6 / 16
6.カトリーヌ
しおりを挟む
まさかどころかありえない姿がそこにあった。夫であるグラムエルと共に帰宅したのは友人のカトリーヌだった。私にとって元同僚であり友人でもあるし女性でもある。正直かなり複雑な気分だと言いたいが、昨日の今日でわがままは言えない。
「カトリーヌ!? いったいどうして?」思わず驚きの声が出た。彼女はいつものように明るい笑顔でグラムエルの隣に立っている。どうしてと言う私の問いにはグラムエルが答えてくれた。
「簡単なことさ。君が一人でいるのは寂しいと思ったからカトリーヌに住み込みで手伝ってもらうことにしたんだ」グラムエルは少し誇らしげに言った。恐らくはいいアイデアだと思っているだろうし、実際に悪い考えでもない。しかし――
「手伝うって…… 私がやることすら何もないのに何を手伝うと言うの?」今の私は複雑な心境だ。女性が生活に加わることへの不安はあるが、気の置けない友人と共に暮らせる嬉しさがせめぎ合っている。
「いいかい? 君が何かをするでもカトリーヌが何をするでもなく、友人がそばにいると言うことが大事だと考えたんだ。彼女がここにいることで君の心を軽くできればとお願いしたところ、快く承知してくれたんだよ? 良い友を持ったじゃないか」グラムエルの言葉には愛あふれる優しさが滲み出ていた。
「そうなのね、カトリーヌがいつもそばに、毎日一緒にいてくれるというのね? 夢みたいだわ、ありがとうカトリーヌ、もちろんグラムエルもね」私の心が少し温かくなる。友人がそばにいることで、私の孤独感が和らぐかもしれない。
「もちろん私も嬉しいわ、バーバラのそばにいて助けになりたいと考えていたんだもの。私はあなたの一番の友人だし、あなたが少しでも楽になれるなら喜んでここにいるわ」カトリーヌはいつもの笑顔を浮かべ私を元気づけてくれる。
「でも私はこんなに甘えてしまって、贅沢ばかりでいいのかしら……」自分の中の戸惑いが再浮上する。グラムエルが私に与えてくれる安心感に、今度は友人の存在までが加わることになるのだ。いくらなんでも恵まれ過ぎていて不安を感じずにはいられない。
「気にしないでいいんだよ? 君が求めていることを遠慮せずに受け入れるのも大切なことさ。嬉しいと感じていることを拒絶する必要はないだろう?」グラムエルは私の心を優しく包み込むように言った。
「ありがとう、グラムエル…… そしてカトリーヌも来てくれて嬉しいわ」私は二人に感謝の気持ちを伝える。なんとも驚くべき新しい生活、きっと素晴らしいものになるだろう。これからは不安を抱いて考えすぎてしまってもカトリーヌにすぐ相談できる。彼女はいつも私の気持ちを察してくれる力強い理解者なのだ。
こうしてカトリーヌは自分の荷物を運びこむと、そのまま私たちの新しい生活についてのアイデアを話し始めた。グラムエルも積極的に話へ参加してくれたのだが、こんな風に家の中に会話が溢れたのは初めてではないだろうか。これもカトリーヌが来てくれたおかげだと私は感謝の気持ちに埋もれてしまいそうになっていた。
その夜、私の心の中に少しずつ温かさが広がっていくのを感じた。ただし、新しい生活が始まることへの期待が膨らむ一方で、これからどうなるのかという不安を感じないわけでもない。それでも愛にあふれるグラムエルと、明るく優しいカトリーヌが側にいてくれることを考えれば不安を感じるなんてばからしいことだ、私はそう考えながらゆっくりと眠りについた。
◇◇◇
翌朝、私が目覚めると部屋の中に心地よい光が差し込み、ほのかな麦の香りが漂っていることに気が付いた。そうか、今日からカトリーヌがいるのだ。そう思うと特別な朝だと感じたが、これが毎日続くのだと思うと幸せの洪水が押し寄せてくる気分になる。
「おはよう、バーバラ!」カトリーヌの明るい声が聞こえ思わず笑顔になる。
「今日は一緒に朝食を作りましょう!」
「おはよう、カトリーヌ。朝食を作るなんて初めてよ!」私はカトリーヌの手招きに応じてキッチンへと向かった。こんなに気持ちの軽い朝はいつ振りだろうか。彼女が私のそばにいるだけで自然と気持ちが軽くなるに違いない。
二人で卵とベーコンを焼きトーストへと添える。いつもと変わらないものを食べているのに全然違う味になるのはなぜだろう。
「今日は少し散歩でもしない?新しい環境を一緒に楽しみたいわ」食事が終わるとカトリーヌが私を表へと誘った。しばらく家から出ていなかったからいい気分転換になりそうだ。
「それはいい考えだわ、たまには外の空気を吸わないといけないものね」私たちは食器を片付けてから外に出て当てもなく散歩する。風はこんなにも心地よく、鳥の声はなんと美しいのだろう。
「バーバラ、あなたが幸せそうで本当に嬉しいわ。私は今までそうでもなかったけど、あなたと一緒に過ごせる毎日で、これからはきっと楽しくなることを予感しているのよ」カトリーヌが言った。その言葉に私は少し照れくさくなったが、心の中では強く同意していた。素直に私もカトリーヌが来てくれたおかげで幸せだと言えたら良かったのに。
だが今日の幸せはここまでだった。カトリーヌだって仕事へ行かなければならない。私のために今後は昼からの変えてもらったと言うし、あまり我がままを言って困らせないよう気を付けようと思う。
