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6.カトリーヌ
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まさかどころかありえない姿がそこにあった。夫であるグラムエルと共に帰宅したのは友人のカトリーヌだった。私にとって元同僚であり友人でもあるし女性でもある。正直かなり複雑な気分だと言いたいが、昨日の今日でわがままは言えない。
「カトリーヌ!? いったいどうして?」思わず驚きの声が出た。彼女はいつものように明るい笑顔でグラムエルの隣に立っている。どうしてと言う私の問いにはグラムエルが答えてくれた。
「簡単なことさ。君が一人でいるのは寂しいと思ったからカトリーヌに住み込みで手伝ってもらうことにしたんだ」グラムエルは少し誇らしげに言った。恐らくはいいアイデアだと思っているだろうし、実際に悪い考えでもない。しかし――
「手伝うって…… 私がやることすら何もないのに何を手伝うと言うの?」今の私は複雑な心境だ。女性が生活に加わることへの不安はあるが、気の置けない友人と共に暮らせる嬉しさがせめぎ合っている。
「いいかい? 君が何かをするでもカトリーヌが何をするでもなく、友人がそばにいると言うことが大事だと考えたんだ。彼女がここにいることで君の心を軽くできればとお願いしたところ、快く承知してくれたんだよ? 良い友を持ったじゃないか」グラムエルの言葉には愛あふれる優しさが滲み出ていた。
「そうなのね、カトリーヌがいつもそばに、毎日一緒にいてくれるというのね? 夢みたいだわ、ありがとうカトリーヌ、もちろんグラムエルもね」私の心が少し温かくなる。友人がそばにいることで、私の孤独感が和らぐかもしれない。
「もちろん私も嬉しいわ、バーバラのそばにいて助けになりたいと考えていたんだもの。私はあなたの一番の友人だし、あなたが少しでも楽になれるなら喜んでここにいるわ」カトリーヌはいつもの笑顔を浮かべ私を元気づけてくれる。
「でも私はこんなに甘えてしまって、贅沢ばかりでいいのかしら……」自分の中の戸惑いが再浮上する。グラムエルが私に与えてくれる安心感に、今度は友人の存在までが加わることになるのだ。いくらなんでも恵まれ過ぎていて不安を感じずにはいられない。
「気にしないでいいんだよ? 君が求めていることを遠慮せずに受け入れるのも大切なことさ。嬉しいと感じていることを拒絶する必要はないだろう?」グラムエルは私の心を優しく包み込むように言った。
「ありがとう、グラムエル…… そしてカトリーヌも来てくれて嬉しいわ」私は二人に感謝の気持ちを伝える。なんとも驚くべき新しい生活、きっと素晴らしいものになるだろう。これからは不安を抱いて考えすぎてしまってもカトリーヌにすぐ相談できる。彼女はいつも私の気持ちを察してくれる力強い理解者なのだ。
こうしてカトリーヌは自分の荷物を運びこむと、そのまま私たちの新しい生活についてのアイデアを話し始めた。グラムエルも積極的に話へ参加してくれたのだが、こんな風に家の中に会話が溢れたのは初めてではないだろうか。これもカトリーヌが来てくれたおかげだと私は感謝の気持ちに埋もれてしまいそうになっていた。
その夜、私の心の中に少しずつ温かさが広がっていくのを感じた。ただし、新しい生活が始まることへの期待が膨らむ一方で、これからどうなるのかという不安を感じないわけでもない。それでも愛にあふれるグラムエルと、明るく優しいカトリーヌが側にいてくれることを考えれば不安を感じるなんてばからしいことだ、私はそう考えながらゆっくりと眠りについた。
◇◇◇
翌朝、私が目覚めると部屋の中に心地よい光が差し込み、ほのかな麦の香りが漂っていることに気が付いた。そうか、今日からカトリーヌがいるのだ。そう思うと特別な朝だと感じたが、これが毎日続くのだと思うと幸せの洪水が押し寄せてくる気分になる。
