそんなことは無いのか?」
「あははぁ、そんなマンガのようなことはないんだよねぇ」
いや、幽霊が存在するなんてことが一番マンガみたいな話だと思うんだけど、なんて他愛もない会話をしながら僕らは歩いた。
総合病院へはおそらく四、五十分程度歩き続けてようやくたどり着いた。ここは救急指定病院だからいつでも出入り自由で、昼間はテレビを見たり患者が読んでいる本を後ろから読んだりできるので暇つぶしには悪くない場所らしい。夜間受付には電気が灯っていて、診療待ちの患者たちが数人順番待ちをしているようだった。
自動ドアが開くのを待っていれば中に入ることもできるだろうが、今の僕たちは病院内に用はない。夜間出入口を通り過ぎ病院の建物伝いに裏手へ回り中庭へ向かう。
中庭の入口まで来ると、古くなったテーブルとイスが並んでいて周囲には自販機が並んでいるのが見えた。ここへ来たのは初めてかもしれない。
「ほうら、あそこに先輩がいるよぉ。重子さあん、こんばんはぁ」
そこには今時珍しい、コスプレ衣装のような真っ白なナース服を着た看護士さんんが座っていた。厳密には顔も髪の毛も含め全身真っ白で、それは僕も大矢も同じことだが。
「あら、ノリちゃん、ごきげんよう。その子はお友達かしら?」
重子さんというらしい看護士さんはにっこりとほほ笑みかけてくれた。僕は思わずドキッとしてしまい、何とも微妙な表情で愛想笑いを返した。
重子さんはお世辞でも何でもなくとても美人、いや可愛いタイプといえばいいのだろうか。おそらくは二十代前半で、凛とした雰囲気を感じさせつつも笑顔には幼さも感じる。その笑顔は大矢ののんきな笑顔より何倍も何倍も素敵で、僕は柄にもなく心臓の鼓動を速めた(ように感じるだけですでに動いていないのだが)
見慣れた我が家の門扉には、家族旅行で沖縄へ行った際なんとなく買ってきたシーサーが乗せてある。表札には両親と英介の名前が書いてあるままだ。
しかし実際にはもう英介が帰ってくることはない。大矢の話によるとあの事故、いや事件から約一週間以上は経っている。
両親は今どうしているだろう。真っ暗な夜空を考えると今は真夜中だろうし、当然二人とも寝ているに違いない。ドアノブに手をかけ回そうとしたが当然びくともしない。
新聞配達のオートバイが走る音すら聞こえないということはまだ明け方近くにもなっていないということか。これは朝まで待つしかないだろう。
僕は大矢へ話しかけた。
「こういう時は何して時間つぶせばいいんだろうね。眠くもないしお腹もすかないし」
「んー、じゃあ先輩のところにでも行こうかぁ。歩くにはちょっと遠いけどぉ、疲れるわけじゃないし時間はたっぷりあるしねぇ」
先輩、か。僕からしたら大矢も先輩だし、僕の知らないことを知っている誰かに会っておくのも悪くない。それにこの先の人生? 長くなるのかもしれないし。
というわけで僕らは総合病院へ向かうことにした。
英介の家から総合病院までは自転車で三十分程度の所にある。歩いていくなら一時間くらいの道のりだろう。普段はあまり歩き回ることなどなく、まして健康だけが取り柄のような英介にとって総合病院のような大きい病院は縁の無い場所だった。
総合病院自体は絹原駅のすぐ近くにあるのだが、英介の最寄り駅はその隣の物流倉庫駅なのであまり利用したことが無い。何より絹原駅周辺にはゲームセンターやファストフード店等がそこそこあるため、井出のような奴らが学校帰りに徘徊していたりする。そのため自然と足が遠のくようになったのだ。
しかし人通りの無く薄暗い街灯しかない道をただひたすら歩くということはなんとつまらない事か。英介はたまらず口を開いた。
「ねぇ大矢。幽霊になったら空飛んだりできると思ってたけどそんなことは無いのか?」
「あははぁ、そんなマンガのようなことはないんだよねぇ」
いや、幽霊が存在するなんてことが一番マンガみたいな話だと思うんだけど、なんて他愛もない会話をしながら僕らは歩いた。
総合病院へはおそらく四、五十分程度歩き続けてようやくたどり着いた。ここは救急指定病院だからいつでも出入り自由で、昼間はテレビを見たり患者が読んでいる本を後ろから読んだりできるので暇つぶしには悪くない場所らしい。夜間受付には電気が灯っていて、診療待ちの患者たちが数人順番待ちをしているようだった。
自動ドアが開くのを待っていれば中に入ることもできるだろうが、今の僕たちは病院内に用はない。夜間出入口を通り過ぎ病院の建物伝いに裏手へ回り中庭へ向かう。
中庭の入口まで来ると、古くなったテーブルとイスが並んでいて周囲には自販機が並んでいるのが見えた。ここへ来たのは初めてかもしれない。
「ほうら、あそこに先輩がいるよぉ。重子さあん、こんばんはぁ」
そこには今時珍しい、コスプレ衣装のような真っ白なナース服を着た看護士さんんが座っていた。厳密には顔も髪の毛も含め全身真っ白で、それは僕も大矢も同じことだが。
「あら、ノリちゃん、ごきげんよう。その子はお友達かしら?」
重子さんというらしい看護士さんはにっこりとほほ笑みかけてくれた。僕は思わずドキッとしてしまい、何とも微妙な表情で愛想笑いを返した。
重子さんはお世辞でも何でもなくとても美人、いや可愛いタイプといえばいいのだろうか。おそらくは二十代前半で、凛とした雰囲気を感じさせつつも笑顔には幼さも感じる。その笑顔は大矢ののんきな笑顔より何倍も何倍も素敵で、僕は柄にもなく心臓の鼓動を速めた(ように感じるだけですでに動いていないのだが)
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