「では行ってくるわね、夜には帰るのだからそんな寂しそうな顔をしないで?」そう明るく言ってくれるが、寂しいものは寂しいのだ。でも頑張って作り笑いをしながら彼女を見送った。
そして夜、グラムエルとカトリーヌが揃って帰ってきたのを精一杯の笑顔で出迎えた。食事は済ませて来たらしく二人からは同じワインの香りが漂っている。それを嗅いだ私の心はチクリと痛む。
だが二人は同じ職場なのだから揃って帰ってくるに決まっている。そんな細かいことを気にする私は、まだ心になにか良くないものを抱えているのかもしれない。
ついそんなことを考えてしまった。
「カトリーヌ!? いったいどうして?」思わず驚きの声が出た。彼女はいつものように明るい笑顔でグラムエルの隣に立っている。どうしてと言う私の問いにはグラムエルが答えてくれた。
「簡単なことさ。君が一人でいるのは寂しいと思ったからカトリーヌに住み込みで手伝ってもらうことにしたんだ」グラムエルは少し誇らしげに言った。恐らくはいいアイデアだと思っているだろうし、実際に悪い考えでもない。しかし――
「手伝うって…… 私がやることすら何もないのに何を手伝うと言うの?」今の私は複雑な心境だ。女性が生活に加わることへの不安はあるが、気の置けない友人と共に暮らせる嬉しさがせめぎ合っている。
「いいかい? 君が何かをするでもカトリーヌが何をするでもなく、友人がそばにいると言うことが大事だと考えたんだ。彼女がここにいることで君の心を軽くできればとお願いしたところ、快く承知してくれたんだよ? 良い友を持ったじゃないか」グラムエルの言葉には愛あふれる優しさが滲み出ていた。
「そうなのね、カトリーヌがいつもそばに、毎日一緒にいてくれるというのね? 夢みたいだわ、ありがとうカトリーヌ、もちろんグラムエルもね」私の心が少し温かくなる。友人がそばにいることで、私の孤独感が和らぐかもしれない。
「もちろん私も嬉しいわ、バーバラのそばにいて助けになりたいと考えていたんだもの。私はあなたの一番の友人だし、あなたが少しでも楽になれるなら喜んでここにいるわ」カトリーヌはいつもの笑顔を浮かべ私を元気づけてくれる。
「でも私はこんなに甘えてしまって、贅沢ばかりでいいのかしら……」自分の中の戸惑いが再浮上する。グラムエルが私に与えてくれる安心感に、今度は友人の存在までが加わることになるのだ。いくらなんでも恵まれ過ぎていて不安を感じずにはいられない。
「気にしないでいいんだよ? 君が求めていることを遠慮せずに受け入れるのも大切なことさ。嬉しいと感じていることを拒絶する必要はないだろう?」グラムエルは私の心を優しく包み込むように言った。
「ありがとう、グラムエル…… そしてカトリーヌも来てくれて嬉しいわ」私は二人に感謝の気持ちを伝える。なんとも驚くべき新しい生活、きっと素晴らしいものになるだろう。これからは不安を抱いて考えすぎてしまってもカトリーヌにすぐ相談できる。彼女はいつも私の気持ちを察してくれる力強い理解者なのだ。
こうしてカトリーヌは自分の荷物を運びこむと、そのまま私たちの新しい生活についてのアイデアを話し始めた。グラムエルも積極的に話へ参加してくれたのだが、こんな風に家の中に会話が溢れたのは初めてではないだろうか。これもカトリーヌが来てくれたおかげだと私は感謝の気持ちに埋もれてしまいそうになっていた。
その夜、私の心の中に少しずつ温かさが広がっていくのを感じた。ただし、新しい生活が始まることへの期待が膨らむ一方で、これからどうなるのかという不安を感じないわけでもない。それでも愛にあふれるグラムエルと、明るく優しいカトリーヌが側にいてくれることを考えれば不安を感じるなんてばからしいことだ、私はそう考えながらゆっくりと眠りについた。
◇◇◇
翌朝、私が目覚めると部屋の中に心地よい光が差し込み、ほのかな麦の香りが漂っていることに気が付いた。そうか、今日からカトリーヌがいるのだ。そう思うと特別な朝だと感じたが、これが毎日続くのだと思うと幸せの洪水が押し寄せてくる気分になる。
「おはよう、バーバラ!」カトリーヌの明るい声が聞こえ思わず笑顔になる。
「今日は一緒に朝食を作りましょう!」
「おはよう、カトリーヌ。朝食を作るなんて初めてよ!」私はカトリーヌの手招きに応じてキッチンへと向かった。こんなに気持ちの軽い朝はいつ振りだろうか。彼女が私のそばにいるだけで自然と気持ちが軽くなるに違いない。
二人で卵とベーコンを焼きトーストへと添える。いつもと変わらないものを食べているのに全然違う味になるのはなぜだろう。
「今日は少し散歩でもしない?新しい環境を一緒に楽しみたいわ」食事が終わるとカトリーヌが私を表へと誘った。しばらく家から出ていなかったからいい気分転換になりそうだ。
「それはいい考えだわ、たまには外の空気を吸わないといけないものね」私たちは食器を片付けてから外に出て当てもなく散歩する。風はこんなにも心地よく、鳥の声はなんと美しいのだろう。