「おはよう、バーバラ!」カトリーヌの明るい声が聞こえ思わず笑顔になる。
「今日は一緒に朝食を作りましょう!」
「おはよう、カトリーヌ。朝食を作るなんて初めてよ!」私はカトリーヌの手招きに応じてキッチンへと向かった。こんなに気持ちの軽い朝はいつ振りだろうか。彼女が私のそばにいるだけで自然と気持ちが軽くなるに違いない。
二人で卵とベーコンを焼きトーストへと添える。いつもと変わらないものを食べているのに全然違う味になるのはなぜだろう。
「今日は少し散歩でもしない?新しい環境を一緒に楽しみたいわ」食事が終わるとカトリーヌが私を表へと誘った。しばらく家から出ていなかったからいい気分転換になりそうだ。
「それはいい考えだわ、たまには外の空気を吸わないといけないものね」私たちは食器を片付けてから外に出て当てもなく散歩する。風はこんなにも心地よく、鳥の声はなんと美しいのだろう。
「バーバラ、あなたが幸せそうで本当に嬉しいわ。私は今までそうでもなかったけど、あなたと一緒に過ごせる毎日で、これからはきっと楽しくなることを予感しているのよ」カトリーヌが言った。その言葉に私は少し照れくさくなったが、心の中では強く同意していた。素直に私もカトリーヌが来てくれたおかげで幸せだと言えたら良かったのに。
だが今日の幸せはここまでだった。カトリーヌだって仕事へ行かなければならない。私のために今後は昼からの変えてもらったと言うし、あまり我がままを言って困らせないよう気を付けようと思う。
「では行ってくるわね、夜には帰るのだからそんな寂しそうな顔をしないで?」そう明るく言ってくれるが、寂しいものは寂しいのだ。でも頑張って作り笑いをしながら彼女を見送った。
そして夜、グラムエルとカトリーヌが揃って帰ってきたのを精一杯の笑顔で出迎えた。食事は済ませて来たらしく二人からは同じワインの香りが漂っている。それを嗅いだ私の心はチクリと痛む。
だが二人は同じ職場なのだから揃って帰ってくるに決まっている。そんな細かいことを気にする私は、まだ心になにか良くないものを抱えているのかもしれない。
ついそんなことを考えてしまった。
「カトリーヌ!? いったいどうして?」思わず驚きの声が出た。彼女はいつものように明るい笑顔でグラムエルの隣に立っている。どうしてと言う私の問いにはグラムエルが答えてくれた。
「簡単なことさ。君が一人でいるのは寂しいと思ったからカトリーヌに住み込みで手伝ってもらうことにしたんだ」グラムエルは少し誇らしげに言った。恐らくはいいアイデアだと思っているだろうし、実際に悪い考えでもない。しかし――
「手伝うって…… 私がやることすら何もないのに何を手伝うと言うの?」今の私は複雑な心境だ。女性が生活に加わることへの不安はあるが、気の置けない友人と共に暮らせる嬉しさがせめぎ合っている。
「いいかい? 君が何かをするでもカトリーヌが何をするでもなく、友人がそばにいると言うことが大事だと考えたんだ。彼女がここにいることで君の心を軽くできればとお願いしたところ、快く承知してくれたんだよ? 良い友を持ったじゃないか」グラムエルの言葉には愛あふれる優しさが滲み出ていた。
「そうなのね、カトリーヌがいつもそばに、毎日一緒にいてくれるというのね? 夢みたいだわ、ありがとうカトリーヌ、もちろんグラムエルもね」私の心が少し温かくなる。友人がそばにいることで、私の孤独感が和らぐかもしれない。
「もちろん私も嬉しいわ、バーバラのそばにいて助けになりたいと考えていたんだもの。私はあなたの一番の友人だし、あなたが少しでも楽になれるなら喜んでここにいるわ」カトリーヌはいつもの笑顔を浮かべ私を元気づけてくれる。
「でも私はこんなに甘えてしまって、贅沢ばかりでいいのかしら……」自分の中の戸惑いが再浮上する。グラムエルが私に与えてくれる安心感に、今度は友人の存在までが加わることになるのだ。いくらなんでも恵まれ過ぎていて不安を感じずにはいられない。
「気にしないでいいんだよ? 君が求めていることを遠慮せずに受け入れるのも大切なことさ。嬉しいと感じていることを拒絶する必要はないだろう?」グラムエルは私の心を優しく包み込むように言った。
「ありがとう、グラムエル…… そしてカトリーヌも来てくれて嬉しいわ」私は二人に感謝の気持ちを伝える。なんとも驚くべき新しい生活、きっと素晴らしいものになるだろう。これからは不安を抱いて考えすぎてしまってもカトリーヌにすぐ相談できる。彼女はいつも私の気持ちを察してくれる力強い理解者なのだ。
こうしてカトリーヌは自分の荷物を運びこむと、そのまま私たちの新しい生活についてのアイデアを話し始めた。グラムエルも積極的に話へ参加してくれたのだが、こんな風に家の中に会話が溢れたのは初めてではないだろうか。これもカトリーヌが来てくれたおかげだと私は感謝の気持ちに埋もれてしまいそうになっていた。
その夜、私の心の中に少しずつ温かさが広がっていくのを感じた。ただし、新しい生活が始まることへの期待が膨らむ一方で、これからどうなるのかという不安を感じないわけでもない。それでも愛にあふれるグラムエルと、明るく優しいカトリーヌが側にいてくれることを考えれば不安を感じるなんてばからしいことだ、私はそう考えながらゆっくりと眠りについた。
◇◇◇
翌朝、私が目覚めると部屋の中に心地よい光が差し込み、ほのかな麦の香りが漂っていることに気が付いた。そうか、今日からカトリーヌがいるのだ。そう思うと特別な朝だと感じたが、これが毎日続くのだと思うと幸せの洪水が押し寄せてくる気分になる。
「おはよう、バーバラ!」カトリーヌの明るい声が聞こえ思わず笑顔になる。
「今日は一緒に朝食を作りましょう!」
「おはよう、カトリーヌ。朝食を作るなんて初めてよ!」私はカトリーヌの手招きに応じてキッチンへと向かった。こんなに気持ちの軽い朝はいつ振りだろうか。彼女が私のそばにいるだけで自然と気持ちが軽くなるに違いない。
二人で卵とベーコンを焼きトーストへと添える。いつもと変わらないものを食べているのに全然違う味になるのはなぜだろう。
「今日は少し散歩でもしない?新しい環境を一緒に楽しみたいわ」食事が終わるとカトリーヌが私を表へと誘った。しばらく家から出ていなかったからいい気分転換になりそうだ。
「それはいい考えだわ、たまには外の空気を吸わないといけないものね」私たちは食器を片付けてから外に出て当てもなく散歩する。風はこんなにも心地よく、鳥の声はなんと美しいのだろう。
「バーバラ、あなたが幸せそうで本当に嬉しいわ。私は今までそうでもなかったけど、あなたと一緒に過ごせる毎日で、これからはきっと楽しくなることを予感しているのよ」カトリーヌが言った。その言葉に私は少し照れくさくなったが、心の中では強く同意していた。素直に私もカトリーヌが来てくれたおかげで幸せだと言えたら良かったのに。
だが今日の幸せはここまでだった。カトリーヌだって仕事へ行かなければならない。私のために今後は昼からの変えてもらったと言うし、あまり我がままを言って困らせないよう気を付けようと思う。
「では行ってくるわね、夜には帰るのだからそんな寂しそうな顔をしないで?」そう明るく言ってくれるが、寂しいものは寂しいのだ。でも頑張って作り笑いをしながら彼女を見送った。
そして夜、グラムエルとカトリーヌが揃って帰ってきたのを精一杯の笑顔で出迎えた。食事は済ませて来たらしく二人からは同じワインの香りが漂っている。それを嗅いだ私の心はチクリと痛む。
だが二人は同じ職場なのだから揃って帰ってくるに決まっている。そんな細かいことを気にする私は、まだ心になにか良くないものを抱えているのかもしれない。
ついそんなことを考えてしまった。
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