7 / 12
愚か者
しおりを挟む
魔王が誕生してからと言うもの世界は少しずつ闇に浸食されていた。それから数年が経ち、空は厚い雲で覆われ、陽が差す場所と時間は僅かになっている。
アダムの残した二人の子のうち、兄カインは農耕に精をだし糧を得ていたが、少なくなった日差しにより思うような収穫が得られなくなっていた。方や弟アベルは羊を飼い、育て、そこから肉と言う糧を得ていた。
以前よりも収穫が減っていることを気に病むカインは、地べたを這いずり土にまみれて働いている自分よりも、羊と戯れているだけのアベルが多くの糧を得ていることを羨むのだった。
ある夜カインとアベルは、いつものように神への供物を捧げに山頂へやってきていた。カインは痩せた大地から得たわずかな麦からわずかの捧げものを、アベルは丸々と太った子羊をその場で捧げた。
それを見たカインは、自分も羊飼いであったならアベルのような供物を捧げることができたはずだと思い込み、嫉妬し、その生き方を与えた父アダムと神を恨んだ。
『カイン、そしてアベルよ、汝らの捧ぐ供物を受け取ろう。しかしこの麦は受け取れない、そのまま風化させ大地へばら撒くが良い』
カインの感情はこの時、嫉妬から憎悪に変わった。
あの夜から数日が経ったある日、カインは自分の畑へ羊を一頭連れて行った。お腹を空かせていた羊は喜んで麦を食べ始める。そこへ迷子の羊を探しにアベルがやってきたのだ。
「ああ、大変だ、兄さんの畑で僕の羊が麦を食べている。早く連れ帰らなければ、そして兄さんへ謝罪をしなければならないだろう」
「弟よ、これは一体どういうことなのか。なぜお前の羊は私の大切な麦を食べているのだろうか。私の麦は、決してお前の羊を食べたりしないと言うのに」
「兄さん、あなたの言う通りです。なんでも言うことを聞きますからお許しください」
カインはにやりと笑いアベルへ告げた。
「すでに過ぎたことは赦されはしない。それは我らの父も良く知っていることだ」
そう言った直後、カインはアベルの胸へ剣を突き刺し、その命を奪った。人類史上初めての殺人である。
「魔王様、またまた愉快なことが起こりましたよ。なんとアダムの息子カインが、自分の弟アベルを刺殺したのです」
「ほう、それは滑稽な。アダムをあれほど恨み、今すぐ八つ裂きにしたい程にルルを憎んでいる私でさえ誰も殺していない。それなのに、神のもとで正しく生きてきた者たちが身内を殺すなんてな。本当の愚者とはやつらのことを指すのだろう」
「生き残ったカインは、せっかくもらった肥沃な土地も追われるでしょう。なんせ我らの魔王とは違い、神には慈悲の心がありませんから」
「ふはははは、ざまぁないな。何も知らずなにも考えず、ただ怠惰に暮らすものが正しいのか。楽園を出て土にまみれて生きることが偉いのか。結局どれもが正しくも偉くもなく、そして永遠でもない」
「左様でございます。本当の救い、本当の慈悲、本当の楽園はここにございます。すなわち、魔王様こそこの世をすべてを手に入れ治めるべきお方で間違いありません」
不敵に笑う蛇と魔王となったイヴは、滑稽な現実をあざ笑うかのように高笑いをしていた。
アダムの残した二人の子のうち、兄カインは農耕に精をだし糧を得ていたが、少なくなった日差しにより思うような収穫が得られなくなっていた。方や弟アベルは羊を飼い、育て、そこから肉と言う糧を得ていた。
以前よりも収穫が減っていることを気に病むカインは、地べたを這いずり土にまみれて働いている自分よりも、羊と戯れているだけのアベルが多くの糧を得ていることを羨むのだった。
ある夜カインとアベルは、いつものように神への供物を捧げに山頂へやってきていた。カインは痩せた大地から得たわずかな麦からわずかの捧げものを、アベルは丸々と太った子羊をその場で捧げた。
それを見たカインは、自分も羊飼いであったならアベルのような供物を捧げることができたはずだと思い込み、嫉妬し、その生き方を与えた父アダムと神を恨んだ。