「バーバラ、あなたが幸せそうで本当に嬉しいわ。私は今までそうでもなかったけど、あなたと一緒に過ごせる毎日で、これからはきっと楽しくなることを予感しているのよ」カトリーヌが言った。その言葉に私は少し照れくさくなったが、心の中では強く同意していた。素直に私もカトリーヌが来てくれたおかげで幸せだと言えたら良かったのに。
だが今日の幸せはここまでだった。カトリーヌだって仕事へ行かなければならない。私のために今後は昼からの変えてもらったと言うし、あまり我がままを言って困らせないよう気を付けようと思う。
「では行ってくるわね、夜には帰るのだからそんな寂しそうな顔をしないで?」そう明るく言ってくれるが、寂しいものは寂しいのだ。でも頑張って作り笑いをしながら彼女を見送った。
そして夜、グラムエルとカトリーヌが揃って帰ってきたのを精一杯の笑顔で出迎えた。食事は済ませて来たらしく二人からは同じワインの香りが漂っている。それを嗅いだ私の心はチクリと痛む。
だが二人は同じ職場なのだから揃って帰ってくるに決まっている。そんな細かいことを気にする私は、まだ心になにか良くないものを抱えているのかもしれない。
ついそんなことを考えてしまった。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。
なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。
追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。
優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。
誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、
リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。
全てを知り、死を考えた彼女であったが、
とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。
後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

【完結済】姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
王国の片田舎にある小さな町から、八歳の時に母方の縁戚であるエヴェリー伯爵家に引き取られたミシェル。彼女は伯爵一家に疎まれ、美しい髪を黒く染めて使用人として生活するよう強いられた。以来エヴェリー一家に虐げられて育つ。
十年後。ミシェルは同い年でエヴェリー伯爵家の一人娘であるパドマの婚約者に嵌められ、伯爵家を身一つで追い出されることに。ボロボロの格好で人気のない場所を彷徨っていたミシェルは、空腹のあまりふらつき倒れそうになる。
そこへ馬で通りがかった男性と、危うくぶつかりそうになり──────
※いつもの独自の世界のゆる設定なお話です。何もかもファンタジーです。よろしくお願いします。
※この作品はカクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェにも投稿しています。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。

貧乏子爵令嬢ですが、愛人にならないなら家を潰すと脅されました。それは困る!
よーこ
恋愛
図書室での読書が大好きな子爵令嬢。
ところが最近、図書室で騒ぐ令嬢が現れた。
その令嬢の目的は一人の見目の良い伯爵令息で……。
短編です。
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください
楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。
ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。
ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……!
「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」
「エリサ、愛してる!」
ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。
『白い結婚』が好条件だったから即断即決するしかないよね!
三谷朱花
恋愛
私、エヴァはずっともう親がいないものだと思っていた。亡くなった母方の祖父母に育てられていたからだ。だけど、年頃になった私を迎えに来たのは、ピョルリング伯爵だった。どうやら私はピョルリング伯爵の庶子らしい。そしてどうやら、政治の道具になるために、王都に連れていかれるらしい。そして、連れていかれた先には、年若いタッペル公爵がいた。どうやら、タッペル公爵は結婚したい理由があるらしい。タッペル公爵の出した条件に、私はすぐに飛びついた。だって、とてもいい条件だったから!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる