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10.決断
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私は床にへたり込んだままハズモンドの言葉を頭の中で繰り返していた。それでも受け止めることができず意識が遠のきそうだ。頭の中では何かが崩れ落ちる音が鳴り響く。
夫であるはずのグラムエルはカトリーヌを愛している!? 彼女は私の一番の友人だと言うのに。それに夫との関係が単なる形式的なものだという指摘はここしばらく私が頭の奥深くへ追いやってきた事実、そのことが思い出され重くのしかかってきた。
「やめて、そんなことを言わないで」これが私の口から出せる精一杯の言葉、意識を保とうと必死なのだが、胸の中の不安と動揺はどうにも隠しきれていないようだ。
目の前のハズモンドは優しく見つめてくれている。もしかしたら本当に私を愛してくれているのかもしれない。
「ごめん、驚かせるつもりはなかったんだ。でも、キミが本当に幸せなのか心配なんだよ。無理に結婚を続けているように見えるからね」何故そんなことがわかるのか、私には知るすべはないけどそれが事実であることだけはわかっている。だが簡単に認めるわけにはいかない。
「私のことをろくに知りもしないくせに何が分かるっていうの?」思わず声を荒げたが、内心では彼の言葉が真実を突いていることを視とめたくないだけだとわかっている。グラムエルとの関係は改善したと思っていたのだが、それはどうやら虚構の日々で覆われた幻想の生活なのかもしれない。
「少なくとも、今この瞬間は僕と一緒にいてほしい。僕はグラムエルよりもキミに相応しいと考えているんだよ。だからこそこうして再会することができた、もはや運命的だと思わないかい?」ハズモンドは静かに言った。その言葉は身勝手で説得力は感じなかったが、誘惑としての魅力に溢れていて、ダメだとわかっていても受け入れてしまいたくなる。
私の心が揺れている!? カトリーヌが家に来てからグラムエルは変わった。明らかに私を愛してくれるようになっていたではないか。それなのになぜハズモンドのこんな上辺だけの言葉に心を揺さぶられてしまうのだろうか。
その答えは自分ですでに分かっている。グラムエルが私を愛していないことは明白だったからだ。カトリーヌは確かに友人だけど魅力的な女性である。それを同じ家に迎え入れるなんて本来はおかしな話だ。それを私のためだと言って連れてきておいて、いつも一緒に楽しんでいるのはグラムエルだった。
確かに私も救われた面はあっただろう。でも毎日のように二人の仲が良いところを見せ付けられ、その関係性を疑う日々でもあった。しかし夫と友人を同時に失うことが怖くて、疑いの感情を心の奥底へと埋め込んでいたのだ。
「でも、私は結婚している、夫がいるのよ」もう一度同じことを繰り返すことで、私は自分の中に膨らむ感情を抑え込もうとした。その感情は以前ももたげてきた疑いと脱却と願望である。
つまり私は今もやっぱり愛されていないし、愛されたいのだ。そのことを再認識してしまうようなハズモンドの言葉に私は感情を激しく揺れ動かされていた。
「そんなことは分かってる。でも、自分の気持ちに正直に生きているのかい? きっと違うだろう。でも僕ならキミを幸せに出来る」ハズモンドの言っていることはもっともらしいだけで何の根拠もない。
だが感情を揺さぶる言葉と言うのは必ずしも正しい言葉とは限らない。私はそのことを良く知っているはずだ。だってグラムエルからかけてもらう言葉がまさにそれなのだ。上っ面だけで本心ではなく、根拠も証拠もない言葉だけの愛……
私は今幸せなのか、幸せになりたいのか、自問自答する必要もなくわかりきった答えが導き出されるに決まっていた。だがそれはハズモンドに与えられなくても得られるはずなのだ。
だって私には愛してはくれていなくとも、生活を支えてくれる形式だけの夫がいるのだから。
「残念だけどあなたの誘いに乗ることはできないわ。だって私にはグラムエルがいるんだもの。それにカトリーヌだって支えてくれている。私たち三人は、あなたにはわからない関係なのよ」私はそういってハズモンドの家を出た。
夫であるはずのグラムエルはカトリーヌを愛している!? 彼女は私の一番の友人だと言うのに。それに夫との関係が単なる形式的なものだという指摘はここしばらく私が頭の奥深くへ追いやってきた事実、そのことが思い出され重くのしかかってきた。
「やめて、そんなことを言わないで」これが私の口から出せる精一杯の言葉、意識を保とうと必死なのだが、胸の中の不安と動揺はどうにも隠しきれていないようだ。
目の前のハズモンドは優しく見つめてくれている。もしかしたら本当に私を愛してくれているのかもしれない。
「ごめん、驚かせるつもりはなかったんだ。でも、キミが本当に幸せなのか心配なんだよ。無理に結婚を続けているように見えるからね」何故そんなことがわかるのか、私には知るすべはないけどそれが事実であることだけはわかっている。だが簡単に認めるわけにはいかない。
「私のことをろくに知りもしないくせに何が分かるっていうの?」思わず声を荒げたが、内心では彼の言葉が真実を突いていることを視とめたくないだけだとわかっている。グラムエルとの関係は改善したと思っていたのだが、それはどうやら虚構の日々で覆われた幻想の生活なのかもしれない。
「少なくとも、今この瞬間は僕と一緒にいてほしい。僕はグラムエルよりもキミに相応しいと考えているんだよ。だからこそこうして再会することができた、もはや運命的だと思わないかい?」ハズモンドは静かに言った。その言葉は身勝手で説得力は感じなかったが、誘惑としての魅力に溢れていて、ダメだとわかっていても受け入れてしまいたくなる。
私の心が揺れている!? カトリーヌが家に来てからグラムエルは変わった。明らかに私を愛してくれるようになっていたではないか。それなのになぜハズモンドのこんな上辺だけの言葉に心を揺さぶられてしまうのだろうか。
その答えは自分ですでに分かっている。グラムエルが私を愛していないことは明白だったからだ。カトリーヌは確かに友人だけど魅力的な女性である。それを同じ家に迎え入れるなんて本来はおかしな話だ。それを私のためだと言って連れてきておいて、いつも一緒に楽しんでいるのはグラムエルだった。
確かに私も救われた面はあっただろう。でも毎日のように二人の仲が良いところを見せ付けられ、その関係性を疑う日々でもあった。しかし夫と友人を同時に失うことが怖くて、疑いの感情を心の奥底へと埋め込んでいたのだ。
「でも、私は結婚している、夫がいるのよ」もう一度同じことを繰り返すことで、私は自分の中に膨らむ感情を抑え込もうとした。その感情は以前ももたげてきた疑いと脱却と願望である。
つまり私は今もやっぱり愛されていないし、愛されたいのだ。そのことを再認識してしまうようなハズモンドの言葉に私は感情を激しく揺れ動かされていた。
「そんなことは分かってる。でも、自分の気持ちに正直に生きているのかい? きっと違うだろう。でも僕ならキミを幸せに出来る」ハズモンドの言っていることはもっともらしいだけで何の根拠もない。
だが感情を揺さぶる言葉と言うのは必ずしも正しい言葉とは限らない。私はそのことを良く知っているはずだ。だってグラムエルからかけてもらう言葉がまさにそれなのだ。上っ面だけで本心ではなく、根拠も証拠もない言葉だけの愛……
私は今幸せなのか、幸せになりたいのか、自問自答する必要もなくわかりきった答えが導き出されるに決まっていた。だがそれはハズモンドに与えられなくても得られるはずなのだ。
だって私には愛してはくれていなくとも、生活を支えてくれる形式だけの夫がいるのだから。
「残念だけどあなたの誘いに乗ることはできないわ。だって私にはグラムエルがいるんだもの。それにカトリーヌだって支えてくれている。私たち三人は、あなたにはわからない関係なのよ」私はそういってハズモンドの家を出た。
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