『カイン、そしてアベルよ、汝らの捧ぐ供物を受け取ろう。しかしこの麦は受け取れない、そのまま風化させ大地へばら撒くが良い』
カインの感情はこの時、嫉妬から憎悪に変わった。
あの夜から数日が経ったある日、カインは自分の畑へ羊を一頭連れて行った。お腹を空かせていた羊は喜んで麦を食べ始める。そこへ迷子の羊を探しにアベルがやってきたのだ。
「ああ、大変だ、兄さんの畑で僕の羊が麦を食べている。早く連れ帰らなければ、そして兄さんへ謝罪をしなければならないだろう」
「弟よ、これは一体どういうことなのか。なぜお前の羊は私の大切な麦を食べているのだろうか。私の麦は、決してお前の羊を食べたりしないと言うのに」
「兄さん、あなたの言う通りです。なんでも言うことを聞きますからお許しください」
カインはにやりと笑いアベルへ告げた。
「すでに過ぎたことは赦されはしない。それは我らの父も良く知っていることだ」
そう言った直後、カインはアベルの胸へ剣を突き刺し、その命を奪った。人類史上初めての殺人である。
「魔王様、またまた愉快なことが起こりましたよ。なんとアダムの息子カインが、自分の弟アベルを刺殺したのです」
「ほう、それは滑稽な。アダムをあれほど恨み、今すぐ八つ裂きにしたい程にルルを憎んでいる私でさえ誰も殺していない。それなのに、神のもとで正しく生きてきた者たちが身内を殺すなんてな。本当の愚者とはやつらのことを指すのだろう」
「生き残ったカインは、せっかくもらった肥沃な土地も追われるでしょう。なんせ我らの魔王とは違い、神には慈悲の心がありませんから」
「ふはははは、ざまぁないな。何も知らずなにも考えず、ただ怠惰に暮らすものが正しいのか。楽園を出て土にまみれて生きることが偉いのか。結局どれもが正しくも偉くもなく、そして永遠でもない」
「左様でございます。本当の救い、本当の慈悲、本当の楽園はここにございます。すなわち、魔王様こそこの世をすべてを手に入れ治めるべきお方で間違いありません」
不敵に笑う蛇と魔王となったイヴは、滑稽な現実をあざ笑うかのように高笑いをしていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
イヴの誘惑
櫂 牡丹
ファンタジー
「いいえ、いいえお父様、違います。私は蛇に惑わされたのではございません。全ては私の『意志』なのです──」
蛇はなぜイヴに禁断の果実(知恵の樹の実)を食べさせたかったのか?イヴはなぜアダムに禁断の果実を勧めたのか?アダムとイヴが禁断の果実を食べた本当の理由が明かされる。
罪とは愛とは、自由意志とは何か。
創世記をモチーフに書きました。よろしくお願いします。
S級【バッファー】(←不遇職)の俺、結婚を誓い合った【幼馴染】を【勇者】に寝取られパーティ追放されヒキコモリに→美少女エルフに養って貰います
マナシロカナタ✨ラノベ作家✨子犬を助けた
ファンタジー
~ 開幕バフしたら後は要らない子、それが最不遇職といわれるバッファーだ ~
勇者パーティでバッファー(バフスキル専門の後衛職)をしていたケースケ=ホンダムはある夜、結婚を誓い合った幼馴染アンジュが勇者と全裸で結合している所を見てしまった。
「ごめん、ケースケ。あなたのこと嫌いになったわけじゃないの、でもわたしは――」
勇者と乳繰り合うアンジュの姿を見てケースケの頭は真っ白に。
さらにお前はもうパーティには必要ないと言われたケースケは、心を病んで人間不信のヒキコモリになってしまった。
それから3年がたった。
ひきこもるための資金が尽きたケースケは、仕方なくもう一度冒険者に戻ることを決意する。
しかしケースケは、一人では何もできない不遇の後衛職。
ケースケのバフを受けて戦ってくれる仲間が必要だった。
そんなケースケの元に、上がり症のエルフの魔法戦士がやってきて――。
カクヨムで110万PVを達成した不遇系後衛主人公の冒険譚!
【完結】この度召喚されて精霊王になりました。
ユリーカ
ファンタジー
大山朔弥(さくや)20歳大学生。中高全寮制男子校卒、弁当男子、あるトラウマで年齢イコール彼女いない歴の真性草食が精力が強いという理由だけで精霊界に召喚され精霊王になってしまった。
精霊界は数百年に一度の繁殖期。唯一の雄体としてハーレムを作るように迫られての一言。
「無理!全員お友達からお願いします!!」
枯れ果てた草の中の草のストイック精霊王が可愛い大精霊をお世話するお話です。割と好き勝手やってますが最強チートの精霊王なのに属性故か色々もったいない。お料理大好きヘタレ王、お嫁さんゲットなるか?!
お世話上手のオカンヘタレが書きたい!の欲求のままに書いてます。というか?もうメシの話とヒロインお世話の話しかでてないし?普通のヘタレとちょっと違いますかね?
設定が青年誌ですがR15女性向けです。
=ー=ー=ー=ー=ー=ー=ー=ー=ー=ー=ー
※ 久しぶりに未完の作品を投稿していきます。設定は出来ているので完結予定です。文法チェッカー走らせますが誤字脱字矛盾ありましたらお知らせくださると助かります。ごにょごにょっと訂正します。003以降、生活にトラブルがない限り毎日20時(たまに7時)更新を目指します。
※ ヘタレなヒーローの性格上、全く色気のない話です。食い気ばっかり。ですがこういう設定ですので会話が一部R15程度にエロくなります。
※ 本作品は単独で成立しますが、「R18恋に落ちたソロモン」と世界観は共有しております。大精霊ということであの人も出てきます。
※ 表紙、中表紙、挿入絵、プロットキャラ設定はpicrewで作りました。めちゃくちゃかわいいです!ありがとうございます!
・:*+. 使用メーカー .:+
ケモ魔女メーカー
ケモ魔女メーカーpetit
妖男子メーカー ※全てyunomotoサマ
=ー=ー=ー=ー=ー=ー=ー=ー=ー=ー=ー
9/12更新: 本編完結しました。史上最速自己ベストタイで完結。掲載しながら書くってすごく追い込まれていいですね。毎日キツイけど。7時20時で毎日更新します。
それとあまりのことで書き忘れていたのですが!
本作品はフィクションです。実在する人物、商品等には一切関係がありません!大丈夫と思いますが念のためご承知おきを!
今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?
marupon_dou
ファンタジー
時は現代。世には悪の秘密結社"フェイスダウン"が夜の闇に潜み人々を襲っていた。
人造人間"フェイス"戦闘員を擁し、人間が持つ感情エナジーを奪う彼らと戦うのは――
その"フェイス"戦闘員だった!
精霊の力を宿した、不屈の戦士《ヒーロー》・アルカー。
彼と肩を並べ戦う、正義に目覚めた悪の戦闘員《ヒーロー》、ノー・フェイス!
人々を守り、フェイスダウンに狙われた少女を守る戦闘員の物語が今、始まる――。
※最初の五話は挿絵がつきますが、以後は不定期(ときたま)になります。
※第一部は毎日連載します。
※90~00年代のライトノベルの作風を目指して執筆中です。
※イメージの源流は特撮ヒーローですが、パロディ・オマージュ作品ではありませんので
パロディ・オマージュ・お約束などは非常に薄めです。
※第一章~第二章は以下のサイトでも公開しております。
カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/1177354054883360465
エブリスタ:http://estar.jp/_novel_view?w=24664562
Pixiv:https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8269721
